深更
深更 どうにも眠れない、と飛雄馬は頭から潜り込んだ掛け布団と敷布団の間で体を小さく縮こまらせた。
体がどうにも火照ってしょうがない。
眠ろうとすればするほど頭が冴える。
早く眠らなければ、朝の練習に寝坊してしまう。
再び、悶々としながら飛雄馬が寝返りを打った瞬間、ふいに背中側から何者かに布団をめくられる。
ハッ!と背後を振り返るようにして体を起こした飛雄馬の瞳に映ったのは、掛け布団をめくり上げている、たった今まで隣で寝息を立て眠っていた父の姿であった。
「と、とうちゃん……」
「さっきから寝返りばかり繰り返しおって。どうした」
「な、何でもないんだ……すぐ、眠るよ」
「…………」
そう、答えるや否や布団に身体を横たえた飛雄馬だったが、あろうことか父は彼の布団の中に己の体を忍ばせ、その背に体の前面をすり寄せてきた。
「え……!?」
かあっ、と一度は冷めかけた飛雄馬の肌に再び熱が灯る。
「フフ、お前もそんな年になったか」
父の──、一徹の囁くような声が飛雄馬の鼓膜をくすぐる。
一瞬、身構えた飛雄馬の下腹部に一徹はためらうことなく手を伸ばし、寝間着として着用している浴衣の帯の下、その合わせから中へと手を差し入れた。
すると一徹の手は飛雄馬の固く立ち上がっている男根へとぶつかって、彼はそのまま下着の上からその膨らみをゆるゆると撫でさする。
「あっ………!」
喘いだ飛雄馬の体がびくん!と反応し、腰が引ける。
慌てて口を押さえた飛雄馬の心臓が今にも破裂しそうに早鐘を打ち始めた。
「誰のことを思っておった?正直に言うてみい」
一徹の囁く声が耳から飛雄馬の全身へと甘い痺れとなって走る。
飛雄馬の頭はまるで熱病に冒されたときのように思考が纏まらなくなってくる。
飛雄馬は一徹の手の動きひとつひとつに敏感に反応を返し、ピンと張った下着の頂上にじわりと染みを作った。
「いつまでも子供と思っておったが、ここを一丁前に反応させるようになったんじゃのう」
笑み混じりに一徹は囁くと、ついに下着の中に手を入れ、直に男根に触れる。
「っ……!!」
「堪えい、飛雄馬。明子が目を覚ますと面倒じゃ」
一徹の節くれだった指が飛雄馬の先走りを纏い、その鈴口をぬるぬると撫でた。
すると、飛雄馬の意志とは関係なくそこからは先走りがとろとろと溢れては、一徹の指を濡らしていく。
飛雄馬は口を押さえたまま目を閉じ、声を一生懸命堪えた。
そうして、ふと、飛雄馬は頭の中にとある人物の顔を思い浮かべる。
この手が、背中に触れるぬくもりが、彼だったら……。
飛雄馬がそう、脳裏に思い描いたのも束の間、一徹は鈴口を撫でていた手で男根を握ると、それを上下にしごき始めた。
「────!!」
「あの男……伴のことを考えておったのじゃろう。飛雄馬、わしにはお見通しじゃよ。夜な夜なひとりでこうして己を慰めておったのも知っておるぞ」
先走りで濡れた一徹の手が飛雄馬の男根の根元から亀頭にかけてを撫でさすり、緩急をつけながら刺激を与えていく。
飛雄馬は体を小さく震わせながら違う、とでも言いたげに首を左右に振るが、お前は高校に通うようになってから変わった。わしにはわかる、と一徹は続ける。
一徹の嗜む煙草の香りと、汗をかいた肌の匂い、それらが布団の中でない混ぜになって、飛雄馬は閉じたまぶたの目尻に涙を滲ませた。
腹の奥が熱くて、頭がぼうっとしてくる。
飛雄馬の下着の中は汗と先走りとでぐちゃぐちゃに濡れていて、それが卑猥な音を立てている。
「今も父ではなく、伴に触られている想像をしておるのじゃろうて」
「〜〜っ、!」
顔を振り、飛雄馬は射精に至らぬよう臍の下に力を込めた。
おれには、とうちゃんさえいればいい。
とうちゃんさえ、いてくれたら他に何も望まない。
なのに、どうして、今も頭に浮かぶのは彼の──。
一徹は飛雄馬の亀頭からその繋ぎ目、裏筋にかけてを入念にしごいて、彼をまんまと絶頂へと導いた。
どくどく、と一徹の手の中に飛雄馬は白濁を撒き散らしてからそのまま、意識を手放した。

飛雄馬はふと、味噌汁の良い香りが鼻をくすぐった感覚でガバッと体を跳ね起こす。
しまった、寝坊した──と思ったが、明子が微笑みを浮かべつつ、おはよう、と声をかけてきたもので、寝坊は免れたようだ、と安堵しながら飛雄馬は額にかいた汗を拭った。
それから、明子の作ってくれた朝食を掻き込み、飛雄馬は身支度を整えると学校に向かうため長屋を飛び出す。
今朝、とうちゃんとは一言も口を聞かなかった。
もしかすると、昨日の一件は夢だったのかもしれない、それにしても、変な夢を見たものだな、と飛雄馬が苦笑しながら待ち合わせ場所に到着したとき、既にそこには伴の姿があり、彼はニカッと笑みを見せるなり、おはよう、と言った。
「あ、おはよう。伴。今日はきみの方が早かったんだな」
「おう。どうやらそのようだ。珍しいこともあるもんじゃのう」
からからと伴は笑うと、行こう、と先を急かす。
ああ、と飛雄馬は頷くとふたり連れたち、学校までの道のりを行く。
まだ登校時間には早く、生徒の姿も部活の朝練に向かう者以外はほとんど見られない。
飛雄馬は隣を行く伴の顔を何を言うでもなく見上げ、何かおれの顔についとるか?と尋ねた彼に何でもない、と告げてから、何やら胸の奥にモヤモヤとわだかまる感情に蓋をして、今日も練習頑張ろうぜ、とだけ言葉を返す。
言われんでもわかっとるわい、と笑ってくれた伴の笑顔がやたらに眩しくて、飛雄馬はふと、腹の奥が疼いたことにハッとなり、薄く開いた唇を、目の前の彼に悟られぬようにしながら強く、引き結んだ。