夜夜中
夜夜中
廊下と部屋とを仕切る襖がすうっと軽やかに滑る音で飛雄馬は目を覚ました。
深夜。辺りは物音ひとつせず、襖を開けた何者かが畳の上をすり足でにじり寄る足音が飛雄馬の耳には届くのみだ。
伴?と飛雄馬は布団の中でその「誰か」を呼ぶ。
けれども、その誰かからの返事はなく、飛雄馬の目が部屋を包む闇に目が慣れてきた頃、ようやく相手が口を開いた。
「起コシテシマイマシタカ、ヒューマ」
「さっ、サンダーさん」
枕元に膝を着いた誰かの──ビッグ・ビル・サンダーの顔を目の当たりにし、飛雄馬は体にかかっていた掛け布団を跳ね除ける。
と、その場で寝間着代わりの浴衣の襟元を直し姿勢を正してから、どうしました、こんな夜中に、そう、尋ねた。
こんな夜更けにサンダーさんが部屋を訪ねて来るなど初めてのことで、飛雄馬は何か昼間に粗相があっただろうかと朝起きてから床につくまでの始終を思い返す。朝起きて、町内をランニングした後朝食を食べ、伴の会社が所有するグラウンドで打球練習をして、それから…………。
あれこれと寝惚けた頭で今までのやり取りを回想していた飛雄馬に何を思ってか、サンダーは畳に手をつくと顔を寄せた。
「サンダーさん、その、何か……っ!」
何をそんなに見つめる必要があるのだろうかと疑問に感じるほど、距離を縮めてきたサンダーがふいに飛雄馬の唇へと口付けたのだ。
まさか、何故、何のつもりで、とそんな言葉が飛雄馬の脳内を巡るが、唇の隙間を縫い容易く滑り込んだ舌に口内を翻弄され、言葉は声にならない。
それどころか、抵抗する間もないままに布団の上に押し倒されることとなり、体の上にのしかかられたことで息を深く吸うこともままならなくなった。
「っ……ぅふ……」
重い。息ができない。苦しい。誰か。
熱い舌が飛雄馬の頭をぼんやりとさせる。
甘い唾液が体を痺れさせる。
サンダーの手が浴衣の帯を緩め、飛雄馬の足を開くとその間に身を置いた。腹の上に乗ったサンダーの熱く脈打つものの感触が飛雄馬の肌を粟立たせる。
「ヒューマ、アナタ、ワタシ拒マナイノデスカ」
「え…………?」
やっと呼吸をまともに行うことを許された飛雄馬は体を起こしたサンダーを見上げる。いつの間に泣いていたのか、仰いだ彼の顔は涙でぼやけている。
そうでなくとも暗い部屋の中で、表情の判別はつかない。しかして、腹の上に乗せられたサンダーの性器はどくどくと脈を打っているのがわかる。
「今カラ何ヲスルノカ、分カリマスカ?」
「…………」
サンダーから視線を逸らし、飛雄馬は目を閉じる。
口付けのせいで靄がかかっていた頭の中もゆっくりと晴れていくのを自覚する。
今から、何をするのか、だと?
そんなことを尋ねてどうしようというのか。
いや、そもそも何故、こんなことを、サンダーさんは。
「ヒューマ・ホシ、アナタガミスター・伴トセックスシテルノ、私知ッテイル。毎晩ノヨウニ、酔ッタミスター・伴、ヒューマノ部屋ニ来テイマス」
「なっ……!」
まさかの発言に驚き、言葉を失った飛雄馬の顔にサンダーは身を屈めると再び顔を寄せた。
「毎晩、アナタノ声ヲ聞カサレル身ニモナッテクダサイ。ソレナノニ、ミスター・伴モヒューマモ朝、何事モナカッタヨウニ私ニ普通ニ話シカケル」
だから言ったのに、伴のやつ──と飛雄馬は奥歯を噛み締め、親友を呪う。隣にはサンダーさんがいるんだぞと何度咎めたかわからない。
それでも、世話になっているのだからと身を任せてきたが、まさか今、それが仇となるとは。
「サンダーさん、誤解だ。おれと伴はそんな……っう!」
サンダーの唇が飛雄馬の首筋に触れ、汗ばむ肌の表面を舌が這った。唇が肌を吸い上げるたびに体が跳ね、高い声が飛雄馬の口からは漏れる。
「や、めっ……サンダーさ、っ……」
首筋から鎖骨、胸へと下ったサンダーの舌が飛雄馬の乳首を捉え、舌先が突起をくすぐった。
一際、高い声を飛雄馬は上げたが、声を殺すべく口を両手で塞いだ。すると、サンダーの手が飛雄馬の立ち上がりつつあった男根に触れる。
下着の上から大きな手が男根を撫でさすり、完全に首をもたげたそれを握ると上下に擦った。
「────〜〜〜っ、!!」
飛雄馬は膝を震わせ、身をよじるがサンダーの手から逃れられはせず、遂には下着の中へと彼の指は滑り込む。先走りを切なく溢す男根に直に触れられ、飛雄馬は閉じたまぶたの縁に涙を浮かべる。
どうか夢なら覚めてくれ、とそう願うが、絶え間なく与えられる快感が現実へと引き戻す。
大きな掌が男根をしごくたびに強烈な痺れが飛雄馬の脳を焼く。口から漏れ出るは拒絶や抵抗のそれではなく、快楽に酔う鼻がかった嬌声ばかりとなり、飛雄馬の肌は熱く火照った。
裏筋を親指の腹で撫でられ、体ががくがくと戦慄く。
「ココ、ヒューマノ弱点」
「あ……っ、く……」
にやりとサンダーが笑うのがうっすらと飛雄馬の目に映った。と、サンダーは突然男根から手を離し、下着を剥ぎ取るとその下にある窄まりへと指を滑らせた。
「痛クハシマセン。大丈夫デース」
先走りで十分湿らせたか、サンダーは飛雄馬の窄まりへ指をそろりと挿入した。
「うっ……っ」
太い指が飛雄馬の腹の中をゆっくりと進み、入口を解すべく引き返していく。その微妙な位置を掠める歯痒さに飛雄馬は眉間に皺を寄せた。
腹の奥がぐずぐずと疼くのがわかる。
しかして、嫌だ、やめてくれと本気でこの人を拒めない。サンダーさんにアメリカに帰ると言われてしまっては、呼んでくれた伴に合わす顔がない。いや、元はといえば────。
「ヒューマ、集中シナサイ」
断りもなく中に潜る指の本数を増やされ、飛雄馬は苦痛に喘いだ。
しかして、それも一瞬のことで、体はすぐに順応する。二本の指が腹の中を擦り、奥を探った。
「っっ……ん……んっ」
指が動くたびに飛雄馬の体もまた揺れ、男根からは先走りが垂れ落ちる。
飛雄馬が身を預けた布団と浴衣は汗でじっとりと濡れ、肌へと張り付く。開いた足の立てられた膝は震え、今にも倒れそうになる。
と、ふいにサンダーが指を抜き、身を乗り出すと穿いていたジャージを下ろし、飛雄馬の腹に取り出した男根を乗せた。
「あっ……!」
サンダーの性器は飛雄馬の臍の上をゆうに越えている。飛雄馬は怖い、と今更、挿入の段階になって恐怖を覚えた。あれで腹の中を抉られたら──。
ぎゅっと唇を引き結び、腹に先走りを垂らしたサンダーの男根を飛雄馬は見つめる。
「星?寝とるのかあ?」
「!」
いつの間に近くまで来ていたのか、サンダーの後ろ、廊下と部屋を仕切る襖の向こうから聞き慣れた声がして、飛雄馬は体を起こす。
サンダーの動きも止まり、飛雄馬は助かったとばかりに安堵し、返事をすべく口を開きかけた。
「Be quiet. ヒューマ……」
囁いたサンダーに口を塞がれ、飛雄馬は布団に押し倒される。そのままあろうことかサンダーは腰を引くなり飛雄馬の尻へと片手で男根をあてがった。
「…………!!」
「開けるぞい」
そう、伴が言うのと飛雄馬の体をサンダーの男根が最奥まで貫くのはほぼ同時であった。
呼吸もままならないほどの質量が腹の中を満たし、サンダーの体重が体へとのしかかる。
何の前触れもなく奥を抉られ、飛雄馬の目の前には閃光が走った。体は強引に与えられた絶頂に震え、汗を滲ませる。口を塞がれていることで叫ぶことは免れたものの、この口枷がなければ飛雄馬は悲鳴を上げていただろう。
「Sorry,ミスター・伴。ヒューマ・ホシ、体ガ痛ムソウデ、今マッサージ中デース。今日ハ休マセテアゲテホシイ」
「む……そ、そうか。ありがとうございます、サンダーさん。わしのいない間に星のことよろしく頼みます。星、お大事にな」
「────っ──!!」
サンダーがゆっくりと引いた腰を、またゆっくりと中を掻き回すように押し付ける。
腹の中を満たすサンダーの男根に体が慣れていない飛雄馬は、彼が与える鈍い刺激に意識が飛びそうになるのを必死に堪えた。
「ミスター・伴モ無理ナク」
「……サンダーさんも遅くまでお疲れ様じゃい。おやすみ、星」
伴が離れていく足音が微かに飛雄馬の耳にも届く。
よかった、と胸を撫で下ろした飛雄馬だったが、サンダーの腰に強く尻を叩かれ、一瞬にして脳天まで突き抜けた強い痺れに声を上げた。
「う、ぁっ──!」
口を覆うべく伸ばした飛雄馬の両手をサンダーは絡め取り、頭上の布団の上へと押し付けた。
腰が砕けそうなほど重い腰遣いで中を掻き乱され、飛雄馬は背中を反らし、やめてくれと首を振る。
「声ヲ、出シマセンカ、ヒューマ・ホシ」
「…………っく、」
「ミスター・伴ニ聞カレルノガ恐ロシイ?」
押し付けたサンダーの腰が飛雄馬の中を掻き回す。
両手を握られ、身をよじることも叶わないまま飛雄馬は背筋をじわじわと登る絶頂から逃れようと歯を噛み締める。
意識が飛ぶ、このままでは。
必死に堪える飛雄馬の胸の突起をサンダーは開いた片手で捏ね、押しつぶす。
「いっ、っ──!」
大きく背中を反らした飛雄馬の肌の表面を汗が滑る。
「ウゥッ……」
短く声を上げ、サンダーは動きを止めると射精し、飛雄馬の中へと性を注ぎ込む。
終わった、と飛雄馬は解放された安堵感から大きく息を吐き、全身の緊張を緩めた。
しかして、サンダーは握っていた飛雄馬の両手を離すと、その体をうつ伏せの体勢にさせ、膝を曲げて腰を高く突き上げさせた。
「…………!」
いやだ、馬鹿な、そんな──!
飛雄馬の汗をかいた腰へとサンダーの手が触れ、尻を大きく押し広げた。
窄まりからは出されたばかりの白濁が垂れ落ち、飛雄馬の腿を伝い落ちる。
「さっ、サンダーさんっ……もうっ、」
懇願虚しく、サンダーは再び飛雄馬の体を貫き、腰で尻を叩いた。先程とは違う位置を男根は擦り、撫で、飛雄馬の消失しかけていた熱を呼び覚ます。
湿った布団のシーツを握り締め、飛雄馬はそこに顔を埋める。誰にも触られたことのない腹の奥を突かれ、飛雄馬は顔を押し付けた布団の上で狂ったように声を上げた。何度達したかわからない。腹の中を犯されながら、男根を嬲られ、布団には幾度体液を溢しただろう。
「ヒューマ、上ニ乗レマスカ」
腰が震え、中を掻き回されるたびに流した涙で飛雄馬の顔はぐずぐずに崩れてしまっている。
だと言うのにサンダーは畳の上に足を投げ出し、仰向けになると飛雄馬に上に乗るように言った。
「う、え……?」
「YES,得意デショウ」
空はもう、白み始めている。
間もなく、おばさんが朝食を作りにやってくるであろう。飛雄馬は言われるがままにサンダーの腰に跨りはしたものの、体液に濡れる彼の男根を体の中に収めるまでは至らず、その胸へと身を預けた。
「体、起コシテクダサイ、ヒューマ」
「っ、っ……」
汗でびっしょりと濡れた体を起こし、飛雄馬はサンダーが尻へと男根を充てがうのに身を任せる。
そうして膝を立てたサンダーが下から突き上げるようにして挿入を果たしたのに身震いし、開いたままの口からはとろりと唾液を溢した。
「はぁ、あっ…………っ」
ぞくぞくと背筋が戦慄き、飛雄馬の頭の奥が痺れる。
サンダーの放出した白濁液が、彼が腰を遣う度に飛雄馬との結合部から溢れ、ぐちゃぐちゃと音を立てた。
「ヒューマ・ホシハ悪イ子デース……」
腰をくねらせ、肩まで伸びた癖のある黒髪を頬に張り付かせ、飛雄馬はサンダーの体の上で快楽を貪る。
胸の突起をつねられ、口の中に無造作に差し込まれた指で頬の粘膜を撫でられ、絶頂に喘ぐ。
その悪夢からようやく解放されたのはおばさんが朝ご飯ができましたよと呼びに来た頃合いで、飛雄馬はろくに返事もできなかった。
「ヒューマ、ユックリドウゾ。ワタシ、先ニ行ッテマス」
「………………」
布団の上で、飛雄馬は無言のままサンダーを見送り、涙でぼやける天井を見上げる。頭は痛むし体はひどくだるい。指一本動かせないほど疲弊してしまっている。しばらく休めば大丈夫だろうか。しかし、まさかこんなことになるとは……。
「星、起きちょるか」
「……ば、伴」
「昨日、ずいぶんうなされとったようじゃが、よく眠れたかのう」
「ああ、やっぱり体は現役時代より鈍ってしまっているらしい。昨日はひどくあちこち痛んでな」
襖の向こうから伴が声をかけてきて、飛雄馬は掠れた声を咳払いでごまかし、平静を取り繕う。
「無理はせんでええぞい。急にやると体を壊すからのう。サンダーさんは今日の練習は休むように言っちょったかあ?」
「い、いや……何も聞いていないが」
「ふむ、そうか……星がそんな調子なら今日の練習は休みかと思ったんじゃが……サンダーさんに訊いてみるわい」
「大丈夫だ。せっかく伴が集めてくれた選手たちにも申し訳ないからな。朝食先にを食べててくれないか。あとで行くよ」
「お、おう。星よ、無理は禁物じゃぞい。くれぐれも……」
「…………」
無理は禁物、か。
夜な夜な人の部屋に忍び込んでくるやつの言うことか、それが。元はといえば、すべての元凶だと言うのに。知らぬが仏とはよく言ったものだ。
まるで他人事のように言い放った親友の一言がおかしくて、飛雄馬は吹き出すと、小さく声を上げて笑う。
腹に圧力がかかったか、中からサンダーの体液が漏れ出て、飛雄馬は不快感から寝返りをうつと、目を閉じ、そのままうとうとと微睡む。屋敷の台所で楽しげに会話をする三人の声を、飛雄馬はどこか遠くで聞いていた。