待ち時間
待ち時間 ぬるっ、と飛雄馬の汗の滲んだ首筋に花形の舌が這った。飛雄馬は小さく呻くと、白い喉元を更に花形の眼前へと晒す。
熱い吐息が薄い皮膚に触れて声を上げぬよう、飛雄馬は口元に手を遣る。
飛雄馬が姉と共に住まうマンションの一室。
そのリビングの絨毯敷きの床にて飛雄馬は花形に組み敷かれ、肌を露わにしていた。
明子と待ち合わせをしていたが、少し早めに着いてしまったもので時間を潰させてほしい、と花形が言うので飛雄馬は彼を快く招き入れた。
いつもは駅前やマンションの下で待ち合わせをしていると言うのだが、時間を間違うとは花形にしては珍しいな、よほどねえちゃんに会いたかったと見える、と飛雄馬はこの因縁とも呼べるライバルの意外な一面を見た気がして微笑ましく思った。
そこで、話の繋ぎにコーヒーを出し、花形もそれを美味しいと言ってくれた。
そこまでは良かった。
花形は何を思ったか、星くん、と飛雄馬を手招くと、何の疑いもせずのこのこと隣に座って来た彼の手を握って変に距離を詰めてきたのである。
親友である伴にさえここまで近付いて来られたら警戒するというのに、ましてやライバルである花形がここまで近づいてくるなどとは夢にも思わず、飛雄馬は一瞬、目を見開き固まった。
その隙を突き、花形は飛雄馬の唇にそっと口付ける。
「え、っ!?」
飛雄馬は驚き、声を上げるとソファーの上から床へと転げ落ちる。何をされたかうまく理解できないままで飛雄馬は大きな瞳をまんまるに開いたままソファーに座ったままの花形を見上げた。
「驚いたかい?」
花形がいつもの笑みを浮かべたまま、そう尋ねてきて、驚かないわけがないだろう、と飛雄馬は唇を手で拭いながら答える。
「そういう、趣味があるんですか、花形さんには」
「星くんだからこうしたいと思ったし、他人になど触れようとも思わないね」
「おれだから、とは?」
「野球以外のことにはまったくと言っていいほど鈍感だね」
くっくっと花形は喉を鳴らし、立ち上がると床に転がったままの飛雄馬の足元に膝をつく。 かと思うと、飛雄馬の両足に跨るようにして彼の体の上に覆い被さって、その脇の下に手を置いて組み敷いた。
「花形、さん?」
自分を呼ぶ声に花形は反応せず、代わりに肘を使って上体を上げたままの飛雄馬の唇から呼吸を奪った。
「あ、っ………待、っ……」
顔を振って唇を離した飛雄馬の頬に花形は口付けを与え、そのまま頬に手を沿えると長いまつ毛の生え揃う瞼の上にまで唇を押し当ててから、星くんと囁くように名を呼んだ。
普段の花形とはまったく違う声色と雰囲気に飛雄馬は気圧され、押されるままに床へと倒れ込む。
そこから、花形は飛雄馬の唇に再び自分の唇を押し付け、彼の着ているシャツの裾から手を入れると、直に肌に触れた。
「ん……ぅ」
飛雄馬が体を戦慄かせ、その背を弓なりに反らしたところに花形が首筋に舌を這わせて来た、というのがここまでの経緯であった。
首筋の薄い皮膚を吸われる奇妙な感触が飛雄馬の頭を痺れさせる。
眉をひそめ、身をよじった飛雄馬の耳に花形は顔を寄せ、鼓膜を吐息とわざとらしく立てたリップ音で犯した。かあっと瞬時にして飛雄馬の体温は上がって、その頬は赤く火照る。
花形を睨むように細めた飛雄馬の双眸には涙が滲んでおり、それを見下ろしつつ花形はフフッと唇を歪ませた。
その意味有りげな花形の笑みに飛雄馬は眉間に皺を寄せ、奥歯を噛み締める。
「いいね、星くん。きみのそういう顔がぼくはとてもすきだ」
「っ………人を、怒らせて、そんなに、」
堪えきれず、飛雄馬の頬を涙が伝って、花形はそれを唇で掬い取りながら先程手を差し入れたシャツをたくし上げていく。
普段から日に当たることのほとんどない白い肌がそこから覗いて、綺麗に割れた腹筋から程よく鍛え上げられた胸、鎖骨にかけてが露わになって飛雄馬は羞恥からか顔を背け、目を閉じた。
と、花形は飛雄馬の胸元付近に顔が来るようについていた膝の位置をずらすと、躊躇することなくその胸へと吸い付く。
「あ、ぁっ……」
甘い声が飛雄馬の口から漏れて、花形の口内でその突起は刺激を受け固く立ち上がる。    
そのまま尖らせた舌先で花形は飛雄馬の乳首をくすぐった。
「っ、く……ふ、ぅ……」
床に投げ出した足をもじもじと動かす飛雄馬の穿くスラックスの前が膨らむ。
花形は飛雄馬の突起を口に含んだまま、彼のスラックスを留めるベルトを緩めるとそこから手を内部へと滑らせる。
するとすぐ指先が僅かに濡れた下着に触れ、勃起した男根の形までもが花形にははっきりと感じ取れた。
「はっ、はながたっ………!!」
口に含んだ突起に強く吸い付きつつ、花形は飛雄馬の先走りの滲む下着の上から彼の男根の先を4本の指の腹で撫でる。
ビクビクっ、と飛雄馬の身体が跳ね、声を上げぬようにと彼は口元に手を遣った。
花形はしばらく飛雄馬の先走りで濡れた亀頭の位置を指先で触っていたが、そのまま手を滑らせ男根全体に手を沿わせると、彼の腹に押し付けつつ上下に優しくさする。
「う、あ、っ、ああ………」
飛雄馬の反応を見つつ、花形は彼の乳首への責めを舌の腹で優しく舐めあげることに切り替えながら先走りで湿った手を一度離したかと思うと、今度は下着の中に手を忍ばせぐちゃぐちゃに濡れた男根を直接握って、ゆっくりとしごいていく。
激しい、目も眩むような刺激が体を貫いて飛雄馬は目を見開いたまま口元を両手で押さえ声を堪えた。
花形は飛雄馬の逸物全体を先走りに濡れた手でしごいていたが、徐々に亀頭と裏筋の位置を責めにかかる。
粘膜の露出した敏感な亀頭を責め立てられ、飛雄馬はやめてくれと言わんばかりに顔を左右に振った。このままでは花形の手の中で達してしまうのは時間の問題である。
「いきそうかね」
飛雄馬の胸から口を離し、花形が問う。
「────っ、〜〜〜!」
「我慢せず出してしまうといい……」
ぬるぬると花形は飛雄馬の亀頭を掌で包み、揉み込む。かと思えば再びそれをしごき始めて、飛雄馬は仰け反り、視点の定まらない瞳で天井を見上げた。
と、飛雄馬は花形の愛撫を受け、見事達してしまい、下着の中に欲をぶちまける。
とくん、とくんと脈動に合わせ白濁を吐きつつ、飛雄馬は赤い頬に涙を伝わらせながら荒い呼吸を繰り返す。
しかして花形は飛雄馬に息を整える暇さえくれず、彼のスラックスと下着を剥ぎ取る。
現れた白い腿に花形は飛雄馬の体液の付いていない手を這わせると足を左右に開かせ、その間に体を差し入れた。
飛雄馬は潤む目を花形に向け、ゆっくり瞬きを繰り返す。
「フフッ、本当に星くんは、野球以外のことは何も知らんのだね。いや、理解できていないと言うべきか」
笑みさえ浮かべつつ花形はそう言って、飛雄馬の体液に濡れた指で彼の尻の中心へと触れる。
「っ………」
ピクン、と飛雄馬の体が反応し、花形が指を充てがった箇所が締まった。
その窄まりに花形は刺激を与え、感覚に慣らしていくとともに精液を塗りつけ、潤滑剤の代わりとする。と、彼は指先で撫でていたそこに指を飲み込ませる。
「は、花形………そこ、っん……」
突如として腹の中に侵入してきた花形の指に飛雄馬は驚き、顔を上げたが、更に深いところに指が進んできたために目を閉じ、それを締め付けた。花形はそれならば、と2本目を飛雄馬の中へと挿入させ、ゆっくりとそこを慣らし、広げていく。
だいぶ興奮していたせいか、ここも普段よりは柔らかくなっているようで、飛雄馬も眉をひそめ閉じた瞼を震わせ不快感こそあるようだが、痛みを感じている様子ではなく花形は指を抜くとそばにあったテーブルの上に置かれていたティッシュの箱を取り、中身を数枚取ってから飛雄馬の体液を拭う。
そうして、自身の穿くスラックスのポケットからワセリン入りの容器を取り出して中身を指で掬うと今度はそれを飛雄馬の尻へと塗りつける。
「あ、ァ………っ、変、なきもち……」
「…………」
腕で目元を覆って飛雄馬は花形の与える感覚に素直に喘ぎ、花形も再び指を抜くと自身の穿くスラックスのベルトを緩めて前を開けると、下着の中からはち切れんばかりに充血した怒張を取り出す。
そうして、花形は飛雄馬の膝の裏に手を沿え、ぐっと股関節から曲げさせるようにして彼の腹に足を押し付け股を開かせると、今まで慣らしていた箇所に自分の男根を宛てがって、腰を突き入れる。
難なく花形の逸物は飛雄馬の中へと飲み込まれ、飛雄馬はあっ!と呻いて、自身の腹の中に楔を打ち込んだ男を見上げた。
花形は飛雄馬の顔を真っ直ぐに見つめたまま腰を使い始める。指よりももっと大きく、太いものが深い場所を抉って、飛雄馬の腹の中をこすりあげる。
「はながたっ………はながたさっ、ん」
がくがくと全身を揺らし、飛雄馬は自身を抱く男の名を呼ぶ。
吸われた乳首がじんじんと疼いて、腹の中が熱い。花形の一部が腹の内側を擦るたびに飛雄馬の頭の芯は痺れて、真っ白になる。
「星くん、口を開けて」
「…………」
言われるがままに飛雄馬は口を開け、花形の口付けを受け入れた。触れ合う肌よりも熱い舌同士が絡んで、吐息が混ざり合う。
飛雄馬の濡れた唇を啄んで、一度唇を離した花形だったが、再び唇を押し当てた。
「ふ……っ、う、くるし、っん」
顔を逸らし、呼吸をする飛雄馬に片時も離れることなど許さないと言わんばかりに花形は彼の顎を掴み、その唇を貪る。
かと思うと、腰を激しく打ち付け、花形は飛雄馬の汗の流れる首筋に顔を埋めそこに跡を残していく。
「い、っ………つ!」
首筋に淡く歯を立て、出来た歯型に舌を這わせつつ花形は腰の動きを速める。
「目を開けて、星くん。ぼくを見て」
「……………」
飛雄馬は全身を揺さぶられながら目を開け、涙で霞む瞳に花形を映す。と、一瞬花形が微笑んだように見えた。
けれども、その刹那に花形は飛雄馬の中で射精し、飛雄馬も全身をひくひくと痙攣させた。
「はぁ、っ………っふ」
唇を薄く開き、呼吸をする飛雄馬の唇に花形は口付けるとゆっくりと男根を抜く。
とろりと飛雄馬の中から微量、花形の出した体液が溢れる。
「っ、ねえちゃん、が………」
「え?」
後処理を終え、衣服の乱れを直しつつ飛雄馬がぼやいたのを花形が聞き返す。
「ねえちゃんが、帰ってこなくて良かった」
「………………」
飛雄馬が泣いてやや腫れた目元を擦り、下着を穿いたところで玄関の扉が開き、きゃあ!と悲鳴が上がった。
「花形さん。来てらしたんですね」
玄関先にあった靴に驚いたのであろう明子が頬を染めながらリビングに現れる。
「…………ええ。少し早かったのですがついつい、あなたに会いたくて」
「花形さん」
「ごゆっくり。ねえちゃん、遅くならないようにね」
飛雄馬はそんな皮肉とも取れる発言をし、床に放られたままであったスラックスに足を通す。
「飛雄馬ったらそんな格好で」
「行きましょう、明子さん」
花形は明子の気を逸らし、玄関先に回れ右させる。
「…………」
飛雄馬は見送ることもせず、押し黙ったままだ。花形は自身と明子に背を向けた飛雄馬の背中を一瞥したものの、彼もまた何も言うことなく静かに明子と共に部屋を出た。