再熱
再熱 「星と同じ部屋で寝るなんて久しぶりじゃのう」
「なんだ急に、改まって……」
隣の部屋で眠るサンダー氏は疲れきり、熟睡しているようで、いびきがここまで聞こえてくる。
飛雄馬が東京に帰ってきてから、最早1週間ほどになるだろうか。
およそ、5年もの間足取りが掴めず、その生死さえ不明だった星飛雄馬。
今や彼の義理の兄となった花形も、親友である伴もあらゆる手を尽くしたものの何ひとつ有益な情報は得られることがなく、ただただ時間は過ぎていくばかりだった数年間。
それがいきなりふらりと姿を見せたかと思えば、ジャイアンツの監督となった長島さんのために働きたい、と恐るべきことを口にしたのだから周りは皆驚いた。
野球のことなど、とうに忘れ、幸せに暮らしていてほしい、ただそれだけを願っていた伴であったが、飛雄馬の口にした言葉に驚きこそすれども、星らしいなと考えを改め、彼を全力で支えることを誓ったのだった。
「……嬉しゅうて寝られんわい。ここ最近」
「嘘をつけ。布団に入るとすぐいびきをかいて眠るくせに」
ふふふ、と飛雄馬は笑みを溢してから伴の隣に敷かれた布団の中で寝返りを打つ。
「そ、そうだったかのう?」
「もう寝ろ。明日は朝から会社に行くと言っていただろう。遅刻したらまた親父さんの雷が落ちるぞ」
「あ、うう、い、言われんでも、分かっとるわい。その、さ、寒くはないか?この屋敷は広いからのう」
「寒い?快適だが……変な伴だな」
「っ、その、そっちに、行っても、いいか!?」
暗い部屋の中、伴の声が裏返る。
「…………」
飛雄馬は伴に背を向けたまま、まさかの言葉に息を飲む。
ここに来てどれくらいの日にちが経ったか。
おれの見果てぬ夢を、ただひとり、笑うことも叱責することもなく手を貸すと言ってくれた唯一の男であり、親友の伴。
かつては、そんな関係を持ったこともある。
けれども、それはもう何年も昔のこと。
素敵な女性と結婚し、幸せに暮らしているのだろうとばかり思っていた。
しかして、何ひとつ浮いた話などなく、親父さんから紹介のあった見合い話もすべて蹴ってきたと言う。
「ね、寝てしまったか?」
「…………」
飛雄馬は答えない。
伴とおれは、もう、そういう関係を持ってはいけない。おれにはおれの人生があり、伴には伴の人生がある。
「星……」
伴の体が布団の上を滑る、衣擦れの音が耳に入り、飛雄馬はビクッと体を跳ねさせた。
「っ……」
「起きとるのか」
伴の声が弾む。
飛雄馬は、もう寝るからあっちに行ってくれと布団を頭からかぶり、身を縮める。
「……そ、そうじゃな。妙なことを、言って、すまなんだ」
素直に引き下がり、伴はすごすごと自分の布団に舞い戻ると、彼もまた、飛雄馬に背を向けるように寝返りを打ち、掛け布団をかぶった。
飛雄馬はそうっと布団から這い出、体を起こすと自分に背を向けている伴の広い背中を見つめる。
「伴は、なぜおれとそういうことをしたい?しようと思う?」
「えっ!?」
跳ね起き、伴は飛雄馬の方を向き直る。
寝間着代わりの浴衣が乱れ、伴の肩からずり落ちた。
「…………協力する代わりに、おれを慰めろ、と?ふふ……それとも、ただ単に欲を満たしたいだけか?」
「…………」
伴は飛雄馬の言葉に瞬きも忘れ、ぽかんと呆けたまま微動だにしない。
「伴?」
「ほ、星ぃ!!きさま、わしのことをそんな、そんな……!!」
勢いのままに怒鳴り散らした伴だったが、ハッ!と我に返り、口元を押さえる。
それから、大きく深呼吸をひとつしてから、星はそんなことを考えながらいつもわしに抱かれていたのか?と訊いた。
その問い掛けに、今度は飛雄馬の体がかあっと熱くなる。
「おれは……」
「星は知らんからそんな台詞を吐くんじゃい。わしがどれだけきさまに会いたかったか。恋しかったか。ずっと、触れたかったか」
伴は飛雄馬のそばまで身を寄せ、その長く伸びた髪に指を通すとそのまま頬に手を添えるようにして顔を上向かせた。
「…………馬鹿な、よせ。明日に差し支えるぞ」
「星はいつも人の心配ばかりじゃのう」
微笑み、伴は飛雄馬の唇へと自身のそれを寄せる。
「あ、伴、待っ……っ、ぅ」
久しぶりに触れた唇は柔らかくて、それでいてやたらと熱く、飛雄馬は思わず身震いした。
いけない、と頭では分かっているのに。
唇の隙間を舌がなぞって、飛雄馬は思わず口を開ける。
ゆるりと口内に舌が滑り込み、濡れた舌同士が絡んだ。
体温が上がり、臍の下が熱を持つのが分かって、飛雄馬は口付けから逃れようと身を捩るが伴はそのまま彼の体を抱くと布団の上に組み敷いた。
星、星と熱っぽい声で名前を呼びながら伴は飛雄馬の首筋に口付け、浴衣のはだけた裾から覗く足に手を這わせる。
「ま、っ、待て……!伴!隣にはサンダーさんもいるのに」
「星が黙っちょれば済む話じゃい……」
低い声で言い放ち、伴は飛雄馬の股間を下着の上から撫でさすった。
「は、ぁ…………ぁっ!」
びくん、と身を反らし、飛雄馬は眉間に皺を寄せる。
「星はもう、こっちは済ませたんかのう」
すりすりと下着の上から伴は飛雄馬の男根に刺激を与え、彼の唇を小さく啄む。
「そ、んな、暇っ……あ、ぅ、ぅっ」
はだけた浴衣の襟から顔を出した胸の突起に伴は口付けると、それを優しく吸い上げ、舌先で刺激を与えた。
下着越しに撫でる飛雄馬の男根も首をもたげ、解放を待ち侘びている。
「ずっと辛かったんじゃぞい。星に会えんでのう……」
顔を上げ、伴が囁く。
「っ、っ…………!」
白い喉を晒し、飛雄馬は自分が体を横たえる布団を爪で掻いた。
と、伴は飛雄馬の臍辺りに手を添えると、そこから下着の中に手を滑らせ、組み敷く彼の男根に直に触れる。 ぬるっ、と既に漏れ伝っていた先走りが伴の指を濡らし、飛雄馬の腰が大きく跳ねた。
口から熱い吐息を漏らす飛雄馬は伴の名を縋るように呼び、その顔を己の瞳に映す。
「それは、おれも同じだ……ずっと、伴のことを考えていた。元気でやっているだろうか。体を壊してはいないだろうか。ふふ……おれのことなど忘れて、きみには幸せ、に、っ……」
飛雄馬が言い終わるのを待たずに、伴は彼の男根を握ると上下に擦り始める。
「星の幸せなくしてわしの幸せなどある筈なかろう」
「あ、ぁっ……」
鼻がかった声を上げた飛雄馬だったが、隣の部屋で眠るサンダー氏のことを思い出し、口元を手で覆う。
宿舎にいるときも、マンションに移ってからもそうだった。
伴と肌を合わせるときは、いつもこうして誰かの気配に怯えている。
そこまでして、おれたちはこんなことをする必要が、果たしてあるのか。
「……〜〜ッ、く、ぅ、うっ」
顔をしかめ、飛雄馬は伴の掌へと白濁を吐き出す。
久しぶりの射精に飛雄馬は息を切らし、潤んだ目を瞬かせてから、自身の下着を脱がせようとする伴のためにほんの少し腰を浮かせた。
そうして、下半身に何も身に着けていない状態で、伴を受け入れるために布団の上に投げ出していた足を広げ、彼の体を挟み込む体勢を取る。
伴は辺りを少し見渡してから、何やら手にするとそれを掌に取り出し、飛雄馬の開いた足の中心へと指を這わせた。
びくん、と飛雄馬の体がその刺激に驚き、跳ねたせいで全身が強張る。
痛かったか?と伴が尋ねると、飛雄馬は首を横に振り、大丈夫だと頷いた。
「久しぶりじゃからのう、ちゃんと慣らさんと……」
伴が手にしたのは普段、愛用している整髪料であり、新しいものを購入し、寝室に置いたままになっていた分の封を開けたのだった。
それを潤滑剤代わりに使用し、飛雄馬の体を慣らそうと言うのだ。
伴は指の腹でしばらく飛雄馬の入り口を刺激していたが、その窄まりの中へと指を滑らせる。
弾みで飛雄馬は伴の指を締め付け、唇を引き結んだが、指の感覚に慣れるとゆっくりと力を抜いた。
彼の様子を伺いつつ、伴は指を奥へと進める。
この粘膜を指が這う感覚がむず痒く、飛雄馬は思わず身震いしてしまう。
と、とある箇所に伴の指がかすめ、飛雄馬は目を閉じると奥歯を噛み締める。
飛雄馬の反応で、ここが例の位置だと確信した伴はそこを指の腹でトントンと叩いた。
「ひ、っ…………」
ぞくっ、と肌が粟立ち、腹の中が疼いた感覚を飛雄馬は覚える。
伴が触れた場所こそ前立腺が位置する箇所であり、飛雄馬はそこを内部から刺激され、声を出すことを辛うじて堪えた。
射精し、萎えた筈の男根が再び立ち上がり始める。
ほんの少し、膨らんだそこを伴は指の腹でこすり、時折先程のようにトントンと叩き上げる。
「あっ、っ、う……!」
ビク、ビクとその刺激に合わせ飛雄馬は体を戦慄かせ、眉間に皺を寄せつつこれ以上声を出しまいと口を掌で覆った。
「星……っ、たまらん。はち切れそうじゃあ」
言うなり、伴は飛雄馬から指を抜き、浴衣の前を左右に広げ、そこから完全に隆起した男根を取り出す。
「…………っ」
自身の足の間からそびえ立つ伴の男根に飛雄馬は息を飲んだ。
覚えているよりもだいぶ大きなそれは、伴が呼吸をする度にゆらゆらと揺れている。
伴は飛雄馬の片膝を掴むと、より大きく足を広げさせ、自身の男根を慣らした箇所へと当てがう。
飛雄馬はその怒張の熱さにビクッと体を強張らせたが、大きく息を吐くと、目を閉じた。
瞬間、伴は腰を突き入れ、飛雄馬の中へ自身を挿入させる。
じわじわと自分の腹の中を押し広げ、奥へと入り込んでくる伴の熱に飛雄馬は身を捩る。
伴はある程度、飛雄馬の中に自分を埋めたところで、彼の体の脇にそれぞれ手を置き、組み敷く彼の顔を見下ろした。
「は………っ、ん、」
息を吐き、少しでも圧迫感を和らげようとする飛雄馬の唇に伴は口付け、腰をぐっと押し付ける。
根元までをゆっくり、飛雄馬の中に埋め込んでから、伴は改めて大丈夫かのう?と尋ねた。
「腹の中をいっぱいにしておきながら今更大丈夫かもないだろう。ふ、ふ……気を遣うところが、ちっ、アっ!あ、あ!」
腰を引き、伴はどすんとそれを打ち付ける。
腹の中が引きずられ、押し込まれた拍子に伴の反った男根が前立腺の位置をぐりぐりと刺激する。
「星、星……いかん。腰が、止まらんわい」
「ばっ、………っ、いっ……う、ぅうっ」
ゆるゆると腰を叩いていた速度が速くなり、それに従うように中を抉る角度も深さも鋭くなる。
畳と布団がこすれ、軋み、部屋が揺れる。
伴が腰を穿つたびに、飛雄馬の全身には甘い痺れが走って意識を朦朧とさせた。
「っ、とまれ、伴っ……!伴!突くな、ァッ……!」
伴の腕に爪を立て、飛雄馬は体を大きく弓なりに反らす。
「星……っ!」
どくっ、と伴も飛雄馬が体を絶頂の余韻に痙攣させるのにつられ、彼の腹の中に欲を吐き出した。
「ん、ん……ぅ、」
腹の中でどぷ、どぷと白濁を放出する脈動に飛雄馬は目を閉じ、酔い痴れる。
「ああ……すまなんだ、星よ。中で出すつもりは……」
謝罪の言葉を口にしながら、伴が飛雄馬から男根を抜き取ったせいで、掻き出された精液が結合部からは溢れ落ち、布団を濡らした。
「……!」
伴は驚き、身支度もそのままに暗がりの中ティッシュを探して辺りを手で探る。
ようやく布団の足元にあったティッシュ箱を見つけ、伴は中身を数枚取り出すと先に飛雄馬へとそれらを手渡してから、自分の後始末を終えた。
飛雄馬もひとまず体を起こし、体液に濡れた場所だけを拭ってから、浴衣の乱れを正す。
「…………」
「伴は、良くも悪くも変わらんな」
少し、かすれた声で飛雄馬は伴にそんな言葉をかけると彼の感覚の僅かに残る腹を撫でる。
「それは……わしが大人になっとらんちゅうことか?」
「いや、伴は、伴でいてくれてよかったと、そう、言いたいのさ」
「わしが、わしで?妙な話じゃのう。星の考えちょることはいつもわかりそうでわからん」
「ふふ……そろそろ寝ようじゃないか、これできみもぐっすり眠れるだろう」
「あ、う、うむ……ほ、星よ」
布団、汚れたじゃろうから、狭いがこっちに来いと伴は飛雄馬を呼んでから、狭い布団にふたりで横になる。
とは言え、伴はほぼ畳の上に寝ている格好だが。
おれは貧乏生活が長かったから固い畳の上だろうとなんだろうと眠れるが伴には辛かろうと場所を変わることを提案する飛雄馬に、わしの自分勝手な行動のせいじゃから星は気にするなと返し、伴は目を閉じる。
「もう、どこにも行ったりするんじゃないぞい。たったひとりで頑張ろうとせずとも、星にはこの親友伴宙太がついとるわい」
「…………」
飛雄馬は目を閉じたまま応えず、寝たふりを決め込む。
伴はしばらく寝返りを打ったり、あくびをすることを繰り返していたが、その内いびきをかいて眠り始める。
その高いびきを聞きながら飛雄馬は仰向けの格好を取ると天井めがけ、右手を伸ばし、ぎゅっと拳を作った。