情事
情事 飛雄馬は父一徹と共に自宅近くの銭湯に連れたち、夕食の片付けをしてから行くわと言っていた明子より一足先に長屋へと帰ってきていた。
帰って来てからすぐに眠れるように、と明子はいつも銭湯に行く前は布団を敷いてから向かうようにしている。そうして、女である明子より余程のことがない限り先に帰宅する二人が、この畳の上に敷かれた布団の上ですることと言えば、あえて口にするまでもないことだった。
冷たい外気に晒され、飛雄馬が僅かに冷えた体を布団の上に横たえるとすぐに一徹は咥えた煙草にマッチで火を付けた。
一瞬、外灯の光も届かず、部屋の蛍光灯も付けていない暗い部屋がぽうっと明るくなったが、すぐにそれも闇夜に掻き消えた。 一徹の嗜む煙草の香りがゆっくりと部屋の中に充満する。
とはいえ、建付けの悪く隙間風の吹き込むこの貧乏長屋の居間にいつまでもそのにおいが篭もることはなく、煙草の先からくゆる紫煙もその隙間風のお陰でゆらゆらと揺らめいた。
もしかすると、今日はしないのかもしれないな、などと飛雄馬は帰宅するなり真っ先に煙草を咥えた一徹の顔を見遣って、濡れた短い髪を掌で数回撫でつけ、枕を頭の下に敷いて寝返りを打った。それはちょうど一徹に背を向ける形になる。
湯冷めせぬようにと長めに湯に浸かったせいか、次第に瞼が重くなって飛雄馬は目を瞬かせた。宿題は、そういえば終わらせたっけ、明日そういえば、体育の授業があったような気がする、体操着はねえちゃん、どこにやったかな、と飛雄馬はまどろみつつもそんなことを思った。
すると、目の前にぬうっと腕が伸びて来るなり体の下に敷く布団が少し沈んだような気がして、飛雄馬がはっと目を見開いたのと、その小柄な体の上に覆いかぶさるような体勢を取った一徹が彼の耳へと口付けを落としたのがほぼ同時であった。
「っ!」
一徹の唇が耳に触れて、その吐息が飛雄馬の鼓膜を犯す。ビクッと飛雄馬はその刺激で体を丸め、先程見開いた瞼を再び閉じる。と、濡れた舌が耳をなぞった。
飛雄馬の耳の形状に沿って、一徹は舌を這わせ、時折わざとらしく唇で吸いついて音を立てる。飛雄馬は口元を掌で覆うようにして声を漏らすことを堪えると、一徹の与える刺激に身を震わせ、体を火照らせた。
姉がいつ帰ってくるか分からぬという不安と、実の父親と道徳に反することをしているという罪悪感と背徳感に飛雄馬は酔いしれ、この狂気じみた行為を通し、快楽を与えてくれる一徹を崇めた。
飛雄馬にとって一徹がすべてであったし、世界の中心でさえあった。
長屋の他の住人、学校の教師や級友らと交流を持ってこそいたが、飛雄馬にとって社会は一徹であったし、何を為すにしても彼に褒めてほしい一心からであった。
一徹は飛雄馬の首筋に口付けながら、彼が寝間着代わりにしている長袖のシャツの裾から手を差し入れつつ、その背中を指先で撫で上げた。
「っく………」
触れられた箇所から肌が粟立ち、飛雄馬の臍の下は熱を持ち始める。
「飛雄馬、俯せになれ」
囁かれるようにそう言われ、飛雄馬は右半身を下に布団の上に横たわっていたのだが、枕に半ば顔を埋めるような形になるよう寝返りを打ち、体の前面を布団に密着させた。と、その始終を一徹は黙って見ていたが、ふいに飛雄馬の尻を寝巻き代わりの綿のズボンの上から撫でる。
「あ、ふっ………ん、んっ」
腰が跳ね、飛雄馬の尻に力が篭もった。
一徹は数回、飛雄馬の尻をズボンの上から撫でた後、腹の方から下着の中に手を滑り込ませ、直に肌に触れる。
「っ……っ、」
再び飛雄馬の腰はその刺激に跳ね上がって、その両手は鼻から下を埋める枕の端をぎゅうと握り締めていた。
一徹は飛雄馬の尻の尾骨の辺りに指を這わせ、そのなだらかな曲線を描き左右に分かれる尻の中心へと指先を滑らせる。
「あ、ぅ、うっ………っ」
二本の指の腹が窄まりの上を幾度となく滑ったかと思うと、その上で刺激を与えるようにゆっくりと弧を描く。
ふるふると飛雄馬の腰は震え、戦慄いた。その普段は固く締まっている後孔も一徹の指の来訪を待ち侘びるかのように弛緩と緊張を繰り返す。
飛雄馬の両膝は次第にその関節の位置から曲がっていき、尻を突き出すような形を取りつつある。その格好のせいか飛雄馬の後孔は緩んで、ヒクヒクと震えた。
それを受けて、一徹は飛雄馬の穿いていた下着とズボンを膝の上付近までずり下ろすと、口内にほんの少し溜めていた己の唾液を飛雄馬の尻目掛けて垂らした。
そうして、唾液を潤滑剤代わりに、一徹は飛雄馬の尻を慣らしに掛かる。唾液を後孔に塗り付け、一徹はまずは人差し指を飛雄馬の中に挿入した。
「ンぁ、あっ!!あっ…………っ」
声を上げると共に、飛雄馬は腹の中へと踏み込んできた一徹の指を締め付ける。
その窄まりを刺激と拡張とに慣らすために、一徹はそこを丹念に解していく。その度に飛雄馬は突き出した尻を震わせ、股の間に覗く逸物からたらたらと先走りを垂らす。二本目の指を飛雄馬が腹の中に飲み込んだ頃にはその股にぶら下がる逸物は血管が浮き出るほどに立ち上っており、尻を戦慄かせるたびに切なげに揺れた。
「と、うちゃ………」
体と声とを震わせて父を呼ぶ飛雄馬に応えるように、一徹は浴衣の前をはだけると、下着の中から逸物を取り出し、膝立ちになってからたった今まで指で嬲っていた彼の後孔に亀頭を擦り付ける。
指で丁寧に解され、柔らかくなっている飛雄馬の後孔の表面をぬるぬると一徹の逸物は擦りあげた。一徹が緩やかに飛雄馬の窄まりの上で逸物を前後に行き来させるたびに彼の体は大きく跳ねる。
飛雄馬は顔を埋める枕を握り締める指に力を込め、そのもどかしい刺激に呻く。
父の眼前に晒している己の尻が体の中心を貫く熱さを求め、呼吸をするように戦慄いているのがわかって、いくら暗闇の中とはいえ飛雄馬は羞恥に顔を真っ赤に染めた。
その刹那に、一徹は飛雄馬を焦らすことをやめ、いきり立った男根を彼の後孔の中に僅かに挿入させた。突然の来訪にきゅうっ、と一度驚き飛雄馬は一徹を強く締め付けたが、ほんの少し緊張を解くとより奥までへの到達を待った。
一徹は飛雄馬の白く引き締まった尻たぶを掴むようにしながら彼の体内へとゆっくりと自身を埋めていく。
「ふ、っ………ん、ぅうっ」
いつもは臍の下辺りを擦り上げつつ一徹の逸物は飛雄馬の中を深く進んでいくが、今日はその逆、あまり刺激に慣れていない背中側の内壁を摺りつつ一徹は根元までを埋めていく。いくら短く切り揃えられているとは言えども、柔らかい尻に爪を立てられる痛みと、飛雄馬は腹の中を突き進んでいく異物感とに顔をしかめた。
それから一徹は根元までを飲み込ませた後に腰を逸物が半分程度抜けるまで引いてから一気に飛雄馬の中深くまで腰を突き入れる。その衝撃と腹の中を一息に擦られたことによる刺激に飛雄馬はうああっ!と一際大きな声を上げた。飛雄馬は一徹のことしか知ってはいない。
ゆえに、この強引に父のさじ加減で激しく、そして優しく行われる営みしか知らない。この強い刺激に慣れるまでの時間が飛雄馬にとっては苦痛であった。しかしてそれも束の間、一徹の腰で尻を叩かれ、体の奥深くを抉られていくうちに飛雄馬は恍惚の表情を浮かべるようになる。
食いしばった歯の隙間から痛みに耐えるような声を漏らしていた彼だが、次第にその口からは喘ぎが僅かながらに漏れ出るようになっていく。
と、何を思ったか、一徹は飛雄馬の尻を掴んでいた手を離すや否や、腕を振り上げその白い尻を平手で叩いた。
「ひっ………!」
枕に埋めていた顔を上げ、飛雄馬は平手を受けた尻の鈍痛に声を漏らす。状況もうまく飲み込めない飛雄馬の尻に一徹は更に平手打ちを行う。乾いた音が響いて、痛む尻に再び殴打が加えられ、飛雄馬は痛みに体をすくませるが、その動作が更に一徹を強く締め上げる形となる。
「あっ、っ……!!」
ビクンッ、と飛雄馬は平手打ちを受けるたびに体を反応させ、痛みに喘ぐ。幾度となく叩かれた尻はまるでそこに心臓があるかのごとく疼いて、鈍い痛みを全身に走らせる。
「叩かれるのがそんなに好きか。平手を食らわせるたびにいやらしい声を上げおって」
「っ、ちが、あっ……!あアッ!」
再び尻へと一打が浴びせられ、飛雄馬の眉をしかめた顔、その瞳から涙を滴らせつつ枕を強く握りしめた。
しかして、一徹の発言が見事的を射ていることは他でもない飛雄馬自身が自覚している。尻からの鈍い痛みが走るたびに、その感覚は全身を甘く痺れさせる。体の芯が熱くなって、足の間のモノが疼く。
一徹が腰を振るたびにギシギシと畳と布団とが擦れ合い、音を立てた。
「そんなに気持ちがいいのか。飛雄馬よ、言うてみい。自分は尻を叩かれて喘ぐ変態だと」
「ん、う、ぅっ………うっ」
一徹は飛雄馬の平手を与えていない真っさらな尻を掴んで、より一層腰を強く、そして深く突き込む。
「とうちゃん………っ、あ、いっ、っ」
あと一息、あともう少し、たった数回腰を穿ってくれれば飛雄馬は見事達するばかりであった。しかして、それさえも一徹は見抜いていたか、ピタリと腰の動きを止め、それだけでなく彼の体内から逸物を抜いたのだ。
「………」
飛雄馬は尻を高く突き上げたまま、じんじんと痛む尻たぶを晒し、さらなる快楽とその先にある絶頂を求め指が白くなるほど枕を握り込むと、「お、おれは、とうちゃんに、尻を叩かれて喘ぐ、……へ、んたいです」と消え入りそうな声で言葉を発した。顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。
けれども、このまま終わらせられるのは身がもたない。そういう風に作り込まれたとも言える、一徹に都合の良いように、彼自身が快楽を得るために。
「よう言うた」
言うと、一徹は再び飛雄馬の中へと逸物を挿入させた。なんの断りもなく、一気に奥まで勢いを付け、突き入れる。それを受け、飛雄馬は目を見開いて、その衝撃と熱さに声を上げた。
一徹はそれからもうやめてと掠れる声で懇願する飛雄馬の言葉など聞き入れることはせず、腰を叩き付ける。
自身が果てそうになると動きを緩め、彼の尻へ一打を与えることを繰り返し飛雄馬は一徹に体を好きなように弄ばれ、何度もその身を絶頂に震わせ、最早顔を乗せているばかりとなった枕は涙と開きっぱなしの口から漏れる唾液のせいでぐちゃぐちゃに濡れていた。
「は──、はぁっ、ひ、ぅ……う」
「だらしないぞ飛雄馬よ。そんなもので巨人の星になりおおせると思っているのか」
腹を上下させ、呼吸を繰り返す飛雄馬に一徹の言葉は届いていない。もう何度目か分からぬほどに気をやった飛雄馬の意識は朦朧となり、その目は焦点の合わぬままぼうっと開いている。
全身にびっしょりと汗をかき、その尻に浮かぶ汗の玉が一徹が腰を振るたびに肌の上を滑った。そうして、一徹は飛雄馬の腹の中に欲をぶち撒けて、ようやく彼を解放してやった。飛雄馬の全身は布団にうつ伏せたまま小さく震え、その肩は呼吸のたびに上下している。
「飛雄馬」
呼ぶと飛雄馬はビクッ!と震えてから、両手を使いゆっくりと体を起こす。一徹にそう躾られているからだ。
千本ノックを受け、体中に球を浴びようとも、その球を追い掛けた足が疲れ果て棒のようになり立ち上がれなくなろうとも、飛雄馬は幼い頃より無理矢理に体を奮い立たすことを強いられ、一徹がよしと言うまで休むことは許されなかった。
次は何を言われるだろうか、と飛雄馬は咥えた煙草に火を付けた一徹を仰ぐ。まだ意識はぼんやりとしている。 一徹は煙草を指に挟むようにして、飛雄馬の腕を取りその体を抱き寄せると、彼の唾液に塗れたままの口にそっと唇を寄せた。
煙草の苦い味が唇から舌へと伝わって、飛雄馬の頭は煙草に含まれるニコチン等の化学物質のせいでズキンと痛む。
絡む舌の苦味と、再び頭をぼんやりとさせる一徹の口付けに飛雄馬は目を閉じ、薄く笑った。姉が帰ってくる気配は、まだない。