無条件協力
無条件協力 風呂上がり、肩にタオルを掛けたまま飛雄馬はトランクスとランニングシャツの姿のままどっかとベッドの端に座る。
そうして、ふう、と一息吐いてから目を閉じた。一時はこれで選手生命も終わりかと思われた星飛雄馬は宿命のライバル・花形満、左門豊作に打ち勝つために新型兵器を引っ提げ、マウンドに戻ってきた。
その名も名付けて大リーグボール。
「おお、帰っとったか」
「伴」
呼ばれ、飛雄馬は目を開けるとニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべつついつの間にか傍らに立っていた彼の名を呼ぶ。
ユニフォームを脱いで、伴も飛雄馬と同じく下着姿である。
彼と飛雄馬との出会いもまた、運命であった。飛雄馬が入学試験を受けた青雲高校野球部の応援団長を買って出た柔道部所属の伴宙太。星飛雄馬に面と向かって空気でぶなどと馬鹿にされ、そこから妙に彼を意識するようになった。
伴が強引に青雲高校野球部に入ってからは互いに切磋琢磨し合い、紆余曲折ありながらも憧れの巨人に二人は入団したのだ。
「ありがとう。きみのおかげだよ」
「ヘヘ、いやなぁに……おれは何もしてはおらん」
照れ臭そうに伴は頭を掻きつつ、へらっとその顔には笑みを浮かべる。もちろん何より嬉しいのは彼であろう。宿敵である花形、左門にその左手から放つ速球を打たれ、巨人軍のつらよごしとまで言われた親友である星飛雄馬が帰ってきたのだから。
「伴には、世話になってばかりだ」
「……」
瞳に涙を浮かべ、今にも泣きそうな飛雄馬を伴はその大きな体で抱き締める。
「おかえり。星……」
いつものようにその小さな体を抱いた伴であったが、ふわりと香った石鹸の匂いにはっとなる。そうだまだおれは汗を流していない。風呂上がりの星に触ってはまた汚れてしまうと考え、慌てて伴は飛雄馬から離れた。
何やら慌てふためいて自身から離れた伴を飛雄馬はベッドに腰掛けたまま見上げる。
「あっ、おれ、まだ汗を流しとらんから」
「……ああ、うふふ。なんだそんなことか。気にする必要はないさ」
もう一度抱いてくれ、と言わんばかりに飛雄馬は顔を上げ、両手を広げた。
それならば、と伴は改めて飛雄馬の体を抱く。こんなに小さな体でよくあんな速球を放つものだ、と。その体格ゆえに球質が軽く、それを見抜いた花形らにプロ入りしてからは打たれることとなってしまったのだが。
「今日はゆっくり眠れ、星」
「ああ。ふふ、しかし風呂に入ったせいかまだ体が熱い」
柔らかな頬を飛雄馬は伴の顔にすり合わせ、そんな台詞を吐く。それは伴とて同じであった。大リーグボールを放ち、雪辱を晴らした飛雄馬を見て興奮せずにおられようか。まるで我が事のように伴は嬉しかったのだ。バッテリーを組み、共に歩んできたあの日から星の悲しみは伴の悲しみであり、彼が喜ぶときはもちろん伴も自分のことのように喜んだ。
「星、目を閉じてくれんか」
「目?今度はおれがかい」
くすっと飛雄馬は先日の目隠し練習のことを思い出し笑った。
「仕返しとばかりに殴るのだけはよしてくれよな」
「な、何をう!そんなことするわけなかろう」
むっと伴は顔をしかめ、抱いている飛雄馬から体を離す。
「ははは。すまない、そうだな、伴はそんなことをする男じゃない」
「……やっと笑ったな」
「……」
「だいぶ参っとったようだからのう」
「それは伴も同じだろう」
鼻を啜って、飛雄馬はにっとまだ幼さの残る顔に笑みを浮かべた。すると、伴は音もなくそっと飛雄馬の唇に自身のそれで触れる。ぎくうっと飛雄馬はあまりの驚きに跳ね上がり、何をするんだ、と彼の行動を叱咤してから口を拭った。
「星よ、おれはおまえがすきなんだ」
「すき?何を改まって、はは、おれも伴がすきだぜ」
「違う、そうではない。おれは寝ても醒めてもおまえのことを考えとる。でも星、おまえはそうじゃないだろう」
「……?」
「ずっと、そのう、」
「そのう?」
先に続く言葉を尋ねた飛雄馬を伴は再びぎゅうと抱いてから、そのまま彼の座るベッドへと押し倒す。
「うっ。伴よ、いくらなんでもおまえに乗られちゃあ……」
「……」
飛雄馬の体を抱いたまま、その身で彼を押しつぶさんとしていた伴は飛雄馬の体の下になっていた腕をそこから抜くと、組み敷く彼の体の脇にそれぞれ手を着いた。
「な、何を始める気だ」
「今晩だけ、許してはくれんか」
「許す、とは」
目を瞬かせ、飛雄馬は目の前の男を仰ぐ。
「星」
顔を寄せ、伴は先程したように飛雄馬の唇に口付ける。んんっ、と飛雄馬の口から声が漏れ、伴の臍下がピクリと反応した。
「何を、するんだ……伴」
「星、痛いことはせん……」
「痛い、こと……?」
頷き、伴は荒い吐息を吐きながら飛雄馬の喉に噛みつかんばかりに吸い付く。
「はぁっ……ぐ、」
首筋を伴の舌が這って、飛雄馬はぎりっと奥歯を噛んだ。触れられた肌がゾクゾクと震え、妙な気分にさせる。
未だかつてない、切ないと形容するが適当であるのか、そんな表情を浮かべ、伴は飛雄馬の首筋を唾液に濡れた舌で撫でて、その鎖骨の上、皮膚に軽く歯を立てる。
「んあ、あっ」
自分でも信じられないような声が口から飛び出して、飛雄馬はぐっと口を押さえた。
さっきまでの体の火照りとは違う。何やら体の奥、腰のあたりがむずむずとして来る。
「嫌じゃあ、ないか」
「……いやといったら、やめるか」
訊いた伴を見上げ、飛雄馬は逆に問い返した。
「ずっと夢見とった。星」
たらり、と伴のこめかみを流れた汗が顎から滴り落ちる。と、伴は飛雄馬のランニングシャツの裾へその大きな手を滑らせる。ひっ、と飛雄馬は悲鳴のような声を上げて、伴を仰ぎ見た。
「あっ」
「く……大丈夫だ。伴よ、おまえの頼みなら」
ああ、またおれは星の弱みにつけ込むのか、と伴は白いランニングシャツをまくり上げ、蛍光灯の明かりの下に飛雄馬の肌を晒しながら目を閉じる。星はやさしいのだ。己のことよりも相手のことを思い、その者の立場に立って一緒に泣いてくれる。
あの左門豊作のことだってそうだ。
彼の境遇を思い、幼い妹や弟たちのことを思い、彼は泣きながらそのマウンドに立った。星はそういう男だ。現れた肌を撫でながら、伴は再び飛雄馬の吐息を奪う。
「は、うっ……はっ」
呼吸のために口をずらして、飛雄馬は腹を上下させる。シャツの裾から僅かに覗いた飛雄馬の乳首に伴は指を寄せ、その腹でそっとそれを撫でた。くすぐったいのか、飛雄馬は眉間に皺を寄せ、んっ、と小さく喘いだ。
伴は飛雄馬の体に跨るようにして両膝をベッドに乗せ、彼の乳首に吸い付く。柔らかな突起はゆるりと口の中に滑り込んで、飛雄馬はその刺激に耐え兼ね背を大きく反らす。妙な痺れが飛雄馬の体には走って、頭がぼうっとしてくる。
ちゅくちゅくと音を上げ、突起を吸い上げつつ伴は飛雄馬の腹に留まるトランクスのゴムを彼の肌から離すように己の指をその布地の中に滑らせる。
「あっ、伴!そこは」
体格に比例するように飛雄馬の小ぶりな逸物を伴は握って、軽く手を動かした。
「くあ、あっ……伴」
瞳から涙をたらたらと溢して、飛雄馬は己を抱く男の名を呼ぶ。その鼻にかかった声が伴の耳には届く。何度この光景を夢に見たか。同じ部屋になってからというものどれだけこの低俗で下卑た衝動を抑えるのに苦労したか。全て星飛雄馬の親友でいたいがために。ずっとそばにいたいと思ったし、それは今も変わらない。
トランクスの腹側から立ち上がった飛雄馬の逸物を取り出して、伴はそれをしごく。
飛雄馬の眉間には更に皺が寄って、その体は痙攣しているかのように震える。
「んっ、んん……伴、なんでそれっ、そんななって」
「何?これか」
「は、きもち……」
蕩けた瞳を飛雄馬は伴に向け、そんな声を漏らす。ベッドの上に投げ出された飛雄馬の足は爪先が頼りなさげに揺れていた。
「気持ちいいか」
伴が訊くと、飛雄馬は頷く。腰が揺れ、その快楽の強さを物語る。
「ばっ、ん……触るな、なっ、か出っ……ああ、あっ」
予言通り、飛雄馬は握った伴の掌の中に精を吐く。温かな液体が掌内に溜まって、ビクビクと飛雄馬の男根が脈動するのを伴は感じる。
「あ、ぅ……うっ……」
「星、足を開いてくれ」
「あし……?」
言われたとおりに飛雄馬は足を開く。彼の上からティッシュを取りに離れた伴は再度彼のもとに寄ると、今度は跨るのではなく脚の間に陣取った。その手には飛雄馬のハンドクリームを握っている。手や指にひび割れやあかぎれができてしまってはプレーに影響が出る、との教えで飛雄馬はいつもその容器を持ち歩いているのだ。
伴はその蓋を開け、白いクリームを指に取ると、飛雄馬の穿く下着を脱がせにかかる。
「伴、一体……っ」
無言。伴は口を開くことなく飛雄馬のトランクスを彼の足から抜くと、その開いた足の中心へとクリームを塗りこむ。
「はっ……っ、う……ん、んっ」
滑りの良いクリームは伴が指を滑らせるたびに飛雄馬の尻の窄まりに浸透していく。しばらく刺激に慣れさせるためにそこを指で撫でていた伴であるが、ぐっと中指の先を飛雄馬の中に挿入した。
「!」
顔をしかめ、飛雄馬は食いしばった歯の隙間から声を上げる。指を締め上げるその入り口を慣らすかのように伴は指を飛雄馬の中でぐりぐりと動かした。そうして二本目も同じように飛雄馬の中に差し入れて、中を掻き回すかのように指を動かす。
そして飛雄馬の腹側の壁を指先でさするようにその第二関節を曲げた。前立腺の位置。まだ飛雄馬はここで感じることなど到底できないし、伴がこの位置を探り当てたのもほぼまぐれに近い。
しかして、ここをコリコリと指の腹で押され、撫で回されると飛雄馬の達したばかりの逸物の辺りが再び熱を帯びる。飛雄馬の腰が揺れ動き、投げ出された踵はぎゅうっとマットレスに沈む。
「星、いくぞ」
予告し、伴はトランクスをずり下げる。
え、と飛雄馬はわけも分からず伴を見た。その視線は彼の顔からその下、トランクスの中から現れた逸物へと注がれる。唾を飲んだか、先程伴が舌を這わせた飛雄馬の喉仏がごくりと動いた。
伴は飛雄馬の足を掴んで、ぐいとその身を己の方へ寄せると、手を添えた自身の男根を彼のたった今まで解していた尻へと宛てがった。
「うっ、伴っ、それは――ふぅ、ぐっ」
先走りの浮く男根を伴は飛雄馬の中に押し入れる。ゆっくりその形に飛雄馬の体が馴染むよう腰を押しつけつつ彼の中に伴は入っていく。飛雄馬の足は伴の体躯幅の分目一杯開かれ震える。
「はあっ、はーーっ、はあっ」
腹の中いっぱいになった伴の逸物に飛雄馬は身震いし、口から荒い呼吸を漏らす。
飛雄馬の手の指と己の指とを絡ませるようにして伴は彼の手をベッドに押し付けると、腰をゆっくりと動かす。
伴い、腹の中身が引きずられ、飛雄馬は呻く。そのストロークがどんどん長く、強くなり飛雄馬は奥歯を噛みしめる。
「星……」
名を呼ばれ、飛雄馬は閉じていた目を開ける。ふと、伴の唇が再び呼吸を奪った。
「ん、っ……」
「あっ、いかん」
はっと伴は顔を上げ、そのまま飛雄馬の中に精を吐く。どくどくと腹の中に注がれた熱に身震いしつつ飛雄馬は伴の手に絡んだ指先に力を込めた。
「ふっ、ぅく……っ」
ズルっ、と己の中から男根が引き出される感覚に飛雄馬は声を上げ、そこでようやくぐったりとベッドに身を委ねる。
そうして、涙に濡れる顔を掌で拭ってから飛雄馬は体を起こす。
「伴よ」
「はっ!?」
びくっと伴は身を跳ねさせ、飛雄馬を見遣る。
「……伴がいてくれたからこそおれはこにいられるんだ」
「……」
いっそ、罵ってくれたらいいのにと伴は思う。どうしてこんなにも星は優しいのか。いつか、その優しさが仇になってしまうのではないか。現に今、こうやって星はおれを許す。
「……それはおれも同じだと、さっきから言っとる」
「ふふ、そうだな」
笑みをその口元に湛え、飛雄馬は伴を呼ぶ。抱きしめろと言わんばかりに両手を広げ、彼を待つ。伴はぐっと泣きそうなのを堪えて彼の小さな体を抱き締める。
「おれはこんなことくらいじゃおまえをきらいにはならないさ」
「ほ、し……」
「泣くなよ。これくらいで」
伴の広い背に腕を回して、飛雄馬はぎゅっと彼の胸に顔を埋める。すると、その体躯はにわかに震え出したために、ああ泣いているのだなと合点し、飛雄馬はふふと笑んでから伴を抱く腕に力を込めた。