親友
親友 「ああ、しかし驚いたぞ。星がおれなどいらんと言うたときには心臓が止まるかと思うた」
「そんなことは言っていないだろう。大袈裟だぞ」
ははは、と伴と飛雄馬はそれぞれに顔を見合わせて笑う――
この日、伴宙太が正月早々星飛雄馬が今は一人で住むマンションを訪ねてきたには理由があった。
あの中日ドラゴンズのコーチを務める星一徹――飛雄馬の実の父が伴をトレードしたいと申し込んできたからである。飛雄馬は目の前で父の口からそれを聞かされ、知っているし、伴はそのトレードしたいと申し込まれた張本人だ。
ゆえに、伴は飛雄馬に会いに来た。彼の口から直接、おまえとおれはずっと一緒だ。中日になぞ行くなと、そう言ってほしかったからだ。
しかして、飛雄馬は逆におまえは中日に行けと。縁の下の力持ちで終わることはないと言ってのけた。それに憤慨し、落胆し、伴は秘めていた内なる思いを飛雄馬に告白したのである。
そのさなか、川上監督からの電話でトレードはせぬ、ときっぱり言われ、二人は泣きながら先程の非礼を侘び、わははと笑ったところであった。
「しっかしのう、星よ。先程のおまえの喜びようと言ったらなかったぞ。電話を切るなり嬉しそうに駆けてきおって」
「……そ、それは伴だって一緒だろう」
「そりゃあ嬉しいわい」
「うふふ……」
飛雄馬はにっこりと笑んで、隣に座る伴の体にその身を預ける。
「わっ、な、なんじゃい」
「少し、冷えるなと思ってさ」
伴はぎゅうっと飛雄馬の体を抱き締め、その顔を彼の頬に擦り寄せる。
「くすぐったいぞ……」
「おまえも酷な男じゃ。ふふ、今に始まったことではないがのう」
「酷だって?おれがかい」
「星」
飛雄馬の体を抱いたまま、伴は目を閉じ唇を尖らせた。
「ふっ、ふふふ……」
クスッと吹き出して飛雄馬は伴の尖らせた唇へと口付ける。冷えた唇に伴の熱い舌が触れて、そのまま口の中に滑り込む。
「は、うっ……伴、まだ昼間じゃないか……」
「構うか。昼だろうと夜だろうと」
喘ぐ飛雄馬の唇に伴は己のそれを押し付け、再び口内を舌で弄った。
「ん、ふ……っ」
「星、星。おれはおまえがすきだ。どこにも行くなと言うてくれ」
「……」
飛雄馬の体を抱く伴の腕により一層力が篭もる。
「うっ、苦しいぞ……伴」
「言えと言うとるんじゃあ!星!」
「く、くっ……」
伴の柔道仕込みの腕力から逃れようと飛雄馬はもがくが、伴はその手をけして緩めない。
「くるしっ、伴……はなせ」
「なぜ言わん」
「っ……」
瞬間、伴の手が緩み、飛雄馬はふらっと床に倒れた。息も絶え絶えに見上げた伴の瞳からは大粒の涙が溢れている。
「伴……」
掠れた声で飛雄馬は彼の名を呼ぶ。すると、間髪入れず伴は飛雄馬の体の上に覆い被さってくる。
「おれはずっとおまえのそばにおるつもりだ。ずっと」
「……ふ」
口元に笑みを携え、飛雄馬は己を組み敷く男の顔を仰いだ。いつもの顔だ。いつもの伴宙太の顔。それがなぜだか懐かしかった。この男なら、本当に、自分のそばにいてくれるかもしれない、と飛雄馬は思った。大リーグボール一号を編み出したときも、二号を編み出した際も、ずっとずっとそばにいてくれた。
その身を犠牲にして、時には血反吐を吐き、傷だらけになりながらこの男はずっとおれのそばにいてくれた。
「な、なんで笑うんじゃあ」
「いや、伴の顔があまりに鬼気迫っていたから……」
言われ、伴はぽりぽりと頬を掻いてから飛雄馬の顔の横にそれぞれ両手を着いた。
「おまえは、それでいいのか」
「はっ?」
「伴は、それでいいのか。消える魔球の謎を今にも暴かれ、死に体となりつつあるおれのそばにいて」
「な、何を言うとるかあ。正月早々、縁起の悪いことを吐かすな」
「……」
顔のそばにあった伴の大きな手に飛雄馬は触れ、その腕を掌で撫で上げる。
「おれの玉を取ることだけが、おまえの幸せか」
「ば、馬鹿を言うな!さっきから何なんじゃあ星よ!」
「ふふ……いや、訊いただけさ」
飛雄馬は伴の腕から手を離し、その手で彼の頬に触れた。おれの速球を受けたのもこの頬だったな、と。野球のことなどほとんど分からぬ伴をこの世界に引きずり込んだのは他でもないおれだ。
伴は、それで本当に良かったのか……
己の頬を撫でる飛雄馬の手を伴が握った。
「おまえの幸せがおれの幸せじゃ。はは、ちとクサイな」
「……」
恥ずかしそうに頬を染める伴の顔を一瞥し、飛雄馬は目を閉じる。と、暗闇の中、伴の気配を感じて、飛雄馬は唇を開く。
唾液を纏った伴の舌が歯列を割って、飛雄馬のそれと絡んだ。ちゅっ、ちゅっとわざとらしく音を立て、伴は飛雄馬の唇を啄みつつ、組み敷く彼の下腹部へと手をやる。黒いスラックスの上から大きな手で陰嚢と逸物をすりすりと撫でてやれば、飛雄馬の体はビクンと仰け反った。
「はっ……あ」
背を反らし、目下に晒された飛雄馬の首筋に顔を寄せ、伴は薄い肌に強く吸い付く。赤い鬱血の跡が吸い付くたびにひとつ、ふたつと飛雄馬の喉に散っていく。
「あとを、つけるなっ」
「どうせ見えやせん」
「〜〜っ!」
男根を己の腹に押し当てられ、下着の摩擦による刺激を伴の手によって与えられていた飛雄馬は震え、窓の向こうに広がる逆さまの東京タワーを仰いだ。伴の掌ですっかり出来上がってしまった飛雄馬の逸物は彼の手により絶頂へと追い立てられていく。
「はっ、伴……やめろ、ふくをっ、よごすな」
「……」
すっと伴は言われたとおりに手を離し、飛雄馬のスラックスを留めるベルトを緩めるとボタンを外しファスナーを下ろした。そうして、下着をぐっと下げてやると、つうっと飛雄馬のカチカチに立ち上がった男根から先走りが糸を引く。
「あまり、見るな……伴よ」
恥ずかしそうに飛雄馬は目元を腕で隠し、そんな言葉を伴に投げるが、それは逆に彼を煽るばかりだ。伴は飛雄馬の足元まで膝を使い移動すると、身を屈めその逸物を大きな口で咥えた。
「あ、ひっ……」
間髪入れず、ちゅうっと亀頭を吸われ、ぶるぶると飛雄馬は震える。伴は上顎と舌で挟んだ飛雄馬の男根を舌の腹で上下にぐりぐりと撫で、溢れる先走りを吸った。
根元までぐぶっと逸物を頬張って、唾を飲むように口の中をぐねぐねと動かしてやれば、飛雄馬の男根は大きく戦慄く。
「んあ、あっ……伴、っ……ばん」
喘ぐ飛雄馬に伴は気を良くし、唇をすぼめたままぐちゅぐちゅと唾液の泡立つ音を飛雄馬に聞こえるようにしながら彼の逸物を己の舌と唇、そして口蓋でしごきあげた。
「あくっ、う、うっ」
飛雄馬の腰がふらふらと震えだす。絶頂が近いことは伴も気付いている。ならば、と伴は口の動きを早め、飛雄馬の射精を促す。
「いっ、伴、口、離せ……でるっ、ひ、ううっ」
びくっと飛雄馬は体を跳ねさせ、伴の口の中にどくどくと精を吐く。
舌に乗る液体を飲み下し、脈動が収まるまで伴は飛雄馬の逸物を咥えていたがふいに口を離すと再び彼の体を組み敷く。
射精し、しばらくぐったりとなっていた飛雄馬のスラックスと下着をゆっくり引き抜いて、伴は彼の腹の上に乗っているセーターの裾を肌の上に手を滑らせ、胸のあたりまでずり上げた。
指のくすぐったいような、何やら頼りないような感覚が飛雄馬の皮膚の上を滑る。
「ふ、っ……う」
絶頂の余韻ゆえか、そのもどかしいような切ない刺激が妙に飛雄馬の身を跳ねさせた。
「星」
呼ばれ、飛雄馬は目を開ける。今にも泣き出しそうな伴の顔がそこにはあって、飛雄馬はふふ、と吹き出す。
「伴、いい。来るといい……」
「え、いいのか」
「いいさ。ほら、テーブルの上、ハンドクリームがあるだろう」
ついと視線を動かし、飛雄馬はテーブルの上に置かれていた容器を指し示す。投手ゆえに手指の保湿や保護は怠ってはならない。仮にあかぎれなど出来て痛みを伴えばピッチングに支障をきたすこともある。
「……」
伴は飛雄馬の示した方を見遣って、クリームの容器を手に取ると中身を掬って飛雄馬の尻にべたりと塗り込む。太い大きな指がくりくりと窄まりを撫で、飛雄馬のそこは物欲しそうにひくついた。
膝を立たせ、飛雄馬は声を殺すために指を噛む。
「指を噛むな星……投げられんようになるぞ」
「うっ、く……」
言われ、飛雄馬は口から指を離す。そうしてカーディガンを着込んだ腕で口元を覆った。ぎゅうっとその手は拳を握っている。 くちゅくちゅとしばらく窄まりを撫でていた伴だったが、その皺の中心に指を滑らせた。
「……!!」
「きついか」
訊かれ、飛雄馬は首を横に振る。伴は飛雄馬の様子を見ながら入れた指を抜き差しし、窄まりを広げるかのように指を回す。
「はっ、ぐ……ぐっ」
「星」
「だっ、じょぶ、だから……伴、っふふ、おまえはいつもそうだな。無理やり仕掛けておいてそうやって訊く」
「む、そ、そうかのう」
「……も、っ、いいから……伴」
「しかし」
「はやく……」
「……」
しばらく伴はきょろきょろと目を泳がせていたが、ふとベルトを外しスラックスの中から逸物を取り出すと、飛雄馬の片足をぐいと開かせ、解した彼の窄まりに己を押し込んだ。まだしっかり慣れていない飛雄馬のそこは無理にこじ開けられ、痛みを彼にもたらした。
いっ!と引き攣った声を飛雄馬が漏らしたために、伴はまた大丈夫かと尋ねる。
「……は、ふふ、伴はやさしいな」
「優しい?おれが」
「ああ、とても……」
「そ、そうか。それは嬉しいぜ」
照れ笑いをする伴を飛雄馬はまともに見られず、目を閉じる。
そうだ、優しすぎるんだ、おまえは……何もおれの人生に無理に付き合うことはない……
ふいに伴の腰が動いて、ずっ、と飛雄馬の中を擦った。夢想していた飛雄馬であったがその刺激に一気に現実に引き戻される。
様子を伺うようなその動きは優しく、単調でもある。
「っ、伴。動け……もっと」
「……どうしたのだ星よ。おかしいぞ今日のおまえは」
「は、あ、あっ!」
突如として飛雄馬の口から漏れた声にびくっと伴は怖気づいたものの、腰を振ることに集中する。単調であった動きも緩急が加わって、より奥へ、深く入り込んでくる。
そうだ、今だけでもいい。全てから、何もかもを忘れさせてほしい。
野球のことも、とうちゃんのことも。伴だけを見ていたい。飛雄馬は伴の太い腕に縋って、その指で彼の腕を掻いた。
「あっ、伴……っ……ばんっ」
「そう呼ばんでも、ここにおるぞ」
「――っ、あ、ンッ」
ぐちゅっ、と奥を穿たれ、飛雄馬は仰け反る。とうちゃんも、ねえちゃんもいなくなってしまった。美奈さんも、みんなおれを置いて……伴にまで去られてしまったら、おれは――けれども、それは伴のためになるのか?
「うぁ、あっ!」
「星。なあ、言うてくれ……」
「ふぅ、うっ……言わんと、わからないか……?おれはすきでもないやつとこんなことは、しっ、なぁっ……ああ――っ!」
奥を執拗に抉られ、飛雄馬は喉奥からはしたなく声を上げる。
「星……」
ギリギリまで引き抜いた逸物を一気にぐっと伴は飛雄馬の中に押し込む。粘膜が引きずられ、引き攣った。
「あ、っふ……ばっ、いくっ、突いて、もっと」
「……」
妙だ、と伴は思う。トレードせず済んだというのに、なぜこうも星は縋るような目をするのか、と。喜んでしかるべきであろうに、どうして。
「はぁ、あっ」
ぴくっ、と飛雄馬は震え、達したかそれからふるふると身を跳ねさせるが、伴はそれを気にする様子でもなく、自身が射精するために腰を振る。飛雄馬のちいさな尻をその大きな腰で叩いて、快楽を貪る。
「伴、いっ……ひ、くぅうっ」
「何度でもいったらええ……」
「あ、ん、んっ」
「……うっ、いかん」
ぼやいて、伴は飛雄馬の中から己を引き抜くと、彼の腹の上に欲を飛ばす。
「あっ、くそ。すまん、出てしもうた」
「……」
足を床に投げ出し、飛雄馬は己に背を向け後始末をする伴の背中を見上げる。
「あっ、星よ。ティッシュ……」
後処理を終え、振り向いた伴の体を体を起こした飛雄馬がぎゅっと抱いた。
「ほ、星?」
「何も言うな……」
「……」
唯一無二の親友の胸に抱かれ、伴は鼻を啜る。誰が離れてなどやるものか、と改めてそんなことを思う。
しかして、飛雄馬の胸中はそうではない。もう既に腹づもりは決まっているも同然であった。より一段と強く、伴を抱く飛雄馬の腕に力が篭もる。伴はそんな飛雄馬の体を自身もまた、強く抱いてやりながらにわかに浮かんだ不安の感情を押し殺しながら星、と呼んだ。