人違い
人違い 花形がふと、背後から耳に唇を寄せてきたもので、ビクッ、と飛雄馬は身を跳ねさせ、奥歯を噛む。
ああ、どうしてこんなことに──と飛雄馬はじわりと瞳を濡らす涙を堪えつつ、そんなことを思う。
飛雄馬が明子に呼ばれ、花形邸を訪ねたのが1時間ほど前になるだろうか。
夕食の準備をするから、少し待っていてちょうだいと言われ、飛雄馬はリビングで花形とふたり並んでテレビなんぞを眺めていた。
するとどうだ、明子の用意した晩酌をひとり嗜んでいた花形が何を勘違いしたか飛雄馬に背後から抱き着いたのである。
馬鹿な、花形さん、何を考えているんだと飛雄馬は声を荒げ抵抗を見せるが、その声も耳に入らぬほど花形は酔っているようで、背後から体を抱きすくめた彼の衣服の中にスルリと手を差し入れてきたではないか。
「は………っ、!」
飛雄馬は叫び声を上げそうになるのを口を掌で塞ぐことで堪え、肌の表面を滑る花形の指の感触にゾクゾクと肌を粟立たせた。
恐らく、花形さんはおれとねえちゃんを間違えているのだろう、と飛雄馬は思案する。
しかして、ここで大声を上げてしまってはねえちゃんにも花形さんにも恥をかかせることになってしまう。
どうにかして、花形さんに人違いであることを伝えねば、と思うのに、口を開けば『声』が漏れてしまいそうで、飛雄馬は唇を噤む。
すると花形の指先がつうっ、と飛雄馬の皮膚の上に微かに浮いた肋骨の上をなぞって、胸の突起へと触れた。
その刺激に、ぐっ、と飛雄馬は小さく呻いて、身を固く強張らせる。
僅かに反応し、尖りつつある突起を花形は指の腹でくすぐるように転がしてきたかと思えば、ぎゅっとそこを2本の指で抓み上げた。
「──っ、ぅ」
じぃんとした淡い痺れがそこから全身にじわじわと走って、飛雄馬は眉間に皺を寄せる。
固く、しこりつつある突起に、花形は指の腹同士を擦り合わせるようにして刺激を与えた。
花形の指の上でそれが立ち上がり、膨らむのがはっきりと自覚できる。
全身が熱く火照って、尻の収まりの悪いソファーの上に座っているのがやっとで、飛雄馬は目を閉じる。
けれども、目を閉じてしまったことで、花形の与えてくる感覚だけに神経が集中してしまい、不覚にも飛雄馬の下腹部には熱が灯る。
尖りきった乳首を花形はひねり、やや強い力でそこを押しつぶす。
「は、っ………ぐ、」
がくがく、と飛雄馬は身を戦慄かせ、花形の腕の中に身を預けるようにして脱力した。
意識がぼんやりとしていて、触れられている突起ばかりが変に熱く感じられ、飛雄馬はその白い腹を上下させる。
ふふっ、と花形は笑みを漏らすと、もう一方の手で飛雄馬の片方の乳首をなぞった。
中指の腹でその表面をさすり、刺激に慣らしていく。
「…………!!」
花形の指の動きに合わせ、身を震わせていた飛雄馬だったが、ふいに両の乳首をひねられ、閉じていた目を大きく見開いた。
そこから走った快楽の刺激が激しく脳を焼く。
全身の毛穴からぱあっと汗が吹き出し、飛雄馬は軽く下着の中で射精する。
これ以上ないほどに膨らみきった突起を花形はくりくりと捏ね回し、飛雄馬を更に昂ぶらせていく。
「飛雄馬、ちょっと、いいかしら」
廊下から声がかかり、飛雄馬はビクッと震え、虚ろに目を開ける。
「用件ならここで聞こうじゃないか。今、手が離せなくてね」
飛雄馬の代わりに返事をしつつも花形は愛撫する手を緩めることはない。
優しくそこをしごいていたかと思えば抓み上げ、鋭い痛みを与えてくる。
「そう、それならいいわ。ごめんなさいね」
パタパタと遠ざかっていくスリッパ履きの足音を聞きつつ、飛雄馬は耳に触れる花形の吐息に体をくねらせる。
「っ、だましたんですか……」
「騙した?まさか。ぼくは初めからきみが飛雄馬くんだと知っていたさ」
口元から手を離し、そんな言葉を吐いた飛雄馬の顎をなぞり、花形はそのまま長い指を掻き抱く彼の口内へと滑らせる。
「っ、ふ…………ぅ」
花形の指が舌の表面を撫で、奥歯に触れる。
口の中を強引に暴く指の感覚にばかり酔っていると、乳首をつねられ、飛雄馬はひっ、と喉奥から声を振り絞る。
さらさらとした唾液が溢れ、飲み込むこともままならないまま飛雄馬の顎を伝い、花形の指を濡らす。
「は、ら、がたさ…………っ」
2本目の指を飛雄馬の口内に含ませた花形は彼の乳首を嬲るのを中断させ、今度はその臍下へと手を遣る。
ベルトを片手で巧みに外すと、飛雄馬の穿くスラックスの中に手を差し入れた。
「あ、っ………ん、」
先程、射精した際の体液が下着を濡らしており、花形は一瞬、手の動きを止めたが、ふふっと聞こえるように笑い声を上げ、飛雄馬の男根に下着の上から触れる。
再び、飛雄馬のそこは固さを帯びて自己主張を始めた。
「ほら、直に触ってあげようじゃないか飛雄馬くん……きみも辛かろう」
「つら、っ………ん、なんか……」
飛雄馬の口から唾液にまみれた指を抜き取ると、花形は胸に抱く彼の下着の中から射精の跡の残る男根を取り出し、その亀頭部位をぐりぐりと指で抓むようにして刺激する。
「あ………ッ、あ……あ、あっ」
「静かに、飛雄馬くん。せっかくここまで来たのに外に声が漏れてしまうよ」
言いつつも、花形は手の動きを緩めることなく、今度は指で抓むだけでは飽き足らず、男根全体を5本の指で握ると、それを上下にしごき始める。
「…………っ、ひ……っ、ん、ん」
飛雄馬の目の前にいくつもの火花が散り、臍下からの刺激が全身を駆けずり回った。
「は………っ、く、ふ……」
また、声を上げそうになったところに花形の指が飛雄馬の口腔内を弄る。
にゅる、にゅると精液にまみれた男根を花形はしごき、再び射精を促した。
花形が手を動かすたびに、飛雄馬の男根の先からは先走りがあふれ、彼の手を濡らしていく。
「は、っ、らして……はらして、手、っ、あ……!」
どくっ、と飛雄馬は花形の掌の中で精を吐く。
幾度となく男根はビクビクと脈動し、大量の精液で花形の手を濡らしていく。
「…………」
射精し、ぐったりと脱力した飛雄馬の口元に花形は体液を受け留めた手を遣り、その唇に白濁を塗りつける。
と、飛雄馬は口を開け、自身の精液に舌を這わせ、唇でそれらをゆるゆると吸い上げていく。
「っ、む……ん、」
飛雄馬に白濁を舐め取らせた花形は、彼の体をソファーの上に横たわらせ、自身は一度そこから立ち上がると、今度はその足元の方から座面の上に乗り上げる。
射精の余韻からか、未だぼんやりとしている飛雄馬の足を左右に開かせると、花形は彼の尻の辺りまで身を寄せるや否や、自身の穿くスラックスの前をはだけた。
真っ赤に染まった顔を花形へと向け、飛雄馬は涙に濡れた瞳で彼を仰ぐ。
花形はニッ、と笑みを浮かべると、飛雄馬の腹に一度口付けを落としてから、彼の両足から下着とスラックスとを剥ぎ取った。
そうして、自身のはだけたスラックスから取り出した怒張を飛雄馬の尻に宛てがい、その入り口に先走りの滲む亀頭をぬるぬると擦り付けた。
「………ひ、ぅ……」
ぴくん、と飛雄馬の体が反応を見せ、その窄まりがひくひくと戦慄く。
「いくよ、飛雄馬くん……まあ、この期に及んで嫌とは言うまいが」
ぎしっ、とソファーを軋ませ、花形は飛雄馬の腹の中へと自身を滑り込ませる。
さんざん弄ばれ、喘がされたせいかだいぶ緊張は解れており、飛雄馬の後孔は花形を受け入れていく。
けれども、本来、何かを受け入れるようには出来ていないそこに異物を挿入され、違和感はもちろんある。
飛雄馬は顔をしかめ、小さく呻く。
ゆっくり時間をかけ、花形は飛雄馬の中に自身を埋めると汗の滲んだ彼の額に口付けてやってから腰を叩き始めた。
「は…………っ、ん、ん……」
仰け反り、飛雄馬は目を閉じる。
きゅうっ、と花形が腰を使うたびに腹の奥が疼く。
ぎしぎしとソファーが軋み、飛雄馬の体もまた、揺さぶられ白い喉を晒した。
そこに浮かぶ汗の玉を花形は唇で舐め取り、彼の腹の中を掻き乱すように腰を回す。
「あ………」
高い声を上げそうになった飛雄馬の口を花形は唇で塞ぎ、逃げようとずり上がる体を捕まえるべく彼の腰を掴む。
「ひ、っ………あ、っ……あ、あ」
花形が腰を捕まえたことにより、より深く腹の中を穿たれ、飛雄馬は与えられる刺激にただただ喘いだ。
「飛雄馬くん……」
焦点の合わぬ目で天井を仰ぎ、声を上げる飛雄馬の名を呼び、花形は彼の唇に口付けるとそのまま腹の中に欲を放出した。
瞬間、飛雄馬の入り口はぎゅうっ、と花形を締め上げ、吐き出された白濁の一滴までをも搾り取らんとする。
花形は飛雄馬のそこが緩むのを待ってから、己を抜き取ると、ふう、と一息吐いた。
濡れた男根を拭い取ってから、扉の向こうから夕食ができたことを知らせた明子に、すぐ行くと返事をしてから花形は衣服の乱れを直し、ソファーに座り直す。
飛雄馬は腹を上下させつつ、立ち上がる気配は未だない。
ゆっくりしていくといいさ、と花形は優しく言葉をかけてやってから、飛雄馬の唇を小さく啄んでやる。
と、彼がうっすらと口を開けたもので、そこに舌を差し入れ、濡れた甘い舌の感触を味わい、ひとりその余韻に酔いしれた。