明子が呼んでいるからすぐに来てくれ、と伴の屋敷に花形から飛雄馬宛に電話があったのが夜の9時を回ってすぐのことであった。車を出そうかという伴の申し出を断り、飛雄馬はビッグ・ビル・サンダーと、伴宙太にちょっと出てくるがすぐに帰る、と話を付けてから世話になっている伴の屋敷を出た。
ねえちゃんがわざわざ花形さんを使って電話を寄越すなんて妙だな、と飛雄馬は思ったものの、何かしらねえちゃんの身に起こって自分で電話が出来ないのだろう、と冷や汗をかきつつ途中捕まえたタクシーを使って花形の屋敷へと向かう。
飛雄馬が身長の倍はあろうかというほどの大きな屋敷の門をくぐって、玄関のインターフォンを鳴らすと、すぐに扉が開いて花形邸の主――花形満が顔を出した。
「ね、ねえちゃんは」
「…………」
息を切らして尋ねる飛雄馬の顔を目を細め花形はじっと見つめていたが、すぐに笑顔をその顔に浮かべると、中に入りたまえ、と自身の腕を屋敷の奥へ向かって差し伸べたために、飛雄馬は眉間に皺を寄せた。
「ねえちゃんは、と聞いている」
「中に入りたまえ、と言っている」
飛雄馬に背を向け、花形は一人屋敷の奥へと引っ込んだ。何故子細を口にしない、論より証拠とでも言うのか。飛雄馬は靴を脱ぎ、足元に揃えられたスリッパを履くと、花形の後を追うようにして屋敷に入った。
「そ、それで、ねえちゃんは」
「まあ、待て。飛雄馬くん、そう焦るな」
焦るな、だって?ねえちゃんが呼んでいるとわざわざ伴の屋敷に電話を寄越してきたのは花形さんだろう?と言う言葉を飛雄馬は飲み込んで、花形邸の広いリビングに置かれたソファーの上に促されるままに腰を下ろした。
「………」
「嘘だ」
「嘘?」
何を言われるだろうか、と隣に座る自身の顔を睨むようにして見つめていた飛雄馬に、花形は悪びれる様子もなく、たった三文字、それだけを口にする。
「ねえちゃんが、呼んでいると、言うのは」
「……こうでもしないときみはぼくの家には来てくれないだろう」
花形は家政婦たち数人に酒の準備をさせると、後はいい、と彼女たちを下がらせた。 アイスペールの中に入れられた氷の塊を飛雄馬はじっと見据え、口を噤んでいる。花形は無言のまま、アイスペールからトングでグラスの中へと氷を数個移してからウイスキーの蓋を開けた。
「騙したのか」
「騙した?心外だな、嘘も方便と昔から言うじゃないか」
「……帰らせてもらう」
飛雄馬は冷ややかにそうとだけ言うなり、立ち上がるがその手を花形がグッと握ったために、ハッとこちらを仰ぎ見る二つの瞳を反射的に見下ろす。
「話、くらい、付き合ってくれてもいいだろう。現役時代ならまだしも互いに野球からは一線を退いているんだ。義理とは言え兄弟。腹を割って話すのもいいのではないか」
「………話すことなど、ない」
一線を退いている、だなんて、こちらは伴がアメリカより呼び寄せてくれたビッグ・ビル・サンダー氏をコーチとし現役復帰を図ろうとしている最中だというのに、と飛雄馬は花形に嘘をつかれたことも相俟って、不機嫌顔を取り繕うともせず彼を睨み据えた。
「……不死鳥は蘇る、か」
飛雄馬から手を離し、ウイスキーの瓶を傾け、花形はグラスに中身を注ぎつつそんなことをボソリと呟く。
不死鳥、とは飛雄馬が左腕現役時代にその姿を盛んに称された伝説上の鳥の名である。
いくら相手に打ち込まれ失意のどん底に落ちようとも、その度に新たなる魔球をその左手に引っ提げ再びマウンドに上がる様をそう、見るものは傷付き寿命を迎えそうになると自ら火に飛び込み灰になりつつも見事蘇る不死鳥に擬えた。
「…………」
「伴くんが呼んだ、あのアメリカ人に教えを乞いながらきみは、打者として現役復帰を図るつもりだろう」
「…………」
「きみもよくよく嘘がつけない男だ。フフッ、かけたまえ。誰にも言わんさ、明子にも、きみの父にも。いや、今はぼくの父でもあるな」
それを聞き、飛雄馬は再びソファーに腰を下ろす。
「……ありがとう。花形さん」
己で作ったウイスキーのロックを口に運びつつ花形は礼を述べた飛雄馬の顔を横目で見遣る。その表情の何と嬉しそうなことか。今年の巨人軍の戦績は花形とてもちろん承知している。
二人が球場で現役選手として活躍していた頃の輝きは翳りを見せ、V9を達成したことさえ今は昔、となりつつある。
だからこそ、飛雄馬は左腕を壊した今、打者として再び現役に返り咲こうとしているのだが。
飛雄馬を野球地獄から救ってやって、と飛雄馬が初めて屋敷を訪ねてきたとき、泊まらせた部屋から彼が忽然と姿を消した際、姉である明子はそこで星飛雄馬を見たと血相を変え駆け込んできた伴宙太と花形の前で涙を流しつつ崩れ落ちた。
左腕を壊し、行方不明となった弟が、かつてのライバルが、親友がやっと戻ってきたと思えば再び野球を始めようとしている。 投手としてはダメになってしまったが、今度は打者として、なんて上手くいくはずがない。
もうやめろ、と言うのは皆の総意であった。しかして、かつて血で血を洗い、死力を尽くして戦った相手に、果たしてそうはっきり『もう辞めるんだ』とハッキリ言える人間が、男が、存在するだろうか。
「フフ、嘘をついたこと、許してくれるかい」
「………二度としないでくれ。ねえちゃんに何かあったのかと慌てたんだからな」
「約束しよう、二度はしないさ。さて、そうと決まれば少しばかり付き合ってくれ」
「いや、酒は……」
「これも、今日だけだ」
「………」
それならば、と飛雄馬もやれやれとばかりに手渡されたウイスキーの水割りを口に含んだ。
「ほう、飛雄馬くん、意外と飲めるな」
「ん、あまり強くはないが」
飛雄馬の手にしたグラス、その中を満たす琥珀色の液体に浮いた氷が揺れ、カランと鳴った。
「互いに、年を取ったな」
「………花形、さんの引退試合、見ましたよ」
「へえ、光栄だな」
飛雄馬が左腕を壊して行方不明となってからしばらくの内に花形満も阪神タイガースのユニフォームを脱いだ。
天才打者であり、その甘いマスクで婦女子らを虜とした花形満の全盛期中の引退に球団や野球ファンのみならず日本中が驚き、嘆き悲しんだと聞く。その引退試合はむろんテレビでも放映され、ここ最近類を見ないほどの高視聴率だったとの話だ。
「…………ねえちゃんを泣かせるようなことだけは、しないと約束してくれ。とうちゃんや弟であるおれのことばかり気に掛けて心を痛めてきたねえちゃんが、やっと掴んだ幸せが、花形さん、あなただ」
「…………」
「花形さん?」
「新しいのを作ろう。グラスを貸したまえ」
ちびちびとウイスキーを啜っていた飛雄馬だが、遂にグラスは空となり、花形はそれを寄越せと手を伸ばす。
「………いや、いい。もう帰らなければ、心配させてしまう」
「伴くんにはぼくから連絡を入れておくよ。気にすることはない。明子もその内帰ってくるさ」
「……………わざわざ、嘘をついてまでなぜ花形さんはおれを呼んだ?」
「そりゃあ、話したいことなど山のようにあるからな。色々と、飛雄馬くんとは」
氷をひとつ飛雄馬から受け取ったグラスにトングで掴み入れ、花形は新たにウイスキーを注ぐ。
「その、飛雄馬くんと言うのは、やめてくれないか」
「フッ、ハハッ、面白いことを言う。星くんの方が馴染み深いだろうが、身内となった今、星くんと呼ぶ方がおかしかろう」
「………」
グラスに新たに注がれたウイスキーを啜りつつ、飛雄馬はむっと顔をしかめた。
「………伴くんにあの日、きみが部屋を抜け出した後、実のところ隠れてコソコソ会っていたんじゃないかと言われてしまったよ。まったく、親友の彼のところならまだしもかつてのライバルであるこの花形満のところにきみが来るはずもなかろうに」
「ふふ、伴らしい。早合点するのは昔から変わっとらん……それにしても、おれのいない間に花形さんの会社も、伴の会社もずいぶん大きくなったようだ」
「二人、現役を退いてすぐ父の会社を継いだのさ。野球一筋に打ち込んだだけあってしばらく辛いことも互いにあったが、何とか軌道に乗りつつある。きみの言うように明子を泣かせんようにな。伴くんも早く結婚なりして身を固めたらいいだろうになあ」
「………ふふ、そう、花形さんからも言ってやってくれ。野球に再び命を懸けようとする男の尻ばかり追っとらんで自分のことも考えろ、と」
飛雄馬は苦笑し、だいぶ酔いも回ったか目をゆっくり瞬かせ、ソファーの背にもたれ掛かる。
「………彼は酔うときみの話ばかりする。ちょうどその時、明子はいなかったが、つまり――」
きみと伴くんは、やはり、そういう仲なのだね?と花形は氷の溶け、薄まったウイスキーを煽りつつ単刀直入に尋ねた。
「………何を、伴は言った?」
これも花形の嘘であった。ハッタリである。伴宙太は現役引退後、昔の馴染みゆえに花形満のみならず今なお現役として大洋ホエールズで活躍する左門豊作を訪ねることもあった。しかして、いくら酔っていようと時折、泥酔し星、星と泣きながら喚くことはあっても、それ以上、飛雄馬との仲を口外することはなかった。
いくら接待でそういった店に行こうとも楽しく談笑し、飲みはするものの女性に一切手を出すことはない、というのも花形は知っている。
「………ぼくの口からそれを聞きたいか」
「………変なことを聞かせて悪かった」
「変?変ということはないだろう。恋人同士なら当然だ」
「誰にも、言わないでくれ」
飛雄馬は顔を真っ赤にしつつ隣に座る花形の腕を掴む。その目はアルコールのせいか潤み、瞳は濡れていた。
「今更、隠すこともなかろう。あんなに球場だろうとどこだろうと抱き合っていたじゃないか」
「それは」
ついと視線を逸らし、飛雄馬はウイスキーのグラスに口を付け、それを傾ける。潤んだ瞳にまつげが影を作った。その様のなんと美しく、妖艶なことか。
かつて花形は、ガソリンスタンドで働く飛雄馬の姉、明子にあなたの目は星飛雄馬に似ていると言ったことがあったが、まさに今再び彼は飛雄馬の瞳を美しいと思った。 マウンド上で対峙してきた彼と同一人物とはまるで思えない。
殺してやる、と、打ち取ってやると全身で訴えてきた投手としての彼は鳴りを潜め、今やどうだ。
酒に酔い、ハッタリにまんまと引っ掛かり親友との仲を誰にも言うなと瞳を濡らしているではないか。
「……飛雄馬くん」
花形はゆっくりとした口調で飛雄馬を呼ぶ。飛雄馬もまた、俯けていた顔を上げ、隣に座る彼を仰いだ。
「きみが伴くんにしてあげたことをぼくにもしてくれるというのなら、誰にも言わず黙っていてあげようじゃないか」
ニヤリと口角を上げ、花形はそんな取り引きを持ち掛ける。飛雄馬はぐっと一息にウイスキーを飲み干してから、花形の胸倉をネクタイごと掴むと彼の唇に口付けた。
「…………」
一瞬、ヒヤリとした唇と舌も絡み合い、重ね合っている内に熱を孕み、互いの口から漏れる呼吸も段々と熱っぽくなってくる。
「あ、っ………」
「もうお手上げかね」
飛雄馬の唇が花形から離れて、小さく声を上げた。胸倉を掴んだ手も緩んで、はあっ、と飛雄馬は短い吐息を漏らす。
「明子が聞いたら驚くだろうね、きみとの仲を」
「っ……」
きっ、と飛雄馬は花形を睨んで彼の元ににじり寄る。
距離を詰められ、花形の体はそのまま仰向けにソファーの座面に倒れ込んだ。もちろんこれも花形の芝居の内である。飛雄馬は赤い顔を花形に向けたまま、彼の腹の上に馬乗りになると、着ているシャツを腕を交差させ、一気に脱ぎ捨てた。
花形はその均整の取れた肢体を下から仰ぎつつ、その腹に右手で触れるや否や、脇腹をそろりと撫でる。
「は、っ………」
身をよじって、飛雄馬は花形から逃れようとするも、花形は脇腹を撫でていた手を更に上へと伸ばし、彼の乳首へと触れた。
「う、ぁっ」
「どうした、飛雄馬くん。もう終わりか」
指で突起を抓んで、指の腹同士でこねあげられ、飛雄馬は前のめりに倒れ込みそうになり、花形の胸の上に両手を着いた。
互いの視線が絡んで、花形はくくっ、と喉を鳴らす。
「この期に及んで純情ぶるのか。伴くんは言っていたぞ、おれの上で腰を振ってよがるきみはとても官能的で美しいと」
飛雄馬の穿くスラックスの上から花形は彼の足を撫で、腹の上に膝立ちでなくしっかりと腰を下ろさせた。そうして、自身は片膝を立て、己の穿いているスラックスのファスナーを開け、そこから既に完全に膨らみきっている逸物を取り出す。
立ち上がったそれが尻に触れて、飛雄馬はハッ、と背後を振り返った。すると、花形は飛雄馬の身につけているスラックスのファスナーをも下ろして、中から半立ち状態の男根を引き出した。
「まだ半立ちじゃあないか」
言いつつ、花形は飛雄馬の逸物を握ると、それを上下に擦り上げる。
「あ、あ、ぐ………ぅ、うっ」
数回手を動かしただけで、飛雄馬の男根はピンと天を仰ぎ、充血する。皮膚を撫でる乾いた音が響いて、飛雄馬は花形の肩に顔を埋めていた。花形はそんな飛雄馬の髪を撫でてやりつつ、その耳に口付ける。
「飛雄馬くん、ベルトを緩めて」
耳元で囁くが、飛雄馬は首を振り花形の頼みを拒絶する。
「明子!明子はいるかい」
「ばっ、ばかな、花形さんっ」
「……脱いでくれるね」
ニッ、と花形は笑みを浮かべ、体を跳ね起こした飛雄馬を仰いだ。
担がれた、と飛雄馬は歯噛みするが、はあっ、と鋭く息を吐いてから穿いているスラックスを留めていたベルトを緩め、ボタンを外す。
「………脱いでしまうといい」
「………」
スラックスが緩んで、中から現れた飛雄馬の腿を撫でつつ花形は言う。スラックスの中にその手は入り込んで、遂には尻を指は辿った。飛雄馬はその手を己の手で弾いて、そうして何を思ったかソファーから床に下りると、彼は花形の腰の位置に床に膝を着いた状態で屈み込んで、口を大きく開けると花形の逸物を咥えたのだ。
「なっ、に、っ……」
これに驚いたのは他でもない花形である。唾液を纏った柔らかな粘膜が逸物を包んで、優しくしごき上げる。
「はっ、ぶ………うっ、ん」
一度唾液をたっぷり溜めた口内に根元まで逸物を咥え、窄めた唇で血管の浮いたそれをしごいてから、飛雄馬は口を離すと、己の唾液に濡れた花形の男根の亀頭部位を掌と指とで撫で上げた。
今度は飛雄馬が薄く唇を歪めると、細めた瞳を花形に向ける。 小さく呻いて、花形は口元に手を遣った。
「フ、フフッ……驚いたな飛雄馬くん。きみは」
飛雄馬は、唇を開いて再度花形を口に含む。喉奥まで彼を咥えて、締め上げる。裏筋に舌を這わせて、軽く吸い上げつつ窄めた唇で逸物をしごく。
「あ、む……っ、ふ、」
「ほら、飛雄馬くん……出すぞ」
言うと、花形はぐっと飛雄馬の頭を押さえ、彼の口内に精を撒いた。
「っ、っぐ………!!」
頭を押さえ込まれ、喉奥に咥えたままの状態で射精され、飛雄馬は吐き気さえ催したが、頭を固定されているために嘔吐くこともままならず、ビクビクと脈動し、己の喉を震わせる花形の逸物の動きを感じていた。
そうして、手の力が緩むやいなや、激しく噎せ込んで、その双眸からは涙を伝わらせ鼻まで逆流してきた青臭さに再び嘔吐いた。するとどうだ、花形はソファーから体を起こすと、激しく咳き込む飛雄馬の顎下に手をやり、こちらを向かせると、未だ舌の上に白濁液の味の乗ったままの彼の唇に口付けた。
「っ、ふ………う、」
チュッと音を立て唇を離し、花形は噎せたおかげで朦朧となっている飛雄馬の体を容易く床に押し倒すと、自身もソファーから下りて、彼の足を左右に開かせたその間に身を滑らせる。
「単純だね、きみは、本当に」
「たん、じゅん、だって?」
「嘘だ」
「う、そ?」
飛雄馬の足からスラックスと下着と取り払って、花形は目を見開き、驚いた表情を見せる彼の唇に再び口付ける。そうして口付けたまま、飛雄馬の開いた足の中心に位置する場所を指で撫で回し、そこに中指を挿入する。
「ッ、んっ……」
中指を押し進め、花形は続けざまに二本目を飛雄馬の体内に飲み込ませた。興奮しているせいか粘膜も後孔もだいぶ柔らかくなっており、二本の指に腹の中から嬲られ、飛雄馬も開きっぱなしの口からはしきりに声を漏らす。
二本の指が良い箇所を撫でて、中から押し上げて、優しく掻いた。
その度に飛雄馬の腰はビクビクと跳ね、その膝はゆらゆらと揺れる。
「はな、がた、さ…………はな、がたっ……」
「なに、どうしてほしい」
腹に付くほど反り返った飛雄馬の逸物の先からはカウパーがとめどなく漏れ、彼の腹を濡らし、シャンデリアの明かりの下でてらてらと光っている。
「うそ、っ、とは………ど、うい、っ」
「その話か。フフ、ぼくはてっきり入れてほしいのかと」
「っ………勘弁、してくれっ、それだけは」
「勘弁ねえ、人の指でふらふら腰揺らしてる人間の言うセリフかい、それが。嘘をついているのはきみじゃあないのか」
「あっ、い、いっく…………」
腹の中を擽られ、気を遣りそうになった飛雄馬であるが、ピタリとその動きを止められ、下唇を噛む。なぜ、どうして、早く、もっと、という言葉が口を吐かぬように、血が滲むほど強く飛雄馬は歯を立てる。
「飛雄馬くんと一心同体の伴くんはきみの反応を見つつ色々とお膳立てしてくれたかもしれんが、ぼくには言ってくれないと分からないよ」
「き、っ…………さ、まっ」
「勘弁してくれと言ったのは飛雄馬くんだろう」
「っ、…………ぅ、うっ」
「早く帰らないと伴くんが心配するんじゃないのかね」
「花形さ、っ、が、ほしい………花形さん、のが、っ」
みるみるうちに飛雄馬の目が潤んで、その赤く染まった頬を涙が滑る。
「………そうまで言われちゃあ、仕方がないね」
フフン、と花形は鼻を鳴らし、逸物に手を添えたまま飛雄馬の後孔に亀頭を押し当て腰を突き入れる。
充血し、この刺激を待ち侘びた腹の中、否、飛雄馬の全身を足の間から脳天までを花形が貫いた熱とその圧が一気に駆け抜けた。
「がっ、あ、あっ…………っ」
体は仰け反って、その頭頂部はカーペットの敷かれた床を滑る。逃げる腰を花形は掴んで、己の腰を叩き付ける。骨盤を叩く衝撃と粘膜を擦り、奥を抉るその快楽に飛雄馬は揺さぶられる爪先と口元を押さえる手に強く力を込め、声を上げるのを堪えた。
「もっと奥が好みかい」
「い、っ………はな、がたぁっ」
「言いたまえ。きみがいいところを責めてやるさ」
「んぁ、ッ………!あーーっ」
「言わんと分からんと言っただろう」
花形は飛雄馬の腹の中を穿ちつつ、身を屈め彼の口へと吸い付く。
目尻からこめかみへと落ちる飛雄馬の涙を指で撫で取って、花形は腰を鋭く、奥を穿つように叩いた。唇の端から唾液を滴らせ、飛雄馬は背を反らし、喘いだ。その、何度目かの飛雄馬が絶頂を迎えたあと、花形も彼の中へと射精する。
「っ…………」
「あ、っ………ふ、ぅうっ」
脈動が収まるのを待って、花形は飛雄馬の中から逸物を抜くとそのままスラックスの中に仕舞い込んで、ソファーへと腰掛ける。そうして、背もたれに深く腰掛け、氷のすっかり溶けたウイスキー成分の薄い水割りを口に含んだ。
飛雄馬は顔を腕で覆ったまま、だらしなく絨毯敷きの床に足を広げ転がったまま腹を上下させている。その様子をしばらく花形は見ていたが、ふいに立ち上がると受話器を取り、ダイヤルを押してとある場所に電話を掛けた。コール音が一度鳴ったかと思うとすぐ、伴の声が受話器の向こうから聞こえてくる。
飛雄馬の帰りが遅くなることを伝え、花形が電話を切ろうとするとまだ何か言うことがあるのかわあわあと向こうで何か喚いていたが、彼は気にせず電話を切った。
そうして、ふと花形が飛雄馬に視線を戻せば、彼は衣服を身につけソファーに腰掛けていたもので、ふふっと笑みを溢した。
「伴くんには遅くなると伝えたよ」
氷を入れることもせず、飛雄馬はほぼストレートの状態のウイスキーをグラスに注ぎ、それを次々と飲み下していく。
「………………」
「約束、したからな」
溶けて小さくなった氷が薄まったウイスキーと共に飛雄馬の隣に座り、グラスを傾ける花形の口の中へと滑り込む。花形は奥歯でそれを噛み砕きながら、目を閉じ、「男に二言はないさ」と囁く。
「…………だと、いいが」
花形は口内で溶け、水となった噛み砕いた氷を喉奥に追いやりながら低い声で言った飛雄馬の、ウイスキーを飲み干す白い喉が上下するのを瞬きもせず、見つめる。
夜中の0時を知らせる壁に掛かった柱時計の棒鈴が二人のいるリビングで静かに鳴り響いた。