ロッカールーム
ロッカールーム 「あ、っ……ふ」
「声を抑えたまえ」
誰のせいで──喉元まで出かかった言葉を飛雄馬は飲み込み、耳を犯す舌と舌の絡むちゅく、ちゅくと言った音に身を震わせた。
つい先程までジャイアンツの選手たちがごった返し、賑やかだった選手ロッカー室にその面影はなく、今はとある男がふたり、息を潜めるようにしてこの部屋で肌を合わせている。
いや──片方の男が半ば強引に、もうひとりの彼に迫っていると言う方が正確か。
互いに背番号3を背負っているジャイアンツとヤクルトのユニフォームに身を包んだふたり。
事の発端は、選手らが皆帰ったあと、忘れ物はないだろうかとロッカーのひとつひとつを開け、中身を点検していた飛雄馬をヤクルトの花形が訪ねたことに始まる。
本来、忘れ物の点検やロッカーの片付けを行うのは球団清掃員の仕事であるが、この生真面目な今やジャイアンツの監督となった長島茂雄から背番号3を受け継いだ彼──星飛雄馬は皆が帰ったあとこうして掃除をしたり忘れ物がないかの確認をしてから帰ることを日課としている。
箒でゴミを掃いてちりとりで集めてゴミ箱へ、くらいの簡素なものではあるが、日頃お世話になっている球場だからと飛雄馬は誰が止めるのも聞かず、黙々とロッカーの片付けを行ってから帰宅する。
私服に着替える前に、忘れ物はないか調べてみるかと最後の先輩選手を見送った飛雄馬がふと踵を返したところに、コンコンと出入り口の扉が叩かれ、誰か忘れ物でもしたかなと振り返った目の前に、扉を開けた花形の顔が現れた。
えっ!?と驚き、目を見開いた飛雄馬に花形は明子から伝言でね──と許可も得ないままロッカー室に足を踏み入れ、ちょっとと彼を近くに来るよう招いたのだった。
「ま、っ………こんな、とこっ」
「違う場所ならいいのかね」
息も絶え絶えに言葉を紡ぐ飛雄馬を煽り、花形はロッカー室の出入り口付近の壁に押し付けた彼の体、その腰を抱き寄せ足の間に膝を入れる。
花形の腿が熱を持ち始めたユニフォームの下、スライディングパンツの中のモノに触れ、飛雄馬はビク!と体を強張らせた。
いつの間にか球団を象徴する黒字に橙でマークの刺繍された帽子は脱げ、床に落ちてしまっている。
「なんの、目的で、こんな………あ、ぁっ」
顔を背けた飛雄馬の耳元に唇を寄せ、花形はそこに舌を這わせる。
耳の形状を唾液を纏った舌が滑り、飛雄馬はその度に吐息混じりに小さく声を上げた。
「何度誘ってもうちを訪ねてくれない義弟にお灸を据えてやろうと思ってね」
「っ、そのうち………い、くっ」
飛雄馬の背けた顔、その顎から頬にかけてを花形は掴むと強引に己の方を向かせ、再びその唇を貪った。
「ん、んっ」
はあっ、と吐息を漏らし、身をよじる飛雄馬の口内に舌と共に唾液を含ませる。
「ふ……ぅ、」
ごくん、と飛雄馬の喉が動くのが分かって、花形は小さく笑むと、口付けを与える彼のユニフォーム、そのズボンを留めるベルトを緩めた。
そうして、額からまぶた、頬へと口付けてやりながらズボンのボタンを外し、ファスナーを下ろすとスライディングパンツの中に手を入れ、中で解放を待ち侘びるように膨らみきった男根に手を添える。
「あ……」
鈴口から溢れた先走りが花形の手を濡らす。
ほんの少し、それを握って上下に擦るだけで飛雄馬はびく、びくと身を跳ねさせ、荒い呼吸をその口から漏らした。
「そのうち、とはいつかね。明子は飛雄馬くんが来てくれるのを首を長くして待っていると言うのに」
「ねえっ、ちゃんの……ことは、今はっ……」
顔を真っ赤に上気させ、目を虚ろに開いた飛雄馬の目尻には涙が浮かんでいる。
「今は気持ちいいことしか考えたくない、と。フフッ……巨人の星はとんだ変態と来た」
「ちが、っ………あ、う、ぅっ」
ぬる、ぬると粘膜そのものの露出した亀頭を先走りで濡れた手で撫でられ、しごかれ、飛雄馬の目尻からは涙が頬を滴り落ちた。
花形は飛雄馬のスライディングパンツの中から男根を取り出すと、そのままユニフォーム共々膝上付近までずり下げてやってから彼の足の間から膝を抜く。
「早く宿舎に帰らんと皆が心配するだろうね」 
クスクスと花形は微笑を浮かべ、飛雄馬の下腹部から手を離すと今度は先走りに濡れた指を彼の背中側に回し、その尻たぶの中心へと滑らせる。
「………ひ、っ」
きゅん、と花形の指が触れた飛雄馬の窄まりが固く口を閉ざす。
「…………」
花形はやや顔を傾け、飛雄馬に軽く口付けてやりながら彼の尻をゆっくりと解していく。
固く閉じた中心を慣らすように指で撫で、優しく唇を啄みつつそこに指を飲み込ませた。
「ん、む、ぅ……」
熱い飛雄馬の内壁が花形の指に絡み付いて、締め上げる。
花形は飛雄馬の様子を見ながら2本目の指を腹の中に挿入すると1度、根元まで指を飲み込ませてから中をゆっくり掻き回した。
そうして、そこから指を抜くと花形は壁に背を預け立っているのがやっとの飛雄馬に対し、こちらに背を向けるよう言い放つと、自身のユニフォームのファスナーを下ろす。
その金属が擦れる音に飛雄馬は身震いし、おずおずと花形に尻を向けるようにして壁に手をついた。
「今日は、ずいぶんと素直だね飛雄馬くん」
ぬるっ、と尻の谷間に熱いものが触れて、飛雄馬の後孔がひくつく。
「さっさと、終わらせて、欲しいからだっ」
「…………なるほどね」
花形は飛雄馬の尻を引き寄せ、その尻たぶの中心に己の男根をあてがうと、一息に腰を突き入れる。
「ひ、ぐっ───!!」
どすん、と腰をいちばん奥、深いところにまで突き込まれ、飛雄馬の男根からはとろっ、と精液が床に垂れ落ちた。
今の衝撃で軽く達してしまったのであった。
壁についた手、その肘を曲げ、前腕全体を壁につけた飛雄馬があまりの悔しさと脳を蕩けさせたその一打に拳を握る。
「言葉も出ないかね」
「ふ、ふ……花形さんにしては浅、ぃ、っぐっ!」
腰を引き、花形はやや飛雄馬から抜いた男根を腰を叩きつける勢いで奥まで到達させる。
最早口から漏れるのは言葉ではなく、快楽に身を委ね、突かれるままに喘ぐ声のみだ。
花形に背を向ける形を取っていて良かったとさえ飛雄馬は思った。
目の前には大小様々の閃光が飛んで、頭の中はじんじんと痺れている。
膝が震え出し、立っているのがやっとで、飛雄馬は掌に爪が食い込まんばかりに指を握り込む。
「どうした?飛雄馬くん……」
尋ねる花形の唇がにいっ、と歪んでいるのが声色で分かる。
飛雄馬の額から汗が滴り、頬から顎を滑り落ちた。
花形はゆっくり、小さく腰を動かし始め、飛雄馬の腹の中を小刻みに嬲っていく。
「あ、っ、ん、ん、」
届かない。それでは、届かない。
花形が腰を振るたび、アンダーシャツが尖った乳首を擦り、飛雄馬は目を閉じる。
最初に花形が抉ってきた腹の奥がもどかしく疼くのがわかる。
「ほら、どこに出そうか……きみは中に出されるのは嫌いだったね」
「っ、くぅ、う………」
「ふふふ………」
花形は飛雄馬の背中、背番号の位置を撫で、腰を回す。
「い、っ、いやだっ!背中だけはっ」
「……………」
「なかにっ、中に出せっ……!」
辿々しく、懸命に言葉を紡ぎ、飛雄馬は背番号だけは汚すなとそう、嘆願する。
刹那、花形はいちばん初めにしたように、腰を深く叩き込んで、飛雄馬のユニフォームの背中、その下の肌に到達せんばかりに爪を立て、握り締めるとそのまま彼の中に吐精した。
飛雄馬の内壁は絶頂の際、その精の一滴までを搾り取らんと花形を幾度も締め付ける。
「っ〜〜〜───!!」
射精を終えた花形が男根を抜くと、掻き出された精液が溢れ、飛雄馬の尻を伝う。
肩で荒く呼吸をしながら飛雄馬は自分の眼下にあるだらしなく尻で達し、溢れ出た精液で床に出来た染みを見つめる。
なんと惨めで、無様なのだろうか。
「…………今晩、伴くんたち皆を呼んで夕食会を開く。きみも来るといい」
「…………」
飛雄馬はユニフォーム越しに花形の感覚の残る腹を押さえ、準備が出来次第、顔を出しますよと、そう言うのが精一杯で、身支度を整えた彼が出て行くのを見届けてから乱れた衣服を直し、震える手で床に落ちた野球帽を拾い上げた。