白雪
白雪 年の瀬迫る師走の、やたらに冷え込む午後。
朝からあいにくの曇り空で、今日は1日太陽も顔を出すことはないだろうとニュース番組のアナウンサーは告げていた。
この日、伴はいつものように飛雄馬の住まうマンションを訪ねており、他愛のない会話を交わしつつ余暇時間を過ごしていた。
12月は他球団と試合の組まれていない、いわゆるシーズンオフの季節。
とは言え、無駄に日々を消化しているわけではなく、飛雄馬も午前中は伴と共に自主トレに励み、汗を流している。
この時期、道行く人々は心なしか忙しなく、デパートや近所の商店でも正月用品やクリスマスの品を所狭しと並べ、客たちを煽っていた。
そんな様子を横目で見遣りつつ、昼間は近くの中華料理屋でラーメンを啜って帰宅したふたりは、暖かい部屋でぼんやりとテレビに見入る。
しかして、元より、あまりテレビを観る習慣のない飛雄馬は次第にくだらぬバラエティに飽きてしまい、グラブを磨いたり、部屋の片付け等を行っていたが、いつの間にかソファーに座りうとうとと眠りこけてしまっていた。
伴はそんな彼の身を案じ、寝るのならベッドに行けと促すと、肩を貸すようにしながら飛雄馬をリビングから寝室へと連れ出した。
「まったく、星らしくもない。あんなところで居眠りとはのう」
「ん……寝ていた、つもりはないんだが、な」
ベッドに横たわらせ、布団を掛けながら伴がぼやいたのに対し、飛雄馬は夢うつつのまま返事をし、ふふと小さく微笑む。
「もうすぐ明子さんも帰ってくるじゃろう」
「伴」
ベッドの傍らに立ち、様子を見守っていた伴を呼ぶと、飛雄馬はどうした?と顔を覗き込んできた彼の首に腕を回し、ぎゅうっとその体に抱き着いた。
「は!?星!?きさま、寝惚けとるな!おれは星の親父さんでも明子さんでもないぞい」
「寝惚けてなどいないさ……伴。せっかくだから一緒に寝ないかと誘ったつもりだったんだが、気を悪くしたかい」
「ばっ、馬鹿を言うんじゃないぞい!ええい、星のやつ。おれをからかうな」
「伴」
ぎゅっ、と飛雄馬は伴の首に回す腕の力を強め、彼の名を囁く。
「ど、どうなっても知らんからな!」
半ば自棄になり叫んだ伴から飛雄馬は腕を離すと、遠慮がちに顔を寄せ、口付けを与えてきた彼の予想通りの行動に思わず吹き出す。
なんで笑うんじゃ!?と取り乱す伴に、すまない、と謝罪の言葉を口にしながらも飛雄馬はベッドに乗り上げるや否や、唇を寄せてきた彼の照れ隠しを素直に受け留める。
「っ、っ……」
触れた唇が思いの外熱くて、飛雄馬は身震いすると、それに驚いた伴が体を離そうとするのを彼の首に腕を回すことで制した。
「妙な声を出すな、星よ」
「ふふ……」
微笑んで、今度は飛雄馬の方から伴に口付ける。
すると、首に腕を絡めたことで浮いた飛雄馬の上体を抱き締めるように伴はその背に腕を回し、そろりと彼の口内へと舌を滑らせた。
一瞬、ギクッと身を強張らせたものの、飛雄馬もまた、それに応えるよう舌を触れ合わせる。
とっくに眠気なんてどこかに行ってしまって、暖房器具のない寒い寝室だというのに飛雄馬の体の芯は熱く火照っている。
時折、吐息を漏らしながらふたりは何度も口付けを交わしては、ふふっと小さく微笑む。
そうして、伴は一旦唇を離すと飛雄馬の首筋に顔を埋めつつ、組み敷く彼の着ているセーターの奥、シャツとタンクトップの更に下にある肌へと指を這わせ、その表面をそろりと撫でた。
伴のかさついた指先が飛雄馬の腹を撫で、ゆっくりと胸の方へと上がってくる。
うっ、と飛雄馬は短く呻くと口に手を遣り、唇をきつく引き結んだ。
期待からかすでに胸の突起は立ち上がってしまっていて、刺激を待ち侘びるように疼いている。
星、と切なげに呼ぶ伴の声が臍の下に熱を持たせ、飛雄馬はぎゅっと強く目を閉じた。
すると、伴の腹から胸を撫でていた指が突起に触れて、飛雄馬は大きく体を反らすと、ベッドの上に伸ばしていた両足の爪先に力を込めた。
遠慮がちに、突起に触れた指はそれを抓むと、押しつぶすようにこね上げる。
痛みにも似た、甘い痺れがそこから全身に走って、飛雄馬は口元に当てた手、その指を固く掌に握り込んだ。
伴に突起をゆるゆると責められ、飛雄馬の乳首は固く尖り始める。
飛雄馬のスラックスの中のものは完全に出来上がってしまっていて、その先から溢れる液体で下着が湿っていくのがわかる。
なんて焦れったいんだ。
伴のやつ、そこばっかりじゃなくて……。
飛雄馬は口元から手を離すと、大きく息を吐いてから伴の顔を真っ直ぐ見つめ、突起を嬲る彼の手に己の左手を添える。
「そこ、じゃない。伴……こっち」
いつも自身の投げ込む球を受け止めてくれる伴の手を、飛雄馬は己の下腹部に誘導し、触ってほしい、と消え入りそうな声で囁いた。
「あ、っ……!」
飛雄馬のスラックスの膨らみに触れ、伴の心臓が大きく跳ねる。
「伴……んっ、」
「き、気付かず、すまん……あ、いや、おれは何を、あ、っ、その」
しどろもどろになりながら、伴は飛雄馬のスラックスを留めるベルトを緩め、空いた隙間からその奥に指を滑り込ませた。
伴の指が下着越しに男根に触れ、飛雄馬はあっ!と思わず声を上げる。
伴の緊張がここまで伝わるようで、飛雄馬は涙に潤む目に彼を映すと、口付けをせがむよう、その名を呼んだ。
「っ、あ……」
小さく、飛雄馬の唇を啄みつつ、伴は下着の中に手を入れた。
先走りで湿った男根に指を這わせ、伴はそれをゆっくり上下にしごいてやる。
「う、うっ…………っ、っ」
呻いて、口を離す飛雄馬の唇を追い、伴は先走りを溢れさせる男根の鈴口を指の腹でぬるぬると撫でた。
「星……」
「い、っ…………く、伴……」
言うなり、飛雄馬は伴の掌の中に白濁を撒き散らし、彼の腕へとしがみつく。
とく、とく、と男根が脈動を繰り返し、落ち着くまでの間、伴は飛雄馬の唇に幾度となく口付けを与え、それが収まると、下着の中から手を抜いた。
それから伴は飛雄馬のスラックスに手をかけ、それを両足から引き抜く。
飛雄馬もそれを手伝うように腰を浮かせ、白い足をベッド上に晒すと、ゴクリと唾を飲み込んだ。
その内に、膝を立てた飛雄馬の両足のちょうど中心に伴の指が伸びてくる。
飛雄馬の出したばかりの体液をそこに馴染ませるようにしながら伴は己を受け入れてもらうための準備を始める。
固く閉じ合わされた入り口を指の腹で撫で、緊張を解してやってから中へと指を挿入させていく。
拒絶するかのごとく、一度は伴の指を飛雄馬も締め上げたが、徐々に体の力を抜くようにしながら彼を受け入れた。
根元まで中に差し込んでから今度はゆっくり引き抜きつつ、中を慣らしながら2本目の指を飲み込ませる。
今まで幾度となく繰り返してきたことで、やり方も何もかも頭の中に入ってこそいるものの、伴は飛雄馬の様子を見ながら丹念に彼の体を作り上げていく。
背番号16を背負い立つ、彼の体にもしものことがあってはならないというその一念からだ。
そうでなくとも、痛みを与えるなど以ての外である。
「あ……っ、う」
「星、来ても、いいか」
辛抱たまらず、伴が尋ねる。
飛雄馬は頷くと、伴を受け入れようと腰の位置を調整し、膝立ちになった彼の顔を見上げた。
「…………」
「あ、あまり見るんじゃないぞい。照れるわい」
「それは、お互い様さ」
飛雄馬が言うと、そりゃ、そうじゃがと伴は苦笑しながらも彼もまた、ベルトを緩め、スラックスのボタンを外すとファスナーを下げ、中から男根を取り出した。
飛雄馬の心臓はそれを目の当たりにし、ドキッと大きく跳ねた。
何度も、伴とは繋がってきたはずで、今更驚くことも身構えることもないのに。
飛雄馬は大きく開いた足の中心ににじり寄り、腰を押し当てて来た伴の肌の熱さにハッ、と我に返る。
と、その瞬間、尻に熱いものを押し当てられ、体の奥へと押し入ってくる感覚に奥歯を噛み締めた。
伴の腰がゆっくりと飛雄馬の股関節を押し広げていく。
「は、ぁ、あっ……」
吐息を漏らし、飛雄馬は伴の腕に縋った。
その顔を愛おしげに見下ろしつつ、伴は腰を進め、最後までを飛雄馬の中に埋め込むと、その体が馴染むのを待つ。
「全部、入ったぞい」
「ばか……わざわざ、っ、言わなくていい」
緊張を解すよう、そんな会話を交わしてから伴は腰を動かし始めた。
腹の中が引きずられ、飛雄馬はぶるっ、と戦慄くと伴の腕に爪を立て、声を上げる。
「ゆ、っ……くり、っ」
「ゆっくりやっとるつもりなんじゃが……」
伴はそう言うものの、体格の良い彼が腰を使うといくら速度を緩めたとて体重がそこに乗り、飛雄馬の腹の中を深く抉ることになる。
「ふか、ぁっ………っ、う!」
どすん、とやられた衝撃で軽く飛雄馬は達してしまう。
飛雄馬の目の前にチカチカと火花が散り、頭の中が一瞬にして靄がかかったように白濁する。
「もっと、遅い方がいいんかのう」
「ばっ……ち、がぁっ!あ、あっ」
達したばかりの中をゆるゆると浅く嬲られ、飛雄馬は体を大きく反らした。
しかして、伴は逃げる飛雄馬を追い、中を掻き回すよう腰を動かし、結合部に体重をかける。
「っ────!」
飛雄馬のより深い場所を伴は責め上げ、腰を叩きつけた。
再び絶頂を迎え、喉を晒した飛雄馬の首筋に伴は口付け、吐息混じりに名を呼ぶ。
「あ、あっ………」
口を開けたまま、喘ぐ飛雄馬に唇を押し当て、伴は自分もまた、絶頂を迎えるために腰を振る。
肌に浮いた汗に舌を這わせ、腕に縋る飛雄馬の手を首へと回してやった。
「う、う、星……」
「はぁっ…………っ、伴、出せ。そのまま、いい、っ、から」
「ほ、星?」
「伴……っ」
体を離そうとする伴の腰に飛雄馬は足を回すと足首を交差させ、彼の体を締め上げる。
「星……っ、」
どく、と腹の中で放たれた熱に飛雄馬は体を震わせると、閉じていた目を開け、己の上に覆いかぶさっている伴の顔を見上げた。
未だ腹の中では一定の律動を繰り返しながら伴が欲を吐いている。
「ふ、ふふ……伴。いつも付き合わせてすまん」
「はあっ、ふぅっ……何を、それはおれの台詞じゃわい……」
射精を終え、伴は男根を引き抜くと辺りを見回し、飛雄馬の頭の置かれた枕元にあったティッシュ箱を手に取ると、中身を数枚取り出した。
それで飛雄馬の尻を拭いてやってから、新たに取り出した数枚で己の処理を終える。
「……伴、すまんついでに悪いが、少し……眠らせて……く、」
言い終わる前に、飛雄馬が意識を手放し、すやすやと寝息を立て始めたために、伴はギクリと身を強張らせたが、そっと掛け布団をその体の上に掛けてやった。
それから、衣服の乱れを直し、リビングに戻るとちょうど飛雄馬の姉である明子が帰宅したために、またしてもギクッと体を跳ねさせる羽目になる。
「あら?飛雄馬は?伴さんひとり?」
「あ、あ。星のやつう、疲れたから眠らせてほしいと寝入ったのがつい今のことで……起こしますか」
全身にかーっと汗をかきつつ伴は明子に声をかけた。
しかして、明子はそんな伴の様子を怪しむでもなく、いいのよ寝かせておいて。それより、と言いつつ何やらテーブルの上に置いた白い箱を開ける。
「本当は伴さんと飛雄馬の分と思って買ってきたんだけど、ふたりで食べちゃいましょう」
明子は片目を閉じ、ウインクすると、ケーキ屋で安売りされていたと言うケーキをふたつ取り出し、ニコッと笑んだ。
「し、しかし……!?」
「ふふ、たまにはね。飛雄馬には秘密よ」
「…………」
流されるままにソファーに腰掛け、明子の入れてくれたコーヒーを啜りつつ伴はショートケーキを胃の中に収めていく。
すると、東京タワーが一望できるリビングの窓の外にちらほらと白いものが舞い始めたのが目に入って、伴は雪ですかのう?と明子に問いかけた。
「あら、ほんと。雪みたいね」
「また、寒くなりますわい」
ちらちらと舞っていた雪も次第にその粒が大きくなり、住宅の屋根を白く覆っていくのが目に入る。
伴は白くて甘いケーキをコーヒーで無理やり流し込むと、雪がひどくなる前に帰ります。と言うなり、腰を上げた。
「あら、飛雄馬を起こしましょうか」
「いえ、このまま帰ります。星にはよろしくお伝えください」
「気を付けてね」
「ケーキ、ごちそうさまでした」
玄関先で靴を履き、頭を下げてから伴はマンションを出る。
そうして、積もらないでいてくれることを願いながら雪にはしゃぐ人々を尻目に、大きなくしゃみをすると、足早に宿舎への帰路を急いだ。