呪詛
呪詛 「どこへ行くのかね」
隣で寝ている彼を起こさぬよう、細心の注意を払いながらベッドを抜け出しかけた飛雄馬だったが、枕元の読書灯もついていない真っ暗な部屋の中で名を呼ばれ、ギクリ、と身を強張らせた。
窓の外では雪が降っているのか、花形に呼び出されたホテルの一室、その部屋の中は驚くほど冷えており、床に着いた素足、指の先から途端に体が冷たくなるのがわかる。
いいや、肌が寒気を覚えた理由はそれだけではない。 眠っていると信じて疑わなかった彼が、まさか自分を呼び止めるとは、思いもしなかったからだ。
「…………」
「風邪をひくよ、ベッドに戻りたまえ」
「き、急用を思い出したから──」
口ごもりながらも、飛雄馬はそのままベッドから立ち上がろうとするが、突如として伸びてきた手に腕を取られ、ベッドの上に引き倒されるが早いか、その場に手首を縫い留められる。
「急用?こんな夜更けにかね」
暗い部屋の中、自分の体の上に跨っている男の──花形の声だけが響いて、飛雄馬はまだ自由の利く左手を彼に一矢報いるべく振り仰いだが、それは宙を掻くばかりだった。
「離せ──花形っ!」
「そう興奮しないでほしいね、フフッ。急用があると言うのならそう言ってくれたらいいのに。黙って出て行こうとするなんて水臭い」
「寝ている、花形さんを起こすこともないと考えたまでだ、っ……離してくれ!」
「次はいつ会えるか教えてくれたらこの手を離そうじゃないか、飛雄馬くん」
「そんな話っ──今度でいいだろう!」
再び、振りかぶった左腕だったが、花形に手首を握られ、飛雄馬は両手共にベッドに縫い留められる結果となる。部屋の中は真っ暗のままにも関わらず、この男は夜目が利くとでも言うのだろうか。
おれが体を起こそうとしたことと言い、今、腕を正確に掴まれたことと言い──。
握られた手首が熱を持ち、鈍く痛みを感じつつある。 適当な日にちを囁いておいて、後日用事ができたなどと言って約束を反故にしてしまえばいい。
今はそうするしか逃れる術はない。
現に今だって、ここを抜け出すためにおれは急用を思い出したなどと嘘をついたのだから。
それに、なんだって花形さんはおれにそうまでして会いたがるのかがわからない。
おれは、花形さんの何なのだ。
「飛雄馬くん、答えたまえ。きみも早いところ寮に帰りたいだろうに」
「っ、連絡、する。こちらから……」
「本当に?」
「なぜ、花形さんはそうまでしておれに会いたがる。なんの必要があって。この行為に何の意味があると言うんだ」
「…………」
指が手首に食い込む痛さに耐えかね、ほとんど叫びに近いような声を飛雄馬は上げたが、花形はそれ以上追求してくることもなく、それどころか握った手を解放するように腕の力を緩めた。
鈍く痛む手首を撫でながら飛雄馬は、己から離れ、ベッドから立ち上がったらしき花形の姿を、足音を頼りに目で追う。
すると、煙草を咥えたか、口元を覆うように掲げられた花形の手元で小さく炎が揺らめくのが見えて、飛雄馬は、まだ辞めてなかったのか、と彼を咎めるような言葉を発した。
「……おやおや、人が距離を取った途端にそれだ。きみには関係ないことと思うがね」
「百害あって一利なしだろう、そんなもの……球団や監督からは何も言われないのか」
「結果さえ残せば何も言われないし、こちらも言わせないさ。きみが辞めろと言うのならこれきりにしよう」
服を着たまえ、吸ったら送るから、と花形は付け加えると、部屋に置いてあった椅子に座ったか、ぎし、と何やら木製のものが揺れ、軋む音が飛雄馬の耳に入った。
「おれは嫌いだ、その匂いが。いつまでも鼻について取れない」
「それに、この花形を思い出すから?」
「…………」
ニッ、と花形が暗闇の中で、例の笑みを浮かべた気がして、飛雄馬は眉をひそめる。
「いつも飛雄馬くんにはぼくのことを考えていてほしいものだが。それこそ、四六時中」
「また訳のわからないことを」
「…………」
吐き捨て、飛雄馬もまた、ベッドから立ち上がると、床に脱ぎ捨てられた衣服類を手探りで探し当て、それをひとつずつ身に着け始める。
「それで、今度はいつ、会ってくれるのかね」
「…………まだ先の予定が決まっていない。それに、そんなに暇ならねえちゃんとどこかに出掛けたらどうだ」
「なに、それとこれとは話が別さ。そうだ、今度新しくできた銀座の店に──」
「花形さんも存外、暇なんだな。会社の重役の身でありながら」
身支度を整えつつ、飛雄馬は半ば呆れ気味にそんな言葉を花形に投げつけた。
おれにはよくわからんが、会社の付き合いとか、取引先との商談とか、色々あるんじゃないのか。
伴はいつも接待がどうとか会議がどうとか言っていて、忙しそうだぞ──と続け、飛雄馬はそこでようやく一息吐く。手首の鈍い痛みもいくらか寛解したようで、痺れも消失している。
「伴くんはどうだか知らんが、ぼくはきみに会うためにわざわざ時間を作っている。さっき言っただろう、結果さえ残せば何も言われんし、何も言わせはしないとね」
「……わざわざ?」
急に、何を言い出すのか花形さんは。
なぜそこまでする必要がある。
なぜそこまでして、おれとの時間を作る?
「……飛雄馬くんは他人から向けられる好意に無頓着すぎるね。野球に一途なのはいいが、周りをもっと見るべきだとぼくは思うが──いや、それがきみの長所かな」
「…………」
いつの間に距離を詰めていたのか、飛雄馬は花形に顎先を指で捉えられており、瞬きも忘れ、現状を受け入れることもままならぬままに息を呑む。
「今だってぼくの言葉に惑わされ、距離を詰められたことに気付かなかった。背番号3が泣いているよ」
「────!!」
長島監督から譲り受けた偉大なる背番号3を煽られた飛雄馬は怒りに任せ、顎先にかかる手を振り解こうとする。しかして、花形はそれさえも見抜いていたか──飛雄馬は腕を掴まれるが早いか、唇を塞がれ、空いた手で腰を抱き寄せられた。
たった今まで嗅いでいた煙草の香りが、今度は舌に絡み、唾液に混ざって飛雄馬はその苦味に顔をしかめる。いけない、この男に流されてはいけない。
冷えた体がまた、熱を持ち始めている。
なぜ、おれの名を呼ぶこの男の声色は、いつも優しいのだ。
「あ、ぅ…………っ、!」
「おっと、フフフ……危ない。ベッドに押し倒すところだった」
言うなり、何事もなかったかのように離れていく花形を飛雄馬は睨み、濡れた唇を拭う。
「外は寒い、日が昇ってからにしてはどうかね」
「…………」
「急用なんて、嘘だろう。もっとまともな嘘を吐きたまえ」
「嘘なんかじゃ……」
「……本当に?」
「…………」
「フフ、すまないね。少しでも飛雄馬くんと一緒にいたくてこんな真似を。許してほしい」
何ら悪びれる様子なく花形は笑うと、部屋の扉を開け、行こう、と飛雄馬へ退室を促した。
廊下からの冷気が室内に流れ込み、飛雄馬の肌を刺す。熱を灯された体は、それを受けぶるりと震える。
縫い留められたがごとく、足が動かない。
「寒い?」
廊下の仄暗い明かりが花形の横顔を照らす。
「…………」
音を立て、部屋の出入口の扉が閉まった。
再び、室内は暗闇に支配される。
「帰らなくていいのかね」
悪魔の──花形の声がそう囁く。
飛雄馬は応えず、唇を強く引き結ぶ。
「…………」
「飛雄馬くんだって気付いているんだろう。なぜぼくがきみにこだわるか。それとも自分を暖めてくれる優しい腕さえあればいいのかい。かつて伴くんがそうしてくれたように」
花形の言葉に、飛雄馬は顔を紅潮させる。
なぜ、この男はおれのことを知っている。
なぜ、そうも痛いところを突いてくる?
「しっ、知らん。花形さんがおれにこだわる理由など……それに、おれは伴にそんなことを求めたりしてはいない!」
「知りたい?」
「なっ、何を……?」
こちらに近付いてくる足音に、飛雄馬は身構えたが、花形は脇を通り過ぎるとそのまま椅子に腰を下ろしたか、再び例の音を室内に響かせた。
「知らない方がお互いのためだろうね。フフフ……」
「さっきからそんな歯切れの悪いことばかり……花形さんらしくない……言い切ってみたらどうだ。互いのためじゃないとか御託を並べて、逃げているだけじゃないか」
「それでは、ぼくがきみを愛しているからだ、と言ったらどうする?飛雄馬くんはおれをからかうなと怒るかい。それとも素直にこの花形を、受け入れてくれるかね」
「は…………っ!?」
花形の口から紡がれた、恐ろしき呪いの──言葉に、飛雄馬は身動きの取れぬまま、彼が座っているであろう方向を見つめる。
何を急に?気でも狂ったか花形さん──。
そんなことを言うなんて、ねえちゃんと何かあったのか。仕事が行き詰まってしまっているのか。
「フッ……フフッ、冗談。まさかそんな反応を返してくれるとはね。顔が見えないのが残念だが」
「冗談、で、花形さんはそんなことを言うのか……いや、冗談でよかった」
「…………」
はは、と飛雄馬は愛想笑いを返すと、額に僅かに滲んだ汗を拭う。それにしても、なぜ花形さんは黙っている?場が保たない。この沈黙は何を意味する?
「…………」
拭ったそばから、汗が飛雄馬の額を濡らす。
花形さん、何とか言ってくれ。
なぜ黙っている?
「愛だとか恋だとか──そんな陳腐な言葉で表せたらどんなに楽だろうね」
「……何が、言いたい」
「これ以上は語るに落ちる」
「言い出したのは、そっ……ち」
飛雄馬は再び、物音ひとつ立てず距離を詰めていた花形に口を塞がれ、その身を彼の腕で強く抱かれることとなる。
まさか二の舞を演じるとは──と歯噛みしながらも、花形の口付けは先程のそれとは明らかに違っており、飛雄馬はただただ、その優しく繊細な舌の動きに身を任せた。
この男のことを、そんな目で見たことなど一度もなかった。立ち向かってくればその都度全力投球するのみで、それ以上でも、それ以下でもなく──思い返してみれば、おれはこの瞳に常に見つめられていたようでもあり、互いにそうして少年の若き日々を駆け抜けてきたように思う。
飛雄馬くんと呼ぶ声に、触れる肌に、与えられる熱に、おれが何も感じていなかったんだろうか。
おれは知っていて、気付かないふりを今まで演じてきたんだろうか。花形さんは冗談だと、陳腐だと言ったが、それは彼の本音なのか?
「いきっ、ふ、息……くるし、っ」
「フフ、いいね。死のうか、このまま一緒に」
「…………」
息吐く間もないままに与えられる口付けに、次第に意識は朦朧となって、飛雄馬は花形の腕に縋る。
ああ、だめだ、頭が朦朧として…………意識が飛ぶ一瞬、その刹那にようやく飛雄馬は唇を離され、体勢を崩す。そうして、急速に肺を満たす酸素に噎せ返りながら、飛雄馬は涙の滲む瞳に花形の顔を映した。
体を抱き留められているおかげで、床に倒れずに済んでいるが、最早飛雄馬の体には力は入っていない。
顔を真っ赤に染め、飛雄馬は花形に促されるままにベッドに体を預けた。
花形が何か言っているが、飛雄馬の耳には何ひとつ入ってこず、ただただ身に着けたばかりの衣服を彼がひとつひとつ脱がしていく様だけがその目には映る。
冷えた肌の表面に熱い花形の唇が触れて、飛雄馬は身震いすると、体の動きに連動するかのように痛む頭に手を遣り、小さく呻く。
体の奥は、妙に火照っていて、飛雄馬が身を置くベッドは汗を吸ったか僅かに湿ってさえいる。
吐息混じりに肌に痕を残していく唇の感触に悶えつつ、飛雄馬は開いた足の中心を貫いた熱に、体を反らした。
腰を叩きつけられる衝撃が、痛む頭を揺らし、飛雄馬は顔を背けるようにして彼から逃れるべく、腕を使い身をよじる。
「いっ、っ…………!」
「痛い?」
「あたまっ、いた……、っ!」
飛雄馬が喘ぐと、花形は腰を動かすのを止め、そのまま唇へと口付けを寄越してきた。
飛雄馬の額に貼り付いた髪を指先で払うと、花形はそこに唇を落とし、今度は鼻先へと触れる。
「…………っ、」
頬を掠め、唇を啄んでから花形は飛雄馬の首筋にゆるく吸い付く。
汗の浮く密着した肌がぬめって、飛雄馬は小さく吐息を漏らす。と、花形の手が、飛雄馬の微かに首をもたげている下半身──男根へと触れた。
射精を促すほど強くも、勢いもないが、今の飛雄馬にとっては刺激があまりにも強すぎる。
頭の痛みも徐々に薄れつつはあるが、これでは……。
「まだ痛い?」
「ん、ぅ、っ……」
ぬるっ、と先走りを纏った指が粘膜の上を滑って、飛雄馬は鼻がかった声を上げ、腹の中にいる花形を締め付ける。
「…………」
花形は体を起こし、飛雄馬の広げた足、その膝の裏に手を遣ると腰を動かし始めた。
弾みで、男根から垂れた先走りが飛雄馬の腹へと滴り落ち、そこを濡らす。
「う、ぁっ!!ぁ…………っ」
不意打ち気味に腰を叩きつけられ、飛雄馬は思わず声を上げたが、固く目を閉じると、口を塞ぐべく両手を口元へと遣った。
「我慢すると余計頭に響くと思うが」
「ぅ…………、ぅっ!」
腹の中を掻き回され、飛雄馬はぞくぞくと背筋を駆け上がる快感に、頭の芯が痺れるのを感じる。
そうでなくとも、まだ頭は痛み、呼吸もままならないと言うのに。
すると、花形の指先が、汗ばんだ腹の上、立ち上がった男根の根元辺りを撫でたことに気付き、飛雄馬はビクッと体を震わせた。
「ここが好き?」
「……──、っ!」
花形の問いかけに、飛雄馬の男根が揺れ、とろりとその先から先走りを溢す。
「顔が見えないからね、ちゃんと答えてくれたまえ」
「こちらに、っ、構わず……っ、あ!」
ぐり、と中を突かれ、飛雄馬は思わず体を戦慄かせた。
「それとももう少し奥?」
「っ、く…………ぅ」
「こっちでいきたい?」
一度男根から離れた手が、何やらぬるい液体を纏い、再びそれに触れたことに飛雄馬は悲鳴じみた声を上げ、口元へと押し付けた手で拳を握った。
くちゅ、くちゅと濡れた音が耳を犯し、腹の奥を疼かせる。恐らく、花形が指に纏わせたは彼の唾液であろう。飛雄馬は再び、自身から離れ、濡れた指がなすりつけてきた液体の仄かな温かさに体を震わせた。
「はぁ…………っ、あ、ぅ、ぅ」
と、油断していた飛雄馬の腹の中を花形は擦り上げ、奥を嬲るべく腰を押し付ける。
「ひ、っ、…………っ、!」
花形の指先が撫でた箇所を、中から突き上げられ、そこから脳天を突き抜けた快感の強さに飛雄馬は言葉を失い、理性を飛ばした。
「気持ちいいね、飛雄馬くん。フフ、すごい顔」
「みっ、みるな……っ、きもちよく、なんか……ァっ!」
「明かりをつけようか。見るといい。自分の顔を」
「やめろっ、いやらっ…………ぜったい、いや、っ──、!」
「そう、それは残念。とても、いい顔をしているよ」
花形の両手が、左右の頬に触れて、飛雄馬はそこで初めて固く閉じていた目を開ける。
暗い部屋の中、虚ろに滲む目では花形の顔など見えはせず、そればかりか頭の中は蕩けきってしまっている。その、か細く呼吸をする飛雄馬の唇に花形は口付けてから、彼もまた、絶頂を迎えた。
そうしてひとしきり、唇を貪ったあとに、花形は体を起こし、飛雄馬から離れる。
「っ…………ぅ、ごほっ、っ、はぁっ、」
飛雄馬は体を縮め、自分の腹を押さえると数回、咳き込んだ。頭が割れそうに痛む。
汗をかいて軽い脱水を起こしているせいか、それともまだ先程の口付けの酸素不足のせいか。
散々に弄ばれ、喘いだせいか。
「急用には、間に合うかね」
まるで他人事のように、花形は話しかけてくる。
飛雄馬は彼を無視し、咳込むとまた、目を閉じる。
「しばらく……っ、そっとしておいてくれ」
「なに、慌てることはない。夜明けまでまだ時間はある」
「………………」
花形が何気なく口元に煙草を携えたか、そうだ、辞めるんだったね、と冗談混じりに呟くのを飛雄馬は目を閉じたまま聞く。
「日が昇ったら、起こそうじゃないか。それまで寝ておいで」
「いや……落ち着いたら、出て行く……」
「…………」
痛む頭を押さえながら、飛雄馬は体を起こすと、二、三、咳をしてからベッドから立ち上がる。
汗に濡れ、べとつく体を洗い流すため、そのまま浴室へと入り、熱い湯を頭から足の先までに浴びせた。
頭の痛みも、頭を洗い終え、体の泡を流す頃には幾分か引いている。
体を温めてから浴室の外に出ると、そこには真新しいバスタオルと着ていた衣服一式がきちんと用意してあって、飛雄馬は奥歯を噛んだが、ひとまず礼は言わねばなるまい、と花形のいる居室へと戻った。
しかして、花形の影も形もそこにはなく──眠っているのかと部屋の明かりを付けてはみたものの、ベッドももぬけの殻の状態で、飛雄馬は彼が座っていた椅子の近く、テーブルの上に置かれた灰皿の許に歩み寄る。
出て行ってそう時間は経っていないのか、灰皿の底に押し付けられるようにして消された煙草の潰れた先からは、細い煙が上がっている。
嘘を吐いたのはどっちだ、もう辞めようと言った口で──と飛雄馬は胸中で悪態を吐き、濡れた髪をタオルで拭う。
次の約束を、結局取り付けぬままだったが、と、視線を落としたテーブルの上、灰皿のそばに置かれていた花形の名刺が目に入って、飛雄馬は何気なくそれを拾い上げた。
長ったらしい肩書と花形の名が印字されている、名刺の裏をめくれば、会社の内線らしき番号が書かれている。飛雄馬はそれを目の当たりにし、ふっ、と小さく笑みを溢すと、花形が座っていた椅子に倒れ込むようにして座り、誰の目を気にすることなく声を上げて、笑った。花形が残した煙草の火は、灰皿の中で未だ、燻っている。