破綻
破綻 「それで伴のやつ、血相変えて走って行っちまってさ」
飛雄馬はふふ、とその時の様子を思い出しながら豆腐とわかめの入った味噌汁を啜る。
この味噌汁を作ってくれた姉・明子は不在の夕餉。
町内会の寄り合いがあるとかで大急ぎで買い物を済ませると、彼女は夕食を作ってから弟と父を残し長屋を出て行ってしまった。
飛雄馬が宿題を済ませ、父・一徹に夕飯にするかい?と訊くと、うむ、と短く返事が返ってきたために作ってあった味噌汁と煮物の鍋を火にかけた、それがつい、数十分前のことになる。
飛雄馬は久しぶりに大好きな尊敬する父とふたりきりになれたことが嬉しく、食事中にも関わらず饒舌に親友・伴のことを語る。
しかして、その楽しい夕餉のひとときも、今まで黙って話を聞いていたかに思われた父が手にしていた箸をちゃぶ台に叩きつけるように置いたことで終焉を迎えた。
「………!」
さあっ、と飛雄馬の全身から血の気が引く。
食事中にべらべらとおしゃべりをするものではないと小さい頃から言われていたことを、飛雄馬は今更になってようやく思い出す。
まずい。
とうちゃんをなだめてくれるねえちゃんも今はいない。
久しぶりにふたりっきりになれたことでつい、有頂天になってしまった──。
「飛雄馬よ、その口ぶりだとおまえは野球をしに青雲高校に行っていると言うより、あの伴宙太という男に会いに行っとるようにわしには聞こえるぞ」
一瞬、飛雄馬は一徹の言葉に面食らい、目を見開いたまま固まったが、すぐにかあっと日に焼けた頬を赤く染めた。
「そ、そんなわけ、あるもんか。おれはとうちゃんの夢を──」
「最近、口を開けばあの男のことばかりで……フフ。耳まで真っ赤にしおって、そんなに好きか、あの男が」
「…………」
違う、とも、そうだ、とも飛雄馬には言えなかった。
事実、伴宙太という男は飛雄馬にできた初めての友人であったからだ。
幼少期から着用することを強いられてきた養成ギブスのおかげで周りからは気味悪がられ、学校が終わるとすぐに帰宅することを義務付けられてきた。
野球をすることだけは許可されていたから、少年草野球チームの助っ人として腕を買われ、駆り出されることはあったが、それでも、周りと話が合わず遠巻きにされることが多々あった。
野球に対しては譲れないものがあったし、この左腕なら誰にも負けないという自負もあったことから、天狗になっていた部分も少なからずあろうが、誰かと学校終わりの放課後に鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでみたかったし、そんな子供らしい生活に憧れもあった。
そんな父とふたりだけの野球──その暗く重い閉塞を破ってくれたのが伴宙太という男で、飛雄馬は初めて他人に自分のことを話した。
伴はどんな話でも頷いて聞いてくれたし、時には励まし、共に泣いてくれることもあったし、あの大きな口を更に開いてげらげらと笑ってくれることもあった。
それが無性に嬉しくて、楽しくて──。
だからこそ、伴に会いに行っているのだろう、という一徹の言葉を飛雄馬は否定できなかった。
しかして、青雲高校に通う1番の理由は父と仰いだ巨人の星になるという夢を叶えるために、まずは甲子園に出場するためだ。
おれはそんなに浮ついていただろうか、と飛雄馬は正座したまま、左右の膝をそれぞれの手で掴むと頭を垂れる。
「もう、どこまで済ませた?ふふふ……口付けは交わしたか、それとも」
「なにを、ばかな……おれは、伴とは、そんな……」
父の──一徹の言葉に飛雄馬は額に汗を滲ませる。 伴はそんな、そんなことは、おれにはして来ない。
してくるはずがない、おれと、とうちゃんの世界に彼を巻き込んではいけない。
「飛雄馬よ、お前という存在は他人を狂わせる。現に、伴にも己の昔話を語って聞かせたじゃろう。同情させて取り込む腹づもりで」
「ちが、う……ちがう!そんなつもりでおれは、おれは捕手を務めてくれる伴と距離を縮めたくて──とうちゃんだって言ったじゃないか!野球はひとりでするものじゃないって」
顔を上げ、飛雄馬は必死に弁解した。
伴を守らなければ。
彼は、彼だけは失いたくない。
「ほう、口答えするか。男を知るとここまで変わるか」
「ちがうったら!おれは、おれはとうちゃんだけ──」
言いかけ、飛雄馬はハッ!と口を手で押さえた。
瞬間、背中にどっと汗が吹き出す。
「わしとだけ、なんじゃ」
「っ、とうちゃん、もう食事中の最中に話したりしない。伴とも野球に関係ないことは話さないようにする。だから、もう、この話は終わりにしてくれ」
一徹から視線を逸らし、飛雄馬は震える声で言葉を紡ぐ。
すると、いつの間に距離を詰めたか一徹が飛雄馬の逸らした顔、その顎から頬にかけてを掴むと、己の瞳を見るように強引に彼を上向かせた。
「お前は誰のものじゃ、言うてみい」
「うっ……っ、おれは……」
誰のもの、だって?
おれは、ものなのか?
おれは、自分の意志で誰かと付き合い、自分の足で歩くこともできない人形なのか?
飛雄馬の顎を掴む一徹の手に力が篭る。
「飛雄馬」
「おれは、っ……とうちゃんの……」
飛雄馬の頬に一徹の指がギリギリと食い込んだ。
認めたくない。
おれは、ものじゃない。
とうちゃんのことは好きだ。
誰よりも尊敬しているし、とうちゃんの夢を叶えてやりたいと今でもそう、思っている。
けれど、おれは、伴に出会ってしまった。
「…………」
「とうちゃ………っ、う!」
顎に食い込む指の痛さに耐えかね、喘いだ飛雄馬の口を塞ぐように一徹は彼の唇へと己のそれを押し当てる。
顎を掴まれているため、逃げることも敵わず飛雄馬は一徹を受け入れ、呼吸を奪われることとなった。
「いっ、いやだっ!とうちゃん!なんで……!」
飛雄馬の顎から手を離し、一徹は飛雄馬の帰宅したまま、着替えていない制服、白いワイシャツの胸倉を掴むとそのまま力任せに体重をかけ、畳の上に押し倒した。
倒れた衝撃でちゃぶ台の上にあった箸が転がり、畳に落ちた。
一徹が力任せに引っ張ったワイシャツのボタンが弾け、それもまた畳の上に落ちて、ころころと辺りを転がる。
「う、ぐっ……」
固い畳に受け身も取れぬまま頭を強かぶつけ、呻いた飛雄馬を労ることもせず、一徹は再び組み敷いた息子の唇に口付けを与えた。
「はぁ、っ、……」
ああ嫌だ、彼の顔がちらつく。
飛雄馬は一徹の口付けを受けつつ、眉間に皺を寄せる。
なぜ、とうちゃんはおれに『これ』を強要するのか。
おれはとうちゃんの『慰みもの』なんだろうか。
おれはとうちゃんの夢を叶えるためのもので、とうちゃんの欲を解消するもの、なんだ。
おれは意思などは持ってはいけないんだ。
おれは、とうちゃんの言うことだけ聞いていればいいんだと、そう、思うのになぜ、脳裏にちらつくのは伴の顔なんだろう。
「っく……」
飛雄馬の首筋の薄い皮膚を強く一徹が吸い上げ、肌が内出血を起こした微かな痛みがちりちりと脳を焼く。
抗ってはいけない。
そうすれば、もっとひどいことになる。
大人しくしていれば、黙って身を委ねておけばいつの間にか終わっていることだ。
そう、思っていても首筋を這う舌の感触、そのおぞましさに飛雄馬の肌は総毛立つ。
一徹は飛雄馬の肌を軽く啄みつつ、シャツの弾け飛んだボタンの残りを外すと、黒の制服のスラックスからタンクトップの裾を引き出し、そこから中に手を差し入れた。
ささくれた一徹の指先が腹へと引っかかり、その指が肌の上を滑るたびに飛雄馬は小さく身を震わせ、身をよじる。
「ん、ん……」
タンクトップを手でずり上げるようにしながら一徹は飛雄馬の腹をさすり、指先で撫で、ついには現れた突起に触れた。
ビク!と体が大きく跳ね、飛雄馬は思わず口に手を遣る。
指先で突起を小さく掻かれ、その刺激が飛雄馬の下腹部を疼かせた。
ぷくんと膨らみ始めたそれを一徹は親指と人差し指で抓むと指の腹同士を擦り合わせるようにして突起を愛撫する。
「ふ………っ、っ!」
背を反らし、飛雄馬はあまりの刺激に身を強張らせる。
一徹は突起の片方をそうして弄びながら、もう一方の乳首には口を付け、緩く吸い上げた。
ビリビリとした強い快楽のそれが全身を貫いて、飛雄馬は閉じたまぶた、その目尻から涙を一筋、こめかみへと滴らせる。
体が熱く火照って、頭が真っ白になって思考が鈍っていく。
ちゅう、と一徹は音を立て、飛雄馬の突起を強く吸ってからそれを舌先で撫で回した。
「…………!!」
目の前に火花が散って、飛雄馬は体を大きく反らす。
張ったスラックスの前がじんじんと痛んで、熱く脈打っている。
「あの男が星飛雄馬のこんな姿を見たら、どう思うじゃろうなあ」
「っ………ぅ、あっ」
「飛雄馬はわしだけを見ておればいい。常に、この父を」
一徹は白い腹に口付けつつ、飛雄馬の穿くスラックスのベルトを緩めるとそのボタンを外し、その下にある下着の中へと手を滑らせた。
と、すでに溢れた先走りのせいでぐちゃぐちゃに濡れていた男根が指先に触れ、一徹はにやりと微笑むとそれを握り、ゆるゆるとしごいていく。
「あ、っ、ああっ」
飛雄馬の腰が大きく跳ね、全身に力が篭もる。
一徹の手は巧みに飛雄馬を絶頂へと誘い、息子に声を上げさせる。
「飛雄馬よ、口から手を離せ」
「ふ、ぅ、うっ………」
いやいやをするように飛雄馬は首を左右に振り、己の口をしっかと掌で覆った。
この声を、我慢することが己の自尊心を守るものだと思ったからだ。
ここで父の言うとおりに手を離し、感じるがままに声を上げてしまっては、彼に合わせる顔がない、と。
「…………」
一徹は飛雄馬のまさかの反応に眉をひそめたが、口を開くことはなく、代わりに男根から手を離すと無理やりに穿いているスラックスと下着とを剥ぎ取り、膝を立たてからその足を大きく左右に開かせた。
「…………!!」
ひやりとした畳の目が肌に触れ、飛雄馬は一徹から逃げるよう尻の位置を変える。
「わしの飛雄馬は、言うことを聞かん悪い子ではなかったはずじゃが」
「っ、っ…………」
一徹の声に飛雄馬の腹の中が鈍く疼いた。
言うことさえ素直に聞いていれば、とうちゃんは優しい。
おれさえ、我慢すれば伴は守れる。
そうして飛雄馬は一徹が膝立ちになり、彼が穿いている着古したズボンの開いたファスナーから男根を取り出すのを見た。
飛雄馬は思わずそれを目の当たりにして、ゴクンと喉を鳴らす。
──どうしておれは、とうちゃんが来てくれることを待ち侘びているんだ。
おれは、とうちゃんの言うとおり、本当に…………。
飛雄馬の尻の中心に、一徹は何やら指で塗りつけると、そこを解していく。
窄まりを優しく撫でられ、飛雄馬は立てた膝をふらふらと揺らした。
「中途半端はお前も辛かろう。何をしてほしい。お前の口から言うてみい」
言いながら一徹は飛雄馬の腹の中へと指を滑り込ませる。
「っ、う……」
躊躇なく一徹の指は飛雄馬の奥へと進んで、第二関節を曲げて触れる位置を指の腹でくすぐるように撫でた。
「ここじゃろう。お前が好きな場所は」
一徹が指を小刻みに動かすたびに飛雄馬の体が戦慄き、中途半端に終わられた男根からはつうっと透明の液体が滴り落ちる。
「あう、ぅっ」
口を覆う手に力を込めることで飛雄馬は堪え、目を固く閉じた。
あと少し、あとほんの少しだけ深く腹の中を抉ってくれたら。
飛雄馬は無意識に一徹の指の位置を変えようと腰を揺らす。
「腰を揺らして物欲しそうにしおって、ふふ、あやつにもそうしてねだったか」
カッ、と飛雄馬は頬を染め、涙で潤む目で一徹を睨んだ。
「なに、お前がどんなに嘘をつこうと体に訊けばわかることよ」
言うと、一徹は指を抜いて、飛雄馬の右足を左手の脇に抱えると解したばかりのそこへ己の怒張を押し当てる。
「あ、っ……いやだっ!とうちゃん!他にどんなことでもする、何でも、っ──〜〜!!」
ぎょっとして飛雄馬は口から手を離し、やや体を起こしながら一徹にそう、涙ながらに訴えたものの、彼のそれは何のためらいもなく息子の体を貫いた。
一徹の怒張は飛雄馬の粘膜を掻き分け、己の形をそこに覚えさせながら奥へと進んでいく。
逃げる飛雄馬の体を押さえ込み、腰を押し付けながら一徹は組み敷く彼の名を呼ぶ。
「あっ、あ…………あ、」
痛みゆえか、それともこれから与えられるものへの恐怖か、飛雄馬は歯を微かにカチカチと噛み鳴らしながら父を受け入れる。
飛雄馬の体内にすべてを埋めてから、一徹は己の男根に体の中心を貫かれ、苦悶の表情を浮かべている息子の姿を見下ろした。
次第に腹の中が馴染んでいき、飛雄馬の表情もゆっくりと解れていく。
と、それを見計らい、一徹は1度男根を抜けるギリギリまで引き抜くと、強く飛雄馬の奥を抉るよう己の腰で彼の尻を叩いた。
「あ、ぐ…………ぅっ!」
指がもどかしげに撫でていた位置を一徹のものが擦り上げる。
腰をがつがつと打ち付けるたびに一徹のそれは飛雄馬の腹を擦り、抉っていく。
死ぬ、死ぬと飛雄馬は声を上げ、一徹の腕に縋る。
古い長屋の部屋がぎしぎしと軋み、ちゃぶ台の上に乗っていた塗り箸が転がり落ちた。
腰を激しく穿ちながら一徹は身を屈め、飛雄馬の乳首に吸い付き、その突起を尖らせた舌先で舐めあげる。
すると飛雄馬は一徹をきつく締め上げ、ビクビクと痙攣した。
しかして一徹は飛雄馬の絶頂を迎えた痙攣が治まるのを待ってから、再び腰を叩きつける。
「とうちゃ……ぁ、あっ!こわれ、っ、こわれる、死んじま、ァあっ!」
ほとんど悲鳴にも近い声を上げ、飛雄馬は全身に汗を光らせる。
腰をぐりぐりと回され、中を掻き乱されて飛雄馬は2度目の絶頂を迎えた。
「ひ、っ、ぐ………ぅ、うっ!」
汗と涙でぐずぐずになった顔を晒し、飛雄馬は一徹の出した欲を体内に受け止める。
「飛雄馬……」
唇の端から垂れた唾液を舐め取ってやってから一徹は飛雄馬の唇に口付けると、溜めた唾液を彼の口内に流し込んでやった。
コクリ、と小さく飛雄馬の喉が動いて、離れた唇からは微かに熱い吐息が漏れた。
飛雄馬は一徹が己から離れ、咥えた煙草に火をつけたかマッチを擦る音を、頭が未だぼんやりとしているせいでどこか遠くで聞いたような錯覚を覚える。 自分の火照った体温のせいでぬるく熱を持っていた畳が背中の下でゆっくりと冷えていく。
ああ、ほら、大人しくしておけば何事もなく終わらせることができた。
おれはこれで、明日から何食わぬ顔をしてまた伴と友達でいられるんだ。
飛雄馬が目を閉じ、親友のことを思い描いていると、髪を撫でられ、ギクッ!と身を強張らせてから目を見開いた。
頬を張られるかと身構えたものの、手が飛んでくることはなく、飛雄馬はほうっと息を吐いてから、「おれはとうちゃんがいちばんすきだよ」と、髪を撫でる父の手に己の手を添えつつ微笑む。
「……………」
一徹は指に煙草を携えたまま、飛雄馬の唇に己のそれを押し当てる。
煙草の苦い味を舌に受けつつ飛雄馬は、閉じたまぶたの裏で瞳に涙を滲ませた。