宿業
宿業 飛雄馬、ちょっと待て。
父・一徹が一人で住むアパートを訪ねていた飛雄馬は立ち上がろうとした際に背後からそう、声を掛け呼び止められ、なに?と振り返りざまに訊いた。
すると、畳の上で正座をし、たった今まで煙管を咥えていた一徹が立ち上がっており、こちらに歩み寄ってきたために飛雄馬はその動作を下から上へと見つめる。
「とうちゃん、話とは……?」
体ごと一徹の方へ向け、訝しげに尋ねた飛雄馬の傍らに彼はすっと膝を折り、何やらふいに右手を伸ばし、飛雄馬の頬に指先で触れた。
「!」
びくっ、と飛雄馬は体を震わせ、その瞳は一瞬大きく見開かれた。
触れた4本の指が頬をそっとなぞったかと思うと、飛雄馬の下唇を一徹の親指が左から右へとその感触を楽しむかのように撫でた。飛雄馬は眉根を寄せ、一体何をするつもりなのか、と眼前の父を見遣る。
と、一徹の乾いた指の腹は飛雄馬の口角を辿って、閉じられた唇の隙間へと滑り込み、その内側の濡れた前歯をなぞった。
「っ、ッ………う」
僅かに開いた上下の綺麗に生え揃った歯の隙間から一徹は指を飛雄馬の口内へと差し入れる。
唾液に濡れた指が上顎をくすぐるようになぞる感触が、脳を直接触られているような感覚を飛雄馬に与え、その体の奥を熱く火照らせた。さらさらとした唾液が口の端から溢れ、顎を滴る。
一徹の指は飛雄馬の頬の粘膜を撫でてから、ようやくそこから離れていった。
しかして、父の戯れはそれだけでは終わらず、今度は唇を押し当てて来た。
「とうちゃん、待っ………ん」
いけない、と飛雄馬は思う。けれども、体は覚えてしまっている。
幼い頃、父に散々弄ばれたこの体は父の教えたとおりの反応を素直に返し、自身もまた、与えられた刺激をそのまま快感のそれと見なす。全身が燃えるように熱い。
なぜ今更、寝た子を起こすようなことをとうちゃんはするのか。
「いやっ、とうちゃん!」
叫び、飛雄馬は渾身の力で一徹を押し返したつもりだった。
が、与えられていた愛撫のせいかそれはほんの少し彼を押し退けたに過ぎず、声ばかりが大きく漏れたせいで、隣の住人が何事かと部屋の扉を叩きに来た。
一徹は何でもないんです、すみませんと隣人に謝罪をし、自身を睨む飛雄馬に再び視線を投げる。唇を手で拭いつつ、飛雄馬は一徹から視線を外さない。
「とうちゃん、おれは、もう、とうちゃんのものなんかじゃない」
「左腕が壊れたことで、飛雄馬は、わしから完全に解き放たれたはずだ、と、そう言いたいんじゃろう。この父を救うために、自ら左腕を破壊した、と」
にじり寄る一徹から逃げるように飛雄馬は後退り、最後はドンと土壁に背をぶつける。
「うぅっ………」
「けれども、蓋を開けてみればどうじゃ。その右腕もこのわしがあのギブスで鍛え上げたからこそ、左腕と同等のコントロールこそ伴わぬが速球を放つことができるのではないかのう」
「おれは、もう、とうちゃんの作品じゃない。おれは、自分の意志で野球をやりたいと、そう思った。誰に強制されたわけでもない。おれは、おれの人生を歩むために戻ってきた」
「また引きずり込むか、今や日本の中枢を担っていると言っても過言ではない大企業の重役とまでなった親友を、義理の兄を、お前は。やっとのことで幸せを掴んだ姉をまた泣かせるつもりか」
「おれは、そんなつもりじゃ………それは、あの二人が、自分で、決めることで」
一徹を睨み据えた飛雄馬の瞳が、彼の言葉に揺らいだ。飛雄馬の顎先に指を添え、一徹は彼の顔を上向かせると、再びその呼吸を奪った。
「いっ、いやだっ!とうちゃん!」
口付けから逃れるべく顔を振った飛雄馬の着ているシャツの裾へと一徹は指を忍ばせる。
「あっ!」
ビクンと震えた飛雄馬の唇へと一徹はまた口付けを与え、その腹を掌で撫でた。
「行方不明の間に太りでもしたかと思うたが、ふふ、わしの見当違いだったようじゃのう」
「だ、っ、れが………ぁあ」
飛雄馬の耳元へ唇を寄せ、一徹は赤く染まった彼の耳に舌を這わせる。ゾクゾクッと飛雄馬は全身を震わせ、その肌はにわかに粟立った。
「飛雄馬、わしだけの飛雄馬……」
言い聞かせるかのごとく囁いて、一徹は飛雄馬の白い首筋に唇を寄せ、その肌を強く吸い上げる。
「あっ、跡………ッ、ふ」
腹を撫でていた指がじわりじわりと上ずって、飛雄馬の胸の突起を捻った。その背をしならせ、飛雄馬は一徹の纏う着物の襟を掴む。すると、次第に捻った指を跳ね返すように膨らむ突起の芯を一徹はくにくにと捏ね回し、飛雄馬の反応を楽しんだ。
「ぁう、うっ………とうちゃん、そこばっかり、しな、っで……」
瞳に涙を今にも溢れんばかりに溜めた飛雄馬は父を見上げ、哀願する。
「口で言わんと分からんぞ、飛雄馬……何を、どうしてほしい」
意地悪く、そんなことを言う一徹から飛雄馬は視線を逸らす。恥ずかしそうに顔を歪める様は幼い頃の面影をそのまま残しており、一徹は心中でほくそ笑む。
「っく………」
「さっきの啖呵を切った勢いはどこへやらじゃな飛雄馬……ふふ、そう、教えたからな。わしが、お前の体に」
飛雄馬の穿いているスラックスの、下着の中で彼の男根は起立し、布地を押し上げる。ここに触ってほしい、けれども、ここを許してしまったら後戻り出来ない。
それを考えられるまでの理性はまだ、飛雄馬には残っている。
しかして、父を何度も、何度も受け入れてきた場所さえもが熱く疼いているのが分かる。今日、ここに来てしまったことからして既に父の罠に掛かっていたのだと、飛雄馬は下唇を噛む。
「ね、がっ……い、します。とうちゃん、を」
「はっきり言わんと分からんぞ」
「とうちゃんを、ください……」
「よく言った飛雄馬。いい子じゃ」
飛雄馬の背に腕を回し、一徹は彼の体を抱き寄せるようにしつつ畳の上へと横たわらせてから足を左右に開かせ、膝を立たせるとその間へと体を滑らせた。
この位置からでも飛雄馬のスラックスの中が限界まで張り詰めているのが見て取れる。一徹は飛雄馬のスラックスのベルトを緩めてからボタンを外し、ファスナーを下ろしてやった。
そのまま、下着の上からそこに触れると、飛雄馬は体を仰け反らせ、畳にガリッと爪を立てる。
「出したいか」
訊くと、飛雄馬は頷き、腰を揺らす。
何年ぶりになるかのう、こうしてお前に触れるのは、と一徹はひとりごちながら飛雄馬の下着の中へと手を差し入れ、これ以上ないほどに充血し、勃起しきった彼の男根へと手を添える。
「ンぁ、あっ!」
「声を出すな。また隣から人が来るぞ」
ちゅっと啄むように口付けを飛雄馬に与えてやってから、一徹は手を添えた男根をしごいていく。
「とうちゃん、とうちゃん………っ」
見かけこそ変わっているものの、飛雄馬は一徹が記憶しているままの反応を素直に返す。彼の首に縋り付きながら、うわ言のように父を呼び、閉じた瞼からは涙を幾重にも滴らせ、与えられる快感を拒絶することなく受け入れる。
それらはすべて一徹が教え込み、そう反応するように仕込んだ。
初めて父を受け入れたのはいくつのときだったか。声変わりも迎えていない小さな体を掻き抱いて、逃げ出さぬようにと幼い飛雄馬に快楽を覚えさせた。
飴と鞭と言ってしまえばそうだ。
野球など大嫌いだと喚く飛雄馬にギブスを付けさせ、徹底的に野球の何たるかをその体に教え込んだ。
全身が傷と痣だらけになって痛いと泣く飛雄馬に、最初は傷薬を塗ってやろうと思った。
幼い飛雄馬はまだ、父の狂気には気付いていない。それならば、気付いてしまう前に、逃げ出してしまわぬように、その体へ余すことなく父を刻みつけてしまえばいいと思った。
「い、っ………!と、うちゃ……っ、」
腰をくねらせ、飛雄馬は父を呼ぶ。
「自分ばかり気をやろうとしおって」
「や、らぁっ。て、止めないで……おねがい……だか、ら」
「飛雄馬、わしはお前をそんな淫乱に育てたつもりはないんじゃがのう。行方不明の間、どこかで飼われでもしていたか」
言いながら、一徹は飛雄馬からとめどなく溢れるカウパーで濡れた手を彼の男根から離した。
「な、んで。そんな、いや……いやだっ、」
「何をしてもらった?正直に言いなさい」
「そ、んなこと……してなっ、ん……誰とも、何も……」
「この体を触ったのはわしだけと誓うか」
「とうちゃんしか、こんなことっ……とうちゃんが、おれは……」
とろとろとカウパーを漏らす飛雄馬の鈴口を一徹は親指の腹で撫でさする。
「あっ!や、っ、ん、んっ!こすって、そこ、ッ……」
「堪え性のないやつめ」
嘲るように言って、一徹は飛雄馬の男根を握るとそれをぬるぬるとしごき始める。
あっ!と鋭く喘いで、飛雄馬は自分の口元を掌で覆うと、全身を戦慄かせ、一徹の手の中へと精を吐き出した。
よほど焦らされたのが堪えたかどくどくといつまでも男根は脈動し、射精を続ける。
「っ、ふ…………ぅ、う……」
「飛雄馬、変わらんのう。お前は、ずっと」
未だに揺れる飛雄馬の腰から一徹はスラックスと下着を剥ぎ取り、たった今、射精したばかりの男根の下、彼の体の中心へと精液に濡れた指を這わせた。
「待、っ……とうちゃん、今、った……いま、いった、ばっか、り」
その窄まりに体液を塗り付け、一徹は人差し指を飛雄馬の腹の中へと挿入させる。 きゅうっ、とその指を締め付け、飛雄馬は体を縮こまらせるようにし、眉間に皺を寄せた。
「慣らしておかんとのう。久しぶりなら、尚の事」
入り口を刺激に慣らすため、一徹は指をゆっくり何度も出し入れさせ、飛雄馬の反応を見る。
肌を真っ赤に上気させ飛雄馬は声を上げるたびに顔を上ずらせつつ、体を震わせた。 すらりと伸びた白い足は一徹が愛撫を与えるたびに戦慄き、畳の目の上を滑る。
「はっ、あ……っ、そこ……」
とある場所を次いで挿入した中指が触れたか、飛雄馬は一徹の指をより強く締め付けた。指先に触れる感触を一徹はぐっと強く押し上げる。
すると、飛雄馬はひっ、と悲鳴を上げ、閉じていた目を開け、一徹を仰ぐ。
「ここか。飛雄馬、フフ。指でもう一度果てるか」
「ン……とうちゃんのが、いい」
吐息混じりに飛雄馬は囁き、父を受け入れるべく、足の位置を変えた。
一徹は飛雄馬から指を抜き、纏う着物の前をはだけ、下穿きから怒張を取り出す。
飛雄馬はそれこそ数年ぶりに見た父の逸物にハッと視線を奪われる。
ごくん、と飛雄馬の喉が鳴った。一徹の指が撫でていた場所が更なる刺激を求め、切なく疼く。
いくぞ、の声と共に、一徹は飛雄馬のそこへ男根を宛てがい、腰を突き込む。
すると、飛雄馬の腹の中を押し広げながら、一徹は奥へと自身を飲み込ませていく。
「あ、ああっ、苦し……ッ」
腹の中をいっぱいに満たす異物感と幸福感に飛雄馬は身を捩る。
もう、何も分からない。飛雄馬は何も考えられないようにされてしまっている。
一徹は飛雄馬を嬲りながら馬鹿になれと言う。何も考えられないほどの恍惚が飛雄馬の全身を貫いて、頭が蕩けきって、一徹にされるがままになってしまう。
お前は巨人の星を目指せと、かつて、一徹は飛雄馬に囁いた。父から離れるなと、ずっとお前は父と一緒だと。
しかして、その時、一つの誤算が生じた。
一徹が飛雄馬の捕手役にと目を付け、青雲高校柔道部主将・伴宙太の存在が、飛雄馬を父から奪った。
初めて自分を心から支えてくれた、共に泣き、共に笑った身内ではない、他人の存在が飛雄馬の心の大部分を占めた。
そこに、あのセントルイス・カージナルスからやってきたアームストロング・オズマがお前は野球人形だと、飛雄馬のアイデンティティーを崩壊させた。
そこから、飛雄馬の体を縛っていた鎖がゆっくりと緩んでいった。
だからこそ、一徹は駐日ドラゴンズの三塁コーチとなり、はたまた飛雄馬の心の大部分を占めた伴宙太を奪い去った。
飛雄馬は体が一徹の形に馴染むまで、目を閉じ、腹を上下させている。
しかして、一徹は根元まで飲み込ませた男根を腰をグラインドさせ、飛雄馬の腹の中奥深くを抉った。
「あっ、いやっ……」
「いや?嘘をつくでないぞ飛雄馬。良いんだろう、お前は、ここが」
「っ、あ……ぁあ」
逃げる腰を掴んで、一徹は腰を引くと、今度は強く飛雄馬の尻へと腰をぶつける。
やっとのことで馴染みつつあった飛雄馬の内壁は引きずられたかと思うと、一気にどすんと押し込まれて、彼は悲鳴にも似た声を上げた。
「ひっ、うっ!あ、っく……あ、っあ」
背を反らし、飛雄馬は喘ぐ。体の脇に置かれた一徹の着物の腕に縋りついて、彼の眼下に喉を晒した。
汗で濡れた畳が飛雄馬の肌に貼り付く。
飛雄馬、と一徹は名を呼んで、喘ぐ彼の唇に口付けた。
「とうちゃん、はぁ、っ……とうちゃ、ん」
時折、ビクッと飛雄馬は体を仰け反らせつつ、潤んだ目を一徹へと向ける。
幾度となく重ね合わせた飛雄馬の唇は唾液に濡れ、口の端をとろりと滑った。
一徹は飛雄馬の上下する喉仏へ顔を寄せ、またしてもそこへと吸い付く。強く肌を吸い上げるたびに、飛雄馬は一徹を締め付け、小さく震えた。
「飛雄馬、いくぞ。出すぞ」
「だめっ、とうちゃん、中は嫌、ぁっ!」
飛雄馬の嘆願虚しく、一徹は彼の腹の中へと一滴残らず欲をぶちまけた。
腹の中でひくつく一徹の脈動を感じつつ、飛雄馬は全身を絶え間なく与えられた絶頂の余韻に震わせる。
「…………っ」
飛雄馬の体内から男根を抜いて、一徹は体液に濡れたそれをティッシュで拭うと乱れた衣服を正し、煙管を咥えた。
「は、ぁっ………っ、ケホッ、っう」
喘ぎ、掠れ乾いた喉に煙管の煙が染みて、飛雄馬は小さく噎せた。仰向けの格好から、寝返りを打ち咳き込んだ際、腹に力が入ったか飛雄馬の尻から一徹の精液が溢れる。
それが気持ち悪く、飛雄馬は体を起こすと、一徹のそばにあったティッシュ箱に手を伸ばした。
すると一徹はその手を絡め取り、再び飛雄馬を畳の上へと転がす。全身に力が入らず、飛雄馬の体は文字通り、赤子の手をひねるように見事にそこへと転がった。
「…………」
飛雄馬はこちらをじっと見下ろしてくる一徹を見上げる。
「考え直す気はないのか」
「………ない」
掠れた声ではあったが、力強く飛雄馬は言葉を発する。
「再び、野球地獄に身を投じるか」
「もう、遅い。あなたが始めたことだ、すべて」
くゆる煙管の煙がただでさえ酸素不足で、ぼうっとなっている飛雄馬の頭を再び朦朧とさせる。一徹は飛雄馬の押さえつける左手を掴む右手に力を込めた。
「いっ、……!」
苦痛に飛雄馬は顔を歪める。
「次に待ち受けるは死かも知れぬぞ」
「ッ……それでも、いい。おれは、それだけの覚悟を持って、返り咲く。っ、ふふ……球鬼とまで呼ばれたあなたが、ずいぶんと弱気っ………ぅ」
そこから先の言葉は紡がせぬよう、一徹は飛雄馬の唇へと自身のそれを押し付ける。 飛雄馬は彼を拒絶するでもなく、その口付けに応えつつ、右手で強く父の腕へと縋りついた。
体を弓なりにしならせ、また父の与える愛撫に今度はひどく冷めた頭で喘いだ。