疲労
疲労 今日も一日疲れた、と飛雄馬は監督に話があると言う伴と別れ、一人帰寮し自分のベッドに腰を下ろした。
これでもかというほどかいた汗のせいで背中はじっとりと濡れており、乾いた汗の塩の結晶がユニフォームの表面に付着している。
出来れば風呂に入らずこのまま寝てしまいたいくらいであるが、先輩方の入ったあとの風呂の掃除が待っているためにそうもいかない。
湿った帽子を頭から離して、飛雄馬はそれを傍らに置いた。
それから、ちらりと部屋の扉を見遣ってから自分の股間へと視線を落とす。
ユニフォームのズボン、はたまたその下に着用しているスライディングパンツの中が痛みを覚えるほどに起立しているためだ。
精も根も尽き果てていると言うのに、人間、はたまた男の本能とは不思議なもので、子孫を残そうとする機能が働くのか、こうして意思に反して股間のモノが首をもたげてしまうことがある。
再び飛雄馬は扉の方を見つめてから、一度立ち上がると鍵を掛け、ティッシュの箱を片手にまたベッドへと戻ってくるなりベルトを緩め、汗で肌に貼りつくユニフォームとスライディングパンツを下ろした。
「う、っ………!」
抑圧されていたものが弾けるようにして顔を出し、飛雄馬はそのままベッドに座ると反り返る自分の男根を右手で握って、上下にそろそろとしごき始める。
体が刺激に対し小さく震え、その亀頭の先からは先走りがぷくりと顔を出した。
亀頭と竿を繋ぐ裏筋を4本の指の腹で撫でこすって、粘膜の露出した亀頭自体を掌全体でさすると更にカウパーが溢れ出てくるのが分かって飛雄馬は顔を興奮と羞恥で真っ赤に染めつつ、手の動きを速めた。
伴が帰ってくる前に、終わらせておかなければ。伴にこんなことをしているなんて知られたくない。
皮膚をこする乾いた音が、その内分泌されたカウパーのせいで濡れた淫らなそれへと変化していく。
「ッ………あ、ァっ!」
ベッドの上に放ったティッシュ箱の中から数枚を取り出し、飛雄馬は亀頭の先に充てがったその上に射精した。
びく、びく、と男根は脈動しティッシュの白の上に同じく白い体液を飛び散らせる。
「は、ぁっ…………はぁ……っふ……う」
脈動が収まるのを待って、飛雄馬は亀頭を拭うと、己の精液にまみれたティッシュを丸めて、ゴミ箱へと放った。
と、それを見計らったかのように、扉がノックされ、「星?なんで鍵を掛けとるんじゃい」と伴が廊下から声を掛けてきたもので、飛雄馬は慌てて衣服を身に着け、鍵を開ける。
「?なんじゃあ?なんで鍵なんぞ掛けとった?」
「い、いや、ちょっとな」
先程の自慰行為のせいか、まともに伴の顔が見られず飛雄馬はふと顔を背けて、それで、監督となんの話をしてきたんだ?と話題を逸らした。
「いや、おれの方こそ別に大した話ではない。ふむ……星、心なしか顔が赤いが熱でもあるのか?」
背けた顔を覗き込まれ、飛雄馬はギクッと身を跳ねさせる。それがまた伴の目には奇妙に映って、伴は何か隠しとるんじゃなかろうな?と目を細めた。
「べ、別に、何も隠してなどいない。顔が赤いのは日に焼けたからだろう。ほら、用が済んだのなら風呂に入ろうじゃないか。寝る時間がなくなるぞ」
言って、部屋に入ってきたままの状態で立ちすくんでいた伴の横を通り抜け、部屋を出て行こうとする飛雄馬の腕がぎゅっと握られた。
「………ば、伴?何を」
「本当に何でもないのか?星はすぐ無理をするからのう……」
「な、っ、でも……ない、から、手を離せ……」
手を振りほどこうとする飛雄馬の腕を掴んだまま、伴は彼の体を引き寄せその胸の中に抱き留める。
その肌の熱さ、練習を終えた伴の体の匂いに飛雄馬の頭はクラクラと眩暈さえ起こした。射精したばかりの下腹が再び熱くなってくるのを飛雄馬は感じる。
汗の匂いに混じる伴の体臭が頭の中を蕩かすようで、次第に意識がぼうっとなってくる。
なんだって、おれは伴相手に、男相手にこんな気分になっているのか。
これも疲れているせいなのか。
正常な思考が出来なくなってしまっているのか。おかしいのは分かっている、けれども、再び首をもたげ始めた下腹部を、疼く腹の中をどうにかしてほしい。
「伴……っ、したい」
「し、したい?練習をか?べ、別におれは構わんが、星よ、お前は────っう」
てっきり、飛雄馬が口にした『したい』を練習のことだと思い込み、抱いた小さな体を離して尋ねた伴の唇に飛雄馬はぐっと自身の唇を押し付けた。
太い首に縋りつくように腕を回し、不意打ちで口付けてきた飛雄馬の体を支えきれず、伴はよろよろと体勢を崩したものの運良く扉の近くにあった自分のベッドに勢いよく尻餅をつく。
「ば、ん……」
尻餅をついた伴の首に腕を回したまま飛雄馬はまた彼の唇に口付ける。
「あっ、あわわっ!星、星よう、きさまどうしたんじゃい。気でも狂ったのかあ」
「さっきから、っ………ン、立ちっぱなしで」
「立ちっぱなしぃ?何がじゃあ」
「…………」
飛雄馬は何のことだか訳がわからず目を白黒させる伴の右手を取り、床に立った状態のままの自分の股間へと充てがう。
そうすると、その掌には飛雄馬の既に勃起してしまっている男根の膨らみがユニフォームの上からとは言え感じられて、かあっ!と伴は耳まで真っ赤になるほど頬を染めた。
「ほっ、星!なんで、きさま、立っ…………」
「ふ、ふふ……疲れると、こういうこともある……」
「…………」
伴はゴクリと生唾を飲み込んで、飛雄馬の膨らんだそこを下から手を這わせ、やわやわと揉みこむ。
すると飛雄馬の腰が揺れ、その表情には苦悶の色が浮かぶ。
「触って、ええんかのう」
「………っ」
こちらの様子を伺うようにして問いかけてきた伴に頷くことで承諾の意思を示し、飛雄馬は先程締めたベルトを再び緩め、ユニフォームのボタンを外すとファスナーを下ろす。
ゴクリ、と伴の喉がまたしても大きく鳴った。伴は飛雄馬の緩められたユニフォームのズボンとスライディングパンツを膝の辺りまでゆっくりと脱がせる。
その際、スライディングパンツの中で締め付けられていた飛雄馬の男根が弾むように反り返って、先走りの糸を垂らした。
「あ、アッ」
呼吸をする度に飛雄馬の男根はひくひくと更なる刺激を求めるかのように震える。
顔が火のように熱く、飛雄馬の口から漏れ出る呼吸も熱を帯びていた。
伴はちらりと飛雄馬を仰ぎ見てから、彼の男根をそっと握ると、それを一気に上から下まで一息にしごいた。
予想だにしない伴の愛撫に凄まじい快感が飛雄馬の全身を駆けめぐって、脳をスパークさせる。二度目と言うのに多量の精液を放出し、伴の手と彼の着るユニフォームを汚した。
「あ、っ、伴……ン、んっ!!」
ガクガクと膝が震え、飛雄馬は立っていられない。その場にへたり込もうとするのを伴が抱き留め、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「ば、っ………ユニフォーム、よごれ、る」
「洗えばええ。こんな時にも星は他人の心配をするんじゃのう」
自身のうえに乗る飛雄馬の背中を掌で撫で、伴は露わになった彼の尻へと指を這わせると、飛雄馬の足をそれぞれ開かせ、ユニフォームとパンツを脱がせてから、自分の右足の上に跨らせるような格好を取らせた。
んっ、と飛雄馬は鼻がかった声を漏らして、伴の着ているユニフォームを握り締めた。
「入れても、ええか。無理をすると明日に響くからのう」
「ほし、っ…………伴が、ほしい」
「…………」
じわり、と伴の額にも汗が滲む。
伴はユニフォームのポケットに入れていた飛雄馬の球を受け続けるために腫れた指や掌に塗るための軟膏を取り出すと、蓋を開け指の腹にたっぷりと出してから自身の腹の上に乗る飛雄馬の尻へと彼の背中側から手を伸ばした。
それから、彼の後孔へと軟膏を丹念に塗り込み、刺激に慣らしてからまずは中指を腹の中へと飲み込ませる。
「あ、ぅっ」
飛雄馬の腰が浮き、きゅうっと伴の指を締め付ける。伴は指の感覚に飛雄馬が慣れるまでじっと待ってから、ゆっくりとそこを解すために指で弧を描く。
「っふ、う〜〜っ、」
飛雄馬が眉をしかめ、固く瞼を閉じる様が伴の目にははっきりと見える。
伴は続けて二本目を飛雄馬の中へと挿入し、またしても指を締め付けるそこを解すためにゆっくりと二本をそれぞれに動かした。
「いっ、っ………ア、あっ!おく、っ………伴、指じゃ、たらな………っ、」
「もう、知らんぞい」
極限まで、自分は良いとしても飛雄馬に負担のかかる挿入行為は控えようと思っていた伴であるが、どうにも辛抱堪らず、自身もまたユニフォームとスライディングパンツをずらして、そこから血管の浮くほどにガチガチに勃起した男根を取り出した。
「星、そこに寝てくれい」
「…………」
飛雄馬は跨がっていた伴の足から下りると、そのままベッドの上へと枕が置かれた方を頭にし、寝転がる。
さっきまで指で解されていた箇所が甘く疼いて、腹の中がきゅんとなった。
体を起こし、体勢を変えた伴がぎしっ、とベッドの上に乗り上げて足を開いた飛雄馬の体へとにじり寄る。
「行くぞい、星」
飛雄馬の腰の下に己がいつも使う枕を敷いてやってから、伴は自分の男根を飛雄馬の開いた足の中心へと充てがって、ぐっと腰を突き入れた。
飛雄馬の後孔が伴の形に添うように広がって、ゆっくりと腹の中を順応させながら奥へと飲み込んでいく。
「あ、あっ……………ああっ」
腹の中を伴が進んでくるのが分かって、飛雄馬は声を上げる。
体は歓喜にうち震え、腹の中を抉る圧に飛雄馬は体を仰け反らせ、伴の腕にしがみついた。
これだけで十分気を遣ってしまいそうであるのに、伴は遠慮がちながらも腰を使い始める。その動作が、男にのみ存在する器官である前立腺を腹の中から刺激して、飛雄馬を更に昇りつめらせた。
「ッく、う」
飛雄馬の様子を伺っていた伴が、幾度となく絶頂を迎え、仰け反り、蛍光灯の下に晒される彼の首筋へと口付け、舌を這わす。
あっ!と鋭く喘いだ口を塞がれて、熱く柔らかな舌が口内を這いずる。
その口付けに飛雄馬がぼうっと酔っていると、今度は腰が悲鳴を上げるほどに中を突かれ、伴の腕にしがみつく指に力が籠もった。
「ふ、っ………うっ、あっ」
顔を振り、口付けを拒む飛雄馬だったが、伴はそれでも彼の唇を追った。
「星、いくぞ。出すぞい」
言うと、伴は体を起こし、飛雄馬の中から男根を抜くと彼の腹の上へと欲を撒いた。 飛雄馬は目を虚ろに瞬かせ、体を小さく震わせながらゆっくりと呼吸を整える。
「はあ、ふう………もうそろそろ先輩方も風呂は済んだじゃろう。星、汗を流して後始末をしてさっさと寝ることにせんかあ」
「ば、ん…………すまない、10分だけ、ねかせてくれないか……10分たったら、おこし…………」
最後まで言い終えることなく、飛雄馬はふっと意識を手放す。
星、と伴は一度小さく呼んだが、飛雄馬が寝息を立て始めたために口を噤んだ。
出来ることなら、10分と言わず好きなだけ寝かせてやりたいが、厳しい規則に縛られた寮での生活であるし、何より星は変に甘やかされるのを嫌うだろう。
伴は汚れたティッシュをゴミ箱に投げ入れて、衣服の乱れを正すと、せめて星が、夢の中くらい幸せであってくれたらいいのだが、とそんなことを思いつつ、汗の光る飛雄馬の額をそっと掌で拭ってやり、そこに小さく口付けを落とした。