控え室
控え室 先に着替えた伴にもう少ししたら行くからすまない、しばらく一人にしてくれ、と飛雄馬は阪神との試合後、球場の選手控え室のベンチに座って一人項垂れていた。
しかして、いつまでもそうしていても埒が明かぬと踏み、飛雄馬は室内を煌々と照らす蛍光灯を見上げてから、ユニフォームのボタンを一つ外した。
伴も待たせていることだし、きっと腹を空かせていることだろう、と彼の空腹に耐えかねているであろう間抜け面を想像し、苦笑しながらユニフォームの二つ目のボタンを外す。と、その刹那、控え室の扉をノックされ飛雄馬はハッと扉の方を見遣った。
聞き間違いか、と思ったが再びコンコンとやられ、飛雄馬は待ちかねた伴だろうとにこやかな表情を浮かべ、「今着替えているからもう少し待ってくれ」と言うつもりで扉を開けた。
するとどうだ、扉を室内側に引いて顔を出した飛雄馬が目にしたのはたった数時間前に見事その左腕から繰り出す球で打ち取った阪神タイガースの背番号10を冠する花形満であったために、ドアノブを握ったまま固まった。
「やはり、ここにいたか」
「なぜ、花形さんがここに」
質問を無視して、花形は辺りを見回してから訳が分からぬまま狼狽える飛雄馬のいる巨人軍の選手控え室内に身を滑らせると後ろ手で鍵を掛けた。スタイリストらしからぬ花形の阪神ユニフォーム姿の出で立ちに飛雄馬は一体何事か、と目を見張る。
「きみは往々にして何故訪ねてくる、と訊くがそんなにぼくがきみの元を訪ねることに理由が必要か?」
「そりゃあ、そうでしょう。花形さんとおれは友達ではないし、共通する話題もない。巨人と阪神の投手と打者がこうして会っているなんて知れたら八百長とも取られかねん」
「………」
花形は真っ直ぐ飛雄馬を見つめたまま、ゆっくりと彼との距離を詰める。うっ、と飛雄馬は呻いて花形が近づいてくる分、後退っていたが遂に選手たちが荷物等を入れておくロッカーに背中がぶつかった。
ガァン、と鈍い金属音が響いて、飛雄馬はハッと目を見開く。万事休すであった。逃げ場がない。
「なぜ逃げる。後ろめたいことでもあるのかね」
「それは……」
視線を逸らした飛雄馬の顎に花形は指を掛け、ついと上向かせる。花形から目線を外していた飛雄馬の黒く大きな瞳が滑るように動いて目の前に立つ男の顔を見上げた。
視線が絡んだ一瞬、その間に花形は薄く口を開いて飛雄馬の唇へと己のそれを押し当てていた。互いの帽子のつばがぶつかって、ほんの少し頭から浮いた。口付けから逃げるように身を反らしていた飛雄馬の頭からは遂に帽子が落ち、床へと着地する。
「っ、ぷぁ……あっ」
ようやく口付けから解放された飛雄馬は顔を赤く染めたまま目を細め、花形を睨んだ。が、縦縞のユニフォームに身を包んでいる彼は余裕綽々と言った表情を浮かべたまま、ぺろりと舌を出しその口元に気を取られていた飛雄馬の足の間に自身の膝を差し入れた。その腿で股間を押され、飛雄馬は眉間に皺を寄せる。
「もうきみのここは期待して大きくなっているようだが」
「ち、が……」
「違う?果たしてそうかな」
フフッ、と花形は笑みを口元に携えたまま飛雄馬の穿くユニフォームパンツのファスナーを下ろしていく。
「あ、あっ。花形……待っ、」
「この期に及んで待てと言うのかねきみは……」
顔を背けた飛雄馬の耳に口付けつつ、花形はその耳輪に舌を這わせ、その形を丹念に舌先でなぞった。
んんっ、と鼻に抜けるような声を漏らした飛雄馬の足の間から膝を抜いてから、彼の下ろしたファスナーの下、その更に中に穿いていたスライディングパンツの中へと花形は手を差し入れ、そこからやや膨らみかけつつあった逸物を取り出した。
それを下から掬い上げるようにして花形は掌で包み込んだまま、ぐにぐにと五本の指で揉みしだく。
すると、飛雄馬の男根は花形の手の中で徐々に充血し、固く大きくなってくる。
そうして腹に付くほど反り返った逸物を花形はしごいてやりつつ、羞恥に耳まで赤く染め、下唇を噛む飛雄馬の頬に手を遣り、花形は再び彼の唇に口付けた。
「は、ぁ……っく……」
逸物をしごいて、その鈴口を親指の腹で撫でてやると、飛雄馬は面白いように反応して、ビクッと体を跳ねさせる。花形はしばし飛雄馬の口内と、その唇を堪能したあと、彼から口を離すとふいに膝を曲げ、その場に跪いた。
急に己の臍下を弄る手が止まり、唇が解放され、何事かと自身の足元に跪いた花形を見下ろした飛雄馬だったが、その彼が事もあろうに自身の股間に顔を埋め、逸物を咥えたのだから堪らない。
「っ…………!?」
何をするんだ、と尋ねるべく飛雄馬は口を開いたが、その唇は言葉を紡ぐことはなく、花形の責めにより甲高い嬌声を上げる羽目となった。
花形は咥えた飛雄馬の男根の裏筋に舌を這わせ、窄めた唇で口に含んだままのそれをしごきにかかった。唾液を口いっぱいに溜めたまま、いやらしく音を立て、飛雄馬を責め上げる。
「はっ、はながた、さ……っ」
花形自身、男のモノなど咥えるのは初めてのことだったが、それは自身も男であるがゆえに、どこをどう責めあげ、舌を這わせ舐め上げれば心地が良いか、と言うことは熟知しているつもりであったし、現に飛雄馬もその通りにされ、全身を震わせ喘いだ。花形の口内で飛雄馬の逸物は更に固さを増し、熱く濡れた彼の口内粘膜に包まれ、次第に昇りつめていく。
「い、っ……で、る、っ……花形ァっ」
アルミ製のロッカーに背を預けるようにして飛雄馬は体を反らして、ビクン、ビクンと戦慄いた。
飛雄馬の逸物、その亀頭部位を音を立てて吸い上げつつ、花形は己の唾液に濡れた陰茎部分を右手で握ると上下に擦り立てる。すると、ものの数分もせぬ内に飛雄馬は花形の口内に精をぶちまけ、ああっ……と声を上げ全身を震わせた。
花形は飛雄馬の体液を全て口で受け止めると、立ち上がり彼のユニフォームパンツを留めるベルトを緩めると、そのまま下に落とした、穿いているストッキングのせいでふくらはぎでその落下は止まる。
そうして花形は掌に飛雄馬が出した体液と自身の唾液が混ざったものを吐き出して、荒い呼吸を繰り返す彼の足の間から手を入れ、その尻の窪みへとそれを塗り付けた。
「う、ぁっ……」
「興奮してだいぶ柔らかくはなっているようだね」
指で後孔を丹念に撫で回してから花形はその中心に指を忍ばせた。そうしてゆっくり奥まで飲み込ませてから、指を曲げ飛雄馬の反応が違う位置を探る。その粘膜を触る行為だけでも気分が余計に昂ぶって、飛雄馬は奥歯を噛んだ。
しかして、とある箇所を花形の指先が掠めたもので、飛雄馬は喉を晒して喘いだ。その様子を花形が見落とすはずもなく、彼はその位置を指先で優しく掻いた。
「は、ぁ、あっ」
達して、萎えつつあった飛雄馬の逸物も首をもたげ始める。飛雄馬は花形の背にしがみついて、声を上げる。すると花形は飛雄馬から指を抜き、彼の口に己の唇を押し当てた。舌で歯をなぞって、その唇を優しく咥えて吸い上げる。
かと思うと、彼の左足を持ち上げ、スパイクを脱がせてやると、そのまま片方だけユニフォームとスライディングパンツを引き抜いた。
「………」
飛雄馬の腰を引き寄せ、花形は彼のユニフォームとスライディングパンツのぶら下がる右足を自身の左手で抱えると、その足の中心に位置する後孔へ自身もまた、ユニフォームパンツの下ろしたファスナーの中から取り出した逸物を充てがう。
そうして、花形は亀頭をまずは飛雄馬の中へと埋めて、あとはゆっくりと腰を使って奥へと押し込める。
「あ、あ、ぐっ……」
粘膜を擦って、腹の中を穿つ圧に飛雄馬は顔をしかめ、目を固く閉じる。
根元まで挿入させて、花形は飛雄馬の左足をも抱えるとグッと下から彼の体を突き上げた。自重でより深く体内に花形が侵入してきて、飛雄馬は喉奥からくぐもった声を上げた。
「フフッ……いい顔だ」
「っ、誰が……」
ロッカーに背を預け、飛雄馬は花形の肩を掴んだまま彼に良いように突き上げられ、腹の中を抉られる。声を上げぬよう歯を食い縛る口からは唾液が溢れ顎を伝った。
「ふ、ぅ、あ……っ、はな、ぁ」
「どうされるのが星くんは好きかね……」
口付けつつ、花形は尋ねるが、飛雄馬は答えない。それならば、と花形は彼から逸物を抜いて足を床に下ろさせると、飛雄馬の左腕を右手で掴んで、そのまま前に引き寄せてロッカーから体が離れたところで握った左腕、その肩を左手で掴むや否やその手を前に押し出した。
飛雄馬の体は半回転して、そのままつい先程まで体を預けていたロッカーに顔からぶつかった。掴まれた左腕は己の背中に押し付けられている。
「星くん、腰を突き出して」
「な、にを言うんだ……」
「中途半端はきみも嫌だろう」
「い、嫌なもんか……」
震える声で拒絶の言葉を吐く飛雄馬の尻を撫で、花形は耳元で囁く。
「誰か来たら困るのはきみじゃないのか。一人で帰るということもあるまい。大方、伴くんが待っているんだろう」
「そう、っ……思うのなら、ここから引き上げてくれっ……」
「中途半端なのは嫌いでね。きみこそこんな状態で彼に会うのかい」
花形は言って、飛雄馬から少し体を離すと逸物に手を添え、彼の尻の割れ目へとそれを押し当てた。
「あ、ひっ……」
焦らすように割れ目のうえを花形は逸物でなぞる。きゅうっ、と飛雄馬の後孔が引き締まって、体の奥が熱く疼いた。中途半端なのは飛雄馬とて同じである。
ようやく体が馴染みかけたところで引き抜かれ、飛雄馬の粘膜は摩擦を待ち侘びる。と、飛雄馬は尻をゆっくりと花形の腰の位置まで突き出すような形を取った。
これは無意識の内だ。尻を男根で撫でられ、焦らされた飛雄馬は無意識のうちに花形を求め、その後孔を彼の目の前に晒した。
「………」
花形はぺろりと舌を出し、唇を舐めてから飛雄馬の腰に片手を添えると逸物を彼の尻へと挿入させた。今度は一気に奥まで突き込んで、花形は間髪入れず腰を振る。
「ん、ぁ、あっ――!!」
戦慄き、飛雄馬はぶるぶると全身を震わせた。ロッカーに手を付いて、飛雄馬は唾を飲み込み喉を上下させる。
飛雄馬の身につけているユニフォーム、打撃の神様と呼ばれた川上哲治が背負っていた16に花形は口付けると体を起こし、飛雄馬の尻を爪が食い込まんばかりに強く握って腰を穿つ。
あの星を、全球団打者たちが恐れ慄き、恐怖する星飛雄馬を、高校時代から、いや、小学生の時分からの好敵手として認めてきた彼を征服し、屈従させている。その事実に花形は身震いし、飛雄馬の背中をその掌で撫でた。
「い、っ……はなが、たぁっ……」
飛雄馬の膝がガクガクと震え出し、限界が近いことを知らせる。と、その刹那であった。廊下と控え室を区切る扉のノブが回り、ガチャガチャと鳴った。
いち早くその音に気付いた花形は弾かれたように顔を上げ、そちらを見遣る。
「星?おらんのか?」
ノブを回す人物は伴であった。
飛雄馬がいつまで経っても来ないことに痺れを切らしやって来たのであろう。扉に嵌まる明かり取りの窓には磨りガラスが使われており、互いに中の様子は見えないが、声だけははっきりと聞こえた。
「星」
「っ……伴?」
「フフッ、ナイトのおでましか。安心したまえよ。鍵は掛かっている」
言いつつ、花形は伴の登場に腰を穿つのを中断させていたが、ゆっくりとそれを再開させる。
「あ、ン……んっ」
小さく声を漏らしたものの、飛雄馬は口元に手を遣り、声を押し殺す。
「おっかしいのう。どこに行ったんじゃあ、星のやつう」
「………!っ、あ、あ」
その飛雄馬の様が面白くなく、花形は腰をぐりぐりと押し付けたまま身を丸め彼の逸物を握った。飛雄馬は後ろからと逸物からとの同時の責めを受けることとなる。
「や、やら………やだっ、はながた、」
「嫌?何が嫌なんだ」
「まったく、腹を空かせて待っとるっちゅうのに」
「伴……っ、ンんッ」
「星くん、きみを抱いているのはぼくだ、花形だ」
「あ、あっ、きもち、いっ……」
ビクッと飛雄馬は震え、そのまま身をよじり体を大きく戦慄かせた。
肩で大きく息をしている飛雄馬のことなど気にも留めず、花形は彼に欲をぶつける。
達したままの体をめちゃくちゃに嬲られ、飛雄馬は口元を押さえ、花形の腰遣いに酔い、頭が真っ白になるほどの快楽に身を委ねた。いつの間にか磨りガラスの向こうに伴の姿はなく、花形は額から汗を滴らせつつ、飛雄馬の中に欲を放った。
しばらく脈動が治まるまで花形はじっと待っていたが、飛雄馬から逸物を抜くと、そのままスライディングパンツとユニフォームの中に仕舞い込んだ。飛雄馬は支えを失ったように、その場に膝を付き、そのままぺたんと両手をも床に付いた。
「………」
「気は済んだか」
「星くん」
「負けたからって、こんな、こんな仕打ち」
「そうじゃ、ない。そんな卑怯な真似をこの花形がすると思うか」
「それじゃあ、なぜ」
飛雄馬は涙の雫を床に落としつつ訊いた。花形は一度口を開きかけたが、すぐに唇同士を摺り合わせ、床に置いていた鞄を手にその場を立ち去る。
「……また、球場で」
飛雄馬は黙ったままだ。
花形は鍵を開け、廊下に出ると帰宅するため長い廊下を歩んだ。途中、伴宙太とすれ違い、飛雄馬のことを訊いてきたが、花形は一人道を行く。誰とも特別馴れ合わず、星飛雄馬を倒すことだけにぼくは血力を注いできた。
帽子を一度取って、花形は額の汗を拭うと再びそれを被り直す。汗が目に染みて、痛みを覚え花形は足を止め目を擦る。
ああ、いつか、いつかぼくがあの魔球を見事に打ち据えたら。そうしたらぼくは………
花形は帽子を深く被り直して首を振る。そんな花形をぽかあんと見送りつつ伴はおかしなやつじゃのう、と首を傾げながら再び選手控え室の前に来ていた。
先程と同じように扉をノックし、ノブ握ってそれを捻る。すると先程は鍵が掛かっていたと言うのに、今度はすんなりと回って扉が開いた。
中には飛雄馬が一人、着替えを済ませベンチに座っているではないか。
「星!なんじゃい、おったのか。さっき来たときには何の応答もないからどこに行ったんだと探したぞい」
「……伴」
項垂れていた顔を上げ、飛雄馬は室内に入ってきた伴を仰ぐ。その顔が、その瞳が涙に濡れ、妙に色っぽいのに伴は何事か、と後退って扉にドンと背をぶつけた。
飛雄馬はふらふらと立ち上がって、彼のそばまで歩み寄ると両手を差し出してその体に抱き着いた。
「ほ、星っ!?」
驚き、声を上ずらせた伴の唇に飛雄馬は自身のそれを強く押し当て、目を閉じる。一瞬にして腕を回す伴の体温が上がったのが飛雄馬にも感じられた。
「っ、く………」
そろりと遠慮がちに口内に滑り込んできた伴の温かく柔らかで優しい舌の愛撫を受けながら飛雄馬は彼の背に縋る。
あの唇を、あの肌を、あの熱さを忘れるべく。上書きしてもらうために。
ああ、けれどもどうして、閉じた瞼の裏に浮かぶのはあの人の顔なのか――
飛雄馬は肌をまさぐる指の熱さに集中するべく目を閉じ、目の前の愛しい男の名を呼びつつ熱を孕んだ吐息を口から吐く。
「……星よ、お前何か隠しとらんか」
「……隠す、何を?」
鋭く図星を突かれ、飛雄馬は目を細める。
「……気のせいならええんじゃが。さっき廊下で花形とすれ違った。それだけじゃのうて、やつは巨人軍の選手控え室のある方向から歩いてきたんじゃあ」
「はな、がたさんが?」
「……………」
「あいにく、おれはずっと一人でここにいたからな」
「そうか、それなら、ええんじゃい」
そうとだけ言うと、伴は一度飛雄馬の体を強く抱き締めてから、帰ろう、と小さく呟く。ああ、と飛雄馬も返事をしながらその背に回した手に力を込める。
そうして、その腕に抱かれつつも、やはり頭に浮かぶのは花形のことで飛雄馬は眉間に皺を寄せ、その顔を、与えられた熱を忘れようと首を振る。その様は伴の肩に顔を埋め、擦り付ける形となって、伴はより強く飛雄馬の体を抱いた。
いっそ、このまま、花形さんの痕跡の残る体ごと抱き潰してくれたらいいのに、と飛雄馬は呼吸も満足にできないほど抱きすくめられたままそんなことを一人、伴に悟られぬよう、思った。