誠意
誠意 廊下側の襖を開く音で、飛雄馬は目を覚ます。
とは言え、いつものように親友が忍び込んできたのだろうと体を起こすこともせず、半ば寝惚けたような状態で、彼の名を呼んだ。
しかして、襖を開けた彼──は後ろ手で開けた戸を閉めると、口を開くこともなく、そろそろと飛雄馬の寝床へとゆっくり、摺足で歩み寄ってきた。
妙だな、と飛雄馬はそこで違和感を抱く。
いつもであれば、起きてたのか、と悪びれる様子もなく、へらへらと笑みを浮かべながらこちらの機嫌を伺うような台詞を吐くというのに。
「ヒューマ・ホシ」
「!」
自分の名を呼んだその声と、独特のイントネーションを耳にし、飛雄馬はようやく部屋を訪ねてきた人物が誰であるかを知る。ビッグ・ビル・サンダー。
おれが打者として復活するべく、親友・伴が遠くアメリカから呼び寄せてくれた、元・大リーグ選手。
引退後はその腕を買われ打撃コーチとして活躍し、つい、二、三年前までも某球団に所属していたという話だ。日本に来るのは初めてらしく、特訓の合間を縫い、東京の街を散策しに出掛けている。
先日は、浅草まで出向いたという話を面白おかしく、辿々しく日本語を操りながら語ってくれた。
そんな彼が、こんな夜更けに、なぜおれの部屋に?
「サンダーさん、どうしたんです」
ようやく、飛雄馬は体を起こすと、傍らに膝を折り、正座の格好を取ったサンダーの顔を見上げる。
自分の現役時代にも外国籍の選手は目にしたことがあったが、身長、体重共に彼らの倍以上はあるかのように思えた。
「ヒューマ、ワタシノオ願イ、聞イテクレマスカ。ワタシ、アナタニ野球教エル。ソノ代ワリ」
「お願い?おれでよければ……」
「ミスター・伴カラハマネー、タクサン貰ッテマス。デモ、ヒューマ・ホシカラハ何モアリマセン」
言われてみれば、おれは教えを乞う身でありながら、サンダーさんにも伴にも今日に至るまで、何もお礼らしいことをしたことがなかった。感謝の言葉を口にこそすれ、それらしい対価を払った記憶がない。
しかし、そう言われたところで、何をしてやったらいいのか皆目見当がつかない。
「何が、お望みですか、サンダーさん」
恥を忍んで、飛雄馬は単刀直入に本人に尋ねることとした。日本のやり方で誠意を示したところで、伝わらなければ意味がないと思ったからだ。
それならば、相手の国の、相手のやり方を尋ね、知ることが一番良いのではないか、と。
それにしても蒸し暑い。
扇風機が確か、部屋の隅に出してあった気がしたが。
「ワタシ、ヒューマ・ホシトセックスシタイ」
「…………」
今、サンダーさんは何と?
飛雄馬は暗い部屋の中、陰になり、よく見えぬサンダーの顔を見つめながら、彼が発した言葉の意味を考える。ああ、こんなことなら英語の勉強をしっかりしておくのだった。所詮、中学までの知識ではサンダーさんの国の言葉をろくに理解できやしない。
「も、申し訳ない。サンダーさん、言葉の意味がわからなくて……その、したいと言うのは何を……?」
尋ねてから、飛雄馬は扇風機をこちらに寄せるために立ち上がる。部屋の隅、確かこっちの方に置いてあったはずだが。
「ヒューマハ初メテデスカ」
手探りで扇風機を探し当て、飛雄馬はこれまた記憶を頼りに手探りで見つけ出したコンセントにプラグを差し込むと、布団の足元まで寄せてから、中のボタンを押す。室内の生ぬるい風が撹拌され、飛雄馬の髪を揺らした。
「初めて、何がです?その、したいと言ったことに関係ありますか」
布団まで戻り、飛雄馬はサンダーの問いに答える。
と、ここに来て正座の格好を取っていたサンダーに動きがあり、やおら飛雄馬の顔を覗き込むと、その肩を両手で掴むや否や唇へと吸い付いた。
勢いのままに飛雄馬は布団の上に押し倒され、受け身を取る間もなく、サンダーの体の下に組み敷かれてしまう。
「っ……!」
飛雄馬の口の中をサンダーの舌が這い回り、呼吸が出来ない。体を押し退けようにも、体格差が邪魔をして身動きが取れない。苦しい、離してくれ、サンダーさん。言葉を発することもままならず、飛雄馬はただただサンダーにされるがままに唇を貪られる。
「ふ、ぅ……っ、っ」
意識が飛ぶと思われたその刹那、飛雄馬は唇を解放され、突如として肺を満たした空気に噎せ、咳き込んだ。しかして、サンダーの手は止まず、今度は体を起こすと、飛雄馬の寝間着代わりにしている浴衣の裾から腿へと指を這わせてきた。
「っ、ぐ……サンダー、さんっ、あなたは、一体、なにをっ……」
「静カニ、ヒューマ、ミスター・伴ニ気付カレマース」
腿を這うサンダーの指が、下着へと掛かり一息にそれをずり下げると、現れた男根へと彼は躊躇することなく口付け、そのままぱくりと咥えた。
「なっ……!」
熱い口内に包まれた男根は充血し、サンダーの口の中で大きさを増していく。舌と上顎で挟み込まれ、ねっとりと舐め回され、飛雄馬は体を震わせた。
じゅるじゅると音を立て、サンダーは飛雄馬の男根を吸い上げ、昂ぶらせていく。
「はぁっ……っ、サンダーさっ、っ」
サンダーの頭に片手を遣り、飛雄馬はもう一方の手で己の口元を覆う。馬鹿な、サンダーさん、あなたは自分が今、何をしているのかわかっているのか。
飛雄馬の顔は恥ずかしさのあまり紅潮し、その両目には涙が浮かぶ。噛み締めた奥歯は軋み、音を立てる。
「ヒューマ、カワイイデス……トテモ……キュート」
「あぁっ、やめ……っ、!」
ぶるぶると体を戦慄かせ、飛雄馬は遂にサンダーの口の中にて絶頂を迎えてしまう。
ようやく、サンダーの舌の動きもそこで止まり、飛雄馬は布団の上でぼうっと放心状態となった。
未だ、サンダーの口内では男根は射精し続けており、飛雄馬は情けなさから涙の滲んだ目元を腕で覆う。
サンダーさんのお願い、とはこのことだったのか?
それならば、この状況に甘んじて泣き言を言うべきではないのだろう。けれども、おれの気持ちは……。
「ひ……っ、」
浴衣の乱れを直すこともせず、放心状態のまま布団の上に横たわっていた飛雄馬だったが、突如として現実へと引き戻される。先程弄ばれた男根の下、尻を生温かいものが這ったからだ。
その生温かいもの、が、サンダーの舌だと気付くのにそう時間は要さず、飛雄馬は、立てられた膝を揺らし、布団の上で足の爪先を尖らせた。
唾液を塗り込むように、サンダーは飛雄馬の尻の中心に舌を這わせ、その窄まりへと舌先を潜らせる。
入口付近を舌が行き来し、飛雄馬は鼻がかった甘い声を口から漏らした。
「っあ……ぁ、ん、ん」
「ヒューマ、気持チイイデスカ。ウフフ……」
嫌だ、しかし、無下には出来ない。
おれの態度ひとつで、サンダーさんはアメリカへと明日にでも帰ってしまうだろう。それだけは避けたい。
おれのためにも、大枚をはたき、呼び寄せてくれた伴のためにも。
扇風機の風が、汗をかいた肌の上を撫でていく。
「サンダー、さっ、……もう、やめて……」
「NO,ヒューマ、ソレハ出来マセン。次ハワタシノ番デース」
言うなり、サンダーは体を起こし飛雄馬の足を大きく広げると、その間から身を乗り出す。
そうして膝立ちになり、穿いていたジャージを下ろすと、中から男根を取り出してみせた。
「…………!」
わざとらしく腹の上へと置かれたサンダーのモノの大きさに、飛雄馬は肌を粟立たせた。
およそ二十センチはあろうかというその規格外のサイズに飛雄馬は、後生だからやめてくれ、と首を振る。
その声に、サンダーの男根はビクリと跳ね、飛雄馬の腹に先走りを溢した。
「No problem.ヒューマ・ホシ」
サンダーさんは、あれを、おれの中に入れる気なのだろう。だから、あんな場所……。
サンダーが腰を引き、飛雄馬の尻へと男根をあてがう。ぬるっ、と何やら滑ったのは、サンダーの先走りのせいだろうか。
「サンダーさん、ほんっ、とうに……」
「…………」
飛雄馬の中へと、サンダーが入り込む。
入口が強引に押し開かれ、腹の中もまた、彼の大きさに応じて拡張されていく。
「っ、っ……」
「ヒューマ、痛イデスカ」
わなわなと全身を震わせる飛雄馬の髪を撫で、サンダーは頬を大きな手で包み込むと、口付けを与えてきた。先程の強引なものではなく、ゆっくりと唇を重ね、ゆっくりと舌を滑らせてくる優しい口付けに、飛雄馬は、目を閉じ、それに応えた。
すると、サンダーは男根を半分ほど腹の中に挿入し、びくんと体を跳ねさせた飛雄馬の唇を解放した。
「…………」
「セクシーネ、ヒューマ・ホシ。ワタシ、一目見タトキカラアナタト繫ガリタイト思ッテマシタ」
言うと、根元までを飛雄馬の中に埋め、サンダーは、呻いた飛雄馬の額に口付けると、腰を引いた。
「やっ、やめ……サンダーさん、まだっ──ぐぅっ!  」
腹の中をみっちりと満たしたサンダーが引いた腰を打ち付け、飛雄馬の腹の奥底を男根で突いた。
腰を引き、それを打ち付けるたびに反った先端がぐりぐりと内壁を擦り上げ、飛雄馬の口からあられもない声を上げさせる。
「モット声ヲ出シテ。大丈夫、ミスター・伴、グッスリ眠ッテマス」
「サンダー、さっ……ん、んっ……ぁ、ああっ!」
飛雄馬の両足を脇に挟み込んで、サンダーはその場で正座をすると、浮いた尻へと己の腰を叩きつけた。
腹の中を犯される感覚にようやく慣れつつあった飛雄馬だが、サンダーの男根が擦る位置が変わったことで、また一から快感を与えられることとなる。
叩きつけられる腰にはサンダーの体重が乗り、飛雄馬の体は激しく揺さぶられる。
全身はびっしょりと汗に濡れ、肌の上を滑り落ちて行く。
「ヒューマ、アナタワタシノモノ、モウ、他ノ男ジャ満足出来ナイ」
サンダーはそう言うと、笑い、飛雄馬の口の中に指を滑らせる。
「ふ……っ、」
頬をサンダーの指先が撫で、歯列をなぞる。
たらりと溢れた唾液がサンダーの指を伝い、飛雄馬の首筋へと流れ落ちた。と、サンダーが飛雄馬の中を掻き回すように腰を回す。
思わず声が出るほど敏感な位置を嬲られ、飛雄馬は背中を反らすと、己が身を置く布団に爪を立てた。
「ワタシノモノニナルト言イナサイ、ヒューマ」
「っ、ぁあっ!いくっ、いっ……!」
迎えた絶頂の余韻に体を浸らせ、小さく身を戦慄かせていた飛雄馬の体を、サンダーは男根を一度抜いてからくるりと回転させ、たった今達したばかりの体に今度は後ろから挿入した。
腰を突き立てられるたびに、快感が脳天を抜け、全身を脱力させる。
「サンダーっ、さ……ゆるして、ゆるし……っ、あぁあっ!」
腰を掴まれ、激しく尻をサンダーの腰に叩かれて飛雄馬は布団に右の頬を突っ伏したまま声を上げた。
腹の奥底をサンダーの男根が突き、飛雄馬を再び絶頂へと向かわせる。
「ヒューマ、言イナサイ」
頭を上から押さえつけられ、飛雄馬はサンダーを締め付ける。
「なぜっ、そんな……ことっ……あっ、そこ、っあ"──!」
とろとろと溢れた飛雄馬の男根からの先走りが布団を濡らす。二度目の絶頂を迎えた飛雄馬はサンダーが離れたことで、体の支えを失い、その場にうつ伏せに倒れ込んだ──と、またしてもサンダーは飛雄馬の体を仰向けにし、再び、彼を犯しに掛かった。
「やめ、ぇ……サンダーしゃ、っ……これいじょっ、おっ♡」
どすん、と腹の中を体重を掛けて突かれ、飛雄馬の口からは声が上がった。全身からは二度も与えられた絶頂の余韻が抜けきらず、ほんの少し腰を使われただけで、激しい快感の波が襲ってくる。
「…………」
「こしっ……♡だめっ、っ♡サンダーさっ、ん、んんっ♡♡」
浅い位置をゆるゆると嬲られ、飛雄馬は口元を両手で覆うと、サンダーの体の脇で膝を震わせる。
「ヒューマ、頭ノイイアナタナラ、分カルデショウ」
「なるっ、なりまひゅ、からっ……抜いて、抜いてくださっ……ァ、あ"ぁっ!!」
奥まで突き立てた男根で腹の中を掻き回すように、サンダーは腰を回す。
絶頂の痺れが体を支配し、飛雄馬は全身を震わせるが、サンダーの腰の動きは止まず、どすどすと音を立て、尻へと打ち付けてくる。
「ハァッ……ヒューマ、ヒューマ・ホシ……」
「っあ"、ぁ♡おかしっ……おかしくなるっ、いやらっ、ゆるして…………!」
涙をぼろぼろと溢し、垂れる鼻を拭うこともできぬまま飛雄馬はサンダーから与えられる快感に身をよじり、感じるままに声を上げる。
「ッ……受ケ止メテクダサイ。ヒューマ……」
「──〜〜♡♡ッ♡」
サンダーの体液が腹の中を満たし、ようやく、飛雄馬は彼から解放される。
飛雄馬の喉からはか細い呼吸音が漏れ、指一本まともに動かせない。
見上げる天井は霞み、意識がはっきりとしない。
「ヒューマ、大丈夫デスカ。ヒューマ」
サンダーに名を呼ばれ、頬を叩かれたことで飛雄馬は我に返り、小さく呻いてから体を起こそうとするもそれもままならない。
扇風機の風の音だけが部屋の中で唯一、先程と変わらぬままだ。
「う、う……」
「ヒューマ」
サンダーが飛雄馬を呼び、また口付けを与えてきた。
飛雄馬は口を開き、彼を受け入れると、口内に滑り込んできた舌へと自分のそれを絡ませた。
「ん、ぅ……ふ、っ……あ、ん」
そうして、唇を離し、胸の突起を刺激するサンダーの手に自分の手を添え、再び、立たせられた両膝の間、尻へとあてがわれた熱に飛雄馬は身震いした。
サンダーの形を無理やり覚えさせられた腹の中は主の再来を待ち侘び、ぐずぐずと疼き始めている。
「……っ♡」
朝日はまだ、昇る気配を見せない。
扇風機の風がふいに、冷たくなった