年賀状
寝入り端
坊っちゃん、今年も来ておりますよ。
郵便ポストを覗いてくると言い、屋敷を出たおばさんが年賀葉書の束を手に戻ってきたのを羽織袴姿の伴はキッチンのテーブルでおせちを箸で突つきながら見遣った。
そうか、今年も来たか。
新年、一月一日の間もなく正午を迎えようかという時分。
伴は年始の挨拶回りのあとおばさん手作りのおせちと雑煮に舌鼓を打ちつつ、自宅にてぼんやりと正月番組などを眺めて過ごしていた。
そうして、そろそろ年賀状が届く頃でしょうと席を立ったおばさんの声に、伴はひとりの青年の顔を思い浮かべる。
手渡された束の一番上、今年の干支が印刷された質素な裏面に一言だけ、今年もよろしく。体に気をつけてと書かれた葉書をめくり、送り主の名に視線を落とす。星飛雄馬、と名前のみが書かれている。
星、飛雄馬。あの日から行方不明となってしまった親友の名前。わしはあれから年を取ったが、記憶の中の星は別れたときの、幼い、十代のままの姿。
あれから背は伸びたんじゃろうか。どこかでいい人でも見つけ、所帯を持ちでもしたんじゃろうか。
様々な想像が伴の酔った頭の中に浮かんでは消えていく。
「何が今年もよろしくじゃい。そう思っとるんなら顔くらい見せに来てくれてもええじゃろうに」
葉書をテーブルに置くと、伴は徳利から猪口に注いだ日本酒を一息に飲み干す。
「まあ、まあ。星さんも何か事情がおありなのでしょう。こうして毎年年賀状を送ってきてくださるということはお元気でいらっしゃるんですよ」
「そりゃあ、そうじゃろうが…いなくなってもう今年で五年になるぞい。花形と明子さんの結婚式にも星のやつは祝電を送ってくるばかりで姿を見せんかったし……心配ばかりかけさせおって」
「坊っちゃんも早く身を固めませんとねえ。ワタシもいつまでこうしてお世話をしてあげられることやら」
「ふん、星が見つからんことにはそれどころじゃないわい」
再び、猪口に酒を注ごうとした伴だったが、手にした徳利が空であることに気づき、急須から湯呑みに茶を入れていたおばさんに空であることを告げる。
「飲みすぎですよ。お茶を入れましたからこちらにしてくださいな」
「あ、あと一本だけ……」
「いけません。ダメなものはダメです」
「…………」
しゅんと伴は肩を落とすと腰を上げ、部屋に戻るわいと葉書の束を手にふらふらと廊下へと出た。
心配してくれとるのはわかるが、こんな日くらい飲ませてくれてもええじゃろうに。
はあ、と酒臭い息を吐いて、伴は戻った自室の畳の上へと寝転がる。
今年は、星に会えるじゃろうか。
毎年、新年を迎えるたびに同じことを思う。
星が姿を見せんのはわしを避けているからではなかろうか、とひとり、悲観してしまう。
花形の屋敷はこっそりと訪ねているんじゃなかろうか。左門夫婦には会っているんじゃなかろうか。
しかし、尋ねてみたところで皆口を揃えてそんなことはないと言う。一体、今頃どこでどうしているのやら。
「電話の一本くらい、寄越しても罰は当たらんぞ星ぃ……」
じわり、と滲んだ涙を拭い、鼻を啜ると伴はそのままうとうとと微睡み始める。
寝入り端、部屋を訪れたおばさんが押し入れから引き出してくれた掛け布団を掛けてくれる気配を感じながら伴は懐かしい、青春時代を共に駆け抜けた親友の名を呼んだ。星飛雄馬が草野球チームの助っ人として関東近郊に姿を現す年の、元日の昼下がり。