居候
居候 「うーむ」
風呂から上がったばかりの飛雄馬は、寝間着代わりに着ている浴衣の出で立ちで髪をタオルで拭いつつ、書類とにらめっこしながら唸る伴を横目で見遣った。
伴が寝室兼、居室としている広大な屋敷の一室を飛雄馬は訪ねている。
伴がアメリカから呼び寄せてくれたビル・サンダーと共に飛雄馬がこの屋敷に居候して数日になるか。 仕事が終わらず家に持ち込んでいるらしいことは伴の様子から伺えるが、唸ってばかりで手が先程から一切動いていないのだ。
一体全体、何をしたいのか、何をするつもりなのか飛雄馬にはまったくわからぬが、このまま唸っていても埒が明かんだろうなということは察しがつく。
「伴、そんなに難しい仕事なのか」
「あ、いやなに、星には関係ないことじゃい。すまんのう。先に休んでくれい」
「いくらなんでもおれだけ先に休むわけにはいかん。伴のお陰でおれはサンダーさんという最高のコーチに巡り合うことができたというのに」
「……まったく、真面目が服着て歩いとるのう星ちゅう男は。それとこれとは話が別じゃい。明日も朝早いんじゃろう。さっさと寝るべきじゃ」
「しかし」
「しかしもヘチマもないわい!ええい、そこまで言うならわし得意の柔道技で眠らせてやるわい」
「ふっ、ふふふ………」
小さく、笑いを溢した飛雄馬の体を抱き寄せ、伴は彼の額と己の額を合わせるとその顔を覗き込んだ。
「星が妙な格好で部屋に入ってくるからぼうっとなってしまったわい」
「人のせいにするなよ、伴。それならおれは出ていくぞ。せっかく様子を見に来てやったのに」
「冗談が通じんのう」
「どっちがだ」
唇を尖らせ、今にも口付けて来ようとする伴を躱し、飛雄馬は仕事に集中しろと彼の注意を逸らす。
しかして伴は飛雄馬を抱く腕の力を緩めようとはせず、顔まで傾けてくる始末で、飛雄馬は参ったなと眉根を寄せる。
「星がチューしてくれたら頑張れるかもしれん」
「馬鹿なことを言うのはよせ。酔ってるのか」
「酔っとる、酔っとる。わしは星にいつもメロメロじゃあ」
「…………」
相当、疲れているらしいと飛雄馬は唇を尖らせた間抜けな伴の顔を目の前にどうしたものかと思案する。
「星、ちょっとだけじゃい。ちょっとだけ」
「お前が、ちょっとで済んだためしが……うっ!」
すうっと近付いてきた顔にそのまま唇を奪われ、飛雄馬は反射的に目を閉じた。
すると、その仕草を同意したと受け取ったらしき伴は飛雄馬の着ている浴衣の帯を解きつつ、彼の体を畳の上へと押し倒す。
力任せに開かせた足、立たせた膝の間に体を差し入れ、伴はそのまま飛雄馬の首筋に顔を埋めた。
「ばっ、ばか!誰がいいと言った」
「えっ!いかんのか」
驚いたように伴は顔を上げ、頷く飛雄馬のまさかの反応に今にも泣きそうな情けない表情を浮かべる。
「伴には感謝してもしたりないくらいだ。しかし、おれは野球があり、きみには親父さんの会社を継ぐという大事な役目があるだろう。こんなことをしている暇はないはず」
「……言い訳ばっかじゃのう、星は。したくないならそう言えばいいじゃろう。いつもいつもあーだこーだと理由をつけて」
「おれは伴のことを思って言ってるんだぞ」
伴の体の下から這い出しつつ、飛雄馬は乱れた浴衣の合わせを整えた。
「わしのことを思うなら黙って抱かせてくれたらええじゃろ」
「またそういうことを言う……」
「星じゃから言うんじゃい。誰でもいいわけじゃないわい」
「…………」
体を起こし、畳の上に座った飛雄馬の浴衣のはだけた裾から覗く腿に手を這わせ、伴はその大きな体を彼へと寄せる。
まだほんの少し、湯を浴びたぬくもりの残る飛雄馬の肌は伴の指先をしっとりと湿らせた。
微かに震え、反応を示した飛雄馬の唇に伴はそっと口付ける。
「あ、ばか、伴……っ、やめ、」
腿に這わせた手で、伴は辛うじて飛雄馬の肩に引っかかり、体裁を保っていた浴衣を脱がせてやると、下着一枚の姿となった彼から唇を離し、その耳に淡く歯を立てた。
そうして、そのまま耳の形に沿って舌を滑らせ、小さく震える飛雄馬の頬にそれぞれ両手を添える。
「その気になったか星よ」
「っ……」
顔を真っ赤に火照らせ、飛雄馬は伴を睨む。
舌を這わせられた耳は熱を持ち、じんじんと疼いている。
「そんな目で見らんでほしいぞい。何だか悪いことをしているような気がしてくるわい」
「してるだろ、じゅうぶん……」
飛雄馬は口を開け、顔を寄せてきた伴を受け入れるべく、彼もまた唇を薄く開いて目を閉じた。
すると、口の中に舌が滑り込んできて、飛雄馬は思わず伴の、己の頬に添えられた手、その腕に縋りついた。
ちゅっ、ちゅっと互いが唇を重ね、舌を絡ませ合う音が部屋の中に響く。
時折混じる、切なげな吐息が更に互いを興奮させ、体を熱くさせた。
と、伴は飛雄馬に口付けを与えつつ、彼の体を再び畳の上に組み敷く。
一瞬、ひやりと肌を冷やした畳の感触に飛雄馬は身震いした。
間髪入れず、伴は飛雄馬の下腹部に手を遣り、下着の上から固く立ち上がってしまっている男根を撫でる。
しかして、目当ての場所はそこではなく、伴は身を屈めると飛雄馬の乳首に吸い付きつつ、彼の下着を膝を立たせた足から剥ぎ取っていく。
ついさっき風呂に入り、汗を流したと言うのに、飛雄馬の肌は既に汗をかいている。
「っ……ふ、ぅ」
尖った突起を更に吸われ、その先を舌で舐め上げられて飛雄馬は声を上げた。
「星……」
愛おしげに伴は名を呼ぶと、下着を剥ぎ取り、一糸纏わぬ姿になった彼の足を左右に開かせると体の位置を変えるや否や、露わになった飛雄馬の尻の窄まりに口付ける。
「な、っ……!伴……」
きゅっと窄まったそこに伴は舌先を這わせ、窪みの奥を探ろうとそこを舐め上げた。
ちろちろと尻の中心をくすぐる舌先に、飛雄馬は肌を粟立たせ、勃起しきった男根の先から先走りをとろとろと溢す。
すると、弛緩した窄まりの中に伴は固く尖らせた舌を挿入させ、飛雄馬の入り口を丹念に解した。
「そ、っ……な、とこ……っ、んん」
入り口から少しのところを伴の舌が行き来し、飛雄馬は体を戦慄かせながら腰を揺らす。
ぬるぬると会陰から窄まりまでを舌の腹で舐め上げて、伴はようやく体を起こした。
飛雄馬の全身は痺れ、舐められた窄まりは更なる刺激を求めるかのようにひくついている。
「あまり、ゆっくりもしとられんからのう……」
口元を拭って、伴はスラックスの中から男根を取り出すと、己の唾液に濡れた飛雄馬の尻にそれを当てがった。
あとほんの少し、腰を使えば難なく飛雄馬の体は伴の挿入を許すであろう。
飛雄馬の視線と意識は既に、そこに向いてしまっている。
「伴……っ、焦らすな」
「焦らしてなどおらんわい。星が来るのを待っとるんじゃい」
「…………っ、う!」
ぬるん、と飛雄馬の窄まりの上で伴は男根を滑らせる。
その行為に腹の奥が疼いて、飛雄馬は奥歯を噛むと口元を押さえ、視線を泳がせる。
「ん、っ……っ!」
とろっ、と飛雄馬の男根の先から新たに先走りが溢れた。
「……っ、だめじゃあ。辛抱たまらんわい」
伴は飛雄馬の言葉を待たぬまま、男根を当てがうとどすん!と一息に腰を突き入れる。
「あ…………っ!!」
強制的に腹の中が伴の形に作り変えられ、飛雄馬はその衝撃で軽く気をやった。
腹の奥から走った絶頂の快感が背筋を貫き、脳天を抜ける。びく、びくと全身を戦慄かせ、飛雄馬はあまりの衝撃に目の前に火花が散るのを見た。
伴の一打はそれこそ、突く際に体重をかけるために重く、深く中を抉る。
今の動きなどまだ序の口に過ぎない。
それなのにもう既に飛雄馬は出来上がってしまっている。
腰を引き、伴は更に奥深くを抉ろうと腰を叩きつけた。
「──〜〜っ──!!」
全身がその衝撃に軋んで、飛雄馬は逃げようと藻掻くが腰を押さえつけられているためにそれも叶わない。
入り口を浅く弄ばれたかと思えば、奥深くを突かれ、飛雄馬は体を大きく反らすと声を上げる。
髪は汗でじっとりと湿っていて、全身からは汗の雫が滴った。
「星……」
「あ……っ、っ、また、くる……」
腰をぐりぐりと押し付けられ、中を掻き回されて飛雄馬はまたしても与えられた絶頂に体を震わせる。
伴は勢いのままに飛雄馬の中に精を吐き、しまった、と途中で男根を抜き取った。
掻き出された精液が飛雄馬の尻を伝って畳へと落ち、伴は慌ててティッシュを取りに立ち上がった。
「中に出すつもりはなかったんじゃが……」
「ここまでしといて、中も外もあるもんか……」
「つい……すまん」
「誤るくらいなら最初からやるな」
吐き捨てるように言い、飛雄馬は伴の体液に汚れた腹と尻を拭うと、何か飲むか?と優しく尋ねてきた伴を何もいらん!と冷たく突き放す。
「星ぃ、怒らんでくれえ。わし、星に嫌われたら生きていけんわい」
「…………」
飛雄馬は平謝りに謝る伴を尻目に浴衣を纏って立ち上がると帯を締めた。
「星」
「怒ってないから早く仕事を片付けてくれないか。おれも安心して眠れんからな」
「お、おう!」
伴はいそいそと衣服の乱れを整えると、辺りに散らばっていた書類を掻き集め、それに目を通し始める。
そこでようやく解決の糸口でも見えたか伴はペンを片手に何やら書類に書き込みを始め、飛雄馬はホッと胸を撫で下ろした。
まさかこのときの企画が大成功を収め、伴が会社内で一目置かれる存在になることなど今の飛雄馬はもちろん伴自身知る由もない。
今はただただ唸りながら書類に走り書きをする彼を見遣りつつ、飛雄馬は大きな溜息を吐くばかりなのだった。