境遇
境遇 銭湯に行って参ります、と明子はこの日久しぶりに近所にある銭湯へと一徹に頭を下げ、出向くに至った。
彼女の父である一徹が数日ぶりに日雇いに出掛け、纏まった金が手に入ったからだ。 一徹は働きに出ないときは朝から酒を飲み、何やら昔の栄光に縋るような言葉を呂律の回らぬ口で吐いてくだを巻く。
それが明子は堪らなく嫌だった。
彼女の弟である飛雄馬には巨人の星を目指せと言い、それこそ酒の匂いをプンプンさせながら投球練習を行わせたり、うさぎ跳びを科したりとそれを幼い弟が大きな瞳を涙でぐちゃぐちゃに濡らしながらも懸命にこなす様が不憫でならなかった。
お父さんが働かないなら私が働くわと明子が言うと、女がそんな真似をするな、それなら誰が家のことをするのだと喚いて、父は中学を卒業した彼女を外に出すことはしてくれなかった。
いつからか飛雄馬は大リーグボール養成ギブスなる代物を付けさせられ、それを寝るときであろうと食事のときであろうと外すことは許されず、ご飯が食べられないと団欒の場であるはずの食事の席で泣いていた。
何故、父は飛雄馬をそんな目に遭わせるのか。飛雄馬はいつも近所の子どもたちがベーゴマやメンコをしたり鬼ごっこなど年相応の遊びをして楽しそうに過ごしているのを悲しそうな目で眺めていた。
いつだったか明子は飛雄馬に共にここから抜け出して、二人で暮らそうと言ったこともある。けれども飛雄馬は自分がいなくなればとうちゃんはひとりぼっちになる。
辛いならねえちゃんはそうしてくれても構わない、と、どこか寂しげな笑みを浮かべてそう言った。
と、ねえちゃんただいま、と駆けてくる飛雄馬とすれ違って、明子は彼に夕食できてるから鍋の中身、温めて食べてちょうだいと告げてから、銭湯の暖簾をくぐる。
飛雄馬はハッ、とその場に立ち尽くして、暖簾の先に消えた姉の姿をしばらく見据えていたが、すぐに自宅のある長屋の通りへ向かった。
星と書かれた表札のかかる長屋の前で飛雄馬が中に入らず立っていると、ふいに室内からガラガラっと戸を開けられ、腕を掴まれる。
そのまま畳の上に投げやられて、飛雄馬は目の前に立つ男を見上げ、とうちゃんと呼んだ。
部屋の中が変に酒臭く、彼がたった今まで飲んでいたことが見てとれる。
一徹は履いていた下駄を脱ぎ、居間に上がると再びちゃぶ台の前に座って欠けた茶碗に一升瓶を傾け、なみなみと注いだそれを一気に煽った。
飛雄馬もまた、靴を脱いでそれをきちんと揃えると父の元へと歩み寄る。
「とうちゃん、ただいま」
「…………」
無言のまま、一徹は茶碗に酒を注ぎ、それを流し込むと何を思ったか飛雄馬の胸倉を掴んで引き寄せ、彼の口へと口付けるや否や、その口内に含んだばかりの酒を流し込んだ。
「あ………?」
飛雄馬の顔がかあっと火照る。
頭はぼんやりとし始め、目の前の一徹の顔が二重にも三重にも見えた。視界に靄がかかったようになって、眩暈がする。
とうちゃんと飛雄馬が発した声も呂律が回っておらず、不明瞭な声を上げるのみとなった。
一徹はふらふらと座ったまま体を揺らす飛雄馬の体を畳の上に押し倒すと、上着の前をはだけさせ、ギブスを外してやる。
急に体を締め付ける枷が外され、飛雄馬はうっとりと自分を組み敷く父を仰ぎ見た。 体が変に熱い。
飛雄馬は未成年なんだから飲んじゃだめよと明子にきつく言い聞かされていた一升瓶の中身が喉を焼き、全身に回る。
一見、水のようだが、顔を近付けると独特のきつい匂いが鼻を突く。
一徹は飛雄馬の開いた上着の前から覗く彼の乳首に指を這わせてから、指の腹でそれを押し潰した。
そうして、指の腹でくりくりと捏ね回すと、次第に突起は膨らみ立ち上がる。
「は…………っ、っ………」
そこからの刺激がダイレクトに飛雄馬の下腹部へと伝わった。下着の中で熱を持ち、首をもたげ始めているのがわかる。
固く勃起した乳首を一徹は親指と人差し指とで抓み、指の腹を擦り合わせ、それをしごく。びく、びくっと飛雄馬は体を痙攣させ口から荒い息を吐く。
乳首から全身へと走る甘い痺れが更に飛雄馬を酔わせ、意識を朦朧とさせる。
と、一徹は飛雄馬のもう一方の乳首へと吸い付き、舌を這わす。
「っ、く………ぅ」
尖った突起の上を柔らかく濡れた舌が這いずって、きつく吸い上げた。
ああっ!と一際高い声を上げ、飛雄馬は身を仰け反らせると、一徹の頭を小さな手でぎゅうと抱き締める。
ふっくらと肉付きのいい頬はアルコールのせいか、はたまた羞恥ゆえか真っ赤に染まり、涙が幾重にも伝ったらしく濡れ光っている。
「飛雄馬、来なさい」
「…………?」
一徹は自分の穿くズボンのファスナーを下ろしつつ飛雄馬を呼ぶ。その音に飛雄馬はギクッ、と身を強張らせ、父を仰いだが彼はズボンの前を開くとそこからやや勃起しかけている男根を取り出した。
飛雄馬はゴクンと喉を鳴らして、体を起こすと父の元ににじり寄って震える手でその逸物に触れる。
もう一度、縋るように飛雄馬は一徹を見たが、彼は何も言わなかった。唾を大きく飲み込んで、飛雄馬は口を開けると一徹の男根を咥え込む。
とは言え、飛雄馬の小さな口にすべては入らず、その中ほどまでを咥えるに至っただけだ。
喉を突く固さに度々嘔吐きながらも飛雄馬は必死に父を慰める。
根元から先へと唾液を纏わせた舌を滑らせたかと思うと、その亀頭を口に含み、舌と上顎とでそれを挟んで顔を上下させる。
「ふ、ふ……だいぶ上手くなったな」
「…………」
その言葉もアルコールが入り、酩酊状態になってしまっている飛雄馬の耳には入っていない。ただただ、飛雄馬は父の言う通りに男根を咥え、愛撫を与えるだけだ。
自分の唾液でぬらぬらと光る逸物から飛雄馬は口を離し、それを左手で握ると上下にしごく。
一徹はその様を見下ろしつつ、飛雄馬の口から垂れる唾液を拭ってやり、その顔を撫でてやる。
「あ、っ………とうちゃん、おれ………」
「欲しいか」
身震いし、飛雄馬は頷く。
「とうちゃんと、いっしょに、なりたい」
舌っ足らずの口でそんな台詞を吐いて、飛雄馬は畳に四つん這いの格好のまま穿いているズボンに手をかけ、それを引き下ろす。
「………来なさい」
一徹はそのまま畳の上に仰向けに寝転がり、飛雄馬を呼ぶ。
「…………」
飛雄馬はゆっくりと立ち上がると、ズボンと下着から足を抜き、父の上にどうにか跨り自分の尻に父の怒張を充てがう。
けれども、それはつるんと飛雄馬の尻の谷間を滑り、腹の奥を切なく疼かせた。
「何をしておる」
「うまく、いれられなくて」
逸物を握り、腰を浮かせ後孔にそれを当てるものの、うまく挿入することが叶わず、飛雄馬はもどかしさに喘いだ。
飛雄馬の小ぶりの男根からはカウパーが漏れ、とろとろと小さな陰茎を濡らしている。
「っ、う………とうちゃん」
ぬるぬると会陰から後孔までを父の男根が撫で、滑っていく。その度に腰が動いて、声が漏れる。
「わしを焦らしておるのか?」
「ちが、っ………ん、そんな………」
一徹は飛雄馬をからかうと、彼の腰を浮かせてから自分の逸物を後孔に当て、そのまま腰を下ろすように言った。
すると、亀頭がゆっくりと飛雄馬の中に飲み込まれ、暖かな粘膜がそれを包んでいく。
「あっ!ああ…………」
飛雄馬は一徹をきつく締め付け、全身をがくがくと戦慄かせる。
「まだ半分も入っていないのに達したか」
「…………っ、ふ………」
「とんだ淫乱に育ったものよ、飛雄馬。まったく、お前というやつは……」
ひくひくと一徹に跨ったまま、飛雄馬は絶頂の余韻に浸り、呼吸のために肩を上下させる。と、一徹は飛雄馬の体を下から突き上げにかかった。達したばかりの体を嬲られ、飛雄馬は悲鳴を上げた。
「いまっ、いった、ばっかり、っあ、あ!」
「それはお前の都合だろう飛雄馬。わしには何の関係もないことだ」
一度達し、敏感になった体を突き上げられ、飛雄馬は一徹の体の上に倒れ込む。
「くるし、っ………おなか、くるしいよ……」
腹の中をいっぱいに満たす父の男根に飛雄馬は声を上げるが、一徹は彼の腰をそれぞれに掴むと膝を立て、腰を打ち付け始めた。
ゆるゆると腹の中を撫でられていただけであったが、その激しいピストンのお陰で、より深いところに逸物が擦れて、飛雄馬は我を失う。
ただでさえ無理やりに飲まされた酒のせいで半醒半睡の状態であるのに、達したせいで体は変に感じやすくなってしまっているのに。
「いっ、いや…………とうちゃん、つかないで、もう、しないで、………」
「しないで、とはおかしなことを言うものじゃ飛雄馬。父を千切らんばかりに締め付け、腰を動かすお前が言えたことか」
「は、っ…………とうちゃん、だめ、だめだ………こわれる、おれ、」
「飛雄馬……」
焦点のはっきりしない目をしきりに瞬かせ、飛雄馬は叫ぶ。一徹は飛雄馬の腰を強く掴んだまま彼の中へと精を吐いた。
「う、ああ…………っ」
どく、どくと腹の中に放たれる熱さに飛雄馬は声を漏らし、一徹にしがみつく。
脈動が治まるのを待って、一徹は自分の上に乗る飛雄馬を抱え、ごろりと寝返りを打つ。と、飛雄馬を組み敷く形になって、一徹はそのまま男根を抜くと畳の上に転がっていたティッシュの箱を手繰った。
それから後処理を済ませ、あぐらをかくと煙草を咥えてそれに火を付ける。
飛雄馬は畳の上で押し倒された格好のまま、腹を上下させていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。
「……………」
「お先致しました」
すると、銭湯から明子が帰宅し、戸を開けようとしたもので一徹は入るな!と鋭い声を発し、彼女を制する。
「……………!」
明子は驚き、ごめんなさい、と取っ手に掛けた手を引っ込め父の声がかかるのを待った。
しかして、入室を許す声がかかることはなく、代わりに飛雄馬を担いだ一徹が顔を出し、風呂に行ってくるとだけ言葉を発した。
「飛雄馬は、どこか、具合でも?」
「走り込みのしすぎで足腰立たんらしい。まったく………」
「…………」
お気を付けて、と明子は二人に声をかけ、部屋の中に入る。酒の匂いに混じって何やら湿った何とも形容し難い匂いが鼻を突く。
父は、私がいない間に弟と一体何をしているのか。父は弟をどうしたいのか。
明子は手付かずのままの夕食に視線を遣って、換気のために窓を開ける。
どこか近くの家から楽しそうに食事をしながら談笑する家族の声が耳に入って、明子はあまりに世間のそれとはかけ離れた自分と弟の境遇に胸が締め付けられ、ポロポロとその頬に涙を伝わらせた。