勝手
勝手 「牧場のやつぅ、自分から誘っておいて」
「まあ、そう言うな。彼も漫画家業で忙しいんだろう」
どうしても原稿から手が離せず、すまないが先にふたりで始めていてほしい──の報を受けてから三十分ほどになるだろうか。
贔屓にしているらしい料亭の一室。伴と飛雄馬はこの日、漫画家の牧場春彦に誘われ、夕食を共にすることになっていた。
しかし、待てど暮せど彼は姿を現さず、空腹も相俟ってイライラしていた伴が我慢ならんとばかりに立ち上がったと同時に、料亭の女将が遅れる旨を伝えてきたのだった。
すき焼き鍋の中も煮詰まって、部屋の中には甘い匂いが充満している。
飛雄馬と座卓を向かい合わせに座る伴の目は、酒が入ったことで完全に据わっており、時折、ひっく、としゃっくりまで上げる始末だった。
それにしても、遅いな。事故か何かに巻き込まれていないといいが、と思った矢先に、伴が、星よう~と低い声を出しながら四つん這いの格好で這い寄って来て、飛雄馬は、やや座布団から尻を浮かせ、彼から距離を取った。
酔った伴は始末に負えない。やたらに浮かれ歌い出すか、その場で寝てしまうか、あるいは──。
いや、歌う、眠るならまだいい。もうひとつ、酔った伴には悪癖がある。
「なんでにげるんじゃあ~わしと星の仲じゃろう~」
「よせ、伴。おれとお前だけならまだしも牧場さんもやがて顔を出すというのに」
「にゃに~わしというものがありながら他の男の名前を出すなんてとんでもないやつじゃい」
「伴!」
鋭く飛雄馬は伴を呼んだ。が、彼はまったく動じず、そればかりか壁際まで逃げた飛雄馬の腕を取ると、ずいとその巨体を寄せてきた。
「すぐ終わるから、な、星。ええじゃろ」
「いいわけないだろう。場を弁えろ、だから飲みすぎるなと言ったのに」
「怒る星も可愛くてええのう。ふふふ」
「ばっ、っ、う」
名を呼びかけ、口を開いた唇に酒臭い伴のそれが押し付けられて、飛雄馬は反射的に目を閉じる。
いつの間にか壁を背にしていた体は畳の上に落ちてしまっていて、伴の体の下に組み敷かれている。
飛雄馬は、伴が慣れた手つきで己履いているスラックスのベルトを外していく音を聞きながら、彼の頬に一閃、平手打ちを放つ。しかして、それに怯む様子もなく、開いたスラックスの中に手を差し入れてくる伴の手の熱さに身震いし、飛雄馬は、鼻息荒く自分の口の中を犯してくる舌に声を上げた。
容易く、スラックスと下着とを剥ぎ取るや否や両足の間に身を置いてくる伴の腕に爪を立て、飛雄馬は身をよじる。
「ばかっ、やめ……っ、」
「すぐ済む。すぐ終わるから」
「そういう問題じゃ、っ……」
首筋に顔を埋められて、喉元に唇を寄せられ、飛雄馬は声を殺す。部屋の薄い襖の向こう、廊下ではしきりに店員らが行き来する足音が響く。
しゃぶった指に唾液を纏わせた伴が飛雄馬の開いた足の中心に、それを忍ばせる。
ためらいも、迷いもなく腹の中へと挿入された二本の指が、入口を撫でて、そこを解していく。
小さく呻き声を上げる唇にそっと口付けを受けつつ、飛雄馬は伴がスラックスのファスナーを下ろした音が、辺りに響いたのを聞いた。
「入れるぞ、星」
「…………」
何が、入れるぞ、だ。やめろと言っても聞き入れもしてくれなかったくせに。
飛雄馬は、足の間に身を置く伴の体に目を遣り、今から自分を貫こうとする、その怒張を見遣った。
ごくり、と期待と不安から喉が鳴る。
嫌だと喚いて、逃げ回るより、伴の言うとおりにしてしまった方が被害はずっと少ないのだ。
いつだったか、似たようなことがあってそのときは向かってくる伴の体を投げ飛ばしてしまったがために、部屋の襖は破れるし、店員らは悲鳴を上げながら集まってくるしでその後の弁償と謝罪も含め、散々な目に遭った──それに懲りない伴が一番おかしいのだが。 入口に充てがわれた伴のそれが、ゆっくりと体の中へと入ってくる。
「星、愛してるぞい」
「この、ばかっ……」
この期に及んで何を言い出すのか。酒というのはやはり始末が悪い。こんなものは飲まないに限る。
時間をかけ、ゆっくりと飛雄馬の中に挿入を果たした伴が大きく息を吐き、畳へと手をつく。
腹の中が伴でいっぱいに満たされて、飛雄馬もまた、そこで安堵の溜息を吐いた。
「…………」
「…………」
そうしてふたり、見つめ合って、唇を寄せてきた伴に飛雄馬も応えるような形で呼吸をもつれさせ、舌を絡め合う。すると、伴が腰を動かし始めて、飛雄馬は内壁を引きずられる不快感から眉をひそめた。
ぎし、ぎしと畳が軋み、座卓の上の食器類が揺れては高い音を立てる。
伴の太い首へと腕を回し、それに縋って、飛雄馬は彼の唇を貪った。
「はぁっ……っ、ん」
まったく、馬鹿な伴。いつまでもおれに構わず、嫁さんでも探せばいいだろうに──。この関係が嫌だとは言わない、重荷だとも思わない。けれど、伴はそれで本当に、いいんだろうか。
「あっ、いかん!出る、星、離せ、こらあ!星よう」
「…………」
ふっ、と飛雄馬は己が彼の腰に回した足が外れず、焦る伴を見て微笑むと、耐えきれず中に射精してしまったのを見て、小さく笑い声を上げた。
「なっ、なんで笑う。いつもは中に出すと怒るじゃろうに」
「伴の頭を冷やさせようと思ってな」
慌てて体を離し、ティッシュティッシュと喚く伴を横目に見ながら、飛雄馬は座卓の足元にあったティッシュ箱を彼へと投げ遣った。
そうして、身支度を済ませ、一息ついてからそっと口付けあったところに、部屋の唯一の出入り口である襖が勢い良く開かれ、ふたりは慌てて距離を取った。
「いやーすまない。急にカラーを頼まれてしまってね」
「…………」
「いや、大丈夫。そんなに待ってはいないさ」
不自然に表面が乾き、ぬるくなった魚の刺身をぱくつく伴を一瞥してから飛雄馬は入口に立つ牧場を仰ぎ見る。大丈夫、気付いてはいない。しかし、危ないところだった。
「もう困ったものだよ、編集には。連絡を受けたのが約束の時間の二時間前で……線画だけ終わらせて色はアシスタントに任せてきたよ」
堂々と飛雄馬の横に陣取った牧場が、伏せてあったグラスを手に取ると、これまた時間が経ち、ぬるくなったであろう日本酒の瓶を傾ける。
「漫画のことはよく、わからんが、その編集とやらもずいぶんと人使いが荒いのう」
「うん、そうなんだよ。最近、異動で新しい人に変わったんだが、どうも相性がよくなくてね」
牧場が愚痴を溢すと、ここに来るまでに頼んでおいたのか、着物姿の店員が肉と野菜の盛り合わせを持ち寄って、それを入口付近で受け取った伴がカセットコンロに火を灯すと、箸でそれらを鍋へと投入していく。
「それはいかんのう。仕事にも支障が出るじゃろ」
「うん、まあ……昔は色々あったけど、今は好き勝手描かせてもらってるから文句は言えないさ」
ぐつぐつと煮立ち始め、火の通った肉を口に運ぶ牧場を見遣り、飛雄馬は、彼にも色々と事情があるのだな、とそんなことを思う。
伴はその間に襖を開け、ビールを二本頼んだ。
それから小一時間ほど、牧場はすき焼きに舌鼓を打ち、運ばれてきた酒の瓶を三本ほど空にした。
伴は先程の疲れもあってか、自分の座る位置が入口の前だと言うにも関わらず、畳の上に大の字になって大いびきをかいている。
「まったく、伴のやつ……」
「まあ、そう目くじらを立てなくても。伴くんも疲れているんだろうさ」
顔を酒のせいで真っ赤にした牧場が伴を庇う。
「牧場さんがそう言うなら……」
「…………」
そう、答えた飛雄馬だが、隣に座る牧場の目がじっと己を見つめていることに気付いて、ぎょっとなった。
いつの間にかここを訪ねる際、かぶっていたベレー帽と呼ばれる帽子も畳へと落ちている。
「ま、牧場さん?」
「星くん、ぼく、見たんだ」
「見た、って何を?試合ですか?それはどうも──」
「さっき、きみと伴くんが──」
「…………!」
呑気に眠る伴のいびきだけが部屋の中に響き渡る。
いつから……?そんな、見られていたなんて。
さあっと体から血の気が引き、全身が冷えていくのを飛雄馬は感じ、畳の上へと置いた手、その指で拳を握る。
「いつから、伴くんとはそんな関係に?見られていたと知ってどんな気分?」
「…………」
何を訊いている?なぜ、そんなことを知りたい?
漫画家とやらの好奇心からか?伴のやつ、だから言ったのに。
「どうして何も言わないの?」
「っ、ま、牧場さんこそ……いっ、いつから」
「全部見ていたよ。伴くんが星くんのそばににじり寄るところから」
「…………」
牧場の手が、足に触れ、瞬間、ぞくっ、と飛雄馬の背筋に冷たいものが走る。
「ずっとずっと、青雲生の時分から星くんを見てきた。ぼくは一緒に野球はやれないが、きみの姿を書き記すことはできる。それで満足、充分だったのに」
「…………」
「そうか、星くんはもう人のものだったのか」
呟いた牧場の瞳に、光はなく、飛雄馬は全身に冷や汗をかいた。額に滲んだ汗が鼻の横を滑り、唇を濡らす。
「牧場さんの、見間違いじゃないか。漫画のことで頭がいっぱいで、そんなふうに見えただけだろう。おれと伴はそんな」
「……誰にも言わないよ、星くん。だから」
「牧場さん、聞いてくれ。おれの話を、ちゃんと」
「一生の思い出にするから」
「くっ……」
ぎり、と奥歯を噛み締め、飛雄馬は眉間に深い皺を刻む。万事休すか、伴さえ起きていてくれたら、何とかこの場をやり過ごせただろうか。全部、一度寝たら何をしても起きないこの男のせいで……。
「頼む、星くん、このとおりだ」
畳に頭を擦り付け、そんな言葉を口にする牧場を前に、飛雄馬は何も言えず、ひとまず顔を上げてくれ、と言うのがやっとだった。
「やり方は知っているのか、牧場さんは」
「えっ、そっ、それじゃあ」
ぱっと上げた顔を輝かせた牧場を目の当たりにし、飛雄馬は深い溜息を吐く。
ひ弱な、運動音痴な人だとばかり思っていたが、人間わからんものだ。何はともあれ、牧場さんの要望をどうにかして諦めさせなければ。
「目を閉じて」
「…………」
素直に、目を閉じた牧場のそばに身を寄せて、飛雄馬は彼の両肩にそれぞれ手を置いた。
なんて馬鹿なことをしているんだろう。何が悲しくておれは古くからの知人とこんなことをしなければならないのか。
僅かに口を開け、飛雄馬は牧場の唇に自分のそれを押し当てる。緊張し、力の篭った唇は些か固く、震えているようにも感じられる。
「口を開けて」
「…………」
おそるおそる、開かれた唇に口付け、飛雄馬はわざとらしく音を立てる。すると、牧場はそれに驚いたか、ぶるっと体を大きく戦慄かせ、全身を強張らせた。
「初めてですか」
「いっ、いや、違う。相手が星くんだから、その、緊張してしまって」
「…………」
大胆なことを口にした割には小心者なところがあるな、と飛雄馬は苦笑し、再び、牧場に唇を寄せると、そのまま勢いに任せ、彼の体を畳の上に押し倒した。
「わ、っ」
「静かに、牧場さん。大きな声を出さないで」
「…………」
牧場が頷き、その喉を鳴らすのを見て、これはそう危惧するまでもなかろうな、と飛雄馬は高を括り、押し倒した彼の股間へと手を添える。
既にそこは十二分に大きくなっており、飛雄馬はその膨らみをスラックスの上から撫でさすった。
ウウッ、と短い声が牧場の口からは上がる。
「触ってもいいですか」
「えっ、だっ、だめだよ。星くんにそんなことさせられない」
「そんなこと、か。もっと先を望んでおいてそんな及び腰でいいんですか」
「じ、じゃあ、ぼくが上になってもいい?」
「それはできない。おれは牧場さんとそういうことをするつもりはない。手だけで済むのならそれに越したことはないですから」
「…………」
「牧場さんもいい加減、いい人を見つけるべきだ。いや、牧場さんならガールフレンドのひとりやふたり、いるだろう」
「それで済むのならこんなに悩んでいないよ、星くん。ぼくがどんなつもりでここに来たか、今日をどんなに楽しみにしていたと思う?いざ来てみたらきみは伴くんと──」
「…………」
飛雄馬は涙ながらに思いを語る牧場を前に、膝立ちになると、先程、身につけたばかりのスラックスと下着とを脱いでいく。
「ほ、星くん!?」
「牧場さん、少し黙っていてくれないか」
「…………」
足から抜いたスラックス類を畳の上に放り投げて、飛雄馬は牧場の腰の上に跨ると、彼のスラックスのファスナーを下ろす。現れた下着の中から、小ぶりの男根を取り出してやってから、飛雄馬はその上に腰を下ろしていく。
男根が触れ、押し広げられた入口からは、伴が放出した体液の残りがとろりと溢れ出て、牧場の下腹部を濡らした。
「っ、う……」
小さめではあるが、伴のそれよりも固い牧場のもの、が内壁を擦り立てつつ、腹の中へと収まる。
「あつ、っ……」
「…………」
牧場を見下ろし、飛雄馬はゆっくりと腰を上下させる。うっ!と一声、牧場は呻いて、両手で自分の口を覆う。牧場の腰が跳ね、下から飛雄馬に小さく振動を与えてくる。
「ううん……星ぃ……」
「…………」
伴が囁いた寝言に、飛雄馬はハッ、と親友に視線を遣ってから、小さく鼻を啜る。
牧場は限界が近いのか、首を左右に振っている。
一生の思い出を、などと言われたときはどうしたものかと思ったが──案外、大したことはなかったな、と飛雄馬は安堵の感情を抱くとともに、自分に対し、そんな劣情を抱いていた牧場を不憫に思った。
「あっ、いくっ──」
「…………」
時間にして、ものの十分ほどで果てた彼の上から飛雄馬は降りると、伴の頭の近くに転がっていたティッシュの箱を取り上げ、放心状態に陥っている牧場にそれを手渡した。
「あ、ありがとう……」
「牧場さん、後はおれが上手くやっておくから帰るといい。今日は誘ってくれて嬉しかった」
「いや、星くん、まだ終わっていないよ。今度はぼくが上になりたい」
「いい加減に……」
「ぼくは本気だよ」
「…………」
飛雄馬は真っ直ぐに自分を見つめてきた牧場の思いに応えるかのごとく、天井照明から下がる紐を引き、明かりを掻き消すとその場に屈み込み、彼を呼んだ。
夜も更けた、真っ暗な部屋の中、飛雄馬は牧場を受け入れる。普段の精神状態でないことは確かだろう。
変に騒いで料亭の従業員の手を煩わせることになるよりは、というのが大きい。流されやすいと言えばそうだろう。牧場さんはああ言ったが、例え断ったところで、おれと伴のことを言いふらすようなことはしないだろうが。
飛雄馬の足の間に身を置きはしたものの、ためらい、迷っていた牧場の腰が定まり、再び腹の中を押し広げていく。自分で入れるのとはやはり、感じ方はもちろん、擦る腹の中の位置も違う。
すべてを腹の中に埋めてから、牧場はそろそろと腰を使い始めるが、どうにもその動きがぎこちなく、それが却って飛雄馬の内壁をゆるゆると擦り上げる。
伴のいびきがやたらと耳につく。どうか起きてくれるなよ──。
口元に声を殺すがごとく手を遣って、飛雄馬は目を閉じる。震える唇が首筋に触れて、顔をしかめた。
「星くん……」
「…………」
熱の篭った声で名前を呼ばれて、唇を寄せてきた牧場に、自分もまた唇を重ね合わせて、飛雄馬は腹の中に放出された熱に体を震わせる。
「っ、う……」
牧場が射精の余韻からかぶるりと身を震わせた。
すると、伴が大きく寝返りを打って、ふたりしてギクリ、とそのまま固まる。しかし、起きる気配はなく、ぬるりと牧場が中から自分のものを引き抜いた。
溜息を、小さく吐いて、飛雄馬は額の汗を掌で拭うと、体を起こして、もういいですか、と尋ねる。
「ほっ、星くん、その……ごめん」
「いや、いい。気にしないでくれ」
牧場を労う言葉を口にして、飛雄馬はごそごそと暗闇の中、間抜けに後処理を行う彼の姿を見つめる。
飛雄馬もまた、手探りで脱いだ下着とスラックスを探し当て、それらに足を通した。
そうして、明かりをつけますよと一言、断ってから部屋の蛍光灯の紐を引く。
相変わらず伴は大きないびきをかいて眠っており、牧場はばつが悪そうに顔を俯けている。
一度、頭に血が昇ると、衝動が抑えきれなくなる質なのだろうか、牧場さんは。飛雄馬は立ったまま、伴を呼び、それでも起きないのを見て、彼のもとに歩み寄ると、その場に屈んで、彼の頬を数回、平手で叩いた。
「う、う、なんじゃあ、もう朝かあ……?」
「ばか、帰るぞ。いつまで眠ってるつもりだ」
「まだ夜中じゃないかあ」
寝ぼけ眼で、腕時計を見遣った伴がぼやく。
「牧場さんは先に帰ってください。後はおれに任せて」
「う、うん。それじゃあ、星くん、伴くん、お先に」
またね、と牧場は席を立ち、そそくさと部屋を出ていく。その後ろ姿を見送って、飛雄馬は、伴、と再び、親友の名を呼ぶ。
「起きとるわい。そう大きい声を出さんでもええじゃろ」
「牧場さんは先に帰ったぞ」
「牧場ぁ?ああ、そうか……今日は三人で飲む約束しとったのう……」
「ほら!」
伴の肩に腕を回し、下から支えるような形で無理矢理に体を起こしてやってから飛雄馬は行くぞ、と続ける。そのまま部屋を出て、店員の勘定はお先に出られた方が済ませて行かれましたよの声に、そうですか、ごちそうさまでした、と返事をし、店の前に停まっていたタクシーの一台に伴の巨体を押し込む。
「どちらまで?」
伴の隣に乗り込んで、飛雄馬は行き先を尋ねてきた運転手に親友の自宅の住所を告げ、ようやく後部座席に体を預けた。ぐうぐうと伴はまたしても寝入っている。まったく、誰も彼も自由で羨ましい限り……飛雄馬は運転手が、こちらが星飛雄馬と気付いたようで、やたらに声を弾ませ、話しかけてくるのに返事をしながら、自分もまた、訪れた睡魔に抗うことなく、ゆるゆると微睡んだ。