弱味
弱味 わざとらしく音を立ててカウパーを啜って、飛雄馬は自身に己を嬲られつつ時折、唾を飲み込むがごとく喉を鳴らす伴を見つめる。
久しぶりに食事でもどうかと誘い、昼飯ならとそれを承諾した飛雄馬を伴は人払いさせた料亭へと案内した。
そこで話が弾み──真っ昼間だと言うのに伴は酒を煽り、飛雄馬に迫った。
時間と場所を考えてくれと最初は突っぱねた飛雄馬だったが、伴がそれこそ愛玩動物のような顔をして、嫌なら場所を変えてもいいと、どうしてもと頼むので、仕方ないなとそのまま慰めてやることにしたのである。
飛雄馬は伴にそこに寝ろと言ってから、横になった彼の穿くスラックスのファスナーを下ろし、アルコールのせいかいつもより熱い男根を取り出してから、形の良い唇でそっと口付けた。
ビクンと口付けられたそれは跳ね、飛雄馬の頬を叩いてその肌を先走りで濡らす。
「たまには自分で抜いた方がいいぞ。今日はしてやるが、今後はそうはいかんからな」
「そ、そんなこと言わんでくれ星ぃ……しばらく会えんかったから、寂しくてのう」
伴の言うとおり、二人が顔を合わせたのは実に数ヶ月ぶりになる。
飛雄馬は試合が続くとよほどのことがない限り宿舎から出ないし、伴も球団の人間ではないゆえにそう頻繁には宿舎に顔は出せない。気が散るからと飛雄馬も重要なことではない限り電話があっても取り次がんでくれと寮長に頼んでいた。
「……早く嫁さんでも貰えばいいんだ」
「嫁、なんぞ、いらっ……うっ!」
寝転がり、顔だけを上げてこちらを見ている伴を上目遣い気味に見上げて、飛雄馬は口を開け、彼の逸物を咥え込んだ。
温かく濡れた粘膜が伴を包み込んだかと思うと、きゅっと一度口を窄め、それを締め上げる。
「は、ふ………っ」
己の唾液にまみれた男根から口を離して、飛雄馬は伴の先走りの混ざった唾をごくんと飲み干す。そうして、右手でそれを握るとゆっくりと手を上下させる。
「あっ、星っ!」
「お前のは大きすぎて顎が疲れて敵わんからな」
数回、手を往復させていると唾液が乾いてくるために、飛雄馬は口に溜めたそれをとろりと伴の男根へと垂らしてから再びそれをしごく。
「っ、星……星ぃ」
「………」
顔をしかめ、しきりに名を呼ぶ伴が可愛いやら愛おしいやらで飛雄馬は口を開けると、彼を咥える。窄めた唇と粘膜とでそれをしごいて、舌を裏筋へと這わせてから亀頭を強く吸い上げた。
うっ、と伴は呻いて、腰を震わせる。
だらしなく溢れる先走りを啜って、飛雄馬は伴の亀頭を咥えたまま竿の部分をゆるゆるとしごいた。
「星、っ……あっ、あ、離せ。出るっ、あ」
「遠慮するな。出してしまえ」
そう、言ってから飛雄馬は竿をしごく手の動きを早め、咥えた亀頭への圧迫を強めた。すると、飛雄馬の喉奥に熱いものが迸って、ビクビクと伴が戦慄く。
飛雄馬は男根を咥えたまま射精が終わるのを待ち、その脈動が治まったところでごくりとそれを飲み干した。
「…………」
濡れた口元を拭って、ぬるくなったオレンジジュースを口に含んだ飛雄馬を伴が呼ぶ。
「星、したい。お前を抱きたい」
「冗談はよせ、伴。ましてやこんなところで」
「冗談じゃないわい。わしがどれだけ星に会いたかったと思っとるんじゃい」
「したい、と言う意味でか」
「ち、違っ……そんな、わしは」
飛雄馬は再び、首をもたげ起立している伴の男根をちらりと見遣ってから、立ち上がると身に着けているスラックスと下着とを一息に脱ぎ去った。
そうして、その様子を目の当たりにしつつ呆けている彼のスラックスの前を開けてやってから下腹部へと跨り、伴の男根を尻の下に敷くとグッと腰を前後に動かした。
飛雄馬の尻と己の腹とで挟み込まれ、圧迫されて、はたまた彼自身のカウパーが潤滑剤の役割を果たして、伴は呻く。
「相手をしてやりたいのは山々だが、夕方から練習があるものでな」
着ているものが汚れぬよう、飛雄馬は腰を振りつつシャツの裾を咥え、その白く薄い腹を惜しげもなく晒して見せた。
飛雄馬の尻が伴の男根の上をぬるぬると滑って、はたまた飛雄馬もまた興奮しているのか、勃起した彼の逸物からは雫が滴る。
「あっ、っ………ふ」
窄めた孔を伴の男根が撫でて、飛雄馬はぶるっと震え、咥えたシャツのめくれた裾から覗く乳首はぷっくりと立ち上がってさえいた。
「星、生殺しじゃい………こっ、なのは……」
「ふふ……」
小さく笑みを漏らして、飛雄馬は艶かしく腰を揺らす。そうして、腰を浮かせて尻の後ろに男根を立たせると飛雄馬はそれを手でぬるぬるとしごいた。
「ぁっ……星!入れたい……頼むっ……ほしっ」
息も絶え絶えに伴は言うが、飛雄馬は彼を見下ろしたまま首を縦には振らない。
「伴の腰に叩かれたら足腰立たなくなってしまうからな」
「星ぃっ!」
叫んで、伴は上体を起こす。はあ、はあと肩で荒い息をしながら彼は飛雄馬の脇の下に腕を回し、ぎゅうとその体を抱く。
「後生じゃい、星……頼む。この通りじゃい」
「………今日、だけだぞ」
飛雄馬がやれやれ、とばかりに承諾すると伴の顔がぱあっと輝いた。
それから伴は飛雄馬を抱いたまま、唇を尖らせ彼の唇に口付ける。
「ん、ぅ……」
久しぶりなのは飛雄馬とて同じである。
熱い唇が触れたかと思えば、続けざまに舌が滑り込んできて口内を犯す。
「あっ………伴」
唇を解放した伴が飛雄馬の耳朶を淡く噛んで、そのまま畳の上へと押し倒した。
畳の目に逆らうように飛雄馬は足を滑らせ、目の前の彼を受け入れるかのように足を開く。
「いつもワガママを聞いてくれて感謝しとるぞい……」
「それは、こっちの台詞だ伴。ふふ、あまり、激しくしないでくれると助かる」
近くにあった座布団を半分に折って、飛雄馬はそれを腰の下へと敷き入れる。
伴は飛雄馬の片足を抱え込むと、腰を寄せ、彼の尻へと己を宛てがってからそのままゆっくりと挿入させた。
もう、この感触だけで達してしまいそうになるのを伴は堪え、目を閉じて腹を上下させる飛雄馬の肌の上に指を滑らせた。
「ッ、ん………」
小さく体を跳ねさせ、飛雄馬は閉じていた目を薄っすらと開けると伴を仰ぐ。
さっきまでの魔性はどこへやら、今にも泣き出しそうな顔をして全身を真っ赤に火照らせている。
顔を見られ、視線が合ったのがよほど恥ずかしかったか飛雄馬は顔を腕で覆うと、先を催促するかのように尻を伴の腰へと押し付けた。
伴は中程まで挿入させた自身を再び飛雄馬の奥へと突き入れていく。
「ああ、星……いかん。ゆっくりなんて無理じゃい。すまん」
言うなり、伴は飛雄馬の腰を掴むと、一息に奥を抉った。それこそ久しぶりに中を伴のもので擦られ、奥を穿たれて飛雄馬は大きく背を反らす。
「ばっ……だからっ、言ったっ………ぐ、うっ、うっ」
「星が焦らすからじゃあ。星のせいじゃい」
伴の反り返った男根が飛雄馬の腹の中を責め立てて、腹側にあるとある箇所を嬲った。
「だめだっ、伴……やめろ、やめて、っ」
「………」
首元を締めるネクタイを緩めて、伴は飛雄馬の胸へと吸い付く。膨らんだ乳首を口に含んで、吸い上げた。
「あっ!あ、あっ………練習、あるって、ばっ……ん、」
全身を汗に濡らし、飛雄馬は眉間に皺を寄せ、指を噛む。
「星、愛しとるぞ、星……」
上ずる顎先に口付けて、伴は囁く。
触れ合う結合部は音を立て、飛雄馬の目尻からは涙が溢れた。
「いっ、く………伴っ……」
伴の肩に爪を立てて、飛雄馬は戦慄き、腹の中にある彼を締め付ける。
「あっ、締めるな!星っ」
すんでのところで間に合い、伴は飛雄馬の腹の上へと吐精した。危ないところじゃったわい、と額に浮かぶ汗を拭ってから、伴は目元を腕で覆い隠している飛雄馬を、星……とか細い声で呼んだ。
「だから、っ……言ったろう」
「あ、ん……その……すまなんだ。謝って、許してもらえるとは、思っとらんが……その」
「……っふ、許さんと、言ったらどうするんだ?」
息を整えて、飛雄馬は体を起こすと、腹の上に撒かれた精液をティッシュで拭う。
「えっ!?そ、それは………この通りじゃい!」
畳に額を擦りつけ、伴はそれこそ平身低頭の格好で謝罪した。
今や伴重工業の重役ともあろう人間がそこまでするものか、と飛雄馬は吹き出してから、気にするな、と下着とスラックスに足を通しつつそんな言葉を投げる。
「ほ、星………!」
ガバッと体を起こして、伴は飛雄馬の足に縋りつく。
よろよろとよろめきつつも飛雄馬はその行動については咎めず、これも惚れた弱味だろうか、とばかりに苦笑して、次やったら絶交だぞ、と伴の反応を見るためだけにそんな嘘をついた。
けれども伴はそれが嘘とは見抜けず、また間抜けた泣き顔を晒すと、星ぃっ!と大きな声で縋りつく彼の名を叫んだのだった。