安らぎ
安らぎ 今日も一日疲れたのう、と溜息混じりにぼやいて伴は宿舎のベッドの上に座ったままで帽子を脱ぐと枕元に置いた。
「これくらいで音を上げていては一軍入りなど夢のまた夢だな」
ふふふ、と飛雄馬は笑みをその顔に湛えつつ、伴のそばへと歩み寄る。そうすると、伴が大きな太い腕をそれぞれに伸ばしてきて、飛雄馬の体をぎゅうと抱き締めた。
「別に、ちょっと愚痴をこぼすくらいしたってええじゃろう」
抱き寄せた飛雄馬の胸元に顔を擦り寄せつつ、伴はそんな言葉を紡ぐ。
「ふふ、そんなにきついのなら野球などやめて実業家への道を歩んだらどうだ。今からでも遅くないと思うぞ」
「にゃにを言うか星よ!おれが野球をやめるとき、それはすなわち星もまた野球をやめるときじゃい。おれの命運は星と共にあるんじゃあ」
「………」
擦り寄せていた顔を離し、伴は興奮気味にそんな台詞を吐いた。飛雄馬は目を細め、彼の顔を見下ろしながらも黙っている。
すると、じっとこちらを睨むように見上げていた伴の表情が段々と緩んで、眉尻など限界まで下がったようになった。
「なぜ何も言ってくれんのじゃ。いまの星にとっておれは邪魔なのか」
「…………そう思っているのはおれの方だ。きみの、伴の将来をおれの勝手な都合で潰してしまっているのではないか、とそんなことを考えんでもない。伴は優しいから、自分のことより何より、おれのことを一番に考えてくれるからな」
「優しい?おれが?」
「おれが今まで出会ってきた人の中で、伴よ、きみが一番優しいと思うぜ……」
飛雄馬は帽子を取って、ベッドに置いてから小さく微笑むと、こちらを仰ぎ見ている彼の額にそっと口付ける。
汗と土埃とにまみれ、日に焼けた肌は飛雄馬の唇にざらりと触れた。
一瞬、唇を離して飛雄馬が伴を見下ろすと、彼は少し恥ずかしそうにしながらも飛雄馬の背中に回していた手を離し、そのまま腕を掴むと優しく己の方に引き寄せつつそっと口付けを与える。
飛雄馬はそれを拒むでもなく、素直に受け入れ、伴の首へと両腕で縋りついた。 ちゅっ、ちゅっと音を立て、何度も互いの唇を啄んでから、ふと飛雄馬が閉じた目を開けると、伴もまた同じように目を開けていたもので、二人はぷっ!と吹き出すと、声を上げて笑い合う。
そうしてひとしきり笑い合ってから、再び唇を重ねる。
今度は子供騙しの口付けなどではなく、熱を孕んだ呼吸を交わして濡れた粘膜同士を触れ合わせた。
「ふ……ぅっ……」
唇が離れた拍子にそんな艶っぽい声が口から漏れて、飛雄馬はかあっと頬を染める。すると、伴の真剣な眼差しと視線がかち合って、飛雄馬は居たたまれず視線を逸らした。
「星……」
ぎゅうっと再び、伴は飛雄馬の体を強くその腕に抱く。
「…………」
その息が詰まるような、苦しみさえ覚える抱擁を受けながらも飛雄馬は恍惚の表情を浮かべる。この腕に抱かれていると、自分が何でも出来そうな気がしてくるのは何故だろう。
この加減を知らない、ただありのままの自分をぶつけてくる伴宙太という男の体温がじんわりとおれの体を温めてくれる。
いや、体だけではない。
いっそ悲しい思いを、辛い思いをするくらいならと封じ込めた心の奥底に、この男は難なく触れてきた。
星一徹の子なら、それくらい出来て当たり前だ。達成出来ないこと、乗り越えられないことなど星一徹の子にあってはならない。
挫折することなど、休むことなど教えられなかったと言うのに、伴はおれに安らぎをくれた。熱を与えてくれた。人を愛するということを教えてくれたのだ。
「あ、っ」
太く大きな腕に抱かれつつ、考え事をしていた飛雄馬の尻を伴は指先でそろりと撫でた。ユニフォームとその中に穿いているスライディングパンツのお陰でだいぶ緩和されているものの、刺激は十分に伝わる。
なだらかな尻たぶをくすぐるように指先で撫で上げてから伴は、飛雄馬の腿をすりすりと掌で上下に擦った。
「っ、っ………」
きゅん、と腹の奥が疼いて、飛雄馬は顔をしかめると奥歯を噛み締めた。既に立ち上がりつつある逸物はスライディングパンツに抑え込まれ、その締め付けに痛みさえ覚えるほどである。
飛雄馬の撫でていた腿から膝裏へと伴は手を滑らせ、膝を折らせると少しベッドに座る位置を後ろにずらしてから彼の両膝を自身の片方の腿の上を跨がせるようにして、ベッドの上に乗り上がらせた。
星、と名を呼んで、伴が顔を上げると、飛雄馬は腰を落として薄く口を開くと口付けに応じる。
「は、っふ………ぅ」
舌を絡ませあって、頭の芯が溶けるような熱を与えあいながら伴は飛雄馬の穿くユニフォームのベルトを緩める。
びくっ、と飛雄馬は体を震わせたが、抵抗するでもなく、そのまま伴の手がユニフォームのボタンを外してとファスナーを下ろす音を聞いていた。そうしてだぶついたユニフォームが飛雄馬の腰から離れたが、伴は続いて彼の穿くスライディングパンツをも脱がせにかかった。
「っ………脱げる、から」
言って、飛雄馬は膝立ちになると、下半身を締め付けるスライディングパンツを一息にずり下ろす。すると、今の今まできついパンツの中に収まっていた逸物が顔を出して、その鈴口からとろりと先走りを垂らした。
「すっかり出来上がっとったのう」
「あ、っまり……見ないでくれ」
恥ずかしそうに呟いた飛雄馬のそれを、伴は何の躊躇いもなく掌で包み込むと絶妙な力加減でそれを握り込んで、上下にしごいていく。
「あ、っ………!伴っ」
「あんまり仰け反ると後ろにひっくり返るぞい」
根元から亀頭にかけてゆっくりしごきつつ、伴は全身を戦慄かせながら己のユニフォームの肩口を握り締める飛雄馬の顔を仰ぎ見た。指に先走りをまぶして、ぬるぬると手で亀頭を撫でてやれば、飛雄馬の全身は震え、肩口を握る力はより一層強くなる。
瞳に涙の膜を張って、飛雄馬は鼻がかった声を上げた。
「ん、ん……っ、っ。伴……ば、んっ」
「星」
蕩けきった表情を晒して、飛雄馬は濡れたまつげを揺らしながら伴を呼ぶ。飛雄馬の腹の中が変に疼いて、腰が揺れる。
「奥っ……へんな感じが………あっ」
唇の端から唾液が伝って、飛雄馬の首筋を滑る。伴は眉間に皺を寄せ、飛雄馬の逸物から手を離すと、自身の穿くユニフォームのベルトを緩め、腰を浮かせると片手で飛雄馬の体を支えつつ、もう片方の手でスライディングパンツをぎこちないながらも下ろした。
そうして、一度口に含んで唾液をたっぷりと纏わせた指で飛雄馬の尻を解していく。
太い指が入り口のあたりをくすぐっていたかと思うと、その中心へと忍び込んでくる。その刺激から逃れるようにぐーっと背筋を伸ばし足に力を入れた飛雄馬に伴は腰を落とすように言って、三分の一ほど飲み込ませた指を更に奥へと進めた。
腰を落としたお陰で伴の指を図らずも更に奥に飲み込む形になって、飛雄馬は小さく呻いて、顔をしかめる。
「痛いかのう」
伴からの問いに飛雄馬は首を振り、息を吐くと閉じていた目を開け、涙の滲む瞳を伴へと向けた。
そうして下ろした腰を上げ、伴の指を腹の中から抜くと彼の隣に腰を下ろして、来てくれ、とたった一言。
するとふらふらとそれこそ夢遊病者のように伴は立ち上がる。
ベッドに半ば横たわりかけている飛雄馬の股ぐらに身を寄せると、片方のスパイクを脱がせてやり、それぞれストッキングとユニフォームの裾を足から抜いてやって彼の体の傍らに手を置くと、もう片方の手で己の逸物を飛雄馬の中へと誘った。
「────っ、」
股関節に伴の体重がぐっとかかって、入り口がこじ開けられる。かと思えば、腹の中をゆっくりと熱を持ったものが突き進んできた。
体を仰け反らせ、喉を晒して飛雄馬は開いた口から吐息を漏らす。ようやく伴の逸物に体が馴染んで、飛雄馬が緊張を解いたとき、あろうことか彼は飛雄馬の膝裏を掴み、足を押し開くと更に体重を掛けより深い場所に己を突き込んだ。
「っ、ぐ………っう〜〜〜っ!!」
伴の体重を押し付けられた飛雄馬の股関節が軋んで、体が揺さぶられる。腰を鋭く穿たれるたびに、雁首が飛雄馬の良いところを腹の中から押し上げて刺激した。
その度に飛雄馬は伴を締め付け、その腕に強くしがみつく。
はぁっ、と短い呼吸を漏らす飛雄馬の唇に伴は己のそれを押し付け、舌を触れ合わせる。伴が腰を叩きつけるたびに飛雄馬の逸物は震え、その腹に先走りをだらしなく零す。
「っ、ん………ん、う、ぅ」
腰を引いて強く打ち付けると、飛雄馬は狂ったように声を上げた。そこから脳天までを衝撃が駆け抜けて、目の前が真っ白になる。体は快楽にうち震え、瞳に浮かんだ涙は頬を滑る。
「い、っ──!あ、ああっ」
一際高い声と共に絶頂を迎えて、全身を小さく震わせる飛雄馬だったが、伴は体を起こすと彼の腰を掴んで、今度は彼自身が射精するために腰を打ち付け始めた。
飛雄馬の尻と、伴の腰とがぶつかって音を立てる。
「っ、あ、」
はしたない声が漏れ出そうになるのを飛雄馬は口元を手で押さえ、堪えるものの絶頂を迎えたばかりの体になり振り構わず腰を突き立てられ、その体はびく、 びくと大きく跳ね上がる。
「きつ……っ、伴、っ……げん、っかいらからっ……お、ねがっ」
もう何がなんだか分からなくなって、歪めた顔を涙に濡らして、飛雄馬は言うが、聞こえていないのか、あえて無視をしているのか、伴は動きを緩めはしなかった。
全身に汗をかいて、がくがくとその身を震わせながら飛雄馬は自身の腹の上に白濁が撒かれる様を目の当たりにした。
「すまん、星ぃ……ちとやりすぎたわい」
今頃になってそんな台詞を吐く伴を飛雄馬は一瞥して、目元の涙を指で拭う。未だ呼吸が整わず、全身は痙攣している。
伴は先に一人身支度を整え、ユニフォームを着直すとベッドに横たわったままの飛雄馬近くに腰掛け、彼の汗に濡れた髪を撫でてやった。
「う……」
ぴくっ、と飛雄馬は体を跳ねさせ、目を閉じる。散々泣かされたあとで刺激に敏感になっているらしかった。
「ゆっくり眠って、明日からまた頑張ろうぜ、星よ」
「伴」
掠れた声で飛雄馬は伴を呼ぶ。何を言われるのか、と身構えた彼に対し飛雄馬は寝転んだまま両手を伸ばす。
と、伴はそのまま飛雄馬の体の上に覆い被さるようにしながら、彼の体の下に腕を差し入れその体をぎゅうと抱き締める。
今度は伴の胸に飛雄馬が顔を埋める形になって、飛雄馬はすうっと鼻から息を吸う。伴の心臓の鼓動が耳に心地良く、飛雄馬はうとうとと微睡む。
ああ、眠る前に風呂に入らねばならぬというのに、眠ってはだめだと思いつつも瞼がゆっくりと下りてきて飛雄馬は遂に伴に抱かれたまま寝入ってしまう。
伴は飛雄馬の寝息に気が付いて、慌てて体を離したが時既に遅しとばかりに彼は夢の世界へと旅立っている。
まだ風呂終いの時刻までは少し時間があるな、と伴はデスクの上の目覚まし時計を見遣ってから、少し寝かせておいてやろう、と苦笑しつつ、彼の体の上にそっと布団をかけてやったのだった。