失明
失明 昼の十二時をすこし回った時刻。
飛雄馬は食器の乗った盆を手に、宿舎の自室へと帰ってきた。この宿舎では食堂にて各自におかずの皿であったり、味噌汁の椀であったりを盆に乗せ、それぞれで食事を摂るようになっていた。
普段であるならば、飛雄馬もその親友である伴もそのようにして食事を摂っているのだが、ここ数日、二人は食事の時間ともなると今は伴一人となってしまったかつての相部屋に引き篭もっている。
しかして、誰もそれを咎めることはない。それは伴の姿を目にすれば自ずとその訳が理解できるからであった。
伴宙太の二つの瞳は白い包帯によって覆い隠されている――何故か。
大リーグボール一号を完膚なきまでに打ち果たされた星飛雄馬が次なる魔球を編み出すために、親友の伴宙太の視力を奪ったのだ。高々と足を上げた際に巻き上がる土煙を煙幕代わりとし、飛雄馬の左手から放たれた球は打者の目の前で忽然と姿を消す。
その土煙を何度も浴び、伴の眼球は傷付き、医者にももう少し診せるのが遅ければ失明していた、とまで言われたのだった。さすがに皆の目の前で「はい、あーん」なんぞするわけにもいかず、ゆえに、伴の目が回復するまで食事は部屋で摂ることとした。
「伴、今日の昼はカレーライスだぞ」
「おう、そうじゃろうな。匂いで分かった」
口元に笑みを携え、伴は部屋に戻ってきた飛雄馬を迎える。飛雄馬は部屋に入ってすぐ一先ず、部屋のテーブルの上に盆を置いて、伴の座っているベッドへと歩み寄った。気配で分かったか、目の見えぬはずの伴が飛雄馬の顔を見上げる。
目を負傷してしばらく、伴は練習にこそ出てはいるもののいつもベンチに座っていた。そうする他ないからだ。目が見えなければ打撃練習どころか球拾いも出来はしない。そんな伴を見て、キチガイだ、と、いつものが始まった、と言う者もいない訳ではなかった。
そんなことは、飛雄馬が一番よく分かっている。一号が駄目なら二号とそう上手くいくものだろうか。狂気の沙汰であることくらい、重々承知していた。
しかして、このいつも身を呈して魔球開発に協力してくれる親友・伴を見ていると、やらねばならぬ、とそう思えてくる。
「なんじゃい、ぼうっとして」
「あ、いや。目の、具合はどうだ?部屋に帰って来る前に寄ったんだろう、医務室」
その場から動かぬ飛雄馬を訝しみ、伴が尋ねた。
「………なぁに、星が心配することではない。おれのことを気にする暇があったらなあ、大リーグボール二号を一刻も早く完成させてくれい」
「…………ひどいのか」
伴が言葉を紡ぐまでの一瞬の間。飛雄馬はそれだけで伴の容態があまり良くないであろうことを察する。
「わはは、星が復活し、マウンドで華々しく活躍してさえくれればこの伴宙太、目の一つや二つ、失くしても後悔はないわい」
「……も、もう、」
やめてしまおう――そう言いかけた飛雄馬の体を伴は太い腕を伸ばして掻き抱く。
「妙なことを言うな、星」
「しかし――」
「やめてどうするんじゃい。おやじさんと、オズマにこのまま打ち破られたままでええのか」
「伴の目を犠牲にしてまで――」
「地獄の底まで一緒だと言うたじゃろう、星……」
「………」
飛雄馬の胸に顔を埋める形になっていた伴の巻いている包帯の上、いわゆる目の位置にポタリと何やら落ちてきて、彼は飛雄馬が泣いていることに気付いた。飛雄馬は声を殺し、黙っている。
声を出さなければ気付かれていないとでも思っているのだろうか、しかして、伴が腕を回す飛雄馬の背は微かに震え、包帯の上に落ちる水滴は数を増し、彼の頬を滑った。
「何を泣いとるんじゃい」
「な、泣いてなんか。汗だ、これは」
飛雄馬は目元を腕で拭って、「カレー、冷えるぞ」と話題を変えるべく話を振ったが、伴は腕を緩めなかった。
「……伴?」
「星」
己の名を呼んだ伴の声がやたらに熱っぽくて、飛雄馬はビクッと身を弾ませた。けれども伴はほんの少し腕の力を緩めると腰を上げ、飛雄馬の唇から僅かに逸れた位置に口付ける。
「む、外れたわい」
「………!」
立ち上がって、伴は目が見えぬために障害物を避けるために右手を前に差し出しつつよろよろと歩み出す。
飛雄馬はその姿を一瞬、目を細めて見遣ったがすぐにその手を取ると、こっちだと彼をテーブルまで案内した。
そうして二人、対面するようにテーブルに着いて飛雄馬はスプーンを手にすると一口分、ルーとライスを掬ってやってから伴に、「口を開けろ」と言う。
「む……」
言われるがままに伴は口を開け、飛雄馬はスプーンを彼の口へと持っていく。
「誰もおらんとは言え、何だか恥ずかしいのう」
「………」
「あっ、いや、そういう意味じゃのうて」
「口」
「………あう」
だからやめようと言っただろう、とそう飛雄馬が言うのではないか、と懸念し、取り繕うように先を紡いだ伴だったが、逆に何も言われず拍子抜けした。
「ほ、星も食うとるか?さっきからおればかり食べているような気がするがのう」
「ああ、気にするな。食べとるさ」
それにしては、おれの分を掬う以外にスプーンが皿を触る音がせんがのう、と伴は思ったものの、矢継ぎ早に口にカレーを押し込まれ、延々と咀嚼する羽目になり言葉を吐くどころではなかった。
「……これで最後だ」
ぱくり、と飛雄馬の差し出したスプーンを口に含んで、伴はもぐもぐとそれを咀嚼して飲み込むと、やっと一息吐く。
「水は、飲むか」
「おう、もらおうか」
伴が言うと、飛雄馬は彼の手を握ってやりそっと水の入ったコップを手渡す。伴はそれを一気に飲み干して、大きな溜息を吐いた。
「食器、返してくる」
「ほ、星!きさま、本当に食うたのかあ?」
「……腹が減ってない」
「嘘をつけ!」
「……本当だ。疲れて食事どころではない」
「………」
ガタン、と座っていた椅子から飛雄馬は立ち上がり、伴の前に置かれていた盆を手に食堂へと向かうべく扉のノブを握る。が、伴が急に顔を押さえ、呻いたために慌てて盆をテーブルの上に放り投げると、血相を変え彼の名を呼んだ。
「痛むのか!伴!」
「うぅ……」
「せ、先生を呼んでくる」
「いい!星!構うな」
慌てふためき部屋を飛び出そうとする飛雄馬を伴が制した。それを受け、飛雄馬は冷や汗をかきつつ、再び伴のそばへと駆け寄る。
「伴!?」
「星が飯を食うと約束してくれたらじゃあ」
「何を……お前の目とおれの腹とを天秤にかけてどうする!さあ!伴!立て!肩を貸すぞ」
「きさま、何をそんなに気に病んどるんじゃ……星」
「っ……伴!取り返しがつかなくなったら」
「………どうせ星のことじゃ。おれの目のことを気にして飯を食わんつもりじゃろう。このところろくに食うとらんのは分かっとるんじゃい。お前がちゃんと飯を食わんのならおれは医者にもかからん」
「馬鹿を言うな!違う!」
「………本当に?」
「立て、伴!目が」
「………」
言われ、伴はようやく腰を上げる。飛雄馬は彼の隣に寄り添うようにして立つと、伴の腕を己の首の後ろに回し、大きな体を支えるようにして歩み出した、つもりだった。右隣に立った飛雄馬の胸倉を伴が左手で掴むや否や、そのまま腕を前へ振るようにして盆の置かれたテーブルの上に胸倉を掴んだままの彼の上体が乗るような形で組み伏したのだ。
案の定、飛雄馬の体に押しやられるような形で盆と皿たちが派手な音を立て、床へと落ちて辺りに散乱した。
「………!」
「冴えとったのう。星の胸倉もテーブルの位置もピタリだったわい」
「伴……?」
固く冷たいテーブルの上に体の乗った飛雄馬だったが、その胸の鼓動は馬鹿に速い。
「星……おれは好きで貴様に付き合っとるんじゃ。やりたくない、ついていけんと思ったらとっくに辞めとるわい」
「……優しいから、お前は」
「優しい?」
「おれは、お前の優しさに付け込んどるんじゃないかと、甘えとるんじゃないかと……そう思わんでもない。お前の、伴の優しさの上にあぐらをかいているんじゃないか、伴の野球人生は、お前の青春はおれの捕手役で終わってしまってもいいのか、と」
「………また妙なことをほざきよる。それはお前が決めることじゃのうて、おれが決めることじゃい!お前がいらんと言わん限り、おれから離れはせんわい!」
「………くっ」
飛雄馬の鼻の奥がツンと熱くなる。またじわじわと瞳が濡れて、視界が滲む。飛雄馬は目を閉じて、鼻を啜った。すると、涙が溢れ、目尻を滑り落ちる。
「また泣いとるな」
「ふ、ふふ……伴。お前ってやつは……」
「………」
指で目を擦る飛雄馬の顔に影が差す。飛雄馬は何事かとハッ、と目を見開いたものの、すぐに伴の顔が迫ってきて、強く目を閉じる。けれども、さっきの的確に胸倉を掴んだ勘はどこへやら、伴の顔は飛雄馬の唇を大幅に逸れ、頬を掠めた。
「……あんな台詞を吐いておきながら、決まらんのう」
「伴、こっちだ」
ぼやいた伴の首へと腕を回し、飛雄馬は彼の唇へと自身のそれを寄せた。口付けを交わしつつ、伴が飛雄馬の足を手探りで探し当て、その左右に開いた股ぐらへと体を滑らせた刹那、部屋の戸をノックされ、二人は慌てて体を離す。
「……おお、ここにいたか。食堂にいないもんで探したぞ」
扉を開け、顔を出したのは巨人軍お抱えの球団医であった。伴の目の処置をした人でもある。
「あ……」
「あれからきちんと目医者には行ったかのう。わしは目は専門じゃないから応急処置しか出来んと言ったはずじゃが」
「………!」
初耳だ、と飛雄馬は隣に立つ伴を見遣る。伴は俯き、「近いうちに行きますわい」と小さな声で呟く。
「その内?!君ぃ、本当に目が見えなくなってしまってもいいのか?若い身空でどうするつもりだ」
「………」
飛雄馬は下唇を噛み、拳を握る。
「せ、先生」
「わしから監督に休みを貰えるように話してやるから!一刻も早く大学病院なり大きなところに診せるべきじゃ」
「ほ、星が。星がもうすぐ、新しい魔球を、大リーグボール二号を、完成させようとしているところなんです!じゃから、時間が、そんな、病院に行っている暇なんぞ、おれにはないんです」
「はあ?君、星選手と自分の目とどっちが大事なんだ!!」
球団医は声を荒げて叫ぶ。飛雄馬は眉間に皺を寄せ、固く目を閉じたが、ふと部屋の壁に掛かる時計を見上げ、昼休みの時間が終わり、午後の練習時間が迫っていることに気付く。
「紹介状を書いてやるから!今すぐにでも!」
「………星、行け。午後、始まるぞい」
「聞いとるのかね!!」
「伴……」
飛雄馬はベッドの上に置いていた帽子とグラブを引ったくって失礼します!と叫んで、部屋を一目散に飛び出す。
廊下を走りながら飛雄馬は静かに泣いた。こんなにみっともない姿を二軍の皆に見られたくないと目を何度も何度も拭ったが、涙は止まらない。
伴、どうして、お前は。どうして。
出発寸前の多摩川練習場行きの二軍専用バスの出発にどうにか間に合ったものの、飛雄馬は多摩川にバスが到着するまでその頬を涙に濡らしていた。
伴以外の捕手役では飛雄馬の球などろくに捕れず、投球練習にもならない。ぶつくさと捕手役の相手に文句を言われつつ、飛雄馬は午後の練習を終える。
これまでは練習後も伴に付き合ってもらい、球が見えなくなるまで新たなる魔球開発に勤しんでいたが、伴はいない。大学病院にかからねば取り返しがつかなくなるとまで言われた彼を、いつ完成するとも分からぬ魔球の犠牲にしてはならない。
飛雄馬は帰りのバスに乗り込んで、とりあえずは宿舎へと戻った。どうせマンションに戻っても一人だ。
伴の夕食と風呂を手伝い、飛雄馬は帰宅し泥のように眠る、そんな日々を送っていた。
カチャカチャとスパイクの音を響かせ、飛雄馬は伴の待つ部屋へと帰ってくる。
「待っとったぞい!さあ、大リーグボール二号の練習じゃい!」
「……病院へは、行ったのか」
声を上ずらせ、出迎えた伴だったが、飛雄馬の声が低く、淡々としていたためにしゅんと肩を落とす。
「……行った」
「何と言われた」
「練習が終わってからでもええじゃろう」
「伴!」
「星、耳を貸せ」
「……」
躊躇ったものの、飛雄馬は目を包帯で覆ったままの伴の元へと歩み寄って、彼の口元まで屈んだ。
「もっと近く寄れ。人に聞かれたくないんじゃ」
「そんなに、深刻なのか……」
膝を折り、尋ねた飛雄馬の腰を抱いて伴は彼の体を自身が腰掛けていたベッドの上へと抱き伏せた。
「………!」
「元から軽いお前の体じゃが、更に軽くなったように感じるぞい」
「っ………伴」
「心配せんでええ!この伴宙太、そんなにヤワには出来とらんわい!」
「伴……伴っ……」
「また泣きおって」
ぐすぐすと鼻を鳴らして、飛雄馬は伴の頬へと手を伸ばし、指で触れた。ピクッ、と伴の体が跳ねる。
「手が冷たいのう。はよう風呂に入って温まるとええ」
「………まえが、」
「ん?」
「おまえが、あっためてくれ……」
「………星」
飛雄馬は伴の顔を導いて、彼の唇へと口付けた。吹きさらしの練習場にいた飛雄馬の冷たい唇に、肌に、その芯までゆっくりと伴の体温が染み渡る。
一度離した唇を再び触れ合わせて、口内に恐る恐る入り込んできた舌へ飛雄馬は己の舌を絡ませた。吐息が漏れて、身体が震えた。ああ、また飲まれてしまう。伴の優しさに、その腕に、依存してしまう。
それでも、この腕を、熱さを振りほどけない。
「あ、っ………!」
思わず声を上げ、顎を反らした飛雄馬の頬に伴の鼻が触った。伴は顎を引いて飛雄馬の頬に口付け、手探りで彼の着ているジャイアンツのユニフォーム、そのズボンを留めるベルトを探し当て、ゆっくりと緩める。そうして、緩んだズボンの中から上着の裾を引き出して、伴はそこから手を差し入れ飛雄馬の肌を指先でなぞっていく。
「っ、っく……ぅ」
心なしか普段より、身を寄せる伴と飛雄馬の体の距離が近い。目が見えぬせいか、伴は口付けこそ与えて来ぬものの、その顔は飛雄馬の頬に常に触れていた。
腹を撫でる指が鳩尾を越えて、胸へと差し掛かる。
「ふ、ぅ、うっ」
人差し指が胸の突起に触れて、指の腹でそれを押し潰す。すると、柔らかであった飛雄馬のそこは固く尖って伴の指を押し返した。そうして、伴は指で飛雄馬の肌の上に突起を押し潰したまま円を描くようにしてそれを撫でた。
殊更大きく飛雄馬の体は跳ねて、ベッドの上で立てていた膝は揺れる。
と、伴は飛雄馬の上着とアンダーシャツをまくりあげて、たった今まで指で嬲っていた突起に吸いついたかと思うと、もう片方の乳首を指で抓んだ。手探りで場所を探し当てるその妙なくすぐったさが飛雄馬の背筋を駆け上る。
「いっ、は、あっ……は――っ、あぁっ」
体を預けるベッドに後頭部を擦り付けて、飛雄馬は背を仰け反らせた。軽く突起を舌で舐めていたかと思うと、伴はなんの前触れもなく乳首に淡く歯を立てる。
その刺激が直に飛雄馬の臍下へと走って、彼の穿く下着とズボンの前とを否応なしに持ち上げる。
すると伴は飛雄馬の立てていた膝を左右に割って、その股ぐらに身を寄せてから彼の履くスパイクを両方とも脱がせてやり、ベッドの端からそろりと床に落とした。飛雄馬の腹の奥が切なく疼く。それとは裏腹に、臍の下、今や下着の中で脈打つ逸物は火照り、熱を持っている。
「伴……っ!」
「目が見えんからかやたらに星の声が艶っぽく聞こえるのう」
「からかうな……」
「か、からかってなんぞおらんわい!おれだってこのままだと爆発しそうじゃい」
飛雄馬はぎゅうっと靴下を履いたままの足の指に力を込めてから、腰を浮かすとズボンと共に下着を脱ぎ去る。
ストッキングが一度ふくらはぎの辺りで引っかかったが、無理に引き離して、そのまま床に落とした。
ベルトのバックルがカチャ、カチャと鳴って衣擦れの音が響いたために目の見えぬ伴であるが、飛雄馬が下を脱ぎ去ったことは察しがついた。
「な、なにをしとるんじゃ」
「……言わんと、分からんのか」
「……え、えのか?」
「生殺しなのはお互い様だ……」
飛雄馬の腹に付くほど反り返った彼自身の逸物は鈴口から先走りを垂らし、その腹を怪しく濡らす。
飛雄馬は頭のそばにあった枕を取ると、腰の下にそれを敷き、ぐっと腰を突き出した。伴も体を起こして、己の穿くズボンのベルトを緩めてからボタンを外し、ファスナーを下ろすと、そこから青筋の浮くほどに立ち上がっている男根を取り出し、飛雄馬の膝に手を掛ける。
しかして、場所が分からず右往左往する伴を飛雄馬は足の間から手を遣って、自身の尻へと誘った。そうして、無事飛雄馬の体の中心に辿り着いた伴はそこに逸物を宛てがって、ぐっと腰を突き込む。
飛雄馬は軽い痛みに顔をしかめたが、すぐにそこに力を入れて彼を受け入れていく。
「ん、っ………う、」
ゆっくり、ゆっくりと飛雄馬の腹の中に形を覚え込ませつつ、伴は彼の体の奥へと己を飲み込ませていった。
じわじわと肉壁を押し広げ、奥へと挿入してくる熱に飛雄馬は息を漏らし、体を慣らしていたが、何を思ったのか突然に伴は腰をガツンと打ち付けてきたのである。
腰を物凄い勢いで叩かれ、勢いのあまり飛雄馬は喉を晒して、背中を弓なりに反らした。頭が一瞬にして真っ白になって、視界には火花が散る。
枕を腰の下に敷いたせいか、普段とは違う角度、より深い場所に伴のそれは到達し、飛雄馬に未知なる感覚を与えたのであった。
「っ、あ、あっ」
体に力が入らず、飛雄馬はただただ、伴の思うがままに腹の中を嬲られた。
股関節に何度も打撃を加えられ、飛雄馬の足は震え始める。虚ろな目で飛雄馬は伴を見上げて、開きっぱなしの口からはたらたらと唾液を滴らせた。
気持ちがいいのか、それとも骨盤が砕けんばかりに腰を叩きつけられているせいで脳が揺れ、一種の錯乱状態にあるのか、とにかく飛雄馬はがくがくと揺らされ、その腹を呼吸のたびに上下させているばかりだ。
「星っ……!」
一声、呻いて伴はすんでのところで飛雄馬から逸物を抜くと彼の腹の上に欲をぶち撒けた。
「は、、ん………ん……」
額に汗を滲ませ、飛雄馬はベッドの上に足を投げ出し、余韻に身を預ける。
「大丈夫か、星」
「……腰が砕けるかと思ったぞ」
ゆるゆると目を開け、飛雄馬は伴からティッシュ箱を受け取ると、腹に乗った精を拭き取ってその後に尻を拭った。
「星……」
「なんだ、っ……」
ベッドに寝転がったまま、呼吸を整えていた飛雄馬の瞼に伴の唇が触れる。
「む、また違ったのう」
「わざとやっとるだろう」
吹き出して、飛雄馬は伴の首に両腕を回して顔を寄せた。
こんなことをしている場合ではない。
早く、早く大リーグボール二号を完成させなければ、おれはいつまでも伴に甘えてしまう。柔らかな舌が飛雄馬の唇を撫でて、僅かに開いた隙間から口内へと滑り込んだ。おれから野球を取ったら何が残るのだろうか。野球をやらないおれに、伴は興味を失くすだろうか。
ああ、いっそ、目なんて一生見えなくなってしまえばいいのに、と。
そんな狂気じみたことを一瞬でも、どうして考えてしまったのだろうか。なまじ、目なんぞ見えるから他のことを、余計なことを考える。おれが伴の目になってやるから、伴はずっとおれのそばにいてくれ、なんて。
飛雄馬は伴の腕に縋りついて、じっと包帯の巻かれた彼の目を見上げる。そうして首を数回左右に振って、今し方考えた馬鹿げた妄想を振り払うと再び口付けをねだった。そうして、「また明日から、練習に付き合ってくれよ」と切り出す。
「おう。任せとけい!!」
いつもの伴の、いつもの声色に飛雄馬は小さく笑みを返して、「ありがとう」と呟いた。