上書き
上書き 呼び鈴を押しても応答がなく、大きな声で挨拶をしてみても返事がないため、この日、花形に嫁いだ姉に呼ばれ、例の大きな屋敷を訪ねた飛雄馬は首を捻った。
誰もいないのだろうか?それにしてもお手伝いさんがひとりも顔を出さないのは妙だな、と飛雄馬は再び呼び鈴を鳴らすが、やはり応答はない。
困ったな、どうしたものか、と考えあぐねてから、1度試してみるかとばかりに握ったドアノブがぐるりと回ったために、飛雄馬は面食らい、ドキッ!と身を震わせたが、そのまま扉を開け、こんばんは、と小さく声をかけた。
やはり返事はない。
覗いた屋敷の中はどうも薄暗いように思えるが、何やら明かりがついている部屋が階段を上がった先にひとつ、目に入って、飛雄馬は不用心だなと眉をひそめながらも玄関に鍵をかけてから靴を脱ぐと、そのまま中へと足を踏み入れる。
もしや空き巣ではなかろうか、と些か身構え、階段を昇り、明かりのついた部屋に物音を立てぬよう忍び寄ったが、そっと覗いた部屋──寝室にいたのは、この屋敷の主である花形ひとりで、飛雄馬はホッと胸を撫で下ろした。
しかして、いくら在宅中とは言え無施錠なのはどうかと思う──と彼の行動を咎めるつもりで口を開いた飛雄馬だったが、花形の、飛雄馬くんかい?の声にそのまま口を噤む羽目になった。
「気付いていたのか」
「なに、明子から話は聞いている。よく来てくれたね、嬉しいよ」
ふふ、と口元に笑みを湛え、こちらに来て座りたまえ、と手招く花形に飛雄馬は、はぁ、と当たり障りなく返すと、彼の対面に位置するよう、寝室に置かれた椅子のひとつに腰かけた。
どうやら花形はここで酒を飲んでいたらしい。
別に、自分の家で何をしていようと勝手だが、鍵もかけずに、それも2階で酒を飲んでいるなんて危機感と言うものがこの人にはないのだろうか、と飛雄馬はいらぬ心配をしつつ、一緒にどうだねと空のグラスを寄越して来た花形に対し、首を横に振った。
「少し、不用心すぎませんか。明かりもつけず、鍵も開けたまま」
「それは、心配してくれているのかね」
ニッ、と花形が笑って、手にしていたグラスの中身を飲み干す。
「そういう、ことじゃない。花形さんともあろう人がまさか、そんな」
「…………」
カッとなり声を荒げた飛雄馬だったが、それとは裏腹に花形は酒が入っているにも関わらず、やたらに冷めている。
飛雄馬は相変わらず、よくわからん人だな、と椅子に深く座り直してから、下に降りませんかと話を振った。
「いや、明子が帰れば声をかけてくるだろう。それに、もう飲み終わるさ。少し付き合ってくれたまえ」
「…………」
花形が口にした通り、椅子と揃いのテーブルの上に置かれていたウイスキー瓶の中身はあと少しで、飛雄馬はそれなら、と、彼が目の前で空になったグラスにアイスペールから氷を入れ、瓶の中身をそこに注ぐのを見守った。
「それは今日、開けたのか」
「まさか。明子も飲む方でないのはきみも知っていることだろう。先日、うちで食事会を開いたときの残りさ」
「…………花形さんの飲み方は静かでいい。ふふ、伴のやつ、酒が入るととんでもないことになる」
ふと、空になった瓶の蓋を締めていた花形の手が止まる。
「…………?」
花形の挙動に驚き、目を丸くした飛雄馬だったが、煙草、いいかい?の問いに少し上ずった声で、ええ、と答えた。
「伴くんは、飲むとどうなるのかね」
「飲むとどうなる、とは?伴はよく、花形さんの家でも飲んでいたと聞いたことがあるが」
テーブルの上に置いていたシガレットケースから中身を1本取り出すと、それを唇に携えてから長い足を組む。
「彼は酔って歌い出すことや眠りこけることはあっても、とんでもないこと、とやらをここで仕出かしたことはない。きみの言う、そのとんでもないことが何なのか気になったのさ」
煙草の先にマッチで火をつけ、花形は眉間に皺を寄せると様子を伺うように目を細めた。
「別に、大した、ことでは」
ふい、と飛雄馬は花形から視線を逸らし、目を伏せる。
なんて訊き方をするのか、この人は。
まるで、おれと伴の仲を見抜かれているようで気味が悪い。
「言えないような、ことかい」
ハッ、と飛雄馬はそこで再び花形の顔を瞳に映した。
「何を、花形さんが、想像しているかは知らんが、あの体で急に眠りこけられたら、それは十分、とんでもないことだと、おれは思うが」
「へえ…………」
灰皿を手元に寄せ、トン、と花形は指で煙草を叩くと灰をその上に落とす。
「何が、言いたい?」
「何が、とは?きみも変な想像をしているから妙な方向に意識が向く。フフッ、飛雄馬くんが何を考えているか、当ててみせようか」
「余計な、お世話だ!おれと伴の関係はそんな、花形さんが考えているようなものじゃない!」
返事はなく、その代わりに花形が煙草を吸う、微かな呼吸音が部屋に響く。
「伴くんは酔うと勢いに任せきみを抱くのだろう。そんなにムキになるのを目の当たりにするとそんな気にもなってくるさ」
「…………!!」
「おや、当たったか。そうか……それは……」
口から紫煙を吐き、花形は短くなった煙草を灰皿に押し付け、火を消すと席を立つ。
「考え、すぎだ」
「きみの反応を見ていると到底考え過ぎとは思えんがね」
花形は身を屈めると、椅子に座ったままの飛雄馬の顎に指をかけ、ついとその顔を上向かせた。
「あ…………っ!」
目を閉じ、顔を寄せてきた花形を拒むよう飛雄馬は口元を覆い、いやだ、と首を振る。
「…………」
「何がっ、望みだ。おれと、伴が何をしていようと花形さんに何の関係があると言うんだ」
「フフ……じゃあ、逆に何なら許してくれると言うのかね、きみは。この花形に対して」
「何、を……?」
「…………」
困惑したような、はたまた怒りを孕んだような表情を浮かべ睨み付ける飛雄馬の目の前で、花形は自身のスラックスのファスナーをゆっくりと下ろした。
「……………な、っ」
花形の行動を目の当たりにし、かあっ、と飛雄馬の顔が上気し、赤く染まる。
前をはだけたスラックスの中から取り出されたそれ、に飛雄馬は瞬きするのも忘れ、それに見入った。
違う、これは、伴のものとは明らかに違う。
あんなものは、口に収まりきらない。
けれど、あれで喉を突かれたらどんな感じがするのだろう。
あれに舌を這わせたら、どんな気持ちになるのだろう。
「っ………!!」
何を、考えているのか。
雰囲気に飲まれるんじゃない。
これでは花形の良いようにされるだけだ。
この人は、ねえちゃんの夫で、おれは──。
目を閉じ、唇を引き結ぶ飛雄馬の手を取り、花形は自分の屹立した男根を握らせる。
すると飛雄馬は弾かれたように目を開け、花形の顔を見つめた。
「これ、が、望みか?」
震える声で飛雄馬は訊く。
「さあ、きみ次第と言ったところかな……」
「…………」
花形は飛雄馬の手に自身の手を添えたまま、己の男根をしゅるっ、と一度しごかせた。
つうっ、とそこから溢れた先走りが手を伝って、飛雄馬は大きく身を震わせる。
飛雄馬は大きく深呼吸をすると椅子から降り、床に膝をついて、手を添えていた花形の男根を口に含んだ。
「……んっ、」
根元までを口内に咥え込んでから、飛雄馬は窄めた唇と上顎、それと舌とで花形のそれをしごきにかかる。
ともすれば、喉奥を突きそうになるのを堪え、飛雄馬は口の中に溜めた唾液を舌に乗せ、花形の男根、その裏筋をやたらに責めた。
「彼は、そこが弱いのかい」
「………!」
目を閉じ、何も考えないようにしていた頭上からそんな言葉が降ってきて、飛雄馬は花形を見上げる。
「それも伴くんが教えたのか?」
答えず、飛雄馬は咥える口の力を少し強めた。
ぎゅうっ、と上顎と舌とで花形を締め上げ、唾液をたっぷりとそこに纏わりつかせてから唇をすぼめ、じゅぷじゅぷと音を立てつつ顔を前後させる。
「あ………ふ、ぅっ」
上顎を擦る角度や舌に触れる筋張った表面や固さ、全てが違う。
髪を撫でてくる手の大きさも、自分を見つめてくるその顔も、全部違う。
なのに、どうして、おれの体は熱く火照るのか。
「うん、上手いね。ふふ……」
人を嘲るような、弄ぶような声に飛雄馬は眉間に深く皺を刻む。
ぬるっ、と唾液にぬめる男根から口を離し、飛雄馬は自分の唾液に濡れ光る花形のそれにちゅっ、と口付けた。
そうして、再び口に咥えると、彼を射精に導くべく吸い上げる速度を速めた。
「っ……ん、ん」
「ああ、ほら。出すよ………」
「あ、っ!」
出すよ、の声に口を離しかけた飛雄馬の頭を押さえ、花形はそのまま自分の男根を咥えさせている彼の口内へと欲を吐く。
どく、どくと花形の射精の脈動を口いっぱいに感じつつ、飛雄馬はその目に涙を浮かべた。
唾液と白濁に濡れた男根を飛雄馬の口から取り出し、花形は己の足元で口を押さえる彼に向かって、飲んでと短く言い放つ。
「…………!」
何を、言っているのか、この人は。
飛雄馬は唾液より重い、舌に乗った花形の欲を持て余したまま目の前の男を見上げる。
「彼のは、飲むんだろう」
その言葉に、飛雄馬の喉が無意識にごくりと鳴った。
フフッ、と花形の笑い声が耳に入って、飛雄馬は視線を泳がせる。
すると花形は衣服の乱れを直してから既にベッドの端に座り、ネクタイを緩めている最中で、飛雄馬は涙に濡れた目で彼を見た。
「煽るね、ずいぶんと。久しぶりだったかい」
「……………」
「じゃあ、最後に抱かれたのはいつ?正直に答えてくれたらここで終わりにしよう」
「……誰が、そんなこと、っ」
「……来たまえ」
花形の声に飛雄馬は首を振る。
行ってはいけない。
ここまででおれは一体、何人もの人を裏切ったことになるのか。
これ以上、罪を重ねるような真似をしてしまったら、ねえちゃんにも、伴にだって合わせる顔がない。
「飛雄馬くん」
花形の囁くような声が飛雄馬の体を疼かせる。
最後に抱かれたのがいつ、だって?
会ったのだってもうずいぶんと前のこと。
だからと言って、花形と、こんなことをする理由はない。
おいで、と再び花形から声がかかる。
「っ、」
花形の声が甘く、切なく飛雄馬の腹の中に響いてくる。
逃げなければ、こんなところにいては、取り返しのつかないことになる。
飛雄馬はふらっ、と取り憑かれたように立ち上がり、部屋から出るために歩み出す。
しかして、花形はその腕を掴むと自分の胸に抱き込むようにして飛雄馬の体を引き寄せる。
端に座っていた彼に抱き込まれ、飛雄馬はそのまま花形共々ベッドの上に倒れ込み、慌てて顔を起こした。
「油断大敵じゃないか……」
にやり、と花形は笑って飛雄馬の体を自身の横たわるベッドの左側に寝かせると、そのまま彼の上に跨るようにして覆い被さった。
ぎしっ、と大きくベッドが軋んで、飛雄馬は唇を噛む。
「何が、目的で、こんな、こ、っ……」
叫びかけた唇に口付けようと顔を寄せてきた花形の口を押さえ、ここだけは嫌だと飛雄馬は小さな声で呟いた。
「…………」
飛雄馬の言葉にぴくっ、と花形の眉間に皺が寄る。
頼む、と振り絞るような声で囁いた飛雄馬の首筋に顔を埋め、花形は思いきりそこに跡を残すように強く、吸い付いた。
うっ、と短く呻いて、飛雄馬は口元に当てた手で拳を作る。
薄い皮膚に唇の跡を残しつつ、花形は跨る飛雄馬の足を膝で左右に割り、その間に膝をついた。
それから、彼の穿くスラックスのベルトを緩めていく。
「っ、く………ぅ」
「腰を上げて」
スラックスを脱がせるべく、花形がそう、指示を出すが、いやだ、と言わんばかりに飛雄馬は口を押さえたまま顔を左右に振る。
「……~~っ!」
「この期に及んで、まだそんなことを言うのかね」
溜息混じりに花形は囁いて、飛雄馬の首筋に軽く歯を立てた。
びくっ!と予想だにせぬ痛みが歯を立てられたそこから全身に走って、飛雄馬の体が思わず跳ね上がる。
花形は一瞬、脱力した体から緩めたスラックスと下着とを引き下ろすと、少し上体を起こして、飛雄馬の足からそれらを抜き取ってやった。
それから、露わになった飛雄馬の足に花形はゆっくりと口付けていく。
「っ、っ…………」
飛雄馬の額から鼻の横を汗が滑り落ちる。
膝の裏に手を入れ、飛雄馬に両足を大きく開かせた格好を取らせたまま、花形は脛から腿にかけて丹念に唇を這わせ、時折、にやりと笑ってみせた。
そうして、両足をそれぞれの脇に抱え込んで、再び口付けを迫ったが、飛雄馬は腕で顔を覆ってそれを拒んだ。
「…………」
何やら花形は羽織っているジャケットのポケットに手を入れ、中から掌サイズの容器を取り出すと蓋を開ける。
何事か、とばかりに顔を覆った飛雄馬が腕をずらし、花形の挙動を目の当たりにしたとき既にその手は、組み敷く彼の開いた足の中心を捉えていた。
花形は飛雄馬の尻、その中心へと容器の中身をたっぷり掬った指を飲み込ませる。
「………────っ、ふ」
半ば立ちかかっていた飛雄馬の男根がその刺激により、首をもたげ完全に立ち上がった。
あの、頼りなさげに腹の中を探る指とは違う。
この指は、この男は、知っている。
花形の指は迷うことなく、飛雄馬の腹側、指の第二関節をゆるく曲げた箇所に位置する器官を探り当てた。
指の感覚に慣れるより先にそこに触れられ、飛雄馬の腰が大きく跳ねる。
「ここだね」
指の腹でその位置を撫で回され、飛雄馬の立ち上がった男根の先からは切なく精液がとろとろと溢れ落ちた。
「つ、ぅ……………!!」
「もうここは調教済みと見た。フフ……この奥は、許したことあるかね?」
花形の指の動きに、次第に飛雄馬の頭がぼやけてくる。
いやだ、塗り替えるな。
それ以上は、それ以上、やられたら。
「そろそろ、いこうか」
ぺろりと舌先で己の唇を舐め、花形は飛雄馬から指を抜くと再び仕舞った男根をスラックスの中から取り出す。
「あっ、いやだっ………!花形、ァっ!」
嘆願虚しく、ぐっ、と飛雄馬の尻には花形の熱いものが押し付けられ、その腹の中を分け入ってくる。
ああっ!と声を上げ、身を反らし、喘いだ飛雄馬の体が逃げぬよう、花形は自身の体で押さえ込みにかかる。
根元まですべて埋め込むまで、両脇に飛雄馬の左右それぞれの足を抱え込んだまま腰を押し進めていく。
花形が腰を突き進めるたび、飛雄馬は彼を締め上げ、引き結んだ唇から苦痛の声が漏れ出る。
きつい、こんなの、知らない。
だめだ、頭がおかしくなる。
花形はすべてを飛雄馬の中に埋め込んでから、ゆっくり腰を回す。
ひっ!と飛雄馬の喉から引き攣った悲鳴が上がり、虚ろな瞳が花形を仰ぎ見た。
「伴くんはどこまで、来たことがある?」
飛雄馬のめくったシャツの裾から覗く、下腹部から臍にかけてを人差し指ですうっ、と撫で、花形は問いかける。
「う、っ………っ」
「もう少し、奥の方?」
「あっ、ん………んっ」
飛雄馬の膝を彼の腹に押し付けるようにしながら花形はより深く、自分を挿入していく。
と、ある場所で飛雄馬の反応が変わった。
「う、あっ!」
反射的に身を引き、体を起こそうとする飛雄馬のその位置めがけ、花形は腰を叩き込む。
「あ、あ、」
身をよじり、飛雄馬は与えられる快楽に酔い痴れ、はしたなく喘いだ。
花形が腰を突き立てるのに合わせ、飛雄馬は自分を組み敷く男の腕に縋った。
「いっ………!いやだっ、これいじょうっ、」
「これ以上いったら、なに?」
開きっぱなしで息も絶え絶えに喘ぐ飛雄馬の唇を啄み、花形はクスクスと笑みを漏らす。
「腰、とめて……!はながたっ、」
「…………」
花形は腰を振るのをやめ、全身を戦慄かせながら呼吸の度に腹を上下させる飛雄馬の唇の端へとそっと口付けを落とす。
と、飛雄馬がついと顔を背けたために、花形は彼の耳へと唇を寄せ、わざとらしくちゅっと音を立てた。
「ひ、ぁ、あっ」
ほんの少しの刺激でも敏感に反応し、飛雄馬は声を上げると、未だ腹の中にのこる花形をぎゅうぎゅうと締め上げる。
「飛雄馬くん、あまり締めると中で出てしまうよ」
「………っ、っ!」
「中は嫌かね?」
「いっ、いや……よく、ないっ」
腹の中に埋めていた男根をギリギリまで抜いてから花形は勢い良く腰を打ち付ける。
「い、っく…………また、いっ……!」
はぁ、あっ、と溜息混じりに飛雄馬は声を上げ、白い喉を花形の眼下に晒す。
「…………」
再び、腰をゆっくりと使い始め、花形は声を殺し喘ぐ飛雄馬の唇に口付けた。
「あ、っ、ん………ふ、」
固く閉ざしていた唇を開き、飛雄馬は今度こそ花形の口付けを受け入れる。
舌を絡め、一旦離してから唇を緩くすり合わせ、再び口を開く。
飛雄馬の顔の横で握られたままの指、その手に花形は指を絡ませると唇を触れ合わせたまま腹の中に2度目の精を吐いた。
「……………」
腰で押さえつけられているせいで身を離すことも叶わず、飛雄馬はされるがままに花形の欲を腹の中に受ける。
もはや今の時間もいる場所もろくろくわからないような状況で、飛雄馬は花形が離れたあともベッドの上で目を閉じ、しばらく放心状態のままであった。
花形は身支度を整えてから、ベッドから離れるとテーブル上の煙草を手繰り寄せ、口に咥える。
些か酸欠気味の花形の頭には煙草の煙がやたらと染み渡った。
「…………、っ」
気付いたか飛雄馬が呻く。
花形は煙草を灰皿に置いてから、彼のもとに歩み寄ると煙を吐かぬまま飛雄馬の唇に口付けた。
ちゅるっ、と柔らかく舌を吸い上げ、唇を啄む。
「ん……ぅ」
唇を離した花形の後を追うよう、飛雄馬は口付けをねだり彼の首に腕を回した。
「…………」
「っ、む、………」
深い口付けを受けつつ、飛雄馬は再び自身の体にのしかかって来る花形の重みに戦慄いてから己の胸の突起を撫でてくる指の刺激に小さく喘いだ。