夜半過ぎ
夜半過ぎ ぶるっ、と伴は半ば寝惚けた状態のまま体を震わせる。まだ夜は明けていないようであたりは薄暗い。
目覚ましが鳴るまでもう一眠りするとしよう。
そう、思ったのも束の間、自分のモノを何やら温かく濡れたものが這いずったような感覚を覚え、慌てて体を起こすと掛け布団を払い除けた。
「……目が覚めたか」
すると、悪びれる様子なく立ち上がったモノ越しにこちらを見つめてくる星飛雄馬──と目が合い、伴は、ほっ、星?!と素っ頓狂な声を上げる。
なんで星が?いや、昨日接待から帰ってすぐ星の部屋に入り込んで眠ったことは覚えているが、そうじゃのうて、なんで星が、わしの朝立ちしたアレに顔を寄せて?どういう風の吹き回しじゃ…………あっ!
様々な考えが巡っては消えを繰り返す頭の中を整理しようと伴は目を閉じ、押し黙ったものの、熱く柔らかな感触に自分のモノが包まれたことで眉をひそめると、星、と名を呼んでから、股間に顔を埋める彼の頭に手を添えた。
「星、っ、きさま、自分が何をやっとるかわかっちょるのか……っ、」
「…………」
喉奥まで咥えられたか先を締め付けられ、伴は、うっ!と小さく声を漏らすと、飛雄馬の頭を撫でる。
い、いかん、星がわしのを咥えとるっちゅうそれだけで出てしまいそうじゃ、ここのところご無沙汰じゃったから……。
下腹がひくつき、咥えられているモノが戦慄くのを感じながら、伴は必死に自分の親父の顔を思い出し、首を振る。何としても星の口にぶちまけることだけは避けねばなるまいて……いくらこの状況が据え膳だったとしても。
伴がそう決心した刹那に、かろうじて喉奥の締め付けからは解放されはしたが、膨らみきった亀頭を唾液をたっぷりと溜めた口に吸い上げられ、堪らず射精へと至る。
「わ、わわっ、星!すまん、ティッシュ、ティッシュ!」
射精を迎えた心地良さにしばし酔いしれた伴だったが、すぐに慌てふためき、ティッシュ箱を探し、薄暗い部屋の中を見回す。
しかしてそれに動じることもなく、脈動が収まるのを待ってから口を離した飛雄馬に対し、伴は小さく謝罪の言葉を口にした。
すると、口の中の液体を飛雄馬が飲み込んだか、ゴクリ、と喉が鳴る音を耳にして、伴は驚きのあまりその場に固まる。
「ふふ……濃いな、さすがに」
笑み混じりに囁かれた言葉に、自分の体温がみるみる上昇していくのを感じながらも伴は二の句が告げず、目線を左右へと泳がせた。
何がどうなって、あの星が、こんな真似を?
一体全体、どうしたと言うんじゃ。
状況が飲み込めず、目を白黒させる伴を尻目に、飛雄馬が体を起こし、布団の上に身を預けている彼の腹へと跨るや否や寝間着代わりに着用している浴衣の裾を払う。
「なっ、なにを…………する気じゃ、星」
「……想像に任せる」
飛雄馬の顔から、跨られている腹へと視線を遣った伴の目に飛び込んできたのは、下着など一切身に着けていない、物欲しそうに先走りを垂らす男のモノであり──それから先、彼が何をしようとしているかを知る。
「ばっ、ばかっ!星!やめろ!もっと自分を大事にせい!」
「言葉と行動が伴っていないな、伴よ。また元気になってきているじゃないか……」
充血し、再び首をもたげつつある分身を撫でられ、伴は下唇を強く噛み締める。
こんな状態で平静を保っていられるわけがないじゃろうに星のやつ……いつもは嫌だと言うくせに今日に限ってどうしたんじゃあ……。
血が滲むほど強く、唇を噛みながらも伴は腹の上に跨がっている飛雄馬の尻へ手を滑らせ、その谷間へと指を這わす。
触れた肌が微かに震え、表面が粟立つのを感じながら伴は谷間の中心にある窄まりに指先を押し当てた。
その刺激に驚いたか細い腰をくねらせ、眉間に皺を寄せた飛雄馬の顔を見上げつつ、伴は窄まりへと指を挿入する。
すると、背筋を伸ばし、それこそ下半身の力だけで腹の上へ跨がっていた飛雄馬の体が前のめりに倒れ、伴の胸へと手を着く格好を取った。
それから、中に半分ほど挿入させた指を引き抜き、伴は飛雄馬の窄まりをゆるゆると指の腹で撫で回す。
物欲しげにひくつくそこを指でなぞり、伴は声を漏らすまいと唇を引き結んでいる飛雄馬の顔を見上げた。
「そんな顔で見つめんでほしいぞい。せっかく我慢しとるっちゅうのに」
「ふ……ふ、ふ」
瞳を潤ませつつも強がり、微笑む飛雄馬の余裕をつい、奪いたくなって、伴は優しく撫でていた窄まりに指を飲み込ませる。
きゅうっ、と即座に括約筋により強く締め付けられて、伴は一旦、静止したが、筋肉の拘束が緩んだのを見計らい、指を更に奥へと挿入してから、そろりとそれを引き抜いた。とろりと飛雄馬の男根からは白濁が溢れ、伴の腹と滴り落ちる。
たった今し方出したばかりだと言うのに星がからかった通り、天井を見上げるようにして勃起したわしのモノ、は期待に震え、その身を先走りに濡らしている。
伴は飛雄馬の尻から腿を撫で、入れたい……と嘆願するように小さな声で囁く。
「だめだと言ったらどうする」
「そっ、そのときは潔く引き下がるわい……わしの性欲よりも星の体の方がだい、じっ…………」
まさかの返答にたじろいだ伴だったが、精一杯の強がりを口にした瞬間、飛雄馬の体重が腰に掛かって、情けなく声を上げる。
自身を包む柔らかな粘膜の熱に酔う間もなく、伴は腹の上で腰を振られ、タイム!と待ったを掛けた。
「タイムか。ふふ、それは聞けんな」
「ちっ、ちょっと待てえ…………っ、いきなりそんなっ、っ」
「いつも好き勝手腰を振られるこっちの身にもなってみたらいい。どれだけ辛いか」
「だめ、だめ、いかん!星、出るっ、どけ!どいてくれ!」
「ずいぶんと早いな。おれはまだ一度もいっていないが」
「締めるな星っ!!それ以上!」
叫びも虚しく、飛雄馬の巧みな腰の動きにやられ、伴はまんまと彼の腹の中で二度目の絶頂を迎える。
「…………」
「あっ、ああ……っ、っ」
どく、どくと親友の中で精を吐く己の分身の節操のなさに伴は顔をしかめ、情けなさから瞳を涙に濡らす。
わしゃ朝っぱらから一体、何をやっとるんじゃろう。
今日も朝イチで会議が入っとるっちゅうのに。
それも星の中に二度も出してしもうて、わしときたら……。
「伴よ、もう無理か」
「は、っ!?」
自己嫌悪に陥り、後処理もそのままに布団の上で呆けていた伴は飛雄馬の声に我に返った。
と、自分の体の上からはすでに降りているばかりか、こちらに向かい立膝を立てた足を開き、誘いをかけるように畳に寝転がる親友の姿を、部屋の暗がりの中に見つけて、伴はそちらへとにじり寄る。
「…………」
首へと音もなく巻き付いてきた腕に絡め取られ、伴は誘われるがままに飛雄馬の中に己を挿入させ、彼の尻へと自分の腰を叩き付けた。
「…………っ、ふ」
目を閉じ、一心不乱に腰を振る伴だったが、口元に触れた何物かの感触に目を開け、正体を確かめるや否やそれにむしゃぶりつく。触れ合う肌が汗にぬめった。
「星……星、っ」
「…………ん、伴!」
ハッ!!とそこで伴は閉じていた目を開ける。
目の前にはこちらを見下ろす親友の顔があって、部屋の中は昇った太陽光が差し込んでいるのか、やたらに明るく輝いている。
「え……は、夢?え?」
「まだ寝ぼけているのか?もう八時を回るぞ。七時に起こせと言ったのは伴じゃないか」
「八時?」
仰向けの格好からうつ伏せのそれになり、伴は枕元に置いた目覚まし時計に視線を遣った。
あと五分で八時を迎えようとしている時計は、無慈悲にも秒針を一定のリズムで下へ下へと送り出している。ここから会社まではおよそ三十分。
朝の会議開始時刻は八時半。
伴は全身の血の気が引いていくことを感じながらも、布団から跳ね起きると、寝具の片付けもそのままに廊下へと走り出た。
ああ、なんだってあんなスケベな夢をわしゃ見てしまったんじゃい。しかも相当わしに都合のいい夢──星があんな積極的であるはずがないだろうに。
わしゃもうこれで本当にクビかも知れんぞい。
用足しに向かう道中で、纏っていた浴衣を脱ぎ捨てていく伴のあとを飛雄馬はこっそりと追いかけ、苦笑する。そうして、慣れぬことはするものではないな、とおばさんのいる台所で、朝飯はいらんぞい!と叫ぶ親友の声を小耳に挟みつつ、廊下を煌々と照らす太陽の眩しさに目を伏せた。