幼なき日
幼き日  深夜。
 今日も小学校から帰宅し、姉明子の作り置いてくれていた夕食を食べ、父親である一徹との投球練習を終えたのちに銭湯でゆっくり汗を流し、疲れを癒やしたところで飛雄馬は父と二人で布団を並べ眠りについた。
 明子は珍しく中学時代の友人と出掛け、本日は帰ってこないとのことだった。
一徹にしては珍しく、彼女の外泊を許した――そこまでは良かった。
 ふいに隣で眠っていたはずの一徹に名を呼ばれ、飛雄馬ははっと目を開け、ぐるりと瞳を父の方へと向ける。暗闇の中で爛々と光る二つの目玉を見据えたまま飛雄馬は唾を飲み込み、喉を鳴らす。彼の変声期前の細く短い首筋にはまだ喉仏は現れていない。
 父は飛雄馬に対してじっと見つめるだけで何も言っては来ない。しかして、飛雄馬はその視線に射抜かれたまま、寝間着代わりにしているくたびれたランニングシャツの裾を掴むとぐいと一息にそれを引き上げ頭から抜いた。
 そこで一度父を見遣ったが、相変わらず物言わず突き刺すような目線を向けてくるばかりで、飛雄馬は膝立ちになると穿いている下着をも引き下ろした。真っ暗な部屋の中、完全に飛雄馬は裸の状態となってしまう。
 父・一徹にその肢体を上から下まで睨めつけられ、男同士、ましてや親子の身でありながら飛雄馬はにわかに羞恥を覚えた。この暗闇の中、普段ならば明子がいることもあり絶対に裸でいるなんてことがあり得ない場所であるがゆえに、恥ずかしいのであろう、と飛雄馬は思った。
 すると、一徹は飛雄馬に布団の上に座って足を開けと低い声で言い放つ。否、ほとんど命令のそれである。
 飛雄馬の額にじわりと汗が滲んだ。
当然である。いくら親子と言えどもこの年になって恥部を眼前に晒すなどという行為に嫌悪感を覚えないはずがない。飛雄馬は膝立ちの状態からゆっくりと布団の上に座ったまではいいが、それ以上動くことができず固まっていた。
 見兼ねた一徹がすかさず飛雄馬を叱咤する。ビクッと飛雄馬はその怒号に身を竦め、合わせていた膝を左右に開いていく。 刺すような一徹の視線が集中するのが分かる。飛雄馬は尻の下に敷いている掛け布団の布地を手の色が白くなるほど握り締めながら自分の臍下を一徹の目の前に晒した。
 固く目を閉じ、顔を逸らしてその辱めに耐える飛雄馬に対し、一徹は更に外道とも思える言葉を投げ掛ける。
 一人でやってみせろ、と、そう。
 ぞくうっ、と飛雄馬は背中に虫が這ったような感覚を覚えた。目にしただけで怖気立つ数多の足を持つ昆虫がゾワゾワと皮膚の中を這い上がるようなそんな気味の悪さ。
 じっとりと全身に脂汗が滲む。
 ぅあ、と飛雄馬の締まった喉から掠れた声が上がった。そのまま、とうちゃん、と飛雄馬は縋るような声を漏らしたが、一徹は飛雄馬から視線をこれまで一度も外すことなくじっと見据えている。
 飛雄馬は奥歯を噛み砕かんばかりに食い縛って、彼自身の体の中心にある男根に手を添えた。
 まだ柔らかなふにゃりと下を向いたそれを飛雄馬は掌に握り込み、前後に摺っていく。皮膚を摩擦し、乾いた音が響いていたが、飛雄馬の手の動きが逸物が立ち上がるのに合わせ、前後から上下に変わり始めた頃、その乾いた音にくちゅくちゅと言った水音が混ざり出す。
 完全に勃起した飛雄馬の男根の鈴口から溢れる先走りの透明な液体がその逸物を辿って手指を濡らし、潤滑剤の役割を果たすからだ。飛雄馬はある程度まで男根をしごいた後、ほんの少し尻の重心の位置をずらしてから一徹に己の窄まりを見せつける。
 そうして彼はそこに自分の体液に濡れた中指を飲み込ませた。
 ふっ、と飛雄馬は吐息を吐いて、指を第二関節まで飲み込ませると、ゆっくりと抜き差しを繰り返す。肌がひりつくほど熱い視線を内股に感じつつ飛雄馬は次第に熱く、柔らかく指に纏わり付く己の粘膜に唇を噛んだ。いつの間にか背を布団に預け、飛雄馬はだらしなく足を開いたまま彼自身の体内を愛撫する。
 立てた膝が揺れ、食い縛った歯列から滲み出た唾液が飛雄馬の口から滴り、顎を濡らした。続けて二本目も容易く飲み込ませて、飛雄馬は己の腹の中を撫でさする。
 臍から少し下に位置するとある箇所。飛雄馬の指先はそこをかすめるが、体勢的にも指の長さからしても到達しない。
目の前にいる父が、一徹が飛雄馬に教え込んだ場所。
 一徹は、飛雄馬がとある年齢に達してからと言うもの、彼の姉明子が深く眠りについたのを見計らい、飛雄馬の体を蹂躙した。何故――
 それは初めて父・一徹にこうして体内を指で弄り回された時から毎日飛雄馬は考え、悩み、次第にその指を待ち侘びる己に嫌悪するようになった。
 夜な夜な隣で眠る姉に悟られぬよう声を殺し、飛雄馬は腰を揺らした。ある位置に触れぬようゆっくりと節くれだった太い指は飛雄馬を弄ぶ。早く早くと飛雄馬は父を涙に濡れた目で見上げて、懇願する。
 まだ精通も迎えていない、飛雄馬の小さな逸物はそれでもいじらしく首をもたげその先から透明な先走りを垂らしたのだ。

 飛雄馬はふと閉じていた目を開け、一徹を仰ぐ。足りない、と。自分の短い小さな指では到底満たせないと飛雄馬は父を見遣った。飛雄馬の涙に濡れた視界にはぼやけた一徹が映っている。
 やっと一徹はそこで重い腰を上げ、飛雄馬のそばに寄ると彼の開いた両足の中に身を滑らせた。飛雄馬は期待に戦慄いて、きゅっと下唇を噛んだが、何を思ったか一徹は膝立ちになると着物の前をはだけ、下履きを脱いだ。飛雄馬はその様を見上げていたが、一徹が脱いだ下履きの中から現れた逸物を飛雄馬の尻へと宛てがうと、ひっ、とその喉から引き攣ったような声を上げた。 一徹は握った男根を飛雄馬の尻に押し付け、腰をぐいと押し込む。
 散々慣らしに慣らされた飛雄馬の尻は彼の肉壁をぎゅうぎゅうに押し広げながらも一徹を受け入れる。
「こわい、とうちゃん、こわいっ……」
 口ではそう言いつつも焦らされ、嬲られ、散々に弄ばれその指の形を覚え込まされた飛雄馬の中へと一徹の逸物はいとも容易く飲み込まれた。
 腹の中身を一遍に押し込まれ、飛雄馬は嘔吐いた。小学生の小さな体に成人男性の逸物はあまりにも強大であり凶悪に腹の中をなじった。
 飛雄馬は目を見開いて、その頭頂部が布団に擦れるほど身を反らし、一徹を受け入れる。とうちゃん、と掠れた声は一徹を呼び、飛雄馬の両手は布団を掴む。
 それを見計らい、一徹は飛雄馬に打ち込んだ腰を引き、強く押し込んだ。飛雄馬の指では到底届かなかった場所を一撃で擦り上げられ、大きく喘いだ。
 指とは比べ物にならない圧、その体内を蠢く熱に飛雄馬は嬌声を上げる。
 気が狂ってしまいそうなほどの快楽が脳を突き抜けた。一徹が腰を抜き差しするたびに飛雄馬は背を反らす。
 おかしくなる、狂ってしまう。それほどまでに気持ちが良かった。指の質量に散々に飼い慣らされ、それでも何度も気を遣った飛雄馬だったが、今度はそれの比ではない。浅い位置を撫でていたかと思えば一徹の腰が飛雄馬の腿を叩いて、奥をえぐる。反り返った一徹自身が飛雄馬のいいところを執拗に責めるのだ。
「っ、が、ぅふ……ううっ!うーーっ」
 喘いて、飛雄馬は口元に手を遣るが、一徹がそれを許さなかった。逃げる腰を捕まえ、一徹は飛雄馬の中をより強く穿つ。 とうちゃん、とうちゃん、と飛雄馬は喘いで布団を握る手の力を強めた。
 そうして一徹は飛雄馬の中で果てた。けれどもそれで終わりでもなく、一徹は先程よりもっと鋭い腰を打つ。一徹が腰を叩きつけるたびに彼の出した白濁が結合部より溢れ、布団に零れ落ちる。
 開いて喘ぎっぱなしの口から上がる声は掠れ、虚ろに開かれた瞳は幾重にも涙をその頬へと滑らせている。ガクガクと小さな体を揺さぶられ、逃げる腰を捕まえられ、飛雄馬の全身は汗に濡れ、その肌は赤く火照った。焦点の合わぬ目をしきりに瞬かせながら飛雄馬は一徹を呼ぶ。
「ば、っ……と、ちゃん……ばかにな、っちま、あ、っ〜〜〜〜!!!」
 ビクンと飛雄馬は体を戦慄かせ、そのまま全身を絶頂の余韻に任せた。腹の中に入ったままの一徹を締め付け、再び彼を射精へと誘う。
 すると再度一徹は飛雄馬の中に精を放って、今度こそ彼の中から男根を抜き放った。しかしてこれで終わりではない。一徹は脱力しきった飛雄馬の腕を取り無理やり体を起こすと、その頬に己の精液と飛雄馬の分泌液に濡れた逸物をぐいと押し付けたのだ。
「…………」
 わけが分からずぼうっとなってしまっていた飛雄馬の半開きの口に一徹は男根を無理やり含ませた。独特の匂いが鼻を突いて、飛雄馬は嘔吐くがぐっとこみ上げた酸っぱいものを飲み込んで体液に濡れた一徹のそれを懸命に舐め上げた。
 すると萎えていた一徹のそれが三度熱を帯び始めるのを飛雄馬は感じて、慌てて口を離そうとしたが、一徹は彼の頭を掴んだままそれを防いだ。尚且つ、飛雄馬の喉奥目掛け腰を打ち付け始める。
 執拗に喉を突き立てられ、飛雄馬はぼろぼろと涙を滴らせた。苦しい、息ができない。そればかりか喉を突かれる度に飛雄馬は吐き気を催す。逃れようにも頭を掴まれそれも敵わない。
 胃腑の中身が危うく逆流しかけたところで一徹は飛雄馬を解放し、その口から逸物を抜いた。散々喉を犯され粘度のある唾液をだらだらと飛雄馬は口から溢しながら布団に手をついて背中を丸め激しく噎せ込んだ。一徹はそんな飛雄馬には目もくれず、一人身支度を整えると煙草を咥えた。
「………っ、は、あっ、はぁ……っぐ」
 呼吸をやっとのことで整えて、飛雄馬は唾液に濡れた口を拭った。
 するとどうだ一徹は咥え煙草のまま立ち上がり、押し入れの襖を開ける。飛雄馬はぼやける目でその父の姿を見ていたが、ふいに一徹が手にし、戻ってきたもののを瞳に映すとぞわりと総毛立った。大きなバネの幾つも付いた器具。一体それが何をするためのものなのか今の飛雄馬には理解できない。
 喘がされ、何度も何度も絶頂を覚えさせられ蕩けた飛雄馬の脳はそれが何であるか考えるのを拒んだ。否、深く考えることを飛雄馬はしなかった。
 幼い脳に刻み込まれた気が狂うほどの快楽は疑うことさえさせなかった。飛雄馬はそれを手にこちらに歩み寄って来る父をふっ、と期待に満ちたような、或いはすべてを諦め絶望したとも取れる笑みをその顔に浮かべ、上目遣い気味に仰いだ。
 夜が明ける気配はまだない。