雑誌
雑誌 雨で今日の試合は流れ、明日へ持ち越しとなった。午前中は川上監督の元でチーム皆で軽いミーティング等を行い、午後はそれぞれに室内トレーニングをしたり余暇活動を楽しんだりと各々時間を潰している。
高校時代からの友人であり、共に巨人軍のユニフォームを身につけ、同じ釜の飯を食う星飛雄馬と伴宙太も宛てがわれた宿舎の寮の一室で雨の音を聞いていた。
「雨、降るのう」
ふいに声を掛けられ、カーペット敷の床に座ってグラブの手入れをしていた飛雄馬は顔を上げる。
「明日には止むと言っていたが、ずいぶんと降るな」
読んでいた漫画雑誌を寝転んでいたベッドの枕元に置いて、伴は体を起こした。
「夕飯はラーメンでも食べに行かんか」
「もう夕飯の話か。ふふ、まだ昼を食べて一時間も経っていないぞ」
手入れを終えたグラブを部屋に備えてあった机の上に戻してから、飛雄馬は伴に今まで読んでいた雑誌をくれと手を差し伸ばしながら彼の方へと歩み寄る。すると伴は彼の腕を掴むや否や、ぎゅうとその胸に抱いた。
「うっ!伴、何をするんだ」
「言わんでも分かるじゃろう……」
「ば、伴っ!!」
「おうおう、痴話喧嘩か〜」
「頑張りすぎて明日の試合でへばるなよ〜」
声が届いたのかげらげらと部屋の外、扉一枚隔てた廊下を行くチームメイトたちの笑い声が聞こえ、飛雄馬はかあっと頬を染める。そうしてばつが悪そうにこちらを見下ろしてくる伴を見上げ、目を細め彼を睨むとその大きな体を突き飛ばした。
「じ、時間を考えてくれ」
「むう……すまなんだ星ぃ……」
目に見えてしょぼくれる伴に飛雄馬は毒気を抜かれ、ふうと溜息を吐くと項垂れた彼の額に口付けてやってから、「また後でな」と顔を逸らす。
「星」
ぱあっと伴は顔を輝かせ、ニコニコとえびす顔で飛雄馬を仰いだ。
飛雄馬は柄にもないことをした恥ずかしさからか伴の顔を見ようともせず、雑誌を寄越せと手を差し出す。そのまま伴から雑誌を受け取って、飛雄馬は自身のベッドへと戻ると、仰向けに寝転がってパラパラとページを捲っていく。
手持ち無沙汰となってしまった伴は自分もキャッチャーミットの手入れでもしようかと腰をあげたところで、飛雄馬が突然、あっ!と叫んだもので何事かと彼の元へ駆け付けた。
「なんじゃあ!妙な声を出して」
「伴!これ、この読み切り、牧場さんのだ」
声を上ずらせつつ飛雄馬は雑誌のページを開いて、短編野球漫画のタイトルを指差した。
「牧場あ?ああ!」
一瞬、変な顔をした伴だったが牧場の名に聞き覚えがあり、ようやく合点がいったか、笑顔を作る。
「牧場さん、頑張ってるんだなあ」
「牧場の話なんか聞きたくないわい」
かつての同窓生の活躍に伴も喜びの念を抱いたが、飛雄馬が嬉しそうに顔を綻ばせ、熱心に漫画を読みふけるのがどうにも面白くなく、フンと鼻を鳴らして自分のベッドへと戻っていった。
「ふふ、牧場さん宛てにファンレターでも送ったら喜ぶだろうな」
「…………」
一通り牧場の作品を読み終えてから、飛雄馬は雑誌を閉じ、そこでやっと自分のベッドに戻り、こちらに背を向けて寝転がっている伴の姿に気付く。
「伴?面白かったぜ、牧場さんの漫画」
「フン、だったらおれじゃなく牧場本人に伝えてやったらええ。あいつも星から手紙が来たとなれば泣いて喜ぶじゃろう」
「……やきもちか」
「なっ、馬鹿たれい!誰が牧場にやきもちなんぞ焼くかあ!!」
ガバッと体を跳ね起こし、伴は飛雄馬を振り返る。その顔は真っ赤に染まっており、図星を突かれたことが一目瞭然であった。
「ふふっ、伴。こっちに来い」
「よ、用があるならそっちが来るのが道理じゃろう!」
飛雄馬に背を向け、腕を組んだあぐらの格好で伴は声を張り上げる。
「…………」
飛雄馬は左手に雑誌を持ち、そのまま腕を振りかぶって伴の背中目掛けそれを投げやった。パァン!と雑誌は彼の背中に見事ぶつかったかと思うと小気味いい乾いた音が響いて、伴はぴゃっ!と気の抜けた声を上げる。
「な、何をするんじゃ星ぃ!お前の腕で投げられたらいくら雑誌でも痛いぞう」
「伴、こっちに来てくれ」
「だっ、誰が行くかい!何が何でも星の言う通りになると思ったら大間違いじゃい」
お〜いた、と背中をさする伴の背に、飛雄馬は今度は枕をぶつける。
「どわっ!!星!何じゃい!痛いと言っとるだろう」
「………」
飛雄馬は無言で手招きするが、伴は意地でもそこから動こうとはしない。ならば、とばかりに飛雄馬は床からスリッパの片方を取り上げて、それを伴の頭へと投げた。 飛雄馬の腕から放たれたスリッパは一直線に伴の頭にパコーン!と音を立て命中する。
「ぎえっ!!」
「…………」
目から涙を流しつつ伴は飛雄馬を振り返る。もう片方も、と身を屈めた飛雄馬だったが、ふいに目の前に陰が差したもので顔を上げた。すると、眼前には伴が立っており、怒り心頭と言った面持ちで飛雄馬を見下ろしている。
「星ぃ!!黙っとれば調子に乗りおって!!」
「手加減したつもりだったが、そんなに痛かったか」
「十分痛かったわい!!」
可笑しくて堪らないとばかりに涙を浮かべ肩を揺らす飛雄馬を伴は叫びつつ、彼の両手をそれぞれに掴むと後ろへと押し倒した。
「……」
沈黙が流れ、部屋の中にまで雨の音がやたらと響いてくる。飛雄馬は伴に組み敷かれたまま数回瞬きを繰り返し、彼を仰向いた。
「伴は牧場さんが嫌いか」
「お前は人に押し倒されとるのにも関わらず他の男の名前を呼ぶのか」
「そ、そうじゃない!!何故そんなに牧場さんを毛嫌いするのか不思議に思っただけだ」
「……中途半端に拒絶されたところに嬉しそうに別の男の名前を呼ばれたらいい気はせんと思うがのう」
「拒絶?まだ早いと言っただけで」
「人に物を思いっきり投げつけて呼びつけておきながらいざこうなったら知らんふりとはのう。責任逃れもいいところじゃあ」
「ばっ、っ………!」
身をよじり、逃れようとした飛雄馬だったが、腕を掴む伴の力は予想以上に強く抵抗することもままならず、首筋に口付けを受けた。熱い舌が皮膚の上を這って、耳朶に淡く歯を立てられる。
うっ!と飛雄馬の口から声が漏れた。 すると、その声に油断したか伴の右手が緩んで腹を撫でてきたために、飛雄馬は自由になった左手で彼の体を押し戻そうとした。しかして、伴はそれに動じることなく握ったままの飛雄馬の右手を引き寄せるようにして、そのままくるんと体勢をうつ伏せのそれに転換させた。
「………!」
さすがと言うべきか、高校柔道界にその名を轟かせた男。体をどう捻れば簡単に組み伏せることができるか、と言うことくらい伴は熟知しているらしかった。
「星……」
熱の篭った声が背後から響いて、飛雄馬は目を閉じる。背中側から裾の中へと伴の指が差し入れられ、肌をそろりとその手は撫でた。
「膝を立てるんじゃ、星」
「………っ!」
嫌だとばかりに首を振る飛雄馬の背中をゆっくりと撫でつつ、伴は彼の耳元で星と吐息混じりに名を呼ぶ。飛雄馬のベッドと自分の体に挟まれたままの臍の下が熱を持ち始めた。
「っ、つっ……」
羽織っていたカーディガンごとシャツをめくって、露わになった背筋、肩甲骨辺りに伴は口付ける。ゾクリ、と飛雄馬の肌が粟立ったのが伴にも分かった。強く皮膚を吸い上げて、その日に焼けていない白い肌に伴は赤い鬱血の跡を残していく。
その刺激に軽く痛みを覚えたかと思うと、優しく肌を啄まれ、次第に飛雄馬の尻は体の下に敷いていた逸物の違和感からか膝を立て、高く上がっていく。
伴は飛雄馬の腹の方から手を入れ、穿いているスラックスを緩めてやってから下着の中から完全に立ち上がってしまっている彼の逸物を取り出した。
「あっ、う」
根本から亀頭辺りまでを握ったまま、一度軽くしごいてやってから伴は柔らかな亀頭部位を指で軽く押し潰し、射精を誘った。その刺激で、とろりと鈴口からは先走りが垂れ、ベッドに落ちた。
「っ、ふ――っ、う……ふ、っ」
ベッドに顔を押し付け、シーツを握り締めて飛雄馬は声を漏らすのを堪える。伴は飛雄馬の緩めたスラックスを彼の膝まで下着と共に下ろすと、ふと、さっきまで飛雄馬がグラブに塗っていたクリームを机の上から持ち寄った。
そうして蓋を開けて、中身を指で掬ってから飛雄馬の尻へとそれを塗り込む。
一瞬、ひやりとしたがすぐに伴の指で捏ねられ、己の体温で暖められたクリームのお陰か難なく飛雄馬のそこは彼の指を受け入れた。男根を僅かばかりではあるが責められ、快楽を与えられていたことも幸いしたか。
「う、っ、っ……〜〜〜!!」
仰向けに寝転がって指で責められる時とはまるで違う感覚が飛雄馬を襲う。腰が揺れ、出していないために立ちっぱなしの逸物からはとめどなく先走りが漏れ落ちている。続いて二本目の指を伴は飛雄馬の中へと飲み込ませる。
柔らかな肉壁が指に纏わりついて、強くその入り口で締め上げる。クリームがだいぶ溶けて、くちゅくちゅと淫靡な音を立て、二人の耳を犯す。
「は、っ……伴……きっ……ん、来てくれ」
「何でも星の言う通りになると思ったら大間違いじゃとさっき言うたろう」
「……く、う、うっ」
奥歯を噛み締め、飛雄馬は強く拳を握る。
「なんて、冗談じゃあ!くそう!」
言いつつ、伴は飛雄馬から指を抜くと、自身の穿いているスラックスの前を開け、逸物を取り出す。そうして、飛雄馬の尻の位置に己の腰を合わせると、ぐっとそこへ亀頭を押し付ける。
「え、ええかあ、入れても」
飛雄馬は尻に宛てがわれた熱さに身震いし、目を閉じたまま小さく頷く。
すると、何の躊躇いもなく、伴は飛雄馬の中へ己を打ち込んできた。彼自身、辛抱堪らなかったのであろう。それでも前戯をきちんとこなしたのは彼なりの優しさか。 指では到底届かぬ場所を伴の逸物が撫でこする。興奮し、上がった体温と愛撫のおかげで蕩けた肉壁が伴を包んだ。
「は、っ……あ、」
ようやく伴の形に慣れ、ぶるっと飛雄馬が震えたところに伴は腰を引き、一度ギリギリまで引き抜いてから腰を穿った。ドスン、と体の中心を貫かれ、飛雄馬の視界はフェイドアウトする。
ただでさえ体重のある伴に後ろから思い切り突かれてはひとたまりもない。
「あ、っ!」
腹の中を急激に押し込まれたかと思うと、いきなり引きずられ飛雄馬はベッドに押し付けていた顔を上げ、突かれる衝撃から頬に涙を伝わらせた。
互いの尻と腿がぶつかり合う音が響いて、結合部からはクリームが混ざり合う卑猥な音が漏れ聞こえる。誰がいつ通るか分からぬ扉一枚隔てた向こうに声が溢れ出ぬよう飛雄馬は歯を食いしばり、圧に耐えた。 伴が腰を使うたびに、飛雄馬の腹の中を激しく擦って、昂ぶらせる。
「っ〜〜〜ン、ぅ、うっ」
「星よう……」
囁いてから、伴は腰の動きを早めた。達する気なのであろう。飛雄馬はビクンッ!と震え、伴より先に一度達した。しかして、伴のピストンは緩むことも、そこで終わることもない。彼が射精するまで、この余韻は続くのだ。
「う、ぁ、あぁっ」
微かな呻き声を上げて飛雄馬は絶頂に浸る。すると、伴は腰の動きを止めてから飛雄馬から自身を引き抜くと、彼の背中へと精を放った。
「そしたらよう〜〜トンネルしちまって参ったぜ」
突然に廊下から聞こえてきた声に二人は肝を冷やしたが、すぐに遠ざかっていったために胸を撫で下ろし、後始末を行う。
飛雄馬の腰は未だにふらふらと震え、何やら頼りない。
とりあえず背中と尻を拭ってベッドに仰向けでぼうっと横になったままの飛雄馬を伴はスラックスを穿きつつ横目で見やった。
と、腹の虫がぐううと鳴ったもので、伴はひえっ!と目を丸くし、恥ずかしそうに腹をさする。
「………ラーメン、行こうか」
飛雄馬は閉じていた目を開け、伴にそう告げる。
「星、大丈夫なのかあ」
「腹、減ったんだろう」
苦笑を浮かべ、飛雄馬は床に落ちていた下着とスラックスを拾い上げ、ベッドに座ったままそれらに足を通してから床に足をつき立ち上がったが、やはり覚束なく、よろよろとベッドに手をついた。
「星」
「ふふ……」
慌てて駆け寄った伴の顔を見遣って飛雄馬はスラックスを穿きつつ微笑む。伴はその様を見守っていたが、ふいに彼の口元へと唇を寄せた。
「…………」
ギクッと面食らい、顎を引いた飛雄馬だったが、彼もまたすぐに口付けに応える。
「む、いかん。また大きくなって来おったわい」
「……ラーメンはいつでも食べられるさ」
気まずそうに申し出た伴の首に腕を回しつつ飛雄馬は目を閉じる。そうすると、再び伴は飛雄馬に口付けを与えたかと思うと、彼の口内へと舌を滑らせた。
「っふ……」
飛雄馬は伴の首に縋ったまま、薄く目を開け窓の外を仰ぐ。
もう雨音は聞こえない。きっと明日は晴れるだろう、と。伴が眠ってからでも牧場さんに手紙を書いてやろう、とそんなことを思いながら飛雄馬は、「んっ!」と鼻掛かった声を上げた。