返事
返事 「ふぅむ、それにしてもすごい数じゃのう」
テーブルの上に置かれたハガキの1枚を手にすると、伴はそれをしげしげと眺めた。
「ふふ。嬉しいことではあるが、返事をするのもなかなか大変だ」
言いつつ、飛雄馬は左肩を揉みながら、首を左右に傾けることを数回繰り返す。
伴が手にしているハガキやテーブルの上に並べられている封書たちはすべて星飛雄馬宛のファンレターであり、飛雄馬はこうして空き時間を使い、思いの丈を綴ってきた少年少女らにせっせと返事を書いている。
今日は試合がないために暇を持て余している伴も飛雄馬のマンションを訪ねて来ており、作業が終わるのを雑誌などを読みつつソファーに腰掛けてはじっと待っている状態だった。
「しかし、住所書きくらいは手伝ってもいいんじゃないかのう。ボールの投げすぎでのうて、字の書きすぎで腱鞘炎になるぞい」
「いいや、子供たちは全部自分の字で書いてきてくれたんだから、おれもちゃんと自分の手で書かなきゃダメだろう」
「そういう、もんかのう」
「そういう、ものさ」
飛雄馬は再び、ペンを手にするとテーブルの上に置かれた便箋に書かれた文を見つめてから、その隣に並ぶ真っさらなハガキにその返事を書き記していく。
律儀というか、くそ真面目と言うかと伴は真剣な面持ちでハガキと向き合う飛雄馬の後ろ姿をソファーに座ったまましばらく見つめていたが、ふいに彼が座る絨毯敷きの床の上に自身も腰を下ろすと、その体を背後からぎゅうと抱き締めた。
「伴、変な真似はよせ。まだ書いてる途中だぞ」
そうは言いながらも飛雄馬も満更でもない様子で、クスクスと笑みを溢す。
「せっかく親友の伴宙太が久しぶりに会いに来たっちゅうのに星のやつときたらハガキとにらめっこときたもんじゃい。そりゃあちょっかいも出したくなるわい」
「これを書いたら構ってやるから少し待ってくれ」
「さっきもそんなことを言ったじゃろう」
「キリがいいところまで終わらせたいんだ。せっかく返事を待ってくれているのに待たせたら申し訳ないじゃないか」
「まったく。星のキリがいいところを待っていたら朝日が昇るわい」
飛雄馬を抱き締めた腕を緩め、伴はぷいと顔を背けた。
「これを書いたらひとまず終わるから……ええと、北海道からか……」
星には付き合いきれんわい、と伴は肩を落とし、宛先を間違わぬように神経を尖らせる飛雄馬を後ろから眺める。
それが星の良いところでもあり、ちと気になるところでもあるんじゃが、と伴が大きな溜息を吐いたところで、飛雄馬はペンを置き、後ろを振り返る。
「待たせて悪かったな。ふふ、腹が減ったろう。出前でも取るか?どこか食べに行くか」
「…………」
振り返った飛雄馬の体を伴は改めて抱き締め、疲れたじゃろう。しっかり休め、と彼を労う言葉をかけた。
「伴……」
「作業の邪魔をして悪かったのう。いや、なに、ここのところ、ちゃんと話もしていなかったと思ってな……星が絶好調で相手打者をきりきり舞いさせ、森さんと上手くやれているのならおれが出る幕はないんじゃが」
「…………」
半ば、照れたような笑みを浮かべつつ、そんな言葉を吐く彼の顔を飛雄馬は瞳に映し、ぐっと唇を真横に引き結ぶと、伴の首へと抱きつくように腕を回す。
「あ、う……!?ほ、し?」
「伴っ……」
緩く口を開き、飛雄馬は伴の唇にかぷ、と噛み付くように口付けを与えて、彼の名を熱っぽい声で呼んだ。
「星、煽るな……ただでさえ、そんな」
「……煽るも何も、誘ってるんだぜ、こっちは……」
恥ずかしそうに口をもごもごとやる伴の唇に吸い付き、飛雄馬は彼の首に回す腕の力を強める。
「っ、星……取り返しが、つかんように、なるぞい」
「伴だって、そのつもりで来たんだろう」
「う、ぐ……」
熱を孕む潤んだ瞳を向けられ、伴はたじろぎ、飛雄馬から視線を逸らす。
「ど、ど、どう、なっても、知らんぞい」
「ふふふ………っ、ぅ」
取り乱した表情があまりに滑稽で、思わず吹き出した飛雄馬の着ているタートルネックのセーターの裾から手を入れ、伴は直接、目の前の彼の素肌に指を滑らせる。
少し乾いた、大きな指が背中を撫で、うっ、と小さく呻いた飛雄馬の唇へと伴はそっと口付けを与えた。
「ん………ん、」
ぬるっ、と唾液に濡れた舌が口内に入り込んで、飛雄馬の舌に触れる。
ほんの少し飛雄馬が舌を突き出せば、伴はそれに応えるように舌を絡めてきた。
幾度となく、顔の角度を変え、互いの唇の熱を貪り合い、ふたりは体をその心地良さに震わせる。
伴は飛雄馬の着ているセーターをまくり上げ、その腹から胸までを露わにすると、一度唇を離し、中に着ているタンクトップごと引き抜きにかかった。
「あ、っ……」
伴の首に回していた腕が離れ、あっという間に上半身を裸に剥かれた飛雄馬の心臓が跳ね上がる。
「まったく、顔や腕は日に焼けて真っ黒だっちゅうのに腹や背中は相変わらず白いままじゃのう」
「それは伴だって、お互い様だろう……」
苦笑し、飛雄馬は再び伴に口付けをせがむ。
それに応えてやりながら、伴は飛雄馬の背中に腕を回すと、彼の体をテーブルにぶつからぬよう、ゆっくりと絨毯敷きの床の上に横たわらせた。
「伴……下、脱がしてくれ。さっきから、立ちっぱなし、で」
「おう……」
頷き、伴は飛雄馬の身につけているスラックス、それを留めるベルトを緩めると、腰を浮かせている彼の足からそれらを引き抜いた。
刹那、ぷるん、と既に勃起している飛雄馬の男根が現れ、その鈴口から溢れた透明なカウパーと下着とが一瞬、糸を引く。
かあっ、と飛雄馬の頬が赤く染まり、恥ずかしそうに目を伏せた。
「…………」
伴は緊張からかやたらと目を瞬かせ、飛雄馬の閉じ合わされた唇に口付けを与えつつもその下半身、屹立した男根に手を遣りぬるぬるとそれをしごき始める。
「ア…………っ!」
びく、っと体を震わせ、飛雄馬は背中を反らす。
加減が分からぬのかやたらに強く男根を握り上下にそこを擦る伴の与えてくる快感と絶妙な痛みとが絡み合い、飛雄馬を昂らせる。
全身が熱くなって、閉じたまぶたの縁にじわりと涙が浮かぶ。
「ば、っ……出……ン、ン」
呻くが早いか、飛雄馬はドクッ、と自身の腹に白濁を飛ばし、絶頂の余韻に震えた。
熱く火照る男根からの快感の波が全身に走り、飛雄馬は口で呼吸をすることを繰り返していたが、ふいに伴が自身の両足を割るようにしてその間に膝を置いて来たためにハッ、と閉じていた目を開ける。
「星……」
囁くように名を呼び、伴は飛雄馬の右足の膝を立たせつつ、その腿を優しく撫でた。
「…………っ、」
飛雄馬は己の左足もまた、自身の方へと引き寄せてから伴を受け入れる体勢を整えてから息を吐き、呼吸を整える。
そうして、上体を起こし、何か潤滑剤代わりになるものはないかと伴が辺りを見回したところ、飛雄馬がハガキや封書を並べていたテーブルの上にあったハンドクリームの容器が目に入った。
一際、手指の保護や肌の荒れには気を遣う投手である飛雄馬が使用しているもので、伴はそれを手にすると蓋を開け、中身を指で掬い取る。
たっぷりと取ったそれを伴は飛雄馬の尻、その中心へと塗布し、ヒクヒクと戦慄く孔を刺激に慣らす。
「あ、う……」
入れるぞい、と伴は小さな声で呟いてから、飛雄馬の中へと中指を滑らせる。
ぐぐっ、と飛雄馬は背中を反らし、粘膜を押し広げる伴の指に意識を集中させた。
「痛くはないか?」
伴が優しく問い、飛雄馬は頷くと奥歯を噛み締め、腹の中を探る指からの刺激で再び自身の男根が熱を持つのを感じる。
くちゅ、くちゅとクリームを纏った指を出し入れし、飛雄馬のそこを伴は解していく。
「ふ……あ、ぁっ……伴、もっと、奥……」
「…………」
言われ、伴は飛雄馬の入り口を解すことを中断し、指を根元まで彼の中に挿入すると、その指先で内壁を撫でる。
関節で指を曲げ、飛雄馬の反応を見ながら探る位置を変えていると、ふいに組み敷く彼がビクン、と体を震わせた場所があって、伴はここか、とそこに指を当て、粘膜を押し上げてやる。
あっ!と大きな声を口から漏らし、飛雄馬は涙に濡れた瞳を伴へと向けた。
「ここじゃな」
「いっ……」
ゾクゾクとした感覚が背筋を駆け上がり、飛雄馬はその末恐ろしいほどの快楽に口を塞ぎ、ただただ酔う。腹の奥が疼いて、腰が震えた。
続けざまに人差し指を伴は飛雄馬の中に飲み込ませ、今度は2本の指でそこを撫で回す。
「あっ!あ、あ……っ!」
ゾクゾクと背筋を張っていた感覚が強くなり、甘い痺れが飛雄馬の全身を包む。
「っ、星……」
「伴、きて……ほしい……」
伴の指を締め付けつつ、飛雄馬は彼を呼ぶ。
えっ?!と伴は上ずった声を上げたものの、ゴクン、と唾を飲み込んでから飛雄馬の中から一度、指を抜くと膝立ちになり、自身の穿くスラックスのベルトを緩めた。
と、飛雄馬は今まで背中を床に預けていたが、ふいにその場で寝返りを打ち、うつ伏せの格好を取る。
「な、っ、星?」
「はやく……伴」
「は、早くと言われても、その、あの……んん」
何やら口ごもっていた伴だが、うつ伏せの体勢を取った飛雄馬の腰の下に手を入れ、四つん這いのような格好を取らせると、その白い尻に自身の腰の位置を合わせ、そそり立つ己を入り口へと宛てがった。
ぶるっ、と飛雄馬は尻に当てられた熱さに身震いして、伴の視線の集まる窄まりをキュンと戦慄かせる。
すると、伴は飛雄馬のそこに手を添えた男根をゆっくりと腰を押し付けるようにして飲み込ませていく。
「あ……あ、っ」
再び、腹の中を押し広げていく感覚が蘇って、飛雄馬は頭を俯け、絨毯に頬を擦り寄せる。
「相変わらず、あ、っついのう……星の中は」
言いつつ、伴は飛雄馬の中に自分をゆっくりと挿入させ、彼の腹が馴染むのを待った。
普段とは違う角度で腹の中に収まる伴の熱に飛雄馬はそれだけで気を遣りそうになるのを堪え、目を閉じ、ぎゅうっと絨毯の上で拳を握る。
と、伴は腰を引いたかと思うと、飛雄馬の尻に自分の腰を打ち付けた。
伴からしてみれば大したことのない動きであろうが、彼の体重の乗った腰でいきなり体を貫かれ、飛雄馬は悲鳴を上げる。
「ひっ……!」
「気持ち、ええか……星……」
「ちっ、ちが……ァっ!あ、ばか、っ!」
顔が見えないせいか、声で判断するしかなく、悲鳴を上げた飛雄馬の声を快楽のそれと勘違いしたか、伴はゆっくりとではあるが腰を打ち付け始めた。
伴の体重が乗った腰がガツガツと尻を叩いて、飛雄馬は呼吸することもままならぬまま、目の前に散る閃光を見た。
四つん這いの格好を取る飛雄馬の膝が笑い、まともに体重を支えきれなくなる。
「まっ、た……伴、待て、しっ……くるしいっ」
やっとのことで声を上げた飛雄馬だったが、強い刺激に耐え兼ね、膝が滑り、今度こそうつ伏せの格好を取った。
それに伴い、伴も飛雄馬の腰の位置に合うように身を屈め、体重を乗せてくる。
「うあ、あっ、ば……」
腰をくねらせ、伴は飛雄馬を組み敷いたまま、彼の腹の中を抉る。
じゅぷ、じゅぷと伴が腰を動かすたびにクリームが解け、結合部からはそんな音が上がった。
腹の中を鋭い角度で穿たれ、飛雄馬は絨毯に頬をすり寄せたまま、はしたなく声を漏らす。
伴の腰が動くたびに下敷きになっている男根もまた刺激を与えられ、気が狂わんばかりの強い恍惚感を飛雄馬は感じる。
「星……星っ」
「あっ……伴、やめっ、これ、以上、んあ、あっ!」
絶頂が近いか、伴は腰を叩く速度を速め、より深く飛雄馬の中を抉ってきた。
最早飛雄馬の口から漏れる声は声にならず、虚ろな瞳を涙で濡らすばかりで、少しでもこの刺激から逃れようと腰を動かす様がまた裏目に出て、伴をきつく締め付ける。
「………ひ、ぐ、っ……ん、ん」
きゅうっ、と伴を飛雄馬は締め上げ、射精を促した。
「うっ……」
呻いて、伴は飛雄馬の中にありったけの欲を吐き出す。
腹の中で脈動する男根の感覚に飛雄馬は唇を噛み、彼もまた全身を震わせた。
そうして、伴は飛雄馬の中から己を抜き取り、そこでやっと彼を解放する。
とろっ、と飛雄馬の尻からは伴が男根を抜く際に掻き出した白濁が溢れ、そこを滴り落ちた。
「……………」
飛雄馬は絨毯の上にうつ伏せたまま、伴がティッシュを取り、後処理をしている様子を耳で聞いている。
「星、どうした?返事の書き過ぎで疲れたか」
「……伴よ、きみは友人思いではあるが、頭に血が昇ると周りが、見えなくなるのが悪い癖だ」
掠れた声で皮肉を口にしつつ、飛雄馬は天井を仰ぐように寝返りを打つと、大きく溜息を吐く。
「む、それは、すまなんだ……気を付けよう」
「きみのせいで腰が立たなくなった。明日の先発はおれだと聞いていたのに」
「げっ!」
「……だから、やめろと言ったのに」
ふふ、と飛雄馬は笑みを浮かべ、そこでようやく体を起こす。
青い顔をして目を白黒させている伴を尻目に飛雄馬は尻を拭い、下着を穿く。
まったく、すぐ調子に乗るんだから、と飛雄馬はタンクトップとセーターを身に着けつつ、苦笑する。
「あの、その、星、おれ」
ぷっ、と飛雄馬が吹き出し、嘘だと言うと、伴は泣きそうな顔をして、よかった!と変に裏返った声を上げた。
「伴を見ていると飽きんな」
飛雄馬は再びテーブルに向かい、ペンを取るとまた新たなハガキを手にする。
と、玄関先で鍵を開ける音が響いて、明子の帰宅をふたりに知らせた。
このとき、飛雄馬は下は下着1枚に上はセーターと言う奇妙な格好をしており、帰宅早々明子にきゃあ!と悲鳴を上げられ、コーヒーを溢して、それでと伴とふたりして苦しい言い訳をする羽目になったことは、言うまでもない。