覗き見
覗き見 「それじゃあ、星さん。また明日」
「ええ、おばさんも遅くまでお疲れ様です」
飛雄馬は伴の屋敷の玄関先までこの豪邸の家事を一手に担う老女を送り届けると、おやすみなさい、と手を振る。
老女もまた、頭を下げると、コップや皿などは流しに置いておいてくださって結構ですからね、と言い残して名残惜しげに屋敷を出て行った。
今日は伴は溜まりに溜まった仕事を終わらせねばならんとかで遅くなると言っていたか。
つきっきりでいてくれるのも嬉しい反面、もうあの頃とは違うのだから自分の立場をわきまえろと思うのだが、それで納得する彼ではないだろう。
飛雄馬は戸締まりを確認してから屋敷に共に身を寄せている伴が遠くアメリカから呼び寄せてくれたビッグ・ビル・サンダー氏の待つ部屋へと向かった。
「オウ、ヒューマ。見送リニ行ケナクテ申シ訳ナイデース」
「いえ、おばさんもサンダーさんによろしくと言っていました」
なるべく、日本語のあまり得意でないサンダーが聞き取りやすく理解しやすい言葉を選び、飛雄馬はニコニコと真っ赤なえびす顔で己を出迎えた彼に笑顔を向ける。
「ヨロシク?ドウイウ意味デスカ?」
「明日もまたよろしく、とかそういう意味です」
「I see!理解シマシタ」
後ろ手で飛雄馬は廊下と部屋とを隔てる襖を閉めてからサンダーの傍らに膝をつく。
彼の尻のあたりには空になったビール瓶が2本、転がっている。
伴はビールでもウイスキーでも好きなだけ飲んでもらうといいと言っていたが、いくら酒が百薬の長とは言えども飲みすぎは体に毒であることを身をもって経験している飛雄馬だからこそ、それくらいで、と、制するに至った。
「コレヲ飲ンダラ終ワリニシマース」
ひっく、としゃくりあげつつサンダーは瓶を傾けコップに黄金色の炭酸を注ぐ。
「…………」
教えを請う身で、あまりとやかく言うのも後の関係に響くだろうかと飛雄馬は口を噤み、隣で一息にコップを空にしたサンダーを見守る。
「ヒューマモ一緒ニ飲ミマショウ」
「いえ……おれは酒は飲まんと決めました」
「デハ、一杯ダケ」
空にしたコップを再び黄金色に満たし、サンダーはそれを飛雄馬の顔の辺りまで差し出す。
飛雄馬は満面の笑みを浮かべ、ドウゾと促すサンダーを一瞥してからコップを受け取ってから、いただきます、とそれに口をつけた。
やや炭酸の抜けかけ、ぬるくなったビールが飛雄馬の喉を滑り、胃腑へと流れ落ちる。
アルコールを口にするのは、どれくらいぶりだろうかと飛雄馬は考えつつも間を置くことなくコップを傾け、中身をすべて飲み干すと、ごちそうさまでしたと口を拭った。
「ウフフ。ワタシノオ酒飲ンデ貰エテ嬉シイデス」
「酒なら伴に付き合って貰ってください。おれは再び野球に打ち込むと決めてからは酒は飲まんことにしています。お誘いは嬉しいですが、これっきりにしてください」
「Sorry,許シテクダサーイ。ヒューマガアマリニチャーミングダカラ、カラカッテミタクナリマシタ」
3本目のビール瓶を空にして、サンダーはそんな台詞を口にする。
「…………?」
チャーミング、とはどういう意味なのか、と、飛雄馬が聞き返そうとした一瞬の隙をつき、サンダーは彼の腰に腕を回すや否や、自分の腕の中にその体を抱き寄せた。
何を、と尋ねる間も与えないままにサンダーは飛雄馬の手を取り、体の自由を奪うとそのまま酒臭い唇を彼の口へと押し付けた。
「っぅ、………ふ」
驚き、身を強張らせた飛雄馬のことなど気にも留めず、サンダーは舌先で彼の前歯をなぞってから、再び唇同士をすり合わせる。
幾度となく角度を変え、与えられる口付けに飛雄馬はついにサンダーの舌の侵入を許してしまい、今度は本格的に舌の愛撫を受ける羽目になった。
上顎を舌先でくすぐられたかと思うと、そのままゆるく舌を吸われ、飛雄馬は小さく声を上げる。
「ウフフ、ヒューマハ口ノ中、弱イデスカ」
「っ…………は、ぁっ」
ようやく口を離され、飛雄馬は唾液に濡れた唇を閉じ合わせた。
口内に未だサンダーの舌の感触が残っていて、頭がまるで炎天下の球場で太陽にジリジリと焼かれたときのようにぼんやりとしてしまっている。
サンダーは飛雄馬の腕から手を離すと、彼の背中に手を遣りそのまま畳の上へと体を支えつつ組み敷いた。
「う………っ、ん」
畳に背を預け、飛雄馬は身をよじると自分より30センチ以上は背が高く横幅もあるサンダーを見上げる。
久々に口にしたアルコールのせいか、それとも先ほどの口付けのせいか頭が回らない。
と、サンダーは大きな手で飛雄馬の髪を撫で、うっとりとした目を彼に向けると再び口付けを与えてきた。
大きな腹にぐっとのしかかられ、飛雄馬はうっ、と声を上げる。
その際、仰け反った首筋にサンダーは舌を這わせつつ飛雄馬の穿くスラックスのベルトを緩めていく。
「ヒューマト伴ハドウイウ関係デスカ?夜中ニアンナ事ヲサレテハ眠レナイデース」
「う、っ、く………」
腰から緩めたスラックスと下着を剥ぎ取り、両足からそれらを抜きつつサンダーはそんな言葉を飛雄馬にかける。
まさか、気付かれていたとは──と、飛雄馬は己の男根を握ったサンダーの手の熱さに身震いしつつ奥歯を噛み締めた。
伴が深夜、おれの部屋に忍び込んできては体を重ねていることをこの人は知っている──だから、こんなことを──。
サンダーの大きな手が飛雄馬の男根を包んで、上下に擦り始める。
飛雄馬は、ひっ!と悲鳴のような声を漏らしてからサンダーから顔を背けると声を殺すべく口元に手をやった。
するとサンダーは背けた飛雄馬の顔、その側面にある耳に顔を寄せその窪みに沿うように舌を這わせてきた。
唾液を纏った尖った舌が飛雄馬の耳の入り組んだ箇所を丁寧に舐め上げたかと思うと、男根を握る手、その親指がくちゅくちゅと先走りを溢れさせる鈴口を指の腹で撫で回す。
「あ、ぁっ………っう、ん」
ぞく、ぞくと肌が粟立って、飛雄馬は身をよじる。
舌の触れた耳はじんじんと熱を持ち、まるで心臓がそこにもう一つあるかのように脈を打つ。
全部、この人は、知っているとでも言うのか。
おれと伴が、何をしていたか、すべて見ていたとでも言うのか。
涙を滲ませた瞳をサンダーに向け、飛雄馬は唇を引き結ぶ。
嫌だ、と拒絶したら、この人はアメリカへと帰ってしまうだろうか。
せっかく、伴が大枚をはたいて、日本に呼び寄せてくれたというのに。
「トテモセクシー。ヒューマハトテモ素晴ラシイ」
飛雄馬の汗の浮いた首筋に口付け、サンダーは彼に絶頂を迎えさせるべく、男根を擦る速度を速めた。
「う、っ………サンダーさ、ぁっ……あっ、あぁっ」
サンダーの名を呼びつつ、彼の手の中で飛雄馬はとぷ、とぷっ、と脈動に合わせ男根の先から白濁を吐くと小さく体を戦慄かせる。
「ヒューマ、口ヲ開ケテ」
「く、ち……?」
はあっ、と吐息を吐いて、飛雄馬はサンダーへと背けていた顔を向けると薄く口を開いた。
そこにサンダーは唇を押し当て、口内を犯しつつ組み敷く彼の両足を大きく開かせると両脇に抱え込んだ。
「!」
腹に体重をかけられ、飛雄馬の股関節が軋む。
唇を離そうと顔を振るが、顎を掴まれそれも敵わない。
唾液をじわじわと流し込まれて、飛雄馬はそれを嚥下しながらごくりと喉を鳴らした。
尻の辺りに熱く、固いものが押し当てられており、飛雄馬はあまりのおぞましさに身を震わせる。
「っ、む……サンダー、さっ……」
「フ、ゥッ………」
唇を離して、サンダーは体を起こすと己の股間、そこに手を遣りスラックスのファスナーを下ろしていく。
ビクッ、と飛雄馬はこれから行われるであろう行為を予想し──体を強張らせると大きく息を吐いた。
あの目は、本気だ。
このままでは、取り返しのつかないことになってしまう。
どうしたらサンダーさんを止められる。
おれも、サンダーさんも傷付かない方法で──。
「ん、っ……!」
くちゅっ、と尻に触れるものがあって、飛雄馬は孔を窄めた。
「ハァッ……ヒューマ……」
サンダーは取り出した己の男根を飛雄馬の尻に擦り付け、ぬるぬると会陰から孔にかけてを手を添えた自身の先走りで濡らしていく。
時折、亀頭が孔の上を滑り、飛雄馬はビクッと震えた。
「くぅっ………うっ」
徐々に量の増える先走りが尻を濡らし、飛雄馬は爪先に力を込める。
「入レタイ。イイデスカ……堪ラナイ……」
「ふ、ぅ、うっ」
あくまで、こちらに主導権はあると言いたいのだろうか。
なまじ男を──伴を知っているせいか、この状況は辛い。
ああ、腰をあとほんの少しだけ動かしてくれたら──。
違う、おれはなぜ、こんなことを。
飛雄馬は興奮しきり、痛む頭で葛藤し、悩ましげに声を漏らす。
「サンダーさん、これ以上は、いけないっ……!!」
サンダーを睨み、飛雄馬は震える声でそう、彼を制した。
が、サンダーはぐっと飛雄馬の尻に己の屹立した男根を押し付けると、そこから一息に腰を打ち据えた。
「あ…………!!」
男根が貫いた腹の奥から脳天を稲妻のようなものが駆け抜け、飛雄馬の呼吸が止まる。
刹那、とろとろと萎えていた飛雄馬の男根から液体が溢れ出て腹を濡らした。
目の前が真っ白になって声にならない。
見開いた飛雄馬の目は瞬きも忘れ虚空を見上げたままだ。
「…………ウフフッ」
これを待っていた、とばかりにサンダーは笑い声を上げると挿入した男根の先で飛雄馬の腹の奥をゆっくりとしたスピードで抉っていく。
「あっ、あ、あ…………」
腹の中を刺激され、飛雄馬はハッとそこで我に返ったものの、既にその体はサンダーを受け入れており、突かれるままに喘ぐのみだ。
一度絶頂を迎えた体はサンダーが腰を振り、中を掻き乱すだけで気を遣る始末で飛雄馬はその度に彼の腕へとしがみついて体を仰け反らせ、喉を晒した。
その喉笛に軽く歯を立て、サンダーは飛雄馬の浅いところを責めていく。
「ひ、っ………ぅ、」
すると、サンダーの男根が飛雄馬の前立腺の上をグリグリとこすり上げて、飛雄馬は再び己のモノからとろとろと精液を漏らす。
「伴ハ一人ヨガリデ良クナイ。ヒューマイツモ苦シソウデス」
「はぁっ………あ、いっ……」
サンダーの腕に爪を立て、飛雄馬はきゅうっと彼の男根を締め上げる。
飛雄馬の微かに開いた口にサンダーは口付け、上唇を食むと、己の体の脇で揺れていた右足の膝の裏に手を遣り、身を乗り出すようにして組み敷く彼のより奥深くに自身を埋め込んだ。
「あ、っぐ………ぅ、うっ!!」
飛雄馬の入り口が男根を締め上げ、サンダーは顔をしかめる。
軽く今ので再び飛雄馬は気を遣り、ビクビクと体を痙攣させるがサンダーはそんなことはお構いなしといった風で腰を打つ。
「ステキ。ヒューマ……」
額に貼り付いた飛雄馬の前髪を払ってやり、サンダーはにこやかな笑みを浮かべる。
「サンダーさ、っ……しっ……しぬ、はらのなか、も、う──っ!」
どすっ!とサンダーは飛雄馬の腹の奥を鋭く穿って、そこから先の言葉を紡げなくさせた。
「ダイジョーブ。ノープロブレム」
「あアッ………あ、ぅ、ぅ」
汗で肌に貼り付いた飛雄馬のシャツ、その乳首の位置がぷくりと膨らむ。
サンダーはまったく無防備な状態のそこを抓み上げると、ぎゅっとそこを指の腹で押し潰した。
すでに固くしこっていた突起ではあるがその刺激を受け、飛雄馬の乳首は更に膨らみ大きさを増した。
飛雄馬は体を反らし、それから逃れようと身をよじったがサンダーはシャツの上から突起を舌で刺激する方向に切り替えると、ガッチリとその腰を捕まえ、己の腰を振る。
「溶けっ………はらのなか、とける……っ!」
「ヒューマ……」
ひく、ひくと体を痙攣させる飛雄馬の乳首から顔を離し、サンダーは彼の唇にそっと己の唇を寄せるとそのまま腹の中へと欲を吐く。
「ん、っ………ふ……」
優しく、ゆっくりと口内を這う舌に飛雄馬は酔いしれつつ、サンダーが握って来た手を握り返すよう指を曲げた。


…………

「遅くなってすまんのう!」
バタバタバタ、と廊下を駆け、いつもの調子で部屋に入ってきた伴を汗を流し、新しい服を身につけたばかりの飛雄馬とサンダーは、おかえり、と出迎えた。
「次から次にオヤジのやつぅ、後は明日やるからと引き留めるのを振り払って帰ってきたわい」
「……………」
ぶつぶつと文句を言う伴の顔が見られず、飛雄馬はタオルで髪を拭くふりをして顔を逸らす。
「星?」
ビク!とこれみよがしに体を震わせた飛雄馬を訝しみ、再び伴は飛雄馬を呼んだが、サンダーが猛練習のお陰で疲れているようですとフォローを入れ、そうかと彼も納得したのか大人しく引き下がった。
「フゥ。ワタシモソロソロ寝ルコトニシマス。ヒューマ、マタ明日」
「…………」
ニッ、と笑みを浮かべたサンダーに対し、引き攣ったように笑顔を見せた飛雄馬の普段とは違う様を伴も見逃さず、とりあえず今から眠るという彼に礼を言うとふたり、部屋を出る。
「星?どうした、怒っちょるのか」
「いや、何でもない」
「そうかのう。何かいつもと違う気がするんじゃが……」
「いいから。伴、おれに構うな。明日早いから先に寝るぞ」
サンダーの部屋を出てすぐの廊下でそんなやり取りを繰り広げるふたりだが、伴はさっきから一度も自分の顔を見ようとしない飛雄馬に苛立ちを覚え、彼の顎に手を添えると半ば無理やり己の方を向かせた。
「あ…………」
「星、話をするときは人の顔を見て話せと言うたのはきさまじゃろう。どうしてさっきから一度もわしの顔を見らんのじゃあ」
「べ、つに、深い意味は」
驚いたように伴の顔を一瞬、仰いだ飛雄馬だったが、すぐに視線を逸らすと何やら口ごもる。
星がこんな物言いをするなんて、何か隠しちょるな──と伴はとりあえず自分の部屋に来るよう声をかけると、ネクタイを緩めつつ廊下を少し歩いた。
先に部屋に入った伴の後を追うように飛雄馬も足を踏み入れると襖を閉め、こっちに来て座れという言葉に素直に従い、畳の上に膝を折った。
「星、おれに構うより仕事に専念せいと言いたいのは分かる。じゃが、この伴宙太、そうもいかんことくらい星なら分かってくれるじゃろう」
「……………」
「星、機嫌を直してくれんかのう。くたくたで帰ってきてきさまにまでそう冷たくされると堪らんわい」
身を乗り出し、伴は飛雄馬のそばに体を寄せると顔を逸らした彼の耳元で囁く。
「っ……!」
ぶるっ、と飛雄馬は体を震わせ、目を閉じると唇を強く引き結んだ。
「星……どうしたんじゃい」
飛雄馬の肩を抱き、伴は口付けをせがむように顔を寄せたが、気分じゃないと一蹴され、手の力を緩める。
「あ…………伴。そんな、つもりじゃ」
目に見えて落胆する伴を飛雄馬は今にも泣きそうな、そんな顔をして仰ぎ見た。
「熱でも、あるのか、星よ。さっきから様子がおかしいぞ」
伴は手を挙げ、飛雄馬の額に手を遣る。
「っ、あ……!」
飛雄馬は悩ましげに声を上げると、己の額に触れている伴の手を掴んだ。
「ほ、星?」
「伴……その、嫌じゃ、なければ……っう」
震える声で、己を呼んだ飛雄馬の唇に伴は唇を触れ合わせ、その体を強く抱き締める。
彼の背中に腕を回しつつ、飛雄馬もまたその馴染みある舌使いに喘いだ。
「星から誘ってくるなんて珍しいこともあるもんじゃのう。ワハハ、明日は雪が降るかもしれんぞい」
飛雄馬は自分から畳の上に横たわり、己の上に跨がってくる伴の顔を見上げる。
「伴……」
伴の太い首に腕を回し、飛雄馬は彼の体を力任せに抱き寄せるとその唇を貪る。
「わっ、ほ、ほしぃ?うぐ……」
ちゅっ、ちゅっと伴の唇を啄みつつ、飛雄馬は空いた片方の手で己のスラックスのベルトを緩め、腰を浮かせるとその手で下着もろともそれらをずり下ろしていく。
「ん、ん……」
「な、なんじゃ!?」
驚き、体を起こした伴の足の間から両足を抜くと飛雄馬は下着とスラックスを引き抜き、彼の体を受け入れるように足を開く。
「来てくれ、はやく……」
「……………!」
飛雄馬の発言に、かあっ、と伴の顔が真っ赤に染まる。
いや、でも、その、慣らさんと、星の体が、とぶつぶつ口元で何やらぼやく伴を飛雄馬は再度呼ぶと、いいから、と先をねだる。
「し、知らんぞ。どう、なっても」
「伴になら、どうされても構わんさ」
「っ────!」
その一言が伴の理性を飛ばすには十分で、彼はゴクンと大きく喉を鳴らしてからいそいそと穿いているジャケットを脱ぎ、スラックスを膝上辺りまで下ろすと飛雄馬の開いた足へと身を寄せる。
そこで飛雄馬はきゅっと唇を引き結んだ。
打ち消してくれ、何もかもを、とそう願いながら己の腹の中をゆっくりと突き進んでくる熱に背中を反らす。
「あ………ぁっ」
仰け反った先、畳に頭を擦り付けつつ飛雄馬は部屋の出入り口を睨む。
しっかりと閉めたはずの襖が微かに開いている。
飛雄馬は、くっ!と歯を食い縛り、伴の腕に縋った。
腰を預ける畳が熱を持ち、汗で飛雄馬の肌へと貼りつく。
「星……変だぞい、今日のきさまは」
ゆる、ゆると腹の中を伴の男根が擦る。
飛雄馬は身をよじり、声を殺すよう口元を腕で覆いつつ伴を呼ぶ。
そうだ、全部夢だったんだ。
あれは、おれが見た夢なんだ。
サンダーさんのコーチを受け、疲れ果てたおれが見た気味の悪い夢。
「へ、ん、なのは……ふふ、いつものことだろう」
伴は腰をグラインドさせ、飛雄馬の中を掻き回す。
「星……」
首元に顔を寄せ、伴は飛雄馬の名を囁く。
ちゅっ、と白い首筋を吸い上げ、伴はそろそろいくぞい、と声を上げた。
「……………」
達する寸前に伴は飛雄馬から男根を引き抜き、彼の腹の上へと吐精する。
ああ、知らなければよかった──飛雄馬は腹の上に乗った精液を眺めつつ、無意識にそんなことを考えている自分がいることに気付いて首を振る。
「ちょっと飯を食ってくるぞい。星は寝とるとええ」
伴から受け取ったティッシュで腹の上を拭きつつ、飛雄馬は部屋を出ていく彼の後ろ姿を見送る。
違う、こんなことを思ってはいけない。
違う。そんなはずは──。
「ヒューマ」
ふいにかけられた声に飛雄馬の背筋が凍る。 「っ…………」
ぎしっ、と部屋の入口付近の畳が何やら人が足を踏み入れたときのように軋む。
そうしてそのまま、襖が閉まる音を飛雄馬は聞くと、こちらに忍び寄って来る人影の名を、薄い笑みをその唇に湛えつつ口にした。