日曜
日曜 朝食を食べ終えた飛雄馬は、坊っちゃんを起こして参りますねと言うおばさんに対し、自分が行くと伴を起こす役を買って出た。
日本庭園の様式で作られた大きな中庭にやって来ては、青々とした木々の枝に止まる雀らの様子を見ながら飛雄馬は伴の眠る和室へと長い回り廊下を歩く。
鹿威しの軽快なリズムが耳に心地良く、飛雄馬は思わず顔を緩めたが、伴の部屋に近づくにつれ次第に大きくなるいびきのそれに溜息を吐いた。
伴は昔からあまり朝が得意ではない。
と、言うより、今までは誰かに起こしてもらうのが当たり前の生活で、自分で起きるようになったのは巨人に入団し、寮生活をするようになってからと言うのだから開いた口が塞がらない。
それも数年の寮生活で改善されたと思っていたのだが、球界引退後はおばさんに起こしてもらう生活に逆戻りすることになり、はたまた接待での飲み会やらで帰宅が遅くなることが多く、自ずと再び、今のような状態になってしまったようだった。
飛雄馬は伴の部屋の前まで来ると、襖を開け、それをそっと音を立てないように閉めてから室内で高いびきをかいて寝ている彼のそばまで歩み寄る。
こちらに気付いている様子は微塵もなく、幸せそうに仰向けの格好でぐうぐうとやっている。
「伴、起きろ。朝だぞ」
その場に正座をし、飛雄馬が耳元でそう、囁くと伴は寝返りをうち、そのまま彼に背を向けた。
「うう、わしは朝からパンなど食うた気がせんわい」
「……………」
一体、何の夢を見ているのか。
同じく伴の屋敷に居候しているサンダー氏が好むトーストとハムエッグの夢でも見ているんだろうか、呑気なものだな、と飛雄馬は苦笑してから再度、伴、と呼んだ。
「あと10分……」
「伴!起きろ!仕事に遅れるぞ!」
「びゃっ!!!!」
大きく息を吸い、一息に言ってのけた飛雄馬の声に伴は飛び上がり、情けない声を漏らす。
「まったく……いつまで寝ているつもりだ」
「ち、遅刻!?あわわ、今何時じゃい!星!なんでもっと早く起こしてくれんのじゃあ!」
枕を抱き締め、あわあわと首を振る伴に飛雄馬は今日は日曜だと返し、おばさんが食事を用意してくれているぞと言いながら立ち上がる。
「なに、日曜?脅かさんでくれい、星よ。わしゃてっきり寝坊したかと思うたぞい」
ほっと胸を撫で下ろし、伴は抱いていた枕を布団の上に転がす。
「サンダーさんもおれもとっくに朝食を済ませたぞ。おばさんが片付かんとぼやいていた」
飛雄馬は再び、ごろんとその場に横になった伴を見下ろしながら声に怒りの色を滲ませる。
「日曜くらいゆっくり寝かせてほしいわい」
言うなり、伴はぷいと飛雄馬から顔を背けると、跳ね除けた掛け布団を頭から引っかぶり沈黙した。
「伴、疲れているのもわかるが朝食を作って待っていてくれるおばさんの気持ちも考えろ」
「ええい!うるさい!おばさんに食器は自分で洗うからその他の家事が済んだら帰るように伝えい!」
「伴!おまえ、いい加減に……」
「…………じゃあ星がおはようのチューをしてくれたら今すぐにでも飛び起きるわい」
「…………」
飛雄馬が背を向け、襖の引き手に手を掛けたのを布団から顔を出した伴が、大声を上げることで引き留めた。
「じっ、ジョーダンじゃあっ!星!冗談!本気にするな!」
「本当に起きるんだな」
「……………」
二人は大真面目な顔をしてしばし見つめ合う。
「ふ……ふふ、伴、好きなだけ寝ているといいさ。おばさんにはおれから話しておく。ごゆっくり」
先に口を開いたのは飛雄馬の方で、まさかの返答に伴の眠気は完全に覚めてしまった。
「星?どういう風の吹き回しじゃい。いつもの星ならここでぶちゅーっと、あいや、括を入れてくれるじゃろうに」
「なに、日曜くらいゆっくりするべきだと思っただけのこと。今週は特に忙しそうだったからな」
「星……すまんのう、練習にあまり顔を出さんで」
「なぜ謝る?こちらとしてはしょっちゅう顔を出される方が心配になるぞ。伴は自分の仕事を頑張ればいい。おれはサンダーさんの指導のもと、おれなりに頑張るさ」
ほら、行こうぜと部屋から出るように促す飛雄馬を体を起こした伴が手招く。
ここじゃだめかと尋ねる飛雄馬に、誰かに聞かれたくない話じゃと返し、伴は再度、彼を呼ぶ。
「誰もいやしないだろう」
変な伴だなと苦笑を浮かべ、布団のそばに寄ると膝を折った飛雄馬の手を伴は力強く握った。
「……………」
飛雄馬の手を握ったまま、伴は目を閉じ唇を尖らせると顎を突き出し、口付けをねだる格好を取る。
「結局それか……」
「チューくらいええじゃろう。日曜なんじゃから」
「日曜は関係ないぞ」
小さく吹き出し、飛雄馬は伴の唇にそっと自分の唇を寄せると、そのまま着ているシャツの裾から手を入れようとしてきた彼の腕を掴んだ。
「う…………」
「朝から盛るんじゃない」
「夜ならいいのか」
「そういう、話じゃない。とにかく、早く朝食を食べろ」
「…………星」
すうっ、と慣れた手つきで隣に座る飛雄馬の腰に腕を回し、その体を抱き寄せると伴は彼の後頭部に手を添えるなり、顔を傾けた。
「なっ、ばかっ………ふ、」
伴が顔を寄せてきた瞬間、飛雄馬は反射的に目を閉じ、彼の口付けを受け入れる。
ぬるりと口内に入り込んだ舌の熱さに身震いし、飛雄馬は腰を抱く伴の腕を、彼が寝間着にしている浴衣の袖越しに掴んだ。
熱を孕んだ吐息を漏らし、互いに舌を絡ませ合うさなか、伴は勢いのままに飛雄馬の体を畳の上へと押し倒す。
「……っ!」
尻餅をつくような格好で畳の上へと組み敷かれ、弾みで離れた飛雄馬の唇を追って、再び口付けを与えつつ伴は彼の両膝を立たせてからそれを左右に割り、己の体をその両足で挟み込むような形を取らせた。
手探りで枕を探し、伴は飛雄馬の腰の下にそれを敷いてやってから唇を離すとそのまま彼の首筋に顔を埋める。
「う…………」
薄い皮膚をゆるく吸われ、微かな痛みがそこから飛雄馬の全身へと走った。
そうして、着ているシャツの裾から滑り込んだ伴の掌が熱く肌を撫でる。
口元に手を遣って、声を殺す飛雄馬は伴の与えてくる愛撫に時折、眉間に皺を寄せるようにしてその甘い痺れを堪えた。
伴の指先が腹を撫で、脇腹を辿り胸へと到達する。
耳元でしていた首筋を吸うリップ音がしなくなり、はっと目を開けた飛雄馬の目に飛び込んできたのは伴が己の胸へと顔を寄せ、その突起を口に含むその一瞬で、あっ!と思った次の瞬間、大きく背中を反らしていた。
ちゅっ、と軽く吸い上げた突起が膨らんだのを口の中で感じながら伴は、それを舌先で押しつぶすようにして弄ぶ。
「…………ッ、ぅ、う………」
じんじんと嬲られるそこが疼いて、腹の中を切なくさせる。
伴は飛雄馬の胸に吸い付きながら彼の腰に両手をやり、穿いているスラックス一式を緩めると、その中に手を遣った。
とっくに立ち上がっていた飛雄馬のそれは伴に触れられ、一段と昂ぶったか、ピクンと震えた。
「星……最後までいってしまうぞい」
大きな手で飛雄馬の下腹部を撫で、勃起したそれをゆるゆると擦りながら伴が口を開く。
「手短に、………ん、んっ」
「おうともよ……言われんでもそのつもりじゃい」
言って、伴は飛雄馬の両足から一式を剥ぎ取ると、こういうときのために布団と畳の間に隠していた潤滑剤代わりの整髪料の蓋を開ける。
それから、中身を指で掬うと、飛雄馬の開いた足の中心に入念にそれを塗り込み始めた。
指の熱と摩擦で整髪料が溶け、その滑りが飛雄馬の入り口を解すのに一役買う格好になる。
「は、っ………あ、っあ」
飛雄馬の様子を伺いつつ、伴は彼の中へと指を挿入していく。
熱い襞が指に絡み、入り口がきつく伴を締め上げる。
きつくはないかと尋ねた伴の問いに飛雄馬は頷き、増やされた2本目の指にぎゅっと口元で拳を握った。
2本の指は飛雄馬の中を探り、中から前立腺を押し上げる。
トントン、とその位置を軽く指先で叩かれ、飛雄馬の男根は更に反りを増し、その先からはカウパーを漏らした。
「ひ………っ、っ」
指が動くたびに飛雄馬の身体は無意識に跳ね、伴を挟み込むその足先をぎゅうっと丸めた。
「星……」
伴が切ない声で飛雄馬を呼び、浴衣の帯の下から己の怒張を覗かせる。
飛雄馬は涙を浮かべた目で今から自身を貫くであろうそれを見遣り、それから申し訳なさそうな表情を浮かべこちらを見下ろしている伴の顔を仰ぎ見た。
そんな顔を、するくらいなら、最初からしなければいいだろうに、と飛雄馬は尻にあてがわれたその熱さに喉を鳴らし、唾液を飲み込んでからグッ、と入り口に力を入れる。
すると、その瞬間、伴は腰を突き入れ、飛雄馬の中へと入ってくる。
途中まで手を添え、己を導いてやってから伴は飛雄馬の片足、その膝裏に手を置き、ぐいっと股関節を押し広げた。
その仕草でより深く伴は飛雄馬の腹の中を抉る格好を取り、びくびくと己を締め付ける熱さに酔う。
飛雄馬の肌が粟立ち、まくり上げたシャツの裾から覗く両の乳首がぷくりと膨れている。
伴は少し腰を引き、根元まで埋めた男根を抜くとゆっくり中へとそれを押し込む。
「は、っ………ぐ!!ぅ、うっ」
飛雄馬の腰がしなり、晒した喉が震えている。
伴はその腰を叩く速度を速め、飛雄馬の中を抉った。
飛雄馬の肌の上を汗が滑り、畳に落ちる。
星と呼ぶ伴の吐息混じりの声が飛雄馬の腹の中を疼かせた。
汗の滲む飛雄馬の首筋に口付け、伴は腰のスピードを緩めた。
「あ……え?っ……」
なぜ、とばかりに閉じていた目を開け、口から手を離した飛雄馬の唇を貪り、伴は己の脇の下で揺れていたもう一方の足も押し開くようにして広げ、体重をかけるようにして腰を叩いた。
「あ、っあ、あ………ば、っ、待っ………」
制止をかける間もないまま伴は飛雄馬の中に射精し、満足気に呻いた。
どく、どくと腹の中で脈打つ伴の脈動に飛雄馬は眉をひそめ、ばかっ!と小さく声を上げた。
飛雄馬の中から男根を抜き、伴がそれをティッシュで拭っていたところに廊下から声がかかり、ふたりはビクッ!と体を跳ねさせる。
「す、すぐ行くわい!」
先に返事をしたのは伴で、慌てて衣服の乱れを整えると、すぐ行くからあっちに行っちょってくれとわざわざ呼びに来てくれた老女を追い返し、未だ横になったままの飛雄馬にニカッと笑顔を見せてから部屋を出ていった。
「……………」
まったく伴のやつ、すぐ調子に乗るんだから……と飛雄馬は廊下を走る伴の大きな足音を聞きながら、ふうと大きな溜息を吐くと、体をゆっくりと起こすのだった。