客間
客間 面倒なことになったな、と飛雄馬はベッドに寝転んだまま高い天井を見上げる。
伴と共に花形さんの屋敷に招かれ、食事をしたまではよかった。
しかしそこでまさか、伴が酔い潰れ眠ってしまうことになるとは。
伴はおれが行方不明の間に、花形さん夫婦とは家族ぐるみの付き合いをしていたという話だし、この屋敷にも今までに何度か泊まることもあったのかもしれんが、おれはまだ数えるほどしかここを訪ねたことはない。花形さんらは自分の家だと思って──と言ってくれるが、そう上手く切り替えられたらどんなに楽だろう。
五年という月日は人を変えるには十分であるし、酒を飲まない、社会人として働きに出たことのないおれは伴と花形さんの会話には入っていけず、そもそも何を話しているのかほとんど理解できないに等しかった。 ねえちゃんはそんなおれを心配して何かと話を振ってくれたが、それが却って申し訳なくなる始末で、いっそ先に帰らせてもらおうかと思った矢先に、伴が酔い潰れ、大いびきをかき始めたのだから堪らない。
おれの意思などひとつも尊重されぬまま、あれよあれよと言う間に客人用の寝室に押し込まれ、伴とふたり大きなベッドに横になっている。
いくらここを訪ねる前に汗を流し、帰宅後は寝るばかりの状態にしてきたとはいえ──隣ではすべての元凶が何も知らず気持ち良さそうに眠っている。
そもそも伴が花形さんの誘いを受けなければこんなことには──いいや、済んだことをあれこれ言うのはよそう。伴も疲れていたのだろう。
連日、会議や残業で大変だと言っていた。
明日、目を覚ませばそれこそ平謝りに謝ってくるだろうから、その時にでも言って聞かせればいい。
飛雄馬は大きな溜息を吐くと、ベッドの上で寝返りを打ち、伴に背を向けてから部屋の出入口である扉を見遣った。
あれこれ考えていても仕方がない。
早いところ眠ってしまおう。起きてからまた身の振り方を考えよう。
そう、思った飛雄馬だったが、ふいに視線の先で扉が動いたような気がして、ハッ、と顔を上げた。
「おや、まだ起きていたのか」
「花形、さん?」
微かに開いた扉の隙間から、聞き覚えのある声がして、飛雄馬は声の主の名を呼ぶ。
「眠れているか気になってね。フフ、夜分にすまないね」
顔を覗かせた花形が微笑み、飛雄馬もまた、つられるように笑う。
「花形さんこそまだ寝ないのか」
「まだ少し起きているつもりだが、よかったら付き合わないかい。それともお邪魔だったかな」
「…………」
どうしたものか、と飛雄馬は伴のいびきを背後に聞きながら、花形の誘いに乗るか乗るまいかしばし考え込む。このまま部屋にいて、眠れるだろうか。
しかし、花形さんとふたり、何を話せと言うのだろう。花形さんがせっかく歩み寄ってきてくれたのだから、ねえちゃんの顔を立てるためにも、ここは黙って着いて行くべきだろうか。
「……フフ、しばらく、さっきの部屋にいるから眠れないなら降りてくるといい」
煮え切らぬ飛雄馬の態度に痺れを切らしたか、花形が扉を閉め、辺りには静寂が訪れる。
と、伴のいびきが止んだことを察した飛雄馬の耳元を何やら温かいものが掠めた。
「あ……、っ」
ビク、と身をすくめ、視線をそちらに向けた飛雄馬の頬にいつの間にか目を覚ましていた伴の唇が触れる。伴にそのまま肩を掴まれる形で引き倒され、飛雄馬は仰向けの格好を取ることとなった。
弾みでベッドのスプリングが軋み、飛雄馬は自分の体の上に覆い被さっている伴の顔を見上げる形で固まる。伴、どうした?その言葉は、伴の唇によって発することを阻まれ、飛雄馬は、うっ!と驚きのあまり、間の抜けた情けない声を上げた。
酒臭い、熱い舌が口の中を這いずり回って、飛雄馬は顔をしかめると共に、伴の体を腕で押し返す。
しかして、その手に指を絡められ、顔の横に縫い留められる形となり、飛雄馬は身動きが取れない状態のまま、伴の口付けを受け入れた。
下手に騒げば、階下にいると言った花形さんに勘付かれてしまう、そう考えての飛雄馬の行動だったが、伴は沈黙を承諾の返事と受け取ったか、唇を離すと、首筋に顔を埋め、僅かに汗ばんだ首へと舌を這わせてきた。
「ばっ、伴……、お前、何を考えて、っ……!」
「静かにせい、星。花形たちに聞こえるぞい」
首筋にゆるく歯を立てられ、飛雄馬は全身を粟立たせる。と、伴の指先が着ているシャツの裾から直に肌に触れ、飛雄馬は自由になった片腕で口を塞いだ。
じわり、と下半身に熱が集まるのがわかって、飛雄馬は目を閉じ、眉間に皺を寄せる。
「う……ぅっ、」
腹を撫でていた指先が、ふと、胸の突起に触れて、飛雄馬は一際、大きく体を反らすと共に、口からくぐもった声を上げた。
固く尖り、芯を持ったそこを押しつぶされ、飛雄馬の全身には甘い痺れが走る。
伴はめくり上げたシャツの裾から覗くもう一方の胸の突起に吸い付くと、それを舐め上げつつ、今度はスラックスの上から飛雄馬の股間を撫でた。
「なんじゃ、星もこんなにしとるじゃないか。口では嫌だと言っておきながら」
「…………」
伴の大きな手が、スラックス越しに膨らみかけたそこを撫でてきて、飛雄馬は下着の中が先走りで濡れるのを感じる。
「前を開けるぞい」
スラックスのボタンを外され、熱を持ったその奥へと伴の手が入り込む。下着を汚さぬようにという配慮からか、伴は何の遠慮もなく飛雄馬の男根に触れ、下着の中から取り出したそれをゆっくりとしごき始めた。
「っ、……ん、んっ、」
的確に、こちらの反応する場所を先走りで濡れた伴の手は撫で、絶頂へと誘う。
耳を塞ぎたくなるような嫌らしい音が辺りには響いており、それが自分の下腹部から聞こえて来ているという事実に耐えかね、飛雄馬は顔を真っ赤に染めた。
「いつもより、大きいのう。星も大概好きモノじゃい」
あとで、覚えていろよ、の言葉を飛雄馬は飲み込みながらも、伴の手の中で射精し、声を上げぬよう奥歯を強く噛み締める。
腹の上に、ぬるい体液が滴り落ちるのを感じながら、飛雄馬はどくどくと自分の意志とは関係なく放出される熱にようやく、全身の緊張を解いた。
ああ、しかし、このままではいけない……でなければ伴のされるがままになってしまう。
飛雄馬は虚ろな目を開け、天井を仰ぐが、頭が上手く働かない。しかして、伴はそこで安心したのか、それとも疲れが出たのか──飛雄馬の隣にうつ伏せに倒れるなり、再びいびきをかき始めたのである。
「…………」
飛雄馬は伴の隣で体を起こすと、今にもベッドから転がり落ちそうな格好で眠っている彼を見下ろし、助かった、とばかりに大きな溜息を吐く。
伴は酒癖があまりにも悪すぎる。明日起きたら言って聞かせねば。
飛雄馬はひとまず、汚れた腹を拭くべく、伴をひとり残してベッドから下りると、辺りを見回し、ティッシュの箱を探す。
明かりのついていない、しかも勝手のわからぬ部屋で目当てのものを探すのは少々骨が折れたが、近くのテーブルの上に置かれているのを発見し、飛雄馬はそこまで歩くと、自分の腹に飛散した体液を拭い、丁寧にティッシュで包んでから、これまたようやく見つけ出したゴミ箱の中に放り込んだ。
今の一騒動で心身ともに疲れ、早いところ眠ってしまいたかったが、今ベッドに戻れば目を覚ました伴にまた何をされるかわからない、という疑念から飛雄馬はどうしたものかと考えあぐねた結果、先程の花形の言葉を思い出す。
まだ起きているといいが、と飛雄馬は部屋を抜け出し、薄暗い間接照明のついた廊下を少し歩いて、一階へと続く階段を降りていく。
ねえちゃんはとっくに寝てしまっているだろうか。
夫婦ふたりの時間を邪魔することにならないだろうか。多少の後ろめたさを覚えながらも足を動かしているうちに、いつの間にか客間の前に辿り着いており、飛雄馬は僅かに明かりの漏れている扉の隙間から中を覗いた。
中には見る限り、花形ひとりしかいないようである。
飛雄馬はなるべく音を立てないように扉を開け、中へと身を滑らせた。
「ああ、飛雄馬くんか。眠れなかったかい」
気配を察したか口元に笑みを浮かべ、こちらを見遣る花形に飛雄馬は、どうも、と小さな声を発し、軽く会釈を返す。
こちらに来たまえよ、と促されるままに花形の座るソファーの隣に腰を下ろし、伴くんは?の問いかけに、飛雄馬は、ぐっすり眠っていると答えた。
「フフ、そうだろうね。彼のいびきがここまで聞こえて来るからね」
「申し訳ないが、花形さん、タクシーを一台呼んではもらえんだろうか。今ならまだ門限に間に合う」
「武宮寮長にはぼくから話しておいたから心配することはない。ゆっくりしていくといい」
「しかし、伴があの調子では同じ部屋で眠るなどとてもじゃないができそうにない」
「…………」
あれからひとり、飲み続けていたのか、花形がテーブルに置かれていたグラスを手にし、それに口を付けるのを飛雄馬は見つめつつ、彼の返事を待つ。
しかして、酔った様子もなく、顔色ひとつ変えず酒を飲み進める花形にもうそのくらいにしたらどうだ、と飛雄馬は低い声で囁いた。
「ぼくの体が心配かい」
「それもあるが、いつだったか花形さんがおれに話してくれたことがあっただろう。ねえちゃんに子ができない、と。原因は花形さんにあるんじゃないか。そんなに飲んでは……」
「へえ、飛雄馬くんは野球のことしか知らんと思っていたが──それはどうやらぼくの思い違いだったようだ。子供がどうやって出来るのか知っているとはね」
「な、…………!」
こちらをからかうような花形の言葉に、飛雄馬はカッ、と頬を赤くする。酔っていないわけではなく、顔に出ないだけなのだ、この人は──と、飛雄馬は花形から視線を逸らし、そんなことどうだっていいだろう、と吐き捨てる。
「子供を作る気はないさ。あいにくとね」
「…………!」
ぽつり、と花形が囁いた言葉に、逸らしていた視線を戻し、飛雄馬は隣に座る彼をただ呆然と見つめた。
「なぜそんな顔をするのかね。きみには関係のないことだろう。これはぼくたち夫婦の問題だ」
「それは、っ、そうかもしれんが、あまりに、ねえちゃんが……」
「ねえちゃん、か。飛雄馬くんは二言目にはねえちゃんと言うがね、ぼくの気持ちを考えてくれたことはあるのかい」
「花形さんの、気持ち……?」
この期に及んで、何を言い出すのかこの人は、と飛雄馬は花形を瞳に映し、口を引き結ぶ。
隣に座っていた花形が突然、距離を詰めたかと思うと、ふいに肩を抱き、身を寄せてきたために、飛雄馬はその手の力強さにギクッ!と身を強張らせた。
そうしてそのまま、にわかに顔を近づけてきた花形をやめろ!と叫ぶなり突き飛ばし、飛雄馬は、何の真似だ、と尋ねつつ彼を睨み据える。
「静かにしたまえ。皆起きてしまうよ」
「誰のせいで、こんな……」
「伴くんとは残念だったね。中途半端に終わってしまって」
「は……?」
全身から冷や汗がどっと吹き出したが、ハッタリだ──と飛雄馬は花形の言葉を受け流し、話を逸らさないでくれ、と鋭い口調で彼の行動を咎めた。
「おや、違ったかい。きみがここを訪ねたからぼくはてっきり……」
「何を言い出すかと思えば……花形さんともあろう人がおかしなことを言うのはよしてくれ」
「それなら正直に答えてくれたまえよ。なにを恥ずかしがることがある」
「なぜ花形さんにそんなことを話さねばならん。妙な詮索をするのはよしてくれないか」
ソファーの隅に体を寄せ、飛雄馬は声を荒げつつ花形の言葉を否定する。
一度は離れた互いの距離はいつの間にか縮まっており、ソファーの隅で身動きが取れぬまま、飛雄馬の体は花形の体の下に組み敷かれる格好を取っている。
勢いに気圧されている、と飛雄馬は自分の上に覆い被さっている男の顔を見上げ、離れてくれ、と声を上げたが、花形が動く気配は微塵も感じられない。
それどころか、花形は先程と同じように顔を寄せるようにして距離を縮めてきて、飛雄馬は反射的に顔を逸らした。そうして、馬鹿なことをするのはよせ、とその頬を張ろうと伸ばした手を掴まれ、油断したところで無理やりに呼吸を奪われる。
「…………っ、!」
口を閉じ、舌の挿入は辛うじて阻んだものの、固く閉じ合わせた唇を舌先でくすぐられて、飛雄馬はびくり、と体を反応させた。
「口を開けて」
嫌だ、と首を振る飛雄馬の首筋に花形がおもむろに顔を寄せ、わざとらしく音を立ててそこに吸い付いた。
「っ、く…………!」
飛雄馬は何度も何度も音を立て、首筋の薄い皮膚に口付けを落とされる感覚に肌を粟立たせつつ、体の奥をざわつかせる。
花形の手が、スラックスの上からすでに立ち上がりつつある飛雄馬の男根をそろりと撫でた。
「────!!」
「下、脱ごうか。腰を上げて」
手首を掴んでいた花形の手を跳ね除け、その腕で口を塞いだ飛雄馬は再び、嫌だ、と首を横に振り、眉間に皺を寄せ目を閉じる。
「そう言うように教わったのかい」
「っ、っ…………」
「下着やスラックスを汚すよりはいいと思うがね」
下着とスラックス越しに男根を撫でる花形の指の感触が、ぞくぞくと背筋を駆け上がって、飛雄馬は閉じたまぶたの端から涙を滴らせた。
「う、ぅ、……」
「前を開けようか。このままだと辛いだろう」
言うなり、手際よくスラックスのボタンを取り、ファスナーを下ろした花形の手元を見遣った飛雄馬は、続けざまに取り出された自分の下半身を直に目の当たりにして、素直に反応してしまっている己がいることに嫌悪し、堪え性のなさと、あまりの情けなさに涙を溢す。
すると、花形が指に飛雄馬の鈴口から溢れる先走りを纏わせ、そのまま裏筋を撫でた。
「ふ…………、っ、!」
これ以上ないほどに強い衝撃が脳天を貫いて、飛雄馬はびくん、と大きく体を反らすと、花形が首筋に食らいついた鈍い痛みを感じつつ、両足からスラックスが引き抜かれた感触に口を覆った腕の下で奥歯を強く噛み締めた。
その格好のまま、飛雄馬は足を開き、花形を受け入れる格好を取って、今度は腹の中を探る指の動きに身を震わせる。
指示せずとも的確にこちらがイイ、という位置を花形は突き止め、ちょうどいい力加減でそこを責めてくる。その度に絶頂とまではいかぬが、ゆるい快感が全身を駆け抜け、飛雄馬は、腕の下、閉じた口から小さく声を漏らす。
と、腹の中から花形が抜け出て、飛雄馬はぶるっ、と体を震わせると、大きく息を吐いた。
しかして、それも束の間の休息でしかなく、指で嬲られていた入口にあてがわれた熱により、体の中心を刺し貫かれる。
思わず、あっ!と高い声を漏らして、飛雄馬は自分の開いた足の間にいる花形を見上げ、開いた足、その膝を震わせた。
なんて屈辱的な格好だろうか。
かつては互いに球団のユニフォームを身に着け、球場で対峙し合ったこともあるというのに。
今この現状を見るにつけ、悪い夢を見ているとしか思えない。
「動くよ」
言うなり、腰を引いた花形の動きにつられ、腹の中が引きずられて、飛雄馬は自分を組み敷く彼の腕に縋る。腕が離れ、花形の眼下に晒す羽目になった唇をそっと啄まれて、飛雄馬は肌の表面に汗を滲ませた。
そうして花形の引いた腰を今度は尻へと叩きつけられ、飛雄馬は指では到達し得なかった奥を弄ばれることとなり、無意識に開いた口から声を上げる。
すると、その唇を塞がれ、舌を吸い上げられて、与えられた甘い唾液を飛雄馬は音を立て飲み下す。
「逃げないで。しっかり捕まえていたまえ」
絶え間なく与えられる快感から逃れようと身をよじる飛雄馬の腰を掴み、花形は腰を打ち付ける。
その動きに、ようやく慣れたところで中を掻き乱すように腰を回されて、飛雄馬はほとんど叫び声に近い嬌声を上げた。
「少し、声を抑えて」
口の中に強引にねじ込まれた花形の指に、頬の粘膜を撫でられて、奥歯をなぞられ、飛雄馬は軽く絶頂を迎える。けれども花形はそれで終わらず、ようやく落ち着いた飛雄馬の唇から指を抜くと、再びそこに口付けつつ、腰を振った。
「あ、ぁ…………っ、」
花形の肩口に爪を立て、飛雄馬は腹の中に未だ存在している彼を締め付けると、体を大きく戦慄かせる。
中に出すよと囁かれた声が、夢か現実からわからぬまま、飛雄馬は目を閉じ、唇に触れてきた感触に対し、口を開き、応えた。
それから、体内に放出した体液を掻き出しつつ離れていく花形を涙で滲んだ瞳に映し、飛雄馬は目を閉じる。立てるかい、と花形に尋ねられ、飛雄馬は首を横に振った。
落ち着いたら戻るから花形さんは眠ってくれて構わない、と続け、飛雄馬はソファーの座面に横たわったまま大きく息を吐く。
このまま帰って、伴に怪しまれないだろうか。
いいや、それより、花形さんは自分の気持ちを考えてくれたことがあるのか、と尋ねてきたが、それは一体どういう意味であるのか。
彼はおれに、なにを訊きたかったのだろう。
「ぼくもきみが落ち着くまでここにいよう。伴くんも朝まで起きてこないだろうからね」
「…………」
頬を、恐らく流れた涙を拭う花形の指先が、やたらに優しくそして繊細で、飛雄馬はまともに彼の顔が見られず、目を閉じる。
花形さんは、ねえちゃんを一番に、そして大事にしてください、なんてどの口が言えるのか。
ねえちゃんに甘え、ねえちゃんの幸せを蔑ろにしてきたおれは、花形さんに偉そうに説教できる立場にはない。それどころか、こんな関係を持ってしまって、おれはねえちゃんに合わす顔がない。
「ゆっくり、おやすみ、飛雄馬くん」
囁くような花形の声に、飛雄馬は微睡み、うとうとと目を閉じる。伴のいる部屋に戻らなければ。
こんなところにいては明日、起きてきたねえちゃんたちに怪しまれる…………。
そのさなか、花形が何やら囁いた気がしたが、確かめる術もないまま、疲れ果て、柔らかなソファーの座面の上で飛雄馬は小さく寝息を立てた。