抱擁
抱擁 「なあ、伴」
「ん、な、なんじゃあ?」
寝入りばなに話し掛けられ、伴は妙な声を上げつつぐるりと顔を後ろに向ける。先に一軍へと上がった速水が友人のいるマンションに移り住むといい出て行き、空いたベッドは飛雄馬の高校時代からの親友である伴宙太が使うこととなった。
今日も練習を終え、汗を流した二人は早々に寝てしまおうと布団に潜り込んだところであったが、ふいに飛雄馬が伴を呼んだのである。
「そっちに、行ってもいいか」
「んあ?」
一瞬、寝惚けたかと伴は思った。けれども、飛雄馬がベッドから体を起こして床に足をつくと、こちらに歩み寄ってきたために伴も慌てて体を起こした。
「ほっ、星!?」
「だめか」
「だ、だめなことはないが、どうした」
「……」
尋ねる伴を無視し、飛雄馬は少し奥に体をずらした彼の隣に滑り込む。たった今まで寝ていた伴のぬくもりがタンクトップ越しに感じられて、飛雄馬は小さく笑った。
「狭くはないか」
「いいや、大丈夫だ」
飛雄馬は壁を背に大きな体を横たえている伴の方を向き直り、伴、と呼ぶ。
「なんじゃあ、さっきから」
「たまにはいいだろう。ふふ、家ではさ、とうちゃんとねえちゃんとくっついて寝てたもんだから一人で寝るのはちと寂しくてな」
「そ、そうか。それは寂しいのう」
「狭くて嫌だと思ったこともあったが、今となってはあの頃が懐かしいな」
「おれは小さい頃から部屋に一人で寝かされていたから星が羨ましく思える」
「ないものねだりだな、お互い」
ないものねだり、か。と飛雄馬は発した言葉を再び反芻しつつごろりと寝返りをうつ。するとちょうど伴の胸に背中から飛び込む形になって、にわかに飛雄馬の背の触れる彼の肌がかあっと火照った。
ああ、おれにこの伴のような恵まれた体躯があったなら球質が軽いなんて誰からも言われない、豪速球一筋でやってこれただろうに――と飛雄馬は思う。
伴の父ちゃんは自動車工業の社長で、かたやおれのとうちゃんは、いや、違うそんなことを考えてどうするというのだ。
「星」
「ば、んっ」
やにわに伴は体を起こし、飛雄馬の上に覆いかぶさると彼の唇に小さく口付けた。
次が来るか、と身構えた飛雄馬だったがその先に進むことはなく、伴は元の位置に体を横たえると、「また明日な、星」と目を閉じてしまう。
「伴、なあ、しよう」
「し、しようって、何を」
「何を、って、ふふ。決まってるじゃないか」
「しかし、明日も早いだろう」
「いつも寝かせてくれないのは伴の方だぞ……」
言って、飛雄馬は未だ目を閉じたままの伴の唇に今度は己から唇を押し当て、彼の下着の上から逸物を撫でる。するともう中では完全に出来上がってしまっており、下着の前をぐっと押し上げていた。
「ほ、星。本気か」
「……」
音もなく、飛雄馬は伴の下着の中に手を差し入れるとその指先で彼の逸物を捉える。びくぅっ、と伴の腰が跳ねた。
「ふふ、伴。目を開けろ……いつまで閉じてるんだ」
「うう、見んでくれえ……」
伴の下着の中から飛雄馬は男根を取り出したかと思うと、彼の足元の方へにじり寄った。
「伴、悪いがしっかり背中をベッドに付けてくれ」
「ベッドに?」
ああ、と飛雄馬が頷くやいなや伴は壁から背を離してベッドの上に仰向けに寝転ぶ。その始終を見送ってから飛雄馬はぱくりと伴の逸物を咥えた。
「ん、わあっ!星!おまえ」
「ひずかにひろ、ひとがくるぞ」
頬張ったままもごもごと飛雄馬は伴に釘を刺し、咥えた亀頭の裏筋に舌を這わせると、その粘膜が露出している場所を強く吸った。熱く濡れた柔らかな口腔粘膜がそこを締め付け、ゆるゆると撫でる。
「ああっ、星、出る、待たんかっ、星」
飛雄馬はそこを吸い上げるのやめ、伴の男根をぐうっと喉奥まで飲み込む。舌の付け根がぐねぐねと動いて吸い上げられていた亀頭を再び刺激する。
そうして、口から勢い良く引き抜くようにして唾液をたっぷりと溜めた口内で伴をしごいてやった。伴の吐息に混じって、飛雄馬が彼の逸物を吸い上げ、舌や口蓋を使って徐々に絶頂へと昇りつめさせる。
と、伴は短く吠えて、飛雄馬の口の中に白濁を撒いた。
「っ!」
喉奥深く咥えていたために勢い良く飛び出したそれは飛雄馬の喉を突く。一瞬驚いたものの、ごくりとそれを飲み下して、飛雄馬は体を起こすと、膝立ちのまま下着を下ろした。
「は、うっ、星、すまん。大丈夫かあ」
「ふふ、大丈夫さ……」
言いながら飛雄馬は片足ずつ下着を抜いて、下半身を露出させると伴の腰の上に跨る。伴の大きな体には跨るがやっとで、変に無理をすれば股関節が外れてしまうのではないか、とも飛雄馬は思った。
おれたちがこんな関係を持つようになったのはいつからだったか――
嬉しいことがあったとき、はたまた再会を祝して、そんな折にぎゅうっと互いの身を抱きしめ合うようになって、そうしてどちらともなく唇を重ねるようになって……いつだったか伴のものが大きくなっていることに気付いて、おれはやつのそれを手で撫でてやったのだ。
すると伴がやたらに気持ちよさそうな顔をしたので、からかってやろう、と、そう思って、おれはやつのものを咥えた。
それから、人目を避けるようにおれたちはたびたびこうして体を重ね合った。
後ろ手にまだ固さを保っている伴の逸物を飛雄馬は握って、ゆるゆるとしごいてやってから指に付着した伴の体液で己の尻を解していく。
「っ、ん……」
指を飛雄馬は己の体内に忍ばせ、固く閉じている窄まりを入念に柔らかくしていく。続けざまに二本を飲み込ませてから飛雄馬は伴の逸物の上に尻を充てがう。
「……」
伴が心配そうに飛雄馬を見ている。それに大丈夫だと笑みを返してから飛雄馬は彼の男根の上に腰を落としていく。グッ、と亀頭の先が尻に触れて、そこに力が入った。飛雄馬はそれでも躊躇うことなく腰を落としていく。ゆっくり、ゆっくりと腹の中に伴が入ってくる。
腰を伴の下腹部に押し付けるようにして飛雄馬は彼をすべて受け入れると、眉をひそめ、彼を見た。すると伴はその大きな手で飛雄馬の額に浮いた汗を拭ってやる。
「無茶しおって」
「無茶じゃないさ……無茶なんかじゃ」
体に伴の固さを馴染ませてから、飛雄馬は跨る彼の腹に手をつき、体を上下に動かし始める。その度、腹の中をぐりぐりと伴の逸物が舐め上げて、己の体重分、奥へと入ってくる。
「あっ、っ……う!」
やたらに腰が震える位置を伴の男根が擦った。びくっと飛雄馬は震えて、歯噛みする。と、伴の手が己の腰に跨る飛雄馬の腿を掴んで、膝を立てるや否や下から突き上げた。くぐもった喘ぎが飛雄馬の口からは漏れて、衝撃に備えるためか全身に力が篭もる。
「痛かったか」
「ふふ、少し驚いただけさ……」
強がりを言って、飛雄馬は自身の腿に添えられた伴の手に自分の手を重ねた。
すると再び、がつんと下から突かれたために飛雄馬は大きく後ろに仰け反った。彼の身につけているタンクトップの裾から日に焼けていない白い腹が覗く。
骨盤が軋むほど叩き上げられ、その度に腹の奥を穿たれて呻いた。別段、いいところを抉ってくる訳ではなくただ勢いのままに伴は飛雄馬を突き上げる。
「ぐあ、あっ、あ」
堪らず飛雄馬は伴の腹に手を付く。
すると伴は彼自身の腹に乗せられた飛雄馬の指に触れたかと思うと下から掬い上げるようにしてその指同士を絡めた。
ぎゅうと強く飛雄馬はその手を握り返して、一生懸命に、一心不乱に己を突き上げている彼を見下ろす。その様が妙に可笑しく見えて飛雄馬はふふ、とその頬に笑みを浮かべた。
「な、なんじゃあ急に笑うな」
急に恥ずかしくなったか伴は頬を染め、そんな言葉を投げかける。それを聞き、ニコリと笑んだ飛雄馬の額から鼻筋にかけてを汗が滴って、顎へと滑り落ちた。
そうして飛雄馬は伴の突き上げに合わせ腰を前後に揺らし始める。とは言え、下から与えられる刺激が強く、ろくに動かすことなどままならなかったが。
「う、おおっ。星よ……急に動くな」
「先に突いてきたのは伴じゃないか」
ふふ、と飛雄馬は笑みを浮かべたまま下腹部に力を込め伴を締め上げた。
「ぬわ、あっ」
「……!」
その刺激が仇となったか伴は飛雄馬の中にてあっけなく達してしまう。どくどくと脈打ち、己の体内に白濁を迸らされるのを感じながら飛雄馬もまたぶるっと震え、吐息混じりに声を漏らす。
そうして腹の中から伴を抜いて、飛雄馬は彼から手渡されたティッシュで足の間を拭うと床に落ちていた下着を穿いた。
「付き合わせて悪かったな」
「はは、なにを今更。星のためならどこまででもついていく所存じゃわい」
下着を穿き直すと豪快に笑って、伴はベッドに腰掛けた飛雄馬の背をばしばしと叩いた。しかして、いつものように飛雄馬が突っ込んでこないために、伴は訝しみ隣に座る彼の顔を見やる。
「星?」
「あ、ああ。少し寝てしまっていた」
「こいつう!」
こつんと伴は飛雄馬のこめかみを拳で叩いて、にんまり笑むとベッドに横たわり、隣に来いとばかりに空いたスペースを掌で叩いた。飛雄馬はごろりとそこへ横になって、深く息を吸う。
「伴に会えて、本当によかった。感謝しているよ」
「へ、変なやつじゃのう。恥ずかしくておけつがこそばゆくなるわい」
「うふふ……ここにこうしていられるのもおまえのおかげさ」
「違うぞ。それはおれの台詞だ。星がいてくれたからこそおれは野球の厳しさを知り、友情の尊さを知った。ありがとう、星よ」
会釈をするように頭を下げた伴の顔を飛雄馬はじっと見据える。伴は飛雄馬の澄んだ大きな黒眼に見留められ、照れ臭そうに頭を掻きながら視線を逸らす。
「おれが持っていないものをきみは持っているし、逆もしかりだ。伴、それを補い、磨き合いながら頑張っていこうじゃないか」
「おう。言われなくてもそのつもりじゃあ」
鼻息荒く伴は言って、ぎゅうと飛雄馬を抱き寄せる。その力強い抱擁を受け、伴の胸の奥で脈打つ鼓動の音を聞きながら飛雄馬は彼の腕の中でゆっくりと眠りに落ちていくのだった。