ああ、有線で聞いたあの歌のタイトルはこれだったのか。
テレビ前に設置したソファーに腰掛け、ブラウン管に映し出された画面に飛雄馬がぼんやりと見入っていると、隣に座る伴に名を呼ばれたために、どうした?とそちらを振り仰いだ。
すると、目を閉じ唇を尖らせた伴の顔が間近に迫っていて、飛雄馬は目をぱちくりと瞬かせるとほんの少し彼から距離を取る。
「ん?星?」
いつまで経っても唇の触れる様子がないのを不審に思った伴が目を開けると、面倒臭そうな顔をしてこちらを仰ぐ飛雄馬のまさかの表情が目に入ってぎょっと驚いたように目を見開いた。
「もうすぐねえちゃんが買い物から帰ってくるだろうから、さ」
「チューくらいよかろう。ははん、さては妙なことを考えたな?」
フン、と鼻を鳴らし腕を組むと顔を背けた伴だったが、にやりと意地悪く笑ってから再び飛雄馬の顔を見つめる。
「妙なことを考えているのは伴だろう。すぐそういうことをしようとする」
「星が宿舎を出てからと言うもの寂しくてのう。夜も眠れんのじゃい……」
「…………」
うっ、と飛雄馬は言葉に詰まり、伴から視線を逸らすと一瞬何か言いたげに口を開いたが、すぐに唇を閉じ合わせてから今度は真っ直ぐに目の前の彼を瞳に映した。
伴は飛雄馬の真剣な眼差しを目の当たりにし、そんなに深刻に考えんでもと吹き出してから、くっくっと笑いを噛み殺すように肩を震わせる。
「なっ!おれは真面目に……」
笑うことはないだろう!と語気荒く続けた飛雄馬の体を抱き寄せ、伴は彼の額に口付けると眉を下り、まぶたに触れ、頬を唇で撫でてからそっと吐息を絡ませるに至った。
背中に回った腕の力強く、なんと温かいことだろう、と飛雄馬がふっ、と体の力を抜いたところで伴は唇を離すと、腕の力を緩めてからニコッと満面の笑みを浮かべる。
「すまんすまん。ついからかってしもうたわい。星のその真面目なところは大好きじゃが、あまり気を張りすぎると疲れるじゃろう」
「…………」
いつものようにからからと伴は笑って、そろそろおいとまするかのう、と手首にはめた腕時計に視線を落とした。
「昼をご馳走になって晩までと言うわけにはいくまいて。門限もあるし名残惜しいが今日は帰るとするわい」
どっこいしょ、と伴はソファーから降りると明子さんによろしく伝えておいてくれい、と言うなり部屋を出て行こうとしたが、それに待ったをかけたのは他ならぬ飛雄馬である。
まさか引き留められるとは思ってもいなかった伴は何事かとばかりにピタリと歩みを止め、背後を振り返った。
「そ、その……もっと、したい……」
は?と伴は飛雄馬の口を吐いた言葉に我が耳を疑う。
聞き間違いか?そんな都合のいいことがあるものだろうか。
星の方から、まさか、そんな…………。
「星?きさま、今、なんと?」
「…………」
飛雄馬はソファーに座ったまま伴と視線を合わせようとはしない。
けれども、その頬は心なしか紅潮しており、伴はゴクンと喉を鳴らし唾を飲み込むとおそるおそる飛雄馬のそばに歩み寄った。
そのままソファーの座面に膝をつくと、脚が軋んだかぎしっ、と音を立てる。
「い、っ、いいのか?」
「何度も言わせないでくれ……」
ソファーの座面に横たわるような格好を取った飛雄馬の上に伴は跨ると、そうっと彼の顔に自分の顔を寄せ、チュッと唇を啄んだ。
と、飛雄馬の腕がその首にぐるりと巻き付いたかと思うと口を開け、さらにその先を求めてきた。
伴の頭はあまりの興奮にぼうっとなり、心臓はやたらに早鐘を打ち始める。
時折、飛雄馬の口から漏れる微かな吐息は切なく伴の下腹部に響いて、そこを熱く滾らせた。
この、いつ同居している姉が帰ってくるかわからない、と言った状況は奇妙な背徳感に満ちていて、なんとも言えない緊張感をふたりに与えてくれた。
宿舎にいた頃から似たような状況で事に励むことは幾度となくあったものだが、あの頃とはまた違った昂揚感に体が馬鹿に火照る。
星、と伴は飛雄馬を呼ぶと、たくし上げたタートルネックの裾から覗く白い肌の2箇所だけ少し色の違う、ぷくりと膨らんだ突起に指で触れるとそれをそっと抓んだ。
そのまま指の腹で突起を捏ねてやると、飛雄馬は小さく呻いてから顔を腕で覆う。
伴の指に抓まれたままの突起は次第に固さを増し、大きく膨らんでくる。
「うっ、いかん。ズボンの中で出そうじゃあ」
ぼやいた伴の声を聞いたか、飛雄馬は、じゃあ、下を脱げと小さな声で指示を出した。
「えっ!?まだ、慣らしてもおらんのに」
「いいから、早く」
飛雄馬は言いつつ、体の向きを変え、伴の下から這い出るとソファーの座面に膝立ちになった彼の、開いたスラックス前部から顔を出した男根を瞳に映した。
そうして、今度は逆に伴にソファーの上に横たわるように言うと、半信半疑のまま背中を座面につけた彼の反り返った男根を半ばソファーに乗り上げる形を取りつつ飛雄馬は咥え込んだ。
「うわっ!星!何をしとるんじゃ」
かあっ、と伴は頬を染め、己の股間に顔を埋めている飛雄馬の顔を見つめる。
あれが、全部、根元まで、星の、口の中に。
ぬるぬると竿を撫でるのは舌だろうか。
先っぽが掠めるのは上顎だろうかと伴は口元を押さえつつそんな想像をし、気を紛らわせる。
しかして、却ってそんなことを考える方が気分が昂ぶって、伴はあっという間に射精を迎えそうになった。
「っ、ふ………ん……」
目を閉じたまま、顔を上下させ、飛雄馬は伴の男根を吸い上げ彼を絶頂へと導いていく。
「あ、っ……出っ、星!いかん、出る!口を、離………っ、っ!」
飛雄馬の口内でぴく、ぴくと男根が脈動し鈴口からは熱い精液が放たれた。
その脈動が収まるのを待ってから飛雄馬は伴から口を離すと溜まった精液をこくりと飲み下し、唾液に濡れた口周りを拭う。
はっ!と伴はそこでようやく我に返ったか、ガバッと弾かれたように体を起こすと飛雄馬に、口の中、出してこい!と言ったが、既に彼は飲み込んでしまった後である。
伴は飛雄馬を呼ぶと、その体を強く抱き締め再び口付けを迫った。
「う、っ…………ん、ん」
先程までの優しい、撫でるようなそれとは違う激しく口内を弄る口付けに飛雄馬は顔をしかめ、体をよじる。
もう、ここでやめておかなければ、本当にねえちゃんが帰ってきてしまう。
こんなことをしているなんてバレたら、いや、見られでもしたら、おれは、伴は──。
「星、星よう……」
なんて声で、伴はおれを呼ぶのだろう。
なんでこんなに腹の中が疼くのだろう。
「はぁ、っ……ん、待っ、伴、ねえちゃんが……あっ」
離した唇を再び奪われて、飛雄馬は身震いする。
呼吸もままならないほどの濃く、長い口付けで頭は夏場の炎天下のグラウンドにいるときのようにぼうっとなってしまっている。
半ば己の体の上に乗り上げている飛雄馬の尻を伴は撫でつつ、その尻の谷間に指を這わせるように指を滑らせた。
「ふ、っ……ぅ」
「星、いいか……」
「……………」
頷いて、飛雄馬は一旦伴から離れるとソファーの足元、床の上へと体を横たわらせ足をやや開いた。
いいも何も、ここまで来て伴はやめられるのか?
いや、伴ならおれの嫌がることはしないだろう。
彼はそういう男だ。
飛雄馬の開いた足を脇に抱えるようにして伴は彼の体を組み敷くと、そっと唇を啄み、その首筋へと顔を埋めた。
「ん………」
仰け反った飛雄馬の下腹部に伴は手を遣り、ベルトを緩めるとファスナーを下ろし、開いたそこから中へと手を差し入れる。
ぐちゅ、と既に先走りの滲み、濡れている下着に触れ、伴は一瞬、手の動きを止めたが、そのまま腰を浮かせた飛雄馬の足からスラックスと下着とを脱がせてやった。
再度、開いた飛雄馬の足を両脇に抱えてやってから伴はスラックスのポケットから手荒れ防止のクリームを取り出すと蓋を開け、中身を指先に取り出した。
抱えた飛雄馬の両足の中心へとクリームを塗り合わせ、伴は引き締まったそこの緊張を解くように指の腹で優しく撫でてやる。
それから、ゆっくりと腹の中に指を飲み込ませ、中を刺激に慣らしていく。
「う………っ、っ」
体の中を伴の指が這う感触に飛雄馬は喘ぎ、唇を引き結ぶ。
奥まで行ったかと思えば引き返し、かと思えば中をぐるりと掻き回す。
そのむず痒いようななんとも言えない感覚に飛雄馬は足の爪先を丸め、体をくねらせる。
「痛いか?」
「いや……そうじゃ、ない、っ………ァ、ん」
腹の裏を指先でトントンと軽く叩かれ、飛雄馬の男根からはとろりと先走りが溢れ落ちた。
伴はちらりと手首に巻かれた時計を見遣ってから、ごくんと唾を飲み込むと飛雄馬から指を抜き、己の怒張を慣らしていた孔へと当てがう。
「星、いくぞい……」
飛雄馬は頷くと大きく息を吸い、ふうと吐いてから腹の中を突き進んでくる伴の圧に呻いて、腰を揺らす。
「あ、ぁ………っ、」
粘膜を押し広げ、その形を覚え込ませるようにしながら伴は飛雄馬の腹の中を犯していく。
ある程度までを埋めてから伴は腰を止め、飛雄馬の頬に口付けを落とすと、大丈夫かのう?と尋ねた。
「だい、じょうぶじゃあ、ないな………腹の中、伴でいっぱいだ」
飛雄馬が息も絶え絶えにそう言うと、伴は腰を引いてからゆっくりと更に奥へ己を突き入れた。
「ひっ、っ、ん………な、に……?」
腹の中を抉られ、喘いだ飛雄馬の問いに答えることもせず、伴は緩やかにピストンを繰り返す。
「あ、う、うっ!伴!」
腰を反らし、逃げようともがく飛雄馬の足を腕に抱え、伴は己の腰をグリグリと押し付けるようにして中を嬲った。
それが図らずも飛雄馬の感じる箇所を叩く形になり、彼の視界には火花が散る。
そこはいやだ!と真っ赤な顔で叫ぶ飛雄馬の声は既に聞こえていないのか伴は己の快楽のためにひたすら腰を振った。
その間、幾度となく飛雄馬は絶頂を迎え、訳もわからぬまま与えられる快楽に喘ぎ、ポロポロとその瞳から涙を溢した。
もう意識が飛ぶ、と言うところで飛雄馬は腹の中で伴の男根がびくびくと脈動するのを感じた。


「……ま、なさい……おきなさい……ひゅうま……」
「う、ぅん……ねえちゃん、あと5分……」
「飛雄馬!」
ハッ!とその大きな声に目を覚ました飛雄馬の目の前には明子の顔があった。
ねえちゃん!と飛雄馬は叫んでから、微かな喉の痛みを覚え、風邪でもひいたかなと首元を押さえた。
「もう、どうしたの。珍しい、飛雄馬が床で寝るなんて」
「床で?」
「帰ってきたら伴さんもいないし、飛雄馬は床で寝てるし驚いたわ」
「伴?」
飛雄馬はそこでようやく先程のことを思い出す。
床で寝ていたもの、喉が痛いのも──。
飛雄馬は体を起こし、おそるおそるいつの間にか布団のかけられていた足元を覗いたが、下着もスラックスも穿いている感触があり、ほうっと胸を撫で下ろした。
「どうしたの?」
「あ、いや、ちょっと」
「変な飛雄馬。伴さんの分もと思って夕飯の材料、多めに買って帰ったのに……残念だわ」
「…………」
伴はあの後、我に返ったもののばつが悪くて下着とスラックスだけ穿かせてさっさと帰ったんだろうなと飛雄馬は腰を撫でる。
「飛雄馬?具合でも悪いの?さっきから様子がおかしいけれど」
「あ、いや、ごめんよねえちゃん。伴の分ならさ、おれが食べるから心配しないで」
それより、おれも夕飯の準備、手伝うよ──
言いつつ飛雄馬は立ち上がり、買ってきた品物を冷蔵庫や戸棚に仕舞う明子の手伝いをしながら、明日、伴には投球練習みっちり付き合ってもらうことにしよう──と、そんなことを考えながら、ふふっと小さく笑みを溢したのだった。