戯れ
戯れ どちらともなく視線を絡ませて、伴は自身に充てがわれた寮のベッドの上に座ったまま両手を開くと飛雄馬を抱き寄せる。
そうして、伴は寄せた飛雄馬の額から瞼の上、鼻の頭や頬へと口付けを落として、彼の唇の端にそっと唇を押し当てた。期待し、薄く口を開けた飛雄馬だったが、予想に反して伴の唇が触れてこなかったために、閉じていた目を開ける。
「ふふ、焦らさんでくれよ」
「焦らしてなどおらんぞ」
額同士を互いに合わせて、二人はふふっと笑みを溢す。
「今日も星さまの大リーグボールは冴えとったのう。相手方の打者の驚いた顔と言ったら傑作じゃったわい」
「伴の協力のお陰さ」
伴の首に腕を回して、飛雄馬はニッコリと満更でもない顔をして笑った。
「わしは星の笑顔が一番好きじゃ」
「ふふ、おれも伴の豪傑笑いがとても好きだ。たまに鬱陶しいがな」
「なんじゃとう!」
「ふふ……」
飛雄馬は伴の首に強く縋りついて、チュッと彼の唇を啄んだかと思うと、その口内に舌を差し入れた。面食らって、顎を引いた伴を追って飛雄馬は顔をぐっと彼の方へと近付ける。ちゅるっ、と音を立てて伴の舌を吸って、彼の上顎を舌先で撫でた。
「あっ、む……う、星よ。妙なことはせんでくれ……したくなる」
「……」
飛雄馬を振り解いて、そんな台詞を吐いた伴の唇に飛雄馬は再び口付ける。歯列を舌でなぞって、その上唇を軽く吸ってやった。すると伴の体温がかあっと上昇したのが分かって、飛雄馬は強く目を閉じていた彼のそれぞれの頬を両手で包み込んでから、「おれもしたい」と囁く。
「ばっ、馬鹿を言うな。明日も試合が、あっ」
「ん、んっ……」
鼻にかかった声を上げつつ、飛雄馬は伴の口内を執拗に責めた。派手にリップ音を立て、飛雄馬は伴の唇を犯す。
「ほ、しっ」
「っふ、ふっ……冗談さ。明日も早い、風呂に入って寝よう」
「む、う……そう、じゃな」
「……」
素直に引き下がった伴から視線を外さぬまま、飛雄馬はユニフォームのボタンをひとつひとつ外していく。
「……星?」
背番号16の印字されたユニフォームから腕を抜いて、飛雄馬はそれをベッドの上にそっと放ると黒のアンダーシャツを脱ぐために腕を交差させ裾を握ってから、それをがばっと頭の方まで持ち上げた。
「星!」
白い肌と均整の取れた飛雄馬の肉体がさらけ出され、伴はそれ以上脱ぐなと言わんばかりに彼に抱き着いた。
それと同時に飛雄馬は頭からアンダーシャツを脱ぎ去り、上半身は丸っきり裸となる。ベッドの上に膝立ちになった飛雄馬の胸に顔を埋めるような形で伴は固まった。
「風呂に入るとしようじゃないか」
「こ、ここで脱がんでも」
目を泳がせつつボソボソと呟いた伴の額に唇を寄せてから、飛雄馬は再び彼の唇に口付けた。
「う、あっ!だからっ、星っ」
「心頭滅却すれば火もまた涼しと言うじゃないか。ふふ、これくらいで興奮してどうする」
「う、う……」
きまりが悪そうに太い眉尻をしょぼんと下げる伴の表情が何とも可笑しくて、飛雄馬はくくっ、と肩を揺らすと、「早く風呂に行こう」と抱き着く彼の体を押しやりつつそんな台詞を吐いた。
「な、なんじゃい!仕掛けてきたのは星だぞ」
「風呂に入って、後は寝るばかりにしてから改めてプレイボールといこうじゃないか」
「にゃにがプレイボールだ!からかいおって!」
自身から距離を取った飛雄馬の腕を掴んで伴は彼の体を抱きすくめると、そのままぐるんと体勢を変えてベッドの上に飛雄馬を組み敷いた。
「おっ、おい!伴、よせよ。いつもしたあとはすぐ寝ちまうだろう」
「ええい黙っとれい!往生際が悪いぞ星」
「……」
「……」
しばらく顔を見合わせ二人は睨み合っていたが、互いにぷっ、と吹き出してどちらともなく唇を重ね、それぞれの指同士を絡ませ合ったのだった。