きぃっ、と部屋の扉が開く音がして伴は目を開ける。まだ視界に霞がかかったようになっており、瞳が乾いてやたらと熱い。
伴は一度目を瞬かせ、ふと開いた扉の方に視線を向けた。
「起きてたのか」
「………今起きたばかりじゃい」
飛雄馬は後ろ手に扉を閉め、ベッドで布団にくるまって眠っている伴の元へ歩み寄る。例に漏れなく、本来なら先輩方と混じって朝から夕方までみっちり練習をすることになっているのだが、この日、伴宙太という男は高熱を出し、朝から寝ていた。
昨日、大雨の中行った星飛雄馬との投球練習がどうやらダメ押しだったようで、連日の疲れも相俟って伴は体調を崩した。
飛雄馬の方はモーションを起こし、球を放るもので雨に濡れてもそこまで寒さを覚えることもなかったが、それこそ針の穴をも通すコントロールを誇る彼の球をほぼ微動だにすることなく雨に打たれ、続けていた伴は見事に体を冷やしたのである。
「……熱は、下がったか」
「いや、まだあるわい……」
言いつつ、体を起こそうとする伴を飛雄馬が制し、そのまま寝ているようにと言った。元々、それほど明るく陽気というわけでもないが、今日に限って飛雄馬の口数はやたらと少なく、ははあ、おれのことを気にしているのだな、と伴は飛雄馬に対して申し訳なささえ感じる。
けして星のせいではなく、自分の甘さが招いた結果だというのに。
「星、あまり近寄るなよ。風邪をうつすといかんからな」
「伴」
伴はふうっ、と一息吐いてから目を閉じたものの飛雄馬に呼ばれたために瞼を上げた。すると、ベッドの傍らに立つ飛雄馬がぽろぽろと涙をその頬に伝わらせていたために、びっくり仰天慌てて跳ね起き、星!と叫んだ。
「おれの練習に付き合ったばかりに、伴」
「またおまえはそんなことを気にしおって」
吹き出してから、伴は飛雄馬をいつものように抱き締めるべく両腕を広げたが、自分が風邪っぴきのことに気付いて苦虫を噛み潰したような顔をしてしょんぼりと腕を下ろした。
「と、ともかくじゃい。おれが風邪をひいたのと星の練習に付き合ったことはなんの関係もないからのう。そう気に病むことはないぞい」
鼻の頭を爪で掻きつつ、伴は言う。飛雄馬が自分のために泣いてくれたことが嬉しかったがゆえか、更に体が熱くなったような気が伴にはした。
そうして、ゴホンゴホンと数回咳をして、布団に潜りかけた伴の背に軽い衝撃が走って、彼はヒエッ、と間抜けな声を上げて振り返る。と、伴の広い背に飛雄馬が抱き着いて顔を埋めているもので、彼は余計にぎょっとなった。
「星?どうしたんじゃあ」
「きみがいてくれてこそのおれだ、伴よ。こう言うと酷に聞こえるかもしれんが、早く風邪を治してまた練習に付き合ってくれ」
「おうとも!星のその言葉、百人力じゃい!」
ガハハ、といつものように豪快に伴は笑って再びゴホゴホとやる。
変に大声を出して笑ったせいか熱が上がったように思え、伴は飛雄馬に離れるように言って、ふと涙に濡れた彼の顔を仰いだ。
「……おれは泣いとるより、笑った星の顔が好きじゃのう。なんて、わはは!熱のせいか口まで変に回るわい」
伴は腕を伸ばして、飛雄馬の頬を伝う涙を指先で拭ってやってから、再び笑うと噎せ込んだ。いよいよ以てこれはよろしくないと伴は布団に潜ろうとしたが、飛雄馬が突然にスパイクを脱ぐとベッドに膝を付き、こちらににじり寄ってきたもので面食らい、大きな目を見開いた。
「ど、どうしたんじゃ」
じっと飛雄馬の黒い大きな瞳が伴を捉える。その双眸に映った己の顔がなんとも間抜けで、伴は顔を逸らした。
すると、暖かく微かな風が唇に何やら触れて、伴は何事かと再び飛雄馬に視線を遣った、その挙動と飛雄馬が彼の唇に口付ける一瞬がおよそ同時だった。
唇に触れた妙な風の正体が飛雄馬の吐息と気付くのにそう時間はかからず、伴はゆっくり目を閉じ、彼の口付けを受ける。
そうしながら、飛雄馬の背に腕を回し伴はぎゅうっと強く彼の体を抱いた。いつもなら抱いたところでどうということはない飛雄馬の体温だが、やたらに今日は冷たく感じて、伴は心地良かった。
唇同士を合わせたまま伴は飛雄馬を抱き締め、前のめりに倒れて彼の小柄な体を体の下に組み敷く。ベッドに着地した弾みで、飛雄馬の頭から帽子が脱げ落ちた。
「……うつしてしまうかもしれんぞい」
「おまえの苦しみはおれの苦しみだろう、ふふ」
「こ、こんなことまで共有せんでええわい!」
叫んで、伴は視線を左右に数回泳がせたのち、組み敷く彼の唇に口付ける。
触れ合う舌と唇とが熱くて、飛雄馬は小さく呻いた。自分が腕を回す彼の首筋も変に熱を持っていて、ああ伴は事実、体調が悪いのだなというのを飛雄馬に悟らせる。
伴は飛雄馬の唇を小さく啄んでから、続いて彼の顔の輪郭に触れて、その首筋にそっと唇を寄せた。その度に、飛雄馬はぴく、ぴくと体を跳ねさせ、切なげに立てた膝を揺らす。伴は飛雄馬の着ているジャイアンツのユニフォームの前を留めるボタンをひとつひとつ丁寧に外していく。
すると、中から肌にぴったりと密着したアンダーシャツが覗いて、伴はその上から飛雄馬の腹を大きな掌で撫でた。
「ん……」
飛雄馬は声を上げ、その漏れ出た声を押さえようと口元に手を遣る。彼の閉じた瞼の縁に生え揃うまつげが揺れた。
伴は深呼吸をしてから、アンダーシャツの裾に指を差し入れ、直に飛雄馬の肌を指先で撫でる。
「あ、くっ………」
じわりじわりとアンダーシャツをたくし上げながら伴は指で飛雄馬の腹を撫でさすった。
すると飛雄馬の腰が僅かに引けて、ベッドが軋む。シャツを飛雄馬の鎖骨辺りまでたくし上げて、伴はベッドに膝を付く位置を飛雄馬の腰から腿辺りまで下げると、顔を寄せてその白い肌に吸い付く。
弓なりに仰け反る背中をそちらに手を回して撫でつつ、伴は飛雄馬の乳首を吸い上げる。ほんの少し強く吸ってやると、みるみるうちにその突起は尖って、舌で舐めるようにすると、立ち上がった乳首が舌の表面に固く触れた。
「ッ、っ………う〜〜」
眉間に皺を寄せ、飛雄馬はその強い刺激に呻いて、腰を揺らす。尖った突起を愛撫しつつ、伴は飛雄馬の穿くユニフォームを留めるベルトを外しにかかる。
バックルからベルトを抜き、体への締め付けを緩めるとズボンのボタンを外して、伴は飛雄馬の下着とユニフォームの間にできた隙間に手を差し入れた。
中ではすっかり逸物が充血し、薄い布を持ち上げている。下着の腹に留まるゴムの位置から今にも飛び出さんがごとく勃起している飛雄馬の逸物を伴が薄い布の中から解放してやると、彼の男根はバネ仕掛けの玩具のごとく勢い良く現れた。
「ば、ん……」
飛雄馬の喉仏がゴクン、と大きく上下に動く。伴は飛雄馬の胸から口を離すと、今度は手にした逸物を責めにかかった。大きな、いつもより熱い手が飛雄馬の男根を握って、絶妙な力加減とタイミングで擦りあげてくる。
「は、ぁ、っん……んん」
いつの間にか鈴口からは先走りが垂れ落ち、伴の指を濡らしている。
乾いた摩擦音を上げていた飛雄馬の下半身からは液体の混ざった音が聞こえ始め、それを耳にした飛雄馬は口元に当てる手でぎゅうっと拳を握った。伴の濡れた掌が亀頭を撫で、裏筋をなぞる度に飛雄馬の全身はビクビクと震え、閉じた瞼の目尻からは涙がこめかみへと滴る。
ちゅくちゅくと音を立て、飛雄馬の男根は伴の手により緩急を付け嬲られ、弄ばれる。
「………っ、う、うっ、あ」
絶頂を迎える寸前で幾度となく手を弱められ、飛雄馬の下半身は疼く。責めを受ける逸物ももちろんのことであるが、一番に疼くのはその下、陰嚢の数センチ下にある後孔であった。寸前で止められるたびに切なく締まって、その先を待ち侘びる。
「だっ、出したい。伴、っ、ばん、ん」
「おう、好きなだけ出したらええわい」
言うなり、伴は飛雄馬を射精へと導いて、そのまま彼の掌で白濁を放出させた。
「は、ぐ………っ、う、う」
ドクドクと一際長く、飛雄馬は伴の掌で達したのち緊張を解き、ぐったりとベッドに体を預ける。伴は一度飛雄馬から離れ、手をデスクの上にあったティッシュ箱から取り出した数枚で拭ってから、引き出しよりチューブ状の軟膏を手に戻ってきた。
腹を上下させ、呼吸を整えつつ、飛雄馬は涙に濡れた瞳を彼へと向ける。
伴はベッドの上に再び乗り上げると、飛雄馬の穿いているユニフォームのズボンと下着とを慣れた手付きで脱がせた。
そうして、指先に取り出した軟膏を指の腹同士で伸ばしつつ、伴は飛雄馬のストッキングとソックスを着用したままの両足を左右に開かせて、その中心にある窄まりへと熱を加え柔らかく練った軟膏を塗り付ける。奥歯をぐっと噛み締めて、飛雄馬は下半身に神経を集中させた。
伴は一度、飛雄馬の表情を盗み見て、大丈夫か?と尋ねる。それを受け、飛雄馬は頷き、眉間に寄せた皺をゆるゆると解いた。
それならば、とばかりに伴は指の腹で撫でていた飛雄馬の後孔へと指を飲み込ませる。指を締め付ける箇所を伴は解しに掛かるが、どうも熱のせいか頭がぼんやりとしてしまう。
目を閉じ、伴の与える刺激に身を委ねていた飛雄馬もその様子に気付いたか瞳を彼の方へと向け、僅かに体の力を抜く。
そうして、飛雄馬は両手をベッドについて上体を起こすと、伴に横になるようにと言った。
「星?」
「このまま、っ……伴は終われるのか?」
「し、しかし、星は練習終わりで疲れておるじゃろう」
「そう、思うのなら言う通りにしてくれ……」
「………」
ぐらぐらと揺れ、痛む頭に伴は顔をしかめつつ飛雄馬の促すとおりに、つい先程まで頭を乗せていた枕の上に再び頭を起き、冷えたシーツの上に体を横たえた。
すると、飛雄馬は伴のそばににじり寄って、一度チラと彼の顔を見遣ってから、穿いているパジャマのゴムが通った箇所を捲った。すると、中からすっかり出来上がり、力強く筋の浮いた逸物が勢い良く跳ね出て、飛雄馬は一瞬、ビクッとなる。
「うう、星よう……見んでくれえ。わしゃ恥ずかしくて熱がまた上がりそうじゃあ」
伴は顔を掌で覆い、自身の勃起した男根をまじまじと見つめる飛雄馬から目を逸らす。と、飛雄馬は口を開けてその怒張をゆっくりと口に含んだ。
「う、ぅっ……星っ……」
伴の腰が大きく跳ねる。
飛雄馬は到底全体は含みきれぬだろうと踏んで、粘膜の露出している亀頭部位を重点的に責めることとした。
口内に唾液をめいっぱい溜めて、舌と上顎とで締め上げて、伴の鈴口から溢れる先走りを唾液と混ぜる。
「ふ、っ……はぁっ」
口の中に溜まった唾液を飲み込んでから、飛雄馬は己の体液に濡れ、光る伴の男根を手に、彼の体の上へと跨った。
「星、おまえ」
「静かにしてくれ……気が散る」
膝を立て、足裏全体をベッドに付けるようにして伴の上に跨った飛雄馬は、己の後孔の位置に彼の亀頭を宛てがうと、ゆっくりと腰を落とす。中途半端に解されたそこはやや引き攣りながらも伴を飲み込み、体の中、奥の方へと彼をいざなう。
伴もその熱さときつい締め付けに顔をしかめ、飛雄馬もまた、体を貫く不快感と微量ながらも感じる痛みに眉間に皺を寄せた。 体をくねらせ、飛雄馬は懸命に伴を飲み込んでいく。
息を吐いて、伴の胸に飛雄馬は両手をつくとやっとのことで彼を根元まで体内に埋めた。ぶるっ、と飛雄馬は体を震わせ、こちらを仰ぐ伴を見下ろす。
目が心なしか潤んでいて、熱があることを飛雄馬に知らせる。それでなくとも触れている尻と腰、そうして腹の中にいる逸物がいつもより熱い。
飛雄馬は腰を上げ、根元まで埋めた男根を体内から少し引き抜くと、伴を後孔で締め付けつつ再び腰を落とす。その動きに合わせて、ベッドがギシギシと軋んだ。
「っ……く、ぅ……」
腰を上下させる度に伴の逸物が飛雄馬のとある器官を擦って、はしたなく声を上げさせる。伴の方も飛雄馬の後孔で締め上げられ、男根をしごかれ、喉の奥からくぐもった声を漏らした。
その内、伴は己の腹に置かれた飛雄馬の手、その指に下から自身の指を絡め、ぎゅっと手を握る。飛雄馬が腰を振るたびに彼の逸物が伴の腹の上で揺れた。
「星、膝立ちになれ」
「え……?」
「はよう、頼む」
言われるがままに、飛雄馬は立てていた膝をベッドに付いて、何事か、と伴を見遣った。その刹那、今度は伴がベッドに投げ出していた足を曲げ、膝を立てると、下から飛雄馬を突き上げる。
「あっ!」
ドスン!と加減してとは言え、いきなりに叩き上げられ、より深い場所に伴が入り込んだ。その衝撃は飛雄馬の背筋を駆け上がって、視界に火花を散らす。
「あ、あっ……!」
仰け反った飛雄馬の目尻から涙が滴り落ちた。星、と伴は優しく飛雄馬を呼ぶも、下から勢いのままに彼の小さな体を貫き、叩き上げる。
「いっ、うう、う〜〜っ!」
呻く飛雄馬の唇を伴は指を解いた左手の親指で撫でると、その声を漏らす隙間から彼の口の中へ滑らせる。
さすがにここはジャイアンツの宿舎であり、廊下にはまだ人がいる。隣の部屋に響かないとも限らない。
多少の部屋の揺れや軋みくらいなら室内で練習なり自主トレなりしているのだろうと多めに見てもらえようが、こう声を上げられては弁解のしようがない。
濡れた飛雄馬の舌をぬるぬると指で撫でて、奥歯に触れる。伴の指を飛雄馬の唾液が伝い落ちて、手首までを濡らした。
「は、っ……ん、んっ!」
びくっ!と飛雄馬は震え、伴の体の上で体を戦慄かせる。その際、咥えた伴の指を僅かに噛んで、血を滲ませた。伴もまた、その後何度目かの突き上げのあと飛雄馬の中に欲を吐く。
二人は繋がったまま、互いに荒い呼吸を繰り返していたが、ふいに飛雄馬が腰を上げ、ぬるっ、と体内から伴を抜いた。
中から白濁が掻き出され、どろりと伴の逸物を伝い落ちる。飛雄馬はそのまま伴の足のそばにふらふらと尻もちをついて、小さく身震いをした。
「星、おれが風邪をひいたのはけして星のせいではないからのう。それだけは分かっていてくれ」
「………」
体を起こして、伴は咳き込みつつ、デスクの上にあった市販の解熱剤をこれまたぬるい、予め汲んでおいた水で飲み込んだ。
「明日になれば下がっとるわい!だから、また、一緒に、その、練習、しようぜ」
ニカッ!と伴は屈託のない笑顔を見せ、寒気でも覚えたか身震いするといそいそと布団に潜る。飛雄馬はその始終を見届けたあと、まだふらつく腰を上げ、伴の眠るベッドの端に腰掛けた。
「星は何でもかんでも気にし過ぎじゃい。おれは星が思っとるほど弱くもないし、気にもしてはおらん。さっきも言うたが、おれは笑っとる星が好きじゃい」
照れ臭そうに言って、伴は布団を頭からかぶる。ああいつか、おれは本当に伴をだめにしてしまう気がする、と飛雄馬はベッドに腰掛けたまま目を閉じ、大きく息を吐くと、下唇を強く噛み締めた。