訪問者
訪問者 部屋の扉がドンドンと叩かれ、あの音の様子だと伴だろうな、と飛雄馬はベランダに置いた椅子から腰を上げると玄関の方へと向かう。そうして辿り着いた玄関先で扉を開けると、やはりそこに立っていたのは伴宙太で、飛雄馬は思わずふふっと笑みを零す。
「な、なんじゃあ薄気味悪い。人の顔を見て笑うとは」
「いやなに、扉をぶっ壊さんばかりに叩くもんで、多分伴だろうなと思ったら案の定だったから」
くっくっと飛雄馬は肩を揺らしつつ、まあ上がれよ、と伴を腕で促すと彼に背を向け元々いたリビングへと戻っていく。
あのアームストロング・オズマに野球人形などと言われてから飛雄馬はジャイアンツの寮を出て、姉の明子と二人で暮らしている。かつて同部屋で寝食を共にしていた高校時代からの親友である伴はその部屋に度々訪ねて来ているのだった。
「き、今日は明子さんはおらんのかあ」
玄関に靴がないことに気付いた伴が訊く。ああ、ねえちゃんなら買い物さ、と飛雄馬は伴にコーヒーなんぞを入れてやりつつ返事をした。
「買い物か」
「ああ。ふふ、夕飯でも食べて行くといい」
「え?い、いいんかのう」
「一人くらい増えたって構わんさ」
ソーサーに乗せたコーヒーカップをふたつ手に飛雄馬はリビングへと戻ると、部屋の真ん中に置かれたテーブルへとそれを置いた。
「む、すまん」
「冷めないうちに飲めよ」
言いつつ飛雄馬は先に一人コーヒーを啜ったものの、やはりちと苦いと感じ砂糖を探しに再びキッチンに立ったがなにぶん何もかもを姉である明子に任せているためにどこに何があるのかさっぱり分からず、引き出しを引いたり戸棚を開けたりを繰り返す。そんな飛雄馬を伴はしばらく眺めていたが、居ても立っても居られなくなり腰を上げるとキッチンに立った。
「ねえちゃん一体どこにしまったんだ」
「砂糖くらいすぐに見つかりそうなものだがなあ」
「たまには手伝いでもしないとこういうときに困るな」
「諦めた方がええんじゃないか」
「その内ねえちゃんも帰ってくるだろうしな……」
飛雄馬は開けた戸棚や引き出しを元通りに直してからリビングへと引き返す。ややぬるくなったコーヒーを少し啜ってから、飛雄馬は、どこかに出掛けるか?と伴に尋ねた。
「どこか、ってどこじゃい」
「部屋に男二人いてもしょうがないだろう」
キッチンに一人残っていた伴はリビングにやって来て、飛雄馬の隣に座ると彼の体を後ろからふいに抱きすくめた。
「!」
「おれは星に会いに来たんじゃ」
「嘘をつけ。ねえちゃんにだろう……」
「ば、ばかたれ!」
自身の体を抱く伴の腕を撫でて、飛雄馬ははにかむ。と、伴の手が飛雄馬のトレーナーの裾から中に滑り込んで直に彼の腹を撫でた。
「なっ、伴!ねえちゃんが帰ってきたら……」
「星が妙なことを言うからじゃあ」
「妙なこと……?」
指先が肌の上をなぞって、飛雄馬の胸に届いた。ビクッと体を跳ねさせ、飛雄馬は喘いでから己の掌で口を塞ぐ。すると伴の指は飛雄馬の胸の突起を親指と人差し指とで抓みあげ、指の腹同士でぎゅっと擦った。 「はっ、ぐ……」
触れられた飛雄馬の突起が熱く疼いた。次第に固さを増して、しこってくるそこを伴は更に指へと力を込め、ぐりぐりと弄ぶ。 その度にビクッ、ビクッと飛雄馬は体を戦慄かせて、伴の体にゆっくりと凭れ掛かってくる。その小さな体を支えてやりつつ伴は飛雄馬の穿いているスラックスのベルトを外しに掛かった。バックルからベルトを抜き、前をはだけてやってからその中に手を差し入れる。
「あ、あっ!ばかっ」
既に下着の前を持ち上げていた飛雄馬の逸物を伴は布の上からゆるゆると撫でてやった。片方の手ではまだ飛雄馬の胸を弄っている。上下からそれぞれに刺激を与えられ、飛雄馬は伴の体に己の背を押し付けつつ自身の口を掌で覆って、声を殺した。その内に、伴の手が下着の中に潜り込んで男根を取り出すやいなや彼はそれを握り、上下にゆっくりと擦り立てる。
「んあ、あっ!っ――」
皮膚をしごく乾いた音が部屋に響いて、それがやたらに飛雄馬の聴覚を犯して、より一層伴の手の中で大きさを増した。
「星よ、気持ちええか」
囁いて、伴は飛雄馬の先走りをとろとろと溢れさせる鈴口を指で撫でた。竿を擦られる刺激とはまた違った感覚がその身に走って、飛雄馬は奥歯を強く噛み締める。溢れた先走りが伴の手と飛雄馬の陰茎を濡らし、乾いた音を奏でていたそこに僅かに水音が加わった。自身の尻の当たる伴の股間もはち切れんばかりに張っているのが飛雄馬にも感じ取れる。
「っ……伴っ、おまえ、勃ってるじゃないか」
「ああ、ええんじゃ……おれには構うな」
「う、うっ。出っ、んんっ……伴、いくっ」
ぶるっ、と飛雄馬は身を震わせてから宣言通り伴の掌の中で白濁を吐く。それをしっかりと受け止めてやってから伴はテーブルの上にあったティッシュの箱から中身を数枚取り出して掌を拭った。
「……ふ、うぅっ」
肩で呼吸をし、余韻に喘ぐ飛雄馬の体を伴は強く抱いて、その肩に顔を埋める。
「柄でもないがのう、星がいなくなって寂しいんじゃあ……そりゃあ球場に行けば会えるが、また一人色々悩んだりしとらんかと思うと」
「……伴」
「なんじゃ、うっ」
名を呼ばれ、顔を上げた伴の唇に飛雄馬は口付ける。伴の胸に凭れるようにして座っていた飛雄馬だが体勢を変え、伴の首に縋るようにして彼の方を向き直った。
「ほ、星。どうした、あう」
慌て、尋ねた伴の唇に飛雄馬は己のそれを押し当てその先を紡がせない。開いた唇の隙間から伴の口内へ舌を滑り込ませ、彼のそれと絡ませ合う。
「伴、来てくれ……」
「き、来てじゃと」
伴のスラックスの前を押し上げる膨らみを見て、飛雄馬はそう言うのだ。しかして伴は飛雄馬から唇を離すと、苦笑つつ、「い、いや。おれはいい……それこそ明子さんが帰ってきたら」と宣った。
「おまえはいつもそうやって……」
「ただいま。あら、誰か来てるの」
突然に部屋の扉が開けられ、帰宅してきたらしい明子が靴を脱ぎつつ声を掛けてきた。飛雄馬は慌てて乱れた衣服を元に戻し、伴も飛雄馬の対面の位置へと戻った。玄関からほんの少しだがリビングまで距離があったのが幸いし、明子には二人が今まで何をしていたのか分からなかったようだ。
「あら、来てらしたのね」
伴に気付いた明子がリビングまで来てからはぱあっと顔を輝かせたが伴はテーブルに突っ伏したままだ。股間の張りのせいで、いつものように明るく挨拶など到底出来ないのであった。
「飛雄馬、どうしたの?伴さん、具合でも悪いの」
明子が心配し、飛雄馬に尋ねたが飛雄馬はそうみたいだ、と苦笑いを浮かべる他為す術はなかった。