秘め事
秘め事 お父さんが帰ってくる前に、銭湯に行ってくるわね、と明子が長屋を出て行ってすぐ、再び戸を開ける音がして飛雄馬は鉛筆を持ったまま後ろを振り返る。
姉が忘れ物でもしたのだろうか、と思った飛雄馬だったが、玄関先に座って靴を脱いでいたのが父・一徹であったために、とうちゃんおかえり、と声を掛けた。
「ただいま。明子はどこに行った?」
「ねえちゃんなら、とうちゃんが帰る前に銭湯に行くって出て行ったよ」
飛雄馬は再び机の上のノートに視線を落としつつ、一徹の問いに答えた。
「宿題か」
「うん。もうすぐ解き終わるから、それからでもいい?」
「宿題なら後からでも出来るだろう。飛雄馬、こっちに来い」
「え、でも、ねえちゃんが」
「飛雄馬」
低い声で名を呼ばれ、飛雄馬はびくっと身をすくませたのち、鉛筆を机に置くとその場に仁王立ちしている一徹の方へとにじり寄る。
そうして、鼻から大きく息を吸って彼の穿くズボンの前を下ろすと、だらりと下がった逸物が目に入って飛雄馬は一度、縋るような目付きで一徹を仰いだが、ただ黙って父は飛雄馬を見下ろすだけであった。
「……………」
唇に舌を這わせ、十分に湿らせてから飛雄馬は一徹の男根を咥える。
一日、炎天下の中肉体労働をして来た一徹の逸物はムッとするような独特の臭いを纏っていて、飛雄馬は嘔吐きそうになるのを懸命に堪えた。
まだ小さいままのそれを口内に含んで、舌と上顎とで挟み込むようにして根元から亀頭部位にかけて刺激を与えていると、次第に柔らかかった男根が固さを増し、徐々に充血して膨らんでくる。
まだ完全に咥えることの叶わぬ飛雄馬は口からそれを抜くと、自分の唾液にたっぷりと濡れた一徹の逸物を野球のバットを握るような手つきで掴んで、上下に擦り立てる。すると、手にした逸物の鈴口からとろとろ先走りが溢れ始めて、飛雄馬の手指を濡らしていく。
自分のものとはまるで違う一徹の男根を飛雄馬は見つめながら、無意識のうちに正座した足をもじもじとくねらせる。
「欲しいか」
「えっ!?」
ふいに頭上から降ってきた言葉に、飛雄馬は視線を上げ、一徹の顔を仰いだ。
「物欲しそうに見つめおって」
「………」
頬を染め、飛雄馬は顔を逸らす。
図星である。一徹の反り返った逸物を目にすると飛雄馬の腹の奥は切なげに疼くのだ。
飛雄馬がもっと小さい頃から、明子の目を盗んで行われてきたこの行為。
最初は指からであった。
飛雄馬の腹の中を一徹の節くれだった指がはい回って、ゆっくりと時間をかけて粘膜をさする本数は増えていったし、それを受け入れる飛雄馬も最初は不快なだけであったが、次第に妙な感覚を覚えるようになっていく。
指の腹がとある位置を撫でるたび、くすぐったいようなゾクゾクと全身が震えるような、それこそ頭の中が真っ白になりそうな刺激が飛雄馬の全身を貫いた。
そうして、ある日、飛雄馬は暗がりの中で幾度となく目の当たりにしてきた一徹の逸物が腹に付くほど反り返っていたのを見据えた刹那、それが自分の体の中心を穿ってきたのだ。指では到底到達し得ない、場所を抉って、擦りあげていくその熱に、飛雄馬は狂わされた。
「飛雄馬、出すぞ。飲み干せ、溢したら承知せんぞ」
「あ、っ………!ん、」
言われ、飛雄馬は慌てて一徹の逸物を咥え込む。舌の上でどくどくと熱い体液を吐き出す男根の脈動を感じつつ、飛雄馬はぶるっと身震いする。
一徹はすべて吐き出し終えてから、口を開けろ、と飛雄馬に指示を出した。
すると、飛雄馬は恍惚の表情さえ浮かべ、たった今まで逸物を咥えていた唇を開いて、赤い舌に乗る白い欲を隙間から覗かせる。と、その唇の隙間に一徹は三本の指を滑り込ませ、右手人差し指と中指とで飛雄馬の舌を挟み込んだかと思うと、ぬるぬると舌の表面を指の側面でなぞった。
「っ………う、うっ」
口を閉じることも叶わず、飛雄馬の口からは一徹の体液と彼自身の唾液とが滴り落ち、顎を濡らす。わざとらしく音を立てるようにして一徹は飛雄馬の舌を弄ぶ。
飛雄馬は耳まで真っ赤に火照らせ、一徹の与える責めにだらしなく涎を垂らしつつ酔いしれる。蕩けきって涙に濡れる両眼を飛雄馬は一徹に向け、開きっぱなしの口から吐息を漏らす。
そのうち、舌を挟んでいた一徹の指は舌の上を滑って、飛雄馬の頬の粘膜を唾液に濡れた指で撫でた。
「あ、ぁっ……」
背筋を甘い痺れが走って、飛雄馬は身震いする。指の腹が奥歯の上を這って、再び舌を撫でてから、ようやく離れていった。
ごくり、と喉を鳴らして飛雄馬はようやく唾液を飲み下す。
彼の心臓は破裂せんばかりに早鐘を打っていたし、腹の中はより一層、刺激を求め疼いている。
「とうちゃん………」
飛雄馬は震える声で一徹を呼ぶ。それを受け、一徹は顎をしゃくるようにして飛雄馬に仰向けに寝転ぶよう指図すると、そのまま彼の体を組み敷いた。
そうして身を屈め、口付けを与えるかと思いきや一徹は飛雄馬の白い首筋に歯を立てる。鋭い痛みが脳天を突き抜け、飛雄馬はびくんと大きく仰け反った。
飛雄馬は無意識のうちに腰を上げ、一徹の腹に股間を擦り付け挿入をねだる。
苦笑し、一徹は浮いた飛雄馬の腰からズボンと下着を剥ぎ取って、両足からそれぞれ脱がせると、彼の膝を左右に開かせ、その中心部に己の逸物を充てがう。
飛雄馬は未だ先程歯を立てられた首の疼きの治まらぬ中、腹の中へと侵入してこようとする一徹の下腹部に視線を遣っていた。 そのまま、一徹は何のためらいもなく、飛雄馬の中へと己を突き入れる。
粘膜が引きつって、逸物の形に飛雄馬が慣れるより先に一徹は腰を使い始めた。
「い、っ……つ、う……」
痛みに逃げる腰を一徹が掴んで、奥を穿つ。飛雄馬は身をくねらせ、鈍い痛みに喘いだ。密着した肌がじわりと汗ばみ、飛雄馬は眉間に皺を寄せて奥歯を噛む。
「ん、う………うっ」
ぐりぐりと腰を回され、腹の中を掻き回されて飛雄馬は白い首を晒し、声を上げる。
すると一徹は屈めていた体を起こすと、飛雄馬の両腿をそれぞれに掴み、強く腰を叩きつけた。うっ!と飛雄馬は短く呻いて、畳を爪で掻いた。
衝撃が全身を駆け抜けて、飛雄馬は開いた口からああっと声を上げる。腰を欲望のままに叩かれ、飛雄馬の閉じたまぶたからは涙が滴った。
反った亀頭がある部位を擦る度、飛雄馬は全身をわななかせ、震える。
「とうちゃん………とうちゃん……」
うわ言のように囁いた飛雄馬の中に一徹は射精し、その脈動が収まるまでじっと押し黙っていた。飛雄馬もまた、小さく身を震わせ、一滴残らず搾り取るかのように一徹を締め付ける。
そうして、二人が後処理を終え、一徹が煙草に火を付け深く深呼吸をした頃に濡れた髪を手拭いで拭きつつ、明子が顔を出した。
「あら、お父さん帰ってたのね。ごめんなさい。夕飯の支度します」
「ゆっくりでいいぞ」
怒鳴られるとばかり思っていた明子だったが、一徹の口から発せられた言葉が労りのそれであったために、驚いたように目を丸くしたが、すぐに夕食の支度に取り掛かった。
畳の上で衣服は着ているもののぼうっとなっている飛雄馬のそばに一徹は近寄ると、そっと彼の口に煙草臭い唇を押し当てる。、
「………!」
苦い煙草の煙を舌に感じつつ、飛雄馬は姉の作る夕食の光景をまぶたの裏に夢想しながら、一徹の与える口付けに身を委ねていた。