不安
不安 「ば、っ……待っ、ん」
医務室から宿舎の部屋に戻って早々に、伴は飛雄馬の体を抱き締め、その唇に自分のそれを強く押し付ける。
口付けから逃れようと身をよじった飛雄馬の背中から腰にかけてを伴は掌で撫でさすって、彼の尻の膨らみを優しく揉みあげた。
「あ、っ」
ぴく、と飛雄馬は体を震わせると、弾みで爪先立ちになって、自分の脇の下から背中へと回る伴の着ているユニフォームの袖に縋りついた。
「星、何も心配することはないぞい。おれの目のことより、一刻も早く大リーグボール二号を完成させることが、先決じゃい」
「やっ、てることと、言ってることが、全然、違うじゃないか」
飛雄馬の尻を揉みしだくのを中断させ、伴は腕に抱く彼の股へとその手を移動させた。
既に膨らみつつあるそこをさすり、伴は飛雄馬の名を囁く。
しかして、その目に飛雄馬の姿は映ってはいない。
大リーグボール二号、と後々称される、消える魔球なるものを開発するために、伴と飛雄馬は多摩川グラウンドにて連日特訓を行っている。
それは飛雄馬が土埃を巻き上げつつ、頭上高く右足を挙げ、左腕から放つ投球。
その高く掲げた右足、はたまた土埃と言うのがこの魔球最大のキモであり、彼の捕手を務める伴の視力を奪う原因となった原因である。
目元にガーゼを当てた上から幾重にも包帯を巻き付け、日常生活のほとんどを伴は今や飛雄馬に依存している。
飛雄馬もまた、監督や寮長に許可を取り、伴の目が治るまではと言うことで宿舎にて彼の身の回りの世話をしていた。
皆がいる食堂では好奇の目に晒されるからとわざわざ部屋まで飛雄馬は伴の食事を持ち寄り、スプーンや箸を使って食事を口まで運んでやったし、風呂で汗を流したあとも無理を言っているのだからと浴室の掃除まで飛雄馬は請け負っている。
「また余計なことを、考えとるじゃろう。おれはさっき言うたはずじゃぞい。おれの目を犠牲にしても構わん、と」
「それでは、おれの気が治ま、っ……」
ユニフォームのズボン、そのファスナーを下ろし、伴はそこから手を入れるとスライディングパンツの上から飛雄馬の男根に触れる。
腰が引け、膝の曲がった飛雄馬の体を再び抱き寄せ、伴は半立ち状態のそれをすりすりと掌と5本の指でしごいた。
あっ、と声を漏らし、俯けていた顔を上げた飛雄馬の額に伴は口付け、徐々に首をもたげ、先走りを垂らし始めた男根を擦る速度を速める。
「むう、目が見えんと口付けるのも一苦労じゃい」
「あっ……伴、ばん……っ、」
伴の大きな手が飛雄馬の男根を包み込み、ゆっくりと、そして的確に射精へと導いていく。
「……星なら大丈夫じゃい。おれがついとる。なにも心配せんでもええ」
「っ、く……ぅ、」
伴の掌の上で完全に勃起した男根が溢れ出た先走りを纏って、摩擦のたびにくちゅくちゅと鳴る。
時折、焦らすように伴は手の動きを緩め、喘ぐ飛雄馬の体を強く抱いた。
「早く目がよくなってくれんと敵わんわい。星の顔が見れんと1日元気が出らんからのう」
「ば、か……ぁ、あっ!」
とぷ、っと飛雄馬は伴の掌の中で射精し、脈動に合わせ白濁を飛ばす。
肩で息をしつつ、飛雄馬は伴の顔を見上げると、再び、震える声で、伴のばか、と彼をなじる。
「馬鹿で結構じゃあ。親友のためなら馬鹿でも阿呆でもなってやるわい」
豪快に声を上げ笑う伴から飛雄馬は少し距離を取ると、その場に膝をつき、先程されたことをそっくりそのまま彼にやり返す。
伴の穿いているユニフォームのファスナーを下ろし、中から完全に出来上がってしまっている男根を取り出したのだ。
「ほ、星!?」
「おれは、これくらいしか、してやれないから」
ゴクン、と一度唾液を飲み込むと、飛雄馬は口内を分泌した唾液で湿らせてから膝立ちの格好で目の前にそそり立つ伴の男根を咥える。
飛雄馬の口の中では伴のモノが脈打ち、更に膨らみを増す。
目を閉じ、飛雄馬は喉奥まで伴を咥え込んでから上顎と舌とで男根を締めた。
「う、ぐっ……」
「………」
そうして、唾液をたっぷりと纏わせた舌と上顎を使い、根元から亀頭までを責め上げる。
びく、びく、と伴は腰を揺らし、飛雄馬の刺激に素直に反応を返す。
一旦、飛雄馬は伴から口を離すと、溜まった唾液を飲み込んでから、今度は彼の亀頭に口付け、その露出している粘膜部のみを咥えた。
口をすぼめ、カリ首と裏筋とを丹念に責めつつ、飛雄馬は己の唾液に濡れた伴の陰茎を自身の左手で握って、それを上下にしごく。
「ふ……っ、」
吐息を漏らして見上げた伴の顔、包帯の巻かれている目が真っ直ぐに飛雄馬を見下ろし、その眉間には深い皺が刻まれている。
飛雄馬は目の見えぬ伴を煽るかのようにわざとらしく音を立て、亀頭を吸い上げる。
「あ、っ、星、だめじゃい……それは、っ」
「ん、ん……」
ちゅうっ、と鈴口に口付け、飛雄馬は溢れる先走りを啜ると、今度は口に咥え込むことはせず、唾液に濡れ光る亀頭を舌でちろちろと舐め上げた。
視覚から取り入れる感覚がゼロの状態である伴の神経はすべて飛雄馬が弄ぶ下腹部に集中しきり、ほんの少しの刺激でさえ、普段では考えられぬほどの快感となって全身へと走る。
「伴、気持ちいいか?」
「……よすぎて、っ、気が、狂いそうじゃわい……」
再び、飛雄馬は伴を口に含み、亀頭を舌と上顎で挟み込んで顔を上下させる。
つるつるとした上顎が伴の亀頭を撫でたかと思えば程よい力加減でそこを締め上げ、彼を絶頂へと誘う。
「星、っ、いく、どいてくれ、出てしまう……」
飛雄馬の頭を撫でつつ、伴が呟く。
「…………」
「ほ、しっ……っ、ぐ、うぅっ」
すんでのところで伴は飛雄馬の口から男根を抜き取ったものの、そのまま彼の顔へと精液を放出してしまう。唇から鼻、額、眉にかけて白い線が描かれ、飛雄馬は放出が終わったところでうっすらと目を開けた。
「ふ、いっぱい、出たな」
「あ、あ……星、顔にかかっとらんか?大丈夫か?」
「……大丈夫さ。気にするな」
慌てた様子で気遣いの言葉を投げかけた伴に対し、飛雄馬は笑みを返すと立ち上がり、ベッドの枕元に置いていたティッシュの箱から中身を数枚取り出して、自分の顔を拭う。
「星、その、突然、すまん……部屋に戻って来るなりあんなことをして」
「………おれの、心の迷いを振り払おうとしてくれたんだろう」
飛雄馬は顔を拭ったティッシュをゴミ箱に放ると、新しいものを取り出し、伴のそれを拭いてやる。
「っ、……」
「大リーグボール二号などという見果てぬ夢を見た馬鹿のために、きみはここまでしてくれる。周りがなんと言おうと、とうちゃんが敵に回ろうと、伴だけはおれを支え、応援してくれた」
言いつつ、体液を拭ってやる飛雄馬の手の中で伴の男根は再びむくむくと膨らみ始めた。
「星、やめろ。また、っ、」
「伴、来てくれ」
飛雄馬は伴の腕を取り、彼に充てがわれたベッドまでその体を導いてやると、自身はそこに乗り上げ、スパイクを脱ぎ捨てる。
「星、きさま……」
「きみと肌を合わせるのも、ずいぶん、久しぶりだな」
飛雄馬がボタンを外し、1枚1枚ユニフォームやアンダーシャツを脱ぎ捨てていく微かな衣擦れの音が伴の耳には入った。
「…………」
ゴクン、と伴の喉が鳴る。
とっくに飛雄馬が触ったおかげで反応を見せた下腹部は立ち上がっており、伴の臍の前で揺れていた。
ベッドに膝をつき、伴は手でベッドのシーツの上を撫でつつ飛雄馬の位置を探る。
と、いつの間に脱いでいたのか指先が触れたのは飛雄馬の生身の肌、その爪先であり、伴は弾かれたように俯けていた顔を上げた。
「伴、こっちだ」
声のした方へ伴は膝を使いにじり寄る。
飛雄馬は足を大きく左右に開いて伴を迎え入れ、その体の下に組み敷かれる形を取った。
「っ、しかし、慣らさんと……星が痛い思いをするだけじゃぞい」
「……ふ、ふ。少し、待っててくれ」
飛雄馬は言うと、先程、ティッシュを取りに行った際手にした軟膏のチューブ、その蓋を開けると指先に中身を取り出し、自身の広げた足の中心へとそれを塗りつける。
ぱく、ぱくと物欲しそうに口を開閉させるそこに飛雄馬は指をゆっくりと飲み込ませ、入り口を解していく。
「あ、ん、んっ……」
「星……?」
艶めかしい声が聞こえ、ベッドが微かに軋む。
組み敷く飛雄馬の足がゆらゆらと揺れているのは気配で分かったが、彼が何をしているかというのは目の見えない伴には理解ができず、ただただ生殺し状態のままである。
挿入した指を出し入れし、飛雄馬はそこを刺激に慣らす。
むろん、ぼんやりとした快楽しか得られず、もどかしさが募るばかりで、飛雄馬は下唇を噛むと指を抜き、伴を呼ぶ。
その震え、甘えたような声に伴の心臓は変に跳ねた。
「伴、ほら、はやく……」
腰の下に枕を敷き、飛雄馬は伴の到来を待ち侘びる。
自身の男根を握り、伴はぐっと腰を押し付けるが、盲目状態の当てずっぽうでは見当違いもいいところで、飛雄馬は伴の手を取ると、本来の位置に彼を導く。
伴の男根が充てがわれただけで飛雄馬の腹の中はキュンと疼いた。
ああ、来る、来る、と飛雄馬は固唾を飲み、自身を貫くそれが腹の中に飲み込まれていく始終を見守る。
「は………っ、あ……」
挿入させた瞬間、飛雄馬の粘膜は伴の男根へと絡み付き、それを熱い襞で包み込む。
「あ、う、ぅっ──」
甘い痺れが貫かれたそこから全身に走り、飛雄馬は体を仰け反らせ、口元に手を遣る。
まだ半分も入っていないというのに、あれがすべて腹の中に埋め込まれたとき、果たしておれは正気を保っていられるのか、と飛雄馬が思った刹那、伴はゆっくりと彼の中を突き進んできた。
「ア、ぁっ……!」
背中を反らし、飛雄馬は口元に遣った手で拳を握る。
口付けようと身を屈めてきた伴だったが、飛雄馬の手が邪魔をし、そこまでは至らずそれに苛立ちでもしたか、腰を引き埋めた男根を引き抜くと、そのまま深く腰を突き入れた。
鋭い衝撃が体を貫き、飛雄馬の視界にチカチカと火花が飛んだ。
全身がガクガクと震えて、飛雄馬は必死に声を堪えたが、いつもの優しい伴は影を潜め、ただ一心不乱に腰を叩いている。
「星……ほしっ……」
「っ、ふ……」
しかして、激しく穿たれる感覚が心地よく、腹の中を抉って飛雄馬を昇りつめさせた。
再び、伴は飛雄馬の中に欲を放出することはせず、彼の腹の上へと射精する。
「は、あっ……星」
「伴……」
飛雄馬は伴の体の下から抜け出ると、体を起こし、汗ばんだ彼の頬を撫でてやった。
びく、と伴は驚きのあまり身を震わせたが、すぐに飛雄馬の手の上に自分の掌を重ねる。
「完成まで、もう一息じゃのう。星の投球に迷いがなくなってきたわい」
「…………」
「星?」
呼びかけに応答せず、代わりに飛雄馬は伴の唇へと自分のそれを押し当てる。
短く呻いた伴の唇を割り、飛雄馬は舌を彼の口内へと滑り込ませた。
「ぐ、っ……」
伴の眉間に皺が寄り、飛雄馬は忍ばせた舌の先で彼の前歯を撫でる。
恐らく、ここ数日中には完成するであろう大リーグボール二号。しかして、これもいつまで持つか。
花形と左門、いや、それだけではない他の球団の監督・選手らも総力を上げこの魔球を攻略しようとするだろう。
おれは、ライバルたちをきりきり舞いさせるつもりが、自分の首をゆっくりと時間をかけ、締めていっているのではないか。
いいや、そうではない。
そんなことはない、と言い聞かせつつ飛雄馬は伴の舌に自分のそれを触れ合わせながら、彼のくれるぬくもりに身を委ねた。