捜索
捜索 グラウンドで声変わり前の喉を嗄らして叫ぶ野球少年らを遠くに眺めつつ、飛雄馬はサングラスの奥で目を細める。
春先の麗らかな午後。
桜も見頃を迎え、汗ばむほどの陽気の中、ふと目に入った少年らの野球試合を眺め始めたのが、つい30分ほど前になるだろうか。
こんな天気のいい日は日雇いの仕事をする気にもなれず、先日働いた分の貯えがまだ多少あったためにそんな気紛れを起こした。
皆、晴れ晴れとした表情を浮かべ、楽しそうに白球を追いかけているのがとてつもなく眩しく、羨ましくもある。
「…………」
嫌なことを思い出したな、と飛雄馬が腰を上げ、場を立ち去ろうとした瞬間、まさかの方向に飛んだファールボールが唸りを上げ迫ってきた。
「あぶない!」
「ああっ!」
観ていた野次馬や少年らが思わず叫んだが、飛雄馬が難なくその球を右手で捕ったために、辺りからは歓声と共に安堵の声が上がる。
「ごめんなさい!大丈夫でしたか!」
こちらの安否を確認する少年らに飛雄馬は手を振り答え、手にした軟球を左手に持ち替えると、そのまま振りかぶった腕をいつもの調子で放った。
そうして、手を軟球が離れる刹那に、しまった!と己の思慮の浅さを後悔したが、既にボールは宙を舞っている。
投球フォームこそ体のしなりや肩の使い方、腕の振りと言い完璧なそれであったが、球はおよそ10メートルも飛ぶことはなく、ふわりと浮かびはしたものの、グラブを構えて立っていた少年の手元には到底及ばなかった。
「!」
辺りがしん、と静まり返ったのち、そう間を置かずどっと笑いが起きた。
「ぷっ!なんだよ兄ちゃん!全然飛ばねえじゃねえか」
「捕れたのもまぐれかよ」
「期待させやがってよー!」
「すみません。ありがとうございました」
待ち構えていた少年は呆気に取られたかしばらく立ち尽くしていたが、野次馬の罵声で我に返ったかグラウンドを出て、球を拾うなり帽子を取り深々と頭を下げてから持ち場に戻っていった。
「…………」
飛雄馬は今の一瞬でじっとりとかいた汗に濡れた左手を見下ろすと、微かに震えている指を掌に握り込み歯軋りの音がするほど強く奥歯を噛んだ。
ああ、おれは、おれの左腕は────。
「星、飛雄馬さんですね」
「!」
突然、背後から名を呼ばれ、飛雄馬はハッ!と俯けていた顔を上げ、声のした方を振り返る。
「失礼。その驚きぶりを拝見するに星飛雄馬さん本人で間違いないとして話を続けさせていただきます」
「あんたは?」
この陽気に不釣り合いなコート姿にサングラス、髪を1本の乱れもないように整髪料で後ろに撫でつけている背の高い怪しげな男がそこには立っており、飛雄馬は思い通りに動かない左腕に対する苛立ちも相俟って、彼に対し冷たく訊き返した。
「わたしはとある興信所の者です。依頼主に頼まれてあなたの行方をずっと探していました」
おれの行方を興信所を使ってまで探すような人間が果たして存在するものだろうか──飛雄馬は脳裏にかつての知人らをひとりひとり思い描いていたが、とある男の顔が浮かんだ瞬間、その場から駆け出していた。
馬鹿正直に己の正体を明かす間抜けがどこにいると言うのか──目の前に立っていた興信所の人間を名乗る男の伸ばした腕を掻い潜り、飛雄馬は脇目も振らず一刻も早く場を立ち去るべく走った。
こんなことをする人間を──男をおれはひとりしか知らない。
──今はまだ、会えない。
思い浮かんだ人物の顔を払拭するべく顔を振った飛雄馬だったが、前方に立ち塞がる人物が見え、どいてくれ!と叫んだ。
けれども彼──は微動だにせず、その場に立ち尽くしたままで、飛雄馬は押し退けてでも逃げるべきか、しかし、とそこで迷いの念を抱いた。
それがまさかの結果を招く。
横をすり抜ける筈だった、そう、頭の中では数秒先の光景を思い浮かべていたのに、飛雄馬はあろうこと目の前に立ち塞がっていた男の腕の中にいた。
もしぶつかりでもしたら、大怪我をさせてしまう、と一瞬でも飛雄馬が相手の心配をしてしまったことが裏目に出た。
そのことで走る速度が緩み、男に捕まる隙が産まれてしまったのである。
「っ!」
飛雄馬は次の瞬間にはもう、男の腕の中に絡めとられていた。
「ありがとう。あとはぼくがやるからきみは帰りたまえ」
ようやく追いついたであろう興信所の人間を、男はそう言って労う。
「…………」
抱き留められているために顔こそ判別がつかぬが、この独特な口調で話す男を飛雄馬はひとりしか知らない。
まさか、この男だったとは、と飛雄馬は目を閉じ唇を強く引き結ぶ。
逆光で顔が見えなかったことが災いした。
花形だとあらかじめ分かっていたら、こんな失態は犯さなかったであろう。
しかし、そんなことを今更考えたところで何の意味もない。
とにかく、花形の手から逃れる方法を考えなければ。
「心配したよ、飛雄馬くん。きみが元気でよかった」
「はなせ、花形。寄るな」
「ぼくとて手荒な真似はしたくない。大人しくしたまえよ」
「っ…………」
回されていた背中から手は離れはしたものの、今度は両腕をそれぞれに掴まれ、顔を覗き込まれる。
飛雄馬は顔を逸らし、口を噤んだ。
「ひとまず、車に乗りたまえ。逃げようなどとは考えんことだ」
「誰が、聞くもんか……」
腕を掴む花形の指に力が篭り、飛雄馬はうっ!と短く呻き声を上げる。
何のつもりで、この男はこんな真似を。
親父の、はたまたねえちゃんの差し金か。
こんなことをして、花形にどんな利点があるというのか。
「…………」
「ふ、っ、ふふっ……腕の1本や2本、っ……折れたところでもう野球などやれん身だ。痛くもっ、痒くもないさ……」
強がったものの、飛雄馬の腕は軋み、悲鳴を上げている。あと少し力を加えられれば恐らく折れてしまうであろう。
一体、なぜ、こんな……。
飛雄馬は、薄れゆく意識の中で、花形の瞳が不気味に光ったのを確かに見た。

「!」
次に飛雄馬が目を覚ましたのはどこぞと知れぬベッドの上で、思わず飛び起きるとそのまま辺りを見回した。
すると、ずきん!と両腕に鋭い痛みが走って、何事かと己の腕に視線を遣ったところで、お目覚めかね、と声がかかり、慌てて顔を上げた。
「腕はしばらく痛むかも知れんが骨は折れていない。安心したまえ」
何やら部屋に置かれている椅子に座り、足を組んでいる花形が視線の先には佇んでいて飛雄馬は彼を睨み据える。
いつの間にか着ていたコートも消えており、上半身は紺のシャツ1枚と言う心許なさだ。
「ここは?」
「別に怪しいところじゃない。普通のホテルの1室さ。倒れたきみを放って置くわけにもいくまい」
飛雄馬は花形を睨みつけながら、はっ!と己がコートだけでなくサングラスも着用していないことに気付く。
花形から視線を逸らし、飛雄馬はサングラスをどこへやった、と尋ねた。
「サングラス?ああ、帽子も同じくここにある。必要なら取りに来るといい。フフ、サングラスを外した顔は以前の飛雄馬くんと何ら変わらんので安心したよ」
「……花形さんはずいぶん変わったみたいだな。少なくともおれと野球をやっていた頃はあんな真似をするような男じゃなかったはず」
「さあ、どうだろうね。飛雄馬くんはぼくの何を知っていると言うのかね。この花形、かつてノックアウト打法なるものを編み出した過去がある。きみの言うあんな真似と言うのもその延長線上に過ぎんと思うが」
「っ、やめろ。その話は」
「…………」
頭を抱えた飛雄馬をよそに、花形はどこからともなく取り出した煙草を咥えるとその先に擦ったマッチで火を付ける。
「とにかく、おれはあなたと話すことはない。失礼させてもらう」
「まあ、待ちたまえ。生憎ときみが眠っている間にもう深夜1時を回っている。こんな時間に外に出たところで暖を取るような場所は近くない。いくら春とは言え夜はまだ冷える」
「花形さんと一夜を過ごすよりは寒さに凍えた方がまだマシだ」
「なぜ、そう邪険にする?伴くんなら違ったかい。彼の言葉になら素直に甘えたかね」
「……伴は、っ関係ない」
「何なら呼ぶことも出来るが。こんな時間だが、彼なら飛雄馬くんに会えると知ったら運転手を叩き起こし、すぐにでも駆け付けるだろうね」
「伴は関係ないと言っている。茶化すな」
花形の嗜む煙草の香りだろうか。
外国製ゆえか今までに嗅いだことのない匂いがして、飛雄馬はあまり好みとは言えないそれをこれ以上嗅がないように顔を上げ、口と鼻を手で覆う。
「苦手かね」
「…………」
「それは失礼。断りを入れるべきだった。申し訳ないね」
人の腕を折らんばかりに握っておいて、煙草に関しては素直に謝罪をするのか。
花形という男の考えはおれには読めない。
それならば、腕のことをまず何よりも先に謝ってほしいものだ、と飛雄馬はようやく口元を被っていた手を離すとそんな念を花形に対して抱く。
と、椅子から少し離れた位置に置かれたテーブル上の灰皿で花形は煙草の火を消すと、何を思ってか飛雄馬の座るベッドに手を付き、そこに乗り上げた。
「…………!」
「腕を見せてほしい」
何をする気だ、と身構えた飛雄馬だったが、腕の様子を尋ねる言葉にホッと胸を撫で下ろし、花形に握られた腕を見やすいように少し挙げる。
すると、そのまま腕を撫でられ、飛雄馬は驚きからビクッ!と体を震わせた。
痛むかね?の台詞に首を横に振り、もう痛くないと返す。
「野球には未練が?」
花形の軟化した態度に一時はほだされかけた飛雄馬だったが、その問いに再び険しい表情を浮かべる。
「なぜ、そんなことを訊く」
「…………」
花形は答えず、そればかりか続きを待つ飛雄馬の顔に唇を寄せ、彼の口をそっと啄む。
「っ、!」
ぎく!と身を竦め、目を閉じた飛雄馬の髪に花形は指を通すとそのまま彼の頭に手を添えた。
花形の嗜んでいた煙草の味が仄かに唇に触れ、飛雄馬は緊張のあまり、喉を鳴らす。
「飛雄馬くん……」
ふいに花形が紡いだ己の名に飛雄馬は正気に返るや否や、眼前の男の頬を平手で打ち据えた。
小気味いい乾いた音が部屋には響いて、飛雄馬は鈍く痛む自身の左手でぎゅっと拳を作る。
まさか花形がまともに平手を受けるとは夢にも思わず、面食らう羽目になったのは飛雄馬の方であった。
「あっ……!」
「フフッ、これで引き分けと言ったところかね」
僅かに血の滲んだ口元を指で拭って、花形は動揺し、目線を泳がせている飛雄馬の顎先に赤く染まった指をかけ、そのまま顔を上向かせる。
謝るべきか、いや、それ以前におれの腕の前科が彼にはある。
ならば、花形の言うように引き分けでここは決着を……一瞬、謝罪の言葉を吐くべく口を開きかけた飛雄馬の顔に花形は再び唇を寄せ、彼の口内に血の混ざった唾液と共に舌を滑らせた。
花形が角度を変え、唇を貪る際に傷へ触れるのか時折、唾液に鉄臭さが混じる。
「う……っ、ン、」
その微かに香る血液の匂いに飛雄馬の視界がくらりと歪む。
すると、抵抗せぬと踏んだか花形は飛雄馬の体をベッドの上に組み敷き、弾みで離れた唇でにやりと笑んだ。
「ようやく、ぼくを受け入れてくれる気になったようだね」
「…………!」
飛雄馬は、かあっ!と頬を染め、唾液に濡れた唇を拭うと己を真っ直ぐに見つめてくる瞳から視線を外す。
と、花形は無言のまま身を屈めると飛雄馬の首筋に顔を埋め、抵抗するべく掲げられた両腕を掴むなりベッド上に縫い留めた。
ぬるりと唾液を纏った舌が首筋を這って、飛雄馬は奥歯を噛み締めると目を閉じる。
しかし、目を閉じたことが却って感覚を過敏にし、皮膚の薄い首筋を吸われるたびに飛雄馬の体は跳ねた。
心なしか、紺色のシャツ1枚の下、胸の突起が膨らみ始めていて飛雄馬は羞恥のあまり耳までを赤く染める。
するとそれに花形も気付いたか、顔を背けた飛雄馬の耳に淡く歯を立てながら、力を緩めた右手で組み敷く彼の突起を弾いた。
「あ、ぁっ!」
思わず口から漏れた高い声に飛雄馬は口元を自由になった腕で覆うと、その目を涙で潤ませた。
弾かれたそこから甘い痺れがじわじわと全身を侵食し、下腹部を疼かせる。
「どうされるのが好きかい、飛雄馬くんは」
「…………」
飛雄馬は馬鹿なことを訊くなとばかりに花形を睨み据えたが、尖った突起の芯を2本の指の腹で捏ねられ、為す術なく体を仰け反らせることになった。
「下の方もだいぶ限界が来ているようだが、触らずともいいのかね」
「っ、ぅ……うっ、」
シャツの上から突起を舐められ、飛雄馬は爪が食い込むほど強く口元に当てた手で拳を握る。
そのままゆるくそこを吸い上げられ、飛雄馬の思考は一瞬、真っ白に染まった。
全身からどっと汗が吹き出し、思わず体が強張る。
「飛雄馬くんも不本意だろう。無理やりに体を暴かれるのは」
飛雄馬の穿いているスラックスの上から花形は大きく前に張った箇所を撫で、尖りきった突起に軽く歯を立てた。
「い、っ──!!」
びくびくっ!と噛まれた突起と撫でられた下腹部からの刺激が脳天を貫き、飛雄馬は絶頂を迎える。
意思に反して白濁を撒き散らしているであろう己の一部、次第に熱い液体で満たされ始めた下着の中の不快感に、飛雄馬は閉じた目尻からつうっと涙の雫をそのこめかみへと滴らせた。
「…………」
花形はそのまま飛雄馬のスラックスのベルトを緩めると、下着とともにそれら一式を彼の肌から剥ぎ取る。
そうして、露わになった飛雄馬の両足の間に身を置くなり、花形は彼の膝を曲げさせるようにして、べっとりと精液に濡れたまま臍下で佇むそれと尻の中心で固く閉じ合わされている後孔を蛍光灯の下に晒した。
惜しむらくは、飛雄馬くんが茫然自失の状態で、屈辱的な格好を取らされているにも関わらず、何の抵抗も見せてくれないことか、と花形は胸の奥で己の嗜虐欲が鈍く疼くのを感じながら、スラックスのポケットから整髪料の容器を取り出す。
蓋を開け、中身を指先でたっぷりと取ってから花形はそれを飛雄馬の尻へと塗り込めた。
「は、っ……ん、ンっ」
刺激に慣らすよう、花形は入り口に丹念に整髪料を塗布すると、指をそっと飛雄馬の中に挿入する。
それを受け、飛雄馬は腹の中に侵入してきた指に体を小さく戦慄かせた。
腹の中をゆっくり、指先で掻きながら花形は奥へ奥へと突き進んでくる。
この、腹の奥から湧き上がる感覚は一体何なのか。
花形の指が中を弄ぶたびに頭の中で火花が散る。
ぐちゅりと指で掻き回されて思わず声が漏れた。
「飛雄馬くんはゆっくり動かれる方が好みかね」
「あ、ァっ!そこ……」
「…………」
花形は指を抜き取ると、スラックスの開いた前からおもむろに立ち上がった怒張を取り出し、飛雄馬の尻に当てがう。
ふいに押し当てられた熱に飛雄馬はギクリと顔を上げ、左右に開いた足の間に花形のそれを見た。
「っ…………」
飛雄馬は全身を恐怖に、はたまた期待に震わせ、その肌を粟立たせる。
「この期に及んで、よもや飛雄馬くんも嫌とは言わんだろうね」
「…………」
飛雄馬はごくんと喉を鳴らすと、小さく頷く。
こんな馬鹿げたこと、下手に抗い長引かせるよりも早急に終わらせるべきだと思ってのことで、決して花形との行為に、酔っているわけでは────。
そんな言い訳じみたことを思い描いた飛雄馬の思考も次の瞬間、一瞬にして吹き飛ぶ。
花形が飛雄馬の中に己を咥えさせたのだ。
鳥肌が全身を覆って、飛雄馬は己の体の傍らに手をつき、腰を推し進めてくる花形の腕に縋った。
「はぁ、あっ……っう」
ゆっくり、ゆっくりと時間をかけ、花形は根元までを飲み込ませると、飛雄馬が落ち着くのを待つ。
この短時間のうちに、飛雄馬は軽く達しており、その余韻ゆえに体を小さく震わせている。
「もう達したのかね。フフッ……そんなに良かったかい」
「よく、なんか……ァっ!」
引いた腰で尻を叩かれ、飛雄馬は背中を反らすと虚ろな目で天井を仰ぐ。
「戻ってきたらいい。皆、飛雄馬くんの帰りを待っていると言うのに」
「どっ、の口が……ぁ、んんっ」
ぐちゅ、ぐちゅと花形が腰を振るたびに塗りつけた整髪料が溶け、結合部からは音が上がる。
腹側のいわゆる前立腺の位置を下から突き上げるように腰を使われ、飛雄馬はあまりの快感の強さに花形の腕に爪を立てた。
「いっ……っ、は、ながたさっ……」
またいく──と飛雄馬が身構えた刹那、花形は犯す彼の唇に噛み付くような口付けを与え、何度も何度も腹の中を抉った。
声を嗄らし、乾いた喉でやめてくれと喘ぐ飛雄馬の願いなど聞き入れようともせず、ただただ己の快楽を貪るために腰を振る。
甘い唾液を飲み下して、舌を絡めて飛雄馬は花形の肩に縋った。
その額には汗が滲み、目元は涙に濡れている。
「ふ……っ、む……ちゅ、ん」
唇を啄んで、再び深い口付けを与え、花形は辿々しく舌を触れ合わせてくる飛雄馬から唇を離すと、喉元に噛み付く。
すると、中がきつく締まって、花形はその締め付けに眉をひそめつつも歯型のついたそこを丁寧に舐めとった。
「あっ、あぁ……いっ、く……」
びくん!と大きく震えた飛雄馬の額に口付け、花形もまた絶頂を迎え、己を締め付ける戦慄きに合わせ欲を彼の中へと吐き出した。
そうして、脈動が落ち着くのを待ってから自身を引き抜くと、ベッドの枕元にあったティッシュの箱から取り出した数枚で己を拭ってから下着とスラックスの中に仕舞い込んだ。
「…………」
飛雄馬は格好を整えようともせず、ベッドの上で寝返りを打つ。
未だ腹の中に花形が存在しているような感覚が残っている。
「今日のところはぼくが手を引こう、飛雄馬くん。律儀にぼくと明子の結婚式に祝電をくれたきみだ。帰る気がないのも何か理由があってのことだろうからね」
「……………」
飛雄馬は無言のまま、体を小さく縮こまらせた。
「次は逃さんから覚悟したまえよ」
部屋の代金は支払い済だしゆっくり休むといい、と言い残して花形は部屋を出ていく。
そうして、飛雄馬は部屋の扉が閉まる音を聞いてから、ゆっくりと体を起こした。花形に触れられた体中が痛む。
飛雄馬はベッド上に投げ出していた足を抱き寄せ、いわゆる体操座りの体勢を取ってから、立てた膝に顔を埋めると大きな溜息をひとつ、吐いた。