クスリ
クスリ 野球漫画を描くために協力してくれないか、と爛々と目を輝かせて言う牧場春彦に気圧され、飛雄馬は彼の自宅に招かれていた。今日は日曜日、学校の授業も野球部の練習さえもない、珍しく完全オフの日である。むろん、牧場もあらかじめ飛雄馬に尋ねてから、ならばこの日に是非、と頼み込んでいたのであるが。
お邪魔します、と礼儀よく玄関先で頭を下げた飛雄馬を牧場は満面の笑みで招き入れる。見たところ屋敷には牧場だけのようで両親は不在らしく、青雲高校の生徒らしいブルジョワ邸宅に牧場以外の人の気配は感じられなかった。
ご両親は?と飛雄馬も尋ねるでもなく、ただただ案内されるがままに牧場の自室だという部屋に案内され、どうぞと招かれた部屋の絨毯敷きの床に腰を下ろす。
牧場春彦の父は不慮の事故死を遂げているのだが、今の飛雄馬がそれを知る由もなく、牧場もわざわざ口に出したりすることはなかった。
「こうして、家に招いてくださってまで何を聞きたいんです?」
「星くん、これはちょっと頼みづらいことなんだが……」
飛雄馬の対面に座り、牧場はスケッチブックを両腕に抱え込むようにしながらぐっと前のめりの体勢を取りつつ飛雄馬に詰め寄る。そのあまりの顔の近さに飛雄馬は若干引きつつも、おれでよければ……と無理に笑顔を作り、その場を取り繕ってみせた。
「あ、ありがとう!!星くん!恩に着るよ!」
「そ、それで、何ですか。その頼みづらいこと、と言うのは」
「……それはだね」
ゴクリ、と牧場の喉が鳴る。飛雄馬も何を頼まれるのだろうか、と口内に溜まった唾を飲み込みつつ、次に続く言葉を待った。
「デッサンの参考にしたいから、球を投げる様を見せてくれないか。その、服を脱いで」
「は、はあ………?」
何を言い出すのかと思えば、と飛雄馬はあからさまに変な顔をしてこちらににじり寄って来る牧場から若干の距離を取る。
「洋服の上からじゃ筋肉の伸び縮みの様子や体の動きが分からないんだ!本を見て模写してもやはり自分の目で見て確かめつつ描いたものとでは全然違うからね!」
そういうものだろうか、と飛雄馬は些か疑問の念を抱いたものの牧場があまりに熱く鼻息荒く頼むもので遂に観念し、彼は身につけている私服を一枚一枚脱いでいく。
「上だけでいいんですか」
「し、下も脱いでくれるかい」
参ったな、と飛雄馬は失言だったと己の発言を後悔する。けれども、瞳をキラキラと輝かせつつ服を脱ぐのを待っている牧場の顔を目の当たりにすると、前言撤回と言うわけにもいかず飛雄馬は遂に下着一枚の姿となってしまう。
「うーーん、いいね。星くん、そのまま、そのまま」
牧場は言うと、手にしていたスケッチブックをめくってサラサラと鉛筆で何やら描き込み始める。
「星くんはずっとお父さんと野球を?」
「そう、ですね」
「フフ、そう固くならずとも。リラックス、リラックス。変に力むといつもの体の型が崩れてしまうよ」
「自分の体や顔を描かれていると思うと変な気がしてくるなあ」
「いやあ星くん、きみを見ていると創作意欲を掻き立てられるよ」
スケッチブックと飛雄馬の体とを交互に睨みつけつつ牧場は鉛筆を走らせていたが、ふいに何かを思い出したようにスケッチブックを置くと、「あっ!せっかく来てくれたのにお茶も出していなかったね!」と腰を上げ、早々に部屋を出て行ってしまう。
おかしな人だなあ、と飛雄馬は鬼の居ぬ間の洗濯とばかりに足や腕を伸ばして、大きく深呼吸をした。
柔軟体操をしばらく続けていると、盆にカップをふたつ乗せた牧場が帰ってきて、飛雄馬は慌てて先程の格好に戻ろうとしたが、部屋の主は一先ずお茶でも飲んでから、と休憩を取るように言った。
飛雄馬からしてみれば、お茶をご馳走になって一息入れるよりもさっさと描きあげてもらい家に帰りたかったが、せっかくの好意を無下にするわけにもいかず、湯気の立ちのぼる紅茶のカップを手に取る。
「いただきます」
飛雄馬はそう言って、手にしたカップの中身を啜った。熱くもなくぬるくもなく、適温と言うのだろうか。紅茶などと言う洒落たものは普段から飲みつけていない飛雄馬だったが、紅茶の香ばしい良い香りが鼻をくすぐって、その仄かな甘みと温かさが喉を潤した。
「………」
その様を牧場はじっと見ている。飛雄馬はこの様子もデッサンする気なのだろうか、と苦笑いさえ浮かべたが、ふいに、ほとんど空になったカップを取り落とす。絨毯敷きの床にカップは転がり、中身が零れ染みを作った。
「………あ、っ」
変だ、と飛雄馬はたった今までカップを握っていた手を見つめる。力が入らない。痺れている、と言った方が適当か。次第に視界もぼやけ、頭がぐらぐらと回り始める。
「…………効いてきた?」
「ま、っ……ば、さ……なに、を」
飛雄馬の呂律は既に回っていない。もう座っているのがやっとだ。
「外国製の痺れクスリだよ。半信半疑だったがちゃんと効いたようだね。ほんの少し混ぜただけだから一時間もすれば回復するさ……って、もう聞こえていないかな」
「っ………な、ぜ、こ……っな、こと」
床に両手をつき、ゆらゆらと頭を揺らしながら飛雄馬は尋ねる。
「………すきだから」
もう尋ねる余力も飛雄馬には残っていない。肘を折り、がくんと前のめりに倒れそうになるのを牧場が抱き留める。触れられた肌がやたらと熱い。
「う、ぁ………」
「ほんの少し気分が良くなる成分も入っているよ。まさかここまで効くとは」
「ま、ひ、ば……さっ」
虚ろな目を飛雄馬は牧場に向け、己を抱き留めている彼の肩を掴もうとするがどうにも力が入らない。頭は朦朧としているのに、臍の少し下、いわゆる生殖器と呼ばれる場所がやたらと熱を持ち首をもたげ始めているのを飛雄馬は感じていた。
「星くん、許してくれ。卑怯なぼくを……」
牧場は言いつつ、だらしなく唾液を顎に滴らせている開いたままの飛雄馬の唇に己の顔を寄せ、そっとそれを啄んだ。
柔らかく唾液に濡れた唇が重なって、飛雄馬の体はぶるっと大きく震える。
「は、あ、うっ……ううっ」
「星くん、一目見たときからずっときみのことが好きなんだ……」
脱力し、倒れそうになる飛雄馬の体を抱き締めたまま牧場は彼の体を絨毯敷きの床へと押し倒す。その絨毯の柔らかな毛先が肌に触れただけで飛雄馬は鼻がかった甘い声を漏らした。
牧場は飛雄馬の腹の上に跨ると、またもや彼の唇に己の口を押し付ける。震える牧場の唇が熱く、その舌はぎこちなく飛雄馬の歯列をなぞって、彼の舌の表面を撫でた。
「い、あ……あ、あっ」
声を上げ、飛雄馬は膝を立て足をすり合わせ始める。勃起しきった逸物が切なく疼くのだ。下着の中で解放を求め、その布地を押し上げる。牧場は熱の篭った飛雄馬の吐息を頬に感じつつ、再び彼の唇を塞ぐ。 それだけで一度飛雄馬は下着の中で達してしまう。
「あっ、い……あ、ふ、っ――――!」
弓なりに背を反らして、飛雄馬は白い喉を牧場の眼下に晒す。閉じた飛雄馬の瞼、その目尻からは涙が溢れ、彼の頬を滑った。 白濁の欲は勢い良く放たれ、飛雄馬の下着の中をめちゃくちゃに汚した。しかして、一度射精をしたというのに飛雄馬の男根は萎えることなくその硬さを保っている。
牧場は射精の余韻に体を震わせている飛雄馬の下着の中に手を差し入れ、まだ温かな体液にまみれた彼の勃起しきったままの逸物を握った。すると、閉じていた目を開けた飛雄馬の涙に濡れた瞳孔が揺れ、その口からは得てして彼らしくない悲鳴のような声が漏れた。
「ッか、ァ……!!ぐ、あ、ああっ」
あまりの声の大きさと喉を振り絞るようにして吠えた飛雄馬の嬌声に牧場は驚いたものの、すぐに握った彼の逸物をしごきにかかった。
「ひ、っ……ま、ひばしゃ……まきば、さ……らめ、ひやだ、いや……」
舌っ足らずの口調で飛雄馬はやめるように懇願するが牧場の手が緩むことはなく、精液にぐちゃぐちゃに濡れた逸物を五本の指でこすり上げ、際限なくカウパーを漏らす鈴口を親指で撫でる。
飛雄馬の膝は快感の強さに耐えきれず、ゆらゆらと左右に揺れ、その腰は牧場の手の動きに合わせ震える。
「気が済むまで出すといい」
「ま、ひばさ……はな、ひて……離し……あ、ァッ!!」
二度目の射精を飛雄馬は牧場の手の内で行って、体を大きく仰け反らせる。
鼻水だか涙だか汗なのかよく分からない体液に飛雄馬は顔面をぐちゃぐちゃに濡らして、肩で息をする。頭がひどく痛んだ。
「下着はぼくのを貸すから、穿いて帰るといい」
牧場は最後まで言い終わらぬうちに飛雄馬の足から下着を抜き取ると、体の上に跨がっていた体勢から彼の股ぐらへと自身の体を滑らせる。
「星くん、ぼくのわがままを、ひとつだけ、ひとつだけ聞いてほしい」
己の穿いているスラックスのポケットから牧場は軟膏らしきもののチューブを出すと、蓋を開けて中身を右手の中指の腹にたっぷりと取り出すと、そのまま飛雄馬の体の中心に位置する窄まりへと塗り込み始める。
「あ、あアッ!!!ま、っ……」
「ぼくをきみの中に受け入れてほしい」
飛雄馬の尻に塗り付けた軟膏が彼の体温により溶けていく。牧場はしばらくその付近を指の腹で撫でていたがゆっくりと飛雄馬の腹の中へ指を挿入させた。
異物が体内に入り込んできて、飛雄馬はその不快さに身を強張らせたが、それよりももっと得も言われぬような、それこそ腹の更に奥が疼くような妙な感覚に襲われる。 飛雄馬の腹側の粘膜を内側から撫で上げ、牧場は奥へ奥へと指を押し進める。そうして、ふと、飛雄馬が思わず声を上げた位置を牧場は指の腹で押し込みつつそろりと撫でた。
「――――!!!!」
飛雄馬の視界がスパークし、脳内はそれこそ真っ白に染まった。牧場の触れた位置から走る脳天貫く強い刺激に飛雄馬は喉から掠れた声を上げる。
「ここは男の人が気持ちいいと感じる場所だそうだよ……」
「は、ッが………っ、あ、ア、ああっ!」
いわゆる前立腺、と呼ばれるその位置を牧場は執拗に責め立てる。絨毯敷きの床に飛雄馬は後頭部を擦り付けるようにして身を仰け反らせた。
「星くん」
牧場は組み敷く彼の名を呼んで、己が穿いているスラックスと下着を脱ぎ去ると、飛雄馬から指を抜いてたった今まで慣らしていた場所、その位置へと牧場は腰を寄せ、逸物をすり合わせた。
そうして、腰を突き立て、その場所へと牧場は己を飲み込ませる。指など到底比べものにならない熱く固く、長さを持つ牧場の男根が飛雄馬の体内を犯している。牧場がぎこちなく動くたびに前立腺の上をその逸物が撫で、擦った。
「ッ、ひ、………っ、い、いっ!」
もはや閉じることもままならない飛雄馬の口からは唾液が顎を伝い、牧場の体を股ぐらに埋めている飛雄馬の左右の足は開かれたまま絨毯の上で揺られている。その豪速球を投げる左手も、グラブをはめる右手も今は五本の指をそれぞれに開いたまま、絨毯の上に投げ出されていた。
全身にびっしょりと汗をかいて、飛雄馬はだらしなく腹を呼吸のたびに上下させ、牧場の与えてくる充血した粘膜をこすって、前立腺を撫であげる気が狂いそうなほどの快感に酔いしれる。
もう飛雄馬自身、今自分がどこにいて何をされているかということはわからなくなってしまっていた。ただ、下半身から走る刺激と感覚、その快楽の強さに身を委ね、虚ろに目を瞬かせる。
と、牧場は飛雄馬の片足を掴んで、己の肩に担ぐと、体を組み敷く彼に押し付けるような体勢を取り、より深く自身を飲み込ませた。
「が、っ……!!あっ、あ、いッ……だ、らめらぁっ、だめ……っ、だ、あああっ!!」
背を反らし、飛雄馬は体の奥からこみ上げた未知なる感覚に声を上げ、身を震わせる。瞳に溜まっていた涙は堰を切ったように目尻からこめかみへと落ちて、全身はぶるぶると戦慄いた。
それでも牧場は飛雄馬の腹の中を擦るのをやめようとはしない。それどころか更に腰の動きを速め、音を立て飛雄馬の尻を己の腰で叩きつける。
「ほ、し、くんっ……星くん」
「やめ、も、やめ……て……おねが、し、ます……やめ、」
ぱくぱくと唇の開閉を繰り返す飛雄馬の唾液に濡れたそこへ牧場は口付け、がつがつと何度か腰を叩いてから彼の腹の中へと欲を吐く。ビクビクと飛雄馬の体内では牧場の逸物が脈動し、飛雄馬は呼吸のために腹を大きく上下させた。
「ふ………うっ」
牧場は額の汗を拭うと、飛雄馬の中から己を抜き取って、ほんの少し離れた場所にあったティッシュ箱を手繰ると後始末を終え、スラックスと下着とを身につけた。飛雄馬はまだ薬が残っているか、呼吸のたびに肩を震わせているだけで体を起こすこともなかった。
牧場は冷えきったカップの中身を一口飲み下してから、もう一度口にそれを含むと飛雄馬に口付けてやり、彼の口内を潤した。
「は……ふ、っ」
ゴクリ、と派手に音を立て飛雄馬は紅茶を嚥下すると、目を閉じて規則正しい呼吸を始める。ようするにそのまま眠ってしまったのだ。
クスリがだいぶ抜けてきたこともあり、加え、疲労が溜まっていたのもあるだろう。
それほどまでに疲れているのに、せっかくの日曜、こうして自宅を訪ねてくれた星くんの好意を踏み躙って、卑怯な手を遣ってまで自分のものにしてしまった自分はなんてクズで最低なのだろうか、と牧場は残りの紅茶を一息に飲み干して、スケッチブックの中の生き生きとした飛雄馬の姿を眺めると、一人声を殺して泣いた。