体温
体温 っっ、くしゅん!と小さなくしゃみが耳に入り、伴は寝入りばなであったがゆえにハッと目を覚ますと、部屋の向かい、壁沿いに置かれた飛雄馬の眠るベッドに視線を遣った。
すると暗がりの中、飛雄馬は布団を頭からかぶって、再びくしゅん、とやる。
伴はそんな彼を案じ、風邪か?と訊いた。
「ん、ああ。すまん、起こしたか」
「起こしたも何も、大丈夫かあ」
伴は言いつつ、体を起こすと自身の充てがわれたベッドから抜け出て飛雄馬の眠るベッドへと歩み寄った。
「伴?!」
布団にくるまったまま、飛雄馬は伴を仰ぐ。
「一人で寝るよりはいいじゃろう」
「眠れば治る、起こして悪かった」
「熱はないのか」
「大丈夫だ、戻れ、伴」
布団を頭からかぶって飛雄馬は目を閉じる。ぞくぞくと体に悪寒が走る。
伴が眠ったら引き出しに入れておいた薬を飲もう、と思った。
確かあの箱には解熱鎮痛作用がある、と書いてあったはず、と記憶の引き出しを探ったところにかぶっていた布団を引き剥がされ、飛雄馬はぎゅっと体を縮こめた。
すると伴は飛雄馬の横たわるベッドの端にドスンと腰を下ろして、そのまま隣に寝転がってきた。
「伴」
「風邪は人に移すと治ると聞くぞい」
「馬鹿な、帰るんだ。おまえまで風邪をひいたら監督たちになんと言われるか」
「その時はおれが移しましたと言うてやるわい」
伴は布団をかぶると、飛雄馬の小柄な体をぎゅうと抱き締める。寒さゆえに震えていた飛雄馬の体がほんのりと暖まって、思わず溜息が彼の口からは溢れた。
「熱はないようじゃのう」
「………」
「む、苦しくはないか」
抱いた体が別段いつもより熱いということもないために伴は幾分か安堵したが、飛雄馬が黙ってしまったために慌てて腕の力を緩めた。
「伴……ふふ、今度は暑すぎるくらいだぜ」
「暑い?そ、そうか。ならば少し離れた方がええのう」
「いや、このままでいい」
距離を取ろうとした伴の胸に顔を埋め、飛雄馬は呟く。
「ゆっくり眠れ、星よ」
「ああ、と言いたいところだが、おまえの心臓の音がうるさくて眠れそうにないな」
「あっ!?す、すまん。はは、面目ないのう。星を暖めてやろうと思った純粋な気持ちとは裏腹に妙にドキドキしとるわい」
「………伴」
「言うな星よ、おれも恥ずかしくなってきおった」
飛雄馬は伴の胸に埋めていた顔を上げ、彼の喉へと口付ける。
「わっ、星!?」
何事か、と顎を引き自分を見下ろしてくる伴の唇に飛雄馬は口を寄せた。唇同士が触れ合って、伴は再度、星!?と声を裏返らせる。
「おまえがドキドキすると言うから、おれまで変な気分になったじゃないか」
「ほ、星」
体を起こし、伴はこちらを見上げてくるふたつの黒い瞳を見つめた。
「ええのか」
言いつつ、伴は飛雄馬の上に覆いかぶさり、彼の左右それぞれの脇の下に両手を入れるようにしてベッドに掌をつく。ギシッ、とベッドが音を立て軋んだ。
飛雄馬は一度、伴の顔から視線を外したものの、再び彼を仰いでから小さく頷く。
体が熱く火照って、飛雄馬の心臓はやたらと高鳴る。そうして伴は目を閉じると、飛雄馬の唇へと顔を寄せた。
一瞬、ひやりとした感触があったが、すぐに唇は唾液に濡れ、あつく熱を持つ。何度か飛雄馬の唇を啄んでから、伴は顔をほんの少し彼から離した。
すると、飛雄馬はうっすらと瞼を上げ、伴を仰ぎ見た。
「どうした」
「体調、悪いんじゃろう。こんなことをして大丈夫なのか心配になってのう」
「ここまで来てそれを言うのか。生殺しだぞ」
「し、しかし」
「おまえは、眠れるのか、伴よ」
「………」
「相変わらず嘘がつけないな、伴は」
苦笑し、ふふっと肩を揺らした飛雄馬にかーっと頬を染めた伴が口付ける。
「ふふ、すぐムキになる」
「ムキになってなんぞおらんわい!くそう、なんじゃい。こいつう」
クスクスと飛雄馬は笑みを溢し、伴は恥ずかしそうに視線を泳がせた。伴、と飛雄馬は名を呼んで、少し顔を上げて彼の唇に己の唇を寄せた。
何やら言葉を紡ぎかけた伴の肩を掴んで、飛雄馬はベッドに改めて頭を預けつつ彼の口内へと舌を滑らせる。うっ、と声を漏らした伴の眉間に皺が寄った。鼻がかった甘い声を時折漏らしつつ、飛雄馬は伴と互いの舌を絡ませ合う。
首に縋りついた飛雄馬の着ているパジャマの裾から伴は手を差し入れ、彼の腹を撫でた。ぴくん、と飛雄馬の体が跳ね、その肌の表面が僅かに粟立った。
未だ口付けを与えつつ、伴は飛雄馬のパジャマをたくし上げるようにして肌を指先で撫で上げ、徐々に腹から上へと位置を変えていく。その度に、飛雄馬の体は跳ね、伴の首に縋りつく力も強くなる。
その内に、伴の指は飛雄馬の胸へと届いて、彼の乳首を指先でそっと撫でた。
「ん、っ!」
繋がっていた唇が離れて、飛雄馬の口から声が漏れた。伴は一瞬、驚いたがすぐに彼の首へと吸い付いて、触れた指の腹で乳首をそっと押し潰す。
「あっ……っ、」
声を上げてから、飛雄馬は口元に手を遣る。どうやら飛雄馬は己の声を聞かれるのが恥ずかしいらしかった。
ここが巨人軍宿舎ということを差し引いても、飛雄馬は最中にいつもこうして口に手を乗せ、声を殺す。
しかして、そんなことをされたら余計に聞きたくなる、というのが人の性で、伴は指の腹で撫でていた飛雄馬の乳首を指で抓むと、そこに力を加え、捻った。
「ふ、ぅっ…………」
眉間に皺を作り、飛雄馬は痛みに顔をしかめ、声を上げる。けれども、腕が離れるまでとはいかず、伴は指で抓んだ方とは逆の胸へと口付けた。ちゅっと突起を吸い上げて、舌の腹でそこを舐め上げる。
「――っ!い、っ――!!」
その刺激に固く膨らんだ突起が伴の舌を押し返す。びく、びくと飛雄馬の体は小刻みに震え、その刺激の強さを物語る。
そうして今度は、片方の乳首を責めていた手を飛雄馬の穿くパジャマのズボンの中へと忍ばせた。
もうその中では彼の逸物は出来上がってしまっており、勃起した男根の先から漏れた先走りが下着を濡らしている始末である。 下腹を大きな掌で撫でられ、飛雄馬はゆっくりと目を開ける。
しかして、次の瞬間、舐め上げられていた乳首を甘噛みされ、その背を大きく仰け反らせた。
「あ、あ――っ!」
下着の中に手が差し込まれ、直に逸物を握られ、上下に擦られる。
チカチカと目の前に火花が散って、飛雄馬はその口から大きな声を洩らした。大きな掌がぐちゅぐちゅとその手指に先走りを纏わせ、逸物をしごく。
腰が震え、腹の奥が切なく疼いた。竿全体を撫でていたかと思えば、今度は亀頭をぬるぬるとやられ、その度に飛雄馬は口からくぐもった声を上げる。
仰け反った飛雄馬の露わになった顎下に伴は口付け、舌を這わせた。次第に動きは速度を増し、飛雄馬を絶頂へと導く。
「星……」
「伴っ、っ……」
囁くように名を呼ばれ、飛雄馬は伴の掌で気を遣った。肩で息をしながら、射精の余韻に身を委ねていた飛雄馬の足から伴はズボンと下着を抜き取る。
飛雄馬も素肌を晒した自分の足元に視線を遣りつつ、伴を受け入れるべく足を開いた。たった今射精を終えたばかりだというのに、飛雄馬の男根は期待からか再び首をもたげる。伴の喉仏が大きく上下し、ゴクンと唾を飲み込む音が飛雄馬の耳にも届いた。伴は一度辺りを見回してから、ベッドから下りると机の引き出しを開け、何やらチューブを手に戻ってくる。
飛雄馬が尋ねるより先に、伴は蓋を開け中身を指に取り出してから、彼のそばへとにじり寄った。
「痛かったら、我慢せずに言うんじゃぞい」
言ってから、伴は飛雄馬の尻、その窄まりへと指に出したクリーム状のものを塗りつけた。
「っく……」
ぬるぬると円を描くように窄まりを撫でられ、飛雄馬は呻いた。塗られたクリームのようなものが飛雄馬と伴の体温で溶け、熱を持つ。
一通り伴は飛雄馬のそこへ塗りつけてから、ぐっと指の腹を後孔へと押し付ける。すると飛雄馬の窄まりが僅かに開いて彼の指を飲み込んだ。伴はそれからゆっくりと指を奥へと挿入させていき、内壁を擦る刺激と、異物の感覚に慣らさせた。そうして、二本目の指を彼の中に飲み込ませる。
「ん……んっ」
きゅうっと伴の指を飛雄馬は締め付け、腰を揺らす。痛いか?と問われ、飛雄馬は首を横に振った。
「伴……来てくれ」
「もう、ええのか?」
頷いて、飛雄馬は伴を仰いだ。再び、伴の唾を飲む音が聞こえ、飛雄馬は息を吐いた。伴は穿いているパジャマの腰に留まるゴムの部位をずり下げ、片足ずつそれぞれ足を抜くと、怒張した逸物を手に飛雄馬の尻へそれを充てがう。
「入れるぞい」
断りを入れてから、伴は飛雄馬の窄まりへと亀頭を押し付けて、ほんの少し腰を前に突き出した。すると、腹の中にそれは滑り込んで、圧迫感に飛雄馬は奥歯を噛む。 腹の中を慣らすように伴はゆっくりと飛雄馬の中を突き進んだ。
腹の中が押し込まれるような、引きずられるような感覚に飛雄馬はそれから逃げるかのように体を上ずらせたが、それに気付いた伴に腰を掴まれ阻止される形となった。 根元までを伴は飛雄馬の中に挿入させてから、ふうっと体を起こし、飛雄馬の顔を見つめる。
「………見るんじゃないっ」
顔を腕で覆って、飛雄馬は羞恥に頬を染めた。その刹那、ぐっと腰を押し付けられ、今まで触れていた位置より更に奥に伴の男根がぶつかって、飛雄馬は、あっ!と短く呻いた。
伴は飛雄馬の腕をそれぞれの手で掴むと、彼の頭のそばへとそれ以上動かぬようベッドに押し付けた。
「………!」
はっ、と飛雄馬が目を見開き、伴を仰いだときには既に遅く、ゆっくりと彼は腰を使い始める。
「はっ………っ」
腹の中を擦られ、飛雄馬は目を閉じ、顔をしかめる。しかして、今はその表情を隠す手立てもなく、すべて目の前の男の眼下に晒されているのかと思うと、飛雄馬の顔は赤く染まった。
星、と伴は飛雄馬を呼んで、その顔を背けた彼の耳へと口付ける。
「あっ、ん、んっ」
ビクッと肩を揺らし、喘いだ飛雄馬の形に沿って伴は彼の耳を舌でなぞった。腹の中に埋まる伴の逸物を飛雄馬は締め上げ、熱く内壁をこするその熱に酔う。
隣の部屋で眠る同じ巨人軍の先輩方に悟られぬよう、伴はあまり腰を動かさない。激しくすればするだけベッドが軋み、音を立てるからだ。
ゆっくりと飛雄馬の中を責めつつ、伴は彼の唇にそっと己の唇を押し当てる。
飛雄馬もそれに応えるように舌を絡ませ、伴の逸物を締め付けた。
「は、ぁ、っ……」
「星」
飛雄馬の腕を掴んでいた手を緩め、伴は彼の手を握るようにして指を絡ませる。そうして、ラストスパートをかけるように腰の動きを速めた。
「あ、あっ……伴、っ、ばんっ……」
「っ……!」
縋るように名を呼び、その背を反らして戦慄く飛雄馬の中から伴はすんでのところで逸物を引き抜くと、彼の腹の上へと白濁を飛び散らせた。
ぐったりとしたまま腹を上下させる飛雄馬から一先ず離れ、伴はティッシュ箱を取るとベッドの上に舞い戻る。処理を終え、伴は下着とパジャマを穿いてから、星、と呼んだ。
「伴、来てくれ」
「えっ?」
「隣にだ」
腹の上に散った白濁を拭いつつ、飛雄馬は伴に隣に眠るよう言った。
「邪魔にはならんかのう」
「……冷えるからな、夜は」
飛雄馬もまた身支度を整えると、先に寝ていた伴の隣に寝転がる。すると飛雄馬が催促するまでもなく、伴は彼の体を抱き締め、額に顔を擦り付けた。
「くしゃみ、止まったようじゃな」
「ありがとう、伴」
「ぶえっくしょーーい!」
びく!と飛雄馬は震え、伴の胸に顔を埋めたまま瞳だけをたった今大きなくしゃみをその口から放った彼を仰いだ。
「おう、すまんのう。鼻がムズムズしたもんでなあ、ははは」
「大丈夫か?」
「なーに、寝れば治る。ちびすけの星と違ってこの伴宙太、生まれてこの方風邪などひいたことはないわい」
「………」
「おやすみ、星。また明日から頑張ろうぜ」
「……ああ、おやすみ、伴」
飛雄馬は己を抱く伴の心地よい胸の鼓動を聞きながらゆっくりと眠りに落ちていく。伴もまた、飛雄馬の柔らかな体温をその腕に感じながら訪れた睡魔に身を委ねる。
窓の外にはちらほらと雪が舞い、辺りを音もなく白く染めゆくのを、二人が目にするのはまだ少し、先のことだ。