訪ねてきた人
訪ねてきた人 時間だけは刻々と過ぎていく。
隣に座る男──花形がうちを訪ねてからもう30分になるが、ねえちゃんが帰ってくる気配は微塵も感じられない。
断られるだろうと思って、部屋の中で待つかい?と申し出てみたものの、まさか「そうさせてもらおうじゃないか」と返ってくるとは夢にも思わず、飛雄馬は花形を自宅に招き入れる羽目となった。
コーヒーを淹れ、花形が手土産にと持ち寄ってくれたケーキを飛雄馬は黙々と口に運ぶ。
時折、花形が振ってくれる会話に応えはするもののなかなか話が継続しない。
ねえちゃん、早く、帰ってきてくれないだろうかと飛雄馬が壁にかけた時計を見遣ったところで、隣から声をかけられる。
「星くん」
「は……?」
隣に座っていた花形の顔が文字通り目と鼻の先にあって、思わず呼吸を止めた飛雄馬の唇の端を、ふっ、と何かが掠めた。
「ついているよ」
それが花形の指であると飛雄馬が認識したときすでに、口の端についていたらしきケーキのクリームを拭った彼の親指は唇の上をなぞっていた。
そのまま、「口を開けて」と囁かれ、飛雄馬は言われるがままに唇をほんの少し開いてしまう。
すると、唇の隙間から花形の指は飛雄馬の口内に滑り込んで、舌の上にクリームを乗せた。
舌の熱でクリームはあっという間に溶けたものの、花形は指を抜こうとはせず飛雄馬の舌の表面をそろそろと指の腹で撫でさする。
「あ……っ、」
ざらざらとした花形の指が頬の内側を撫でたかと思うと、再び舌の上へと戻ってきた。
唾も思うように飲み込めず、花形の指を伝い飛雄馬の口からはつうっと唾液が滴り落ちた。
「ケーキは、お気に召したかね」
言うと、花形は飛雄馬の口から指を抜き、濡れた指でその唇をなぞる。
口内を探られ、放心状態に陥っている飛雄馬の顎先に花形はたった今まで唇を撫でていた指をかけると、そのまま彼の顔を上向かせた。
そうして、顔をやや傾けてから花形は飛雄馬の唇へと己のそれを押し当てる。
それを受け、飛雄馬は思わず身震いした。
触れた唇は思った以上に熱を帯びており、口の中に侵入してきた舌が孕む唾液はやたらと甘いもので、時折、花形が漏らす吐息がじわじわと耳を犯していく。
「う、ぅっ……っ、ふ」
唇を離しては再び触れ合わせ、花形は何度も何度も飛雄馬に口付けを与えてはその体を己の方に抱き寄せ、名を呼ぶ。
「フフフ。いいのかい、星くん。もうそろそろ明子さんが帰ってくると言うのにこんなことをしていて」
「だれの、っ………」
煽るような台詞を口にし、花形はニッと唇を歪めると抱き寄せた飛雄馬の体を何のためらいもなくソファーの座面の上へと押し倒した。
「まあ、そんな顔をして明子さんに会うよりも1度冷静になるべきだろうね」
花形の嘲るような言葉に飛雄馬はカッと頬を染め、己を組み敷く男の顔を睨んだ。
「おお、こわ……ふふっ、きみはこんな状況でもマウンドにいるときのような顔をするのだね」
「どういう、い、………っ!」
花形は1度体を起こしてから飛雄馬の両膝を曲げ、その足を左右それぞれ腹につくまで押し広げたかと思うと、己の腰をそのままグッ、と彼の尻へと押し付けた。
飛雄馬の足は花形の体を挟み込むような格好を取り、その尻には何やら固い膨らみが当てがわれている。
「変な、ものを、押し当てて来ないでくれないか」
「変?言ってくれるじゃないか。きみだって前をこんなに張らせているのに」
言いつつ、花形は再び飛雄馬の体の上に覆いかぶさる格好を取りながら片手で組み敷く彼の下腹部を撫でる。
花形の口にしたとおり、飛雄馬の下着の中は痛みを覚えるほどに膨れ、解放を待ち侘びている。
「ああっ!」
ほんの少し触れられただけで飛雄馬はビクンと体を震わせ、口からは嬌声を上げた。
ふふっ、と花形がその反応を目の当たりにし笑った声が聞こえ、飛雄馬は歯を食い縛ると口元に手を遣る。
「………」
花形はそんな防御態勢を取った飛雄馬を見下ろしつつ、彼の穿くスラックスのファスナーを下げるとそこから手を差し入れ、中から勃起しきり、青筋の浮く男根を取り出した。
「っ、く………」
「嫌だと言う割にはぬるぬるじゃないか……それとも、軽く出てしまったか」
先走りを溢れさせる飛雄馬の男根の鈴口を指先でくりくりと弄びつつ、花形は問いかける。
「やめっ……ぅ、うっ!」
「やめて?どうしてそう、嘘ばかりきみは言うのかね」 
男根を握り、花形はそれを上下に擦りつつ飛雄馬の顔を覗き込む。
その緩急をつけた花形の手指の動きはたちまち飛雄馬を絶頂寸前までいざない、その腰を揺れさせた。
「はあっ………あ、ぁ……っ」
腰が無意識に揺れ、飛雄馬の腹の奥がじんじんと疼く。
花形が擦る男根からの刺激が全身に広がって体が熱い。
「いっ、っ……く、花形さ……あっ!」
うわ言のように口走る飛雄馬の男根から迸った体液を花形は受け止め、そのまま濡れた手を己が穿くスラックスのポケットから取り出したハンカチで拭った。
そうして、精液の付着した面を内側に折り曲げてから再びポケットの中に戻すと、絶頂の余韻から未だ覚めやらぬ飛雄馬のスラックスを留めるベルトを緩めてから彼の腰の下から下着共々それらを僅かに引き抜いた。
尻がほんの少し外気に晒される形になって、飛雄馬は眉をひそめる。
と、花形はもう一方の尻ポケットから何やら容器を取り出し、蓋を開け中身を指で掬うとそれをたった今露出させたばかりの飛雄馬の尻へと塗りつけた。
花形の指がぬるぬると皮膚の上を滑ることによって、その摩擦と飛雄馬の肌の熱で何やら塗られた軟膏のようなものが溶け、くちゅくちゅと妙な音を奏で始める。
花形は飛雄馬の片膝の裏に手を遣り、それを腹の方に押し付けることによって腰が引けてしまった彼の尻を上向かせるような格好を取らせた。
スラックスを完全には脱いでいないためにもう一方の脚も自然と同じような体勢を取ることになり、飛雄馬の何やら塗られた尻の窪みは花形の眼下に晒されることになる。
腹に押し付けられた足のおかげで顔を見られることはないが、あまりに屈辱的な格好にやめてくれ、と言いかけた飛雄馬だったが、次の瞬間、腹の中に何かが入ってくる感覚があって、思わず息を飲む。
ほんの少し、体内に侵入してきた「それ」はゆっくり時間をかけ粘膜を刺激しながら離れていったかと思うと、再び更に中へと潜り込んでくる。
「あ、っ………ん、んっ」
すると、中をぐるんと掻き回され、思わず飛雄馬の足が跳ねた。
腹の中を探るものの正体が花形の指だと飛雄馬がようやく理解した頃、2本目の「それ」が挿入された。
やっと刺激に慣れてきたというのに、2本の指はばらばらに腹の中を探って、奥を擦って、ギリギリのところを掠めて離れていく。
臍側のやたらに体が跳ねる箇所を指の腹で撫でられ、飛雄馬の男根は再び顔をもたげる。
「そろそろ、いこうじゃないか。星くん」
指を抜き、花形は飛雄馬の足からスラックスと下着とを剥ぎ取ると、再び両足で己の腰を挟み込むような格好を取らせ、身を乗り出しつつ自身の穿くスラックスのファスナーを下ろした。
「ぅ、ぐ……」
花形が取り出した男根を己の足の間から垣間見て、飛雄馬は押さえた腕の下でぎゅっと唇を引き結ぶ。
「おや、抵抗しないのか。てっきり、きみのことだからいやだと喚くと思ったのだが──フフッ」
言うなり、花形は飛雄馬の尻へと自身を押し当て、ゆっくりと腰を突き進めていく。
ある程度、己を埋めてから、花形は飛雄馬の曲げた片方の膝を掴むと結合部を晒すよう足を股関節から大きく開かせてからより深く中を抉る。
「あ………っ!」
ビクッ、と飛雄馬の体が弓なりにしなって、花形を締め付けた。
花形は口元に笑みを浮かべると、己が腰を使うたびに揺れる飛雄馬の男根を握ってから再びそれをしごいていく。
「〜〜──!!」
声にならぬ声が飛雄馬の口からは上がり、花形の男根を激しく締め上げる。
汗がぱあっと肌の上に散って、全身に力が篭った。
「フフフ………」
腰を緩やかに動かしつつ、花形は飛雄馬のカリ首と裏筋の位置を先走りに濡れた手でぬるぬるとしごく。
「…………っ、───!」
口を両手で押さえ、飛雄馬はビクビクと体を震わせた。
軽い絶頂は何度も迎えている。
着ているタンクトップには膨らみ、尖りきった両乳首が擦れ、僅かにむず痒ささえ覚える。
花形が腰を使うたびに反った男根は腹の内側を擦り、そこを押し上げた。
腹の中から与えられる快感のせいか、花形が握る飛雄馬の男根からは射精のような勢いはないもののとろとろ、とろとろと精液が溢れ出ている。
飛雄馬の腹の中も度重なる軽い絶頂のおかげか、居座る花形のそれの熱のおかげか柔らかく解れ彼の男根に絡みつく。
花形は飛雄馬の男根から手を離すと、身を屈め彼の両足を左右それぞれの腕で抱え込みながら腰を叩きつけた。
「う、っぐ………っ、ふ」
肩を丸め、口を押さえつつ飛雄馬は花形の寄越してくる快楽に身を委ねる。
腹の中はぐずぐずになってしまっていて、どこを突かれ、擦られようとも声が上がった。
「…………!」
刹那、花形は飛雄馬から己を引き抜くと彼の腹の上へと白濁を放出した。
「………っ、ん……ん」
どく、どくと腹の上で脈動する男根の熱を感じつつ飛雄馬はようやく口から腕を離すと大きく息を吸って目元を腕で覆った。
絶頂の余韻からか体は動きそうにない。
頭もぼうっとしてしまっていて、呼吸のたびにズキズキと痛んだ。
花形は射精を終えると飛雄馬から離れ、衣服の乱れを正すと絨毯敷きの床に腰を下ろす。
と、玄関先で物音がしたために花形がそちらへと向かい、帰宅してきたらしい明子と彼が何やら話す声がしていたが、1度扉が開き、閉まってからはそれも聞こえなくなった。
飛雄馬は数回、咳き込んでからゆっくり体を起こす。
固いソファーの上で無理やり体を暴かれ、至るところが痛む。
テイのいい暇つぶしにでも使われたようだなと飛雄馬は苦笑し、ソファー近くのテーブル上にあったティッシュの箱を手繰り寄せ、中身を数枚抜き取ると腹の上に撒かれた精液を拭った。
おかしな人だ、相変わらず……ねえちゃんとうまくいっていることだけが救いか、と飛雄馬は床の上に放られたままになっていたスラックスと下着を身につけると、これまたテーブル上の飲みかけのコーヒーに口をつける。
砂糖とミルクの入ったほのかに甘いコーヒーは、花形の口付けを彷彿とさせるようで、飛雄馬は一瞬、たじろいだものの一息にそれを飲み干すと、やや乾燥し固くなりつつあるケーキの残りをがぶりと頬張った。