白昼夢
白昼夢 耳にぬるりと濡れた感触が触れて、飛雄馬ははっと目を覚ます。
練習が終わり、グラウンドで伴と別れた飛雄馬は自宅マンションに帰ってからシャワーを浴び、汗を流すとベッドに顔から突っ伏したところでぐっすりと寝入ってしまったのである。
と、何やら背後に人の気配があって、伴?と飛雄馬は寝惚けた声を上げた。
大方、彼が訪ねてきてちょっかいをかけてきているのだろう、と飛雄馬は枕に顔を埋め、ふふっと笑う。
しかして、ふと香った匂いがいつもの彼のものとは違うことに違和感を覚え、飛雄馬が枕から顔を離し、背後を振り返ろうとしたところに腹を撫でるくすぐったさにビクンと身体を跳ねさせた。
「っ、ん………」
「目が覚めたようだね」
冷ややかな声が降ってきて、飛雄馬はやっとそこでベッドに突っ伏す自分の上に乗る男の正体に気が付く。
「はな、がたさ………」
「ふふっ……」
花形──と呼ばれた男は飛雄馬の着ているシャツと下着の中に入れた手で彼の背をなぞる。ゆるゆるとそれらをたくし上げるようにしながら飛雄馬の白い背中を蛍光灯の下に晒していく。
「あ、う………ぅ」
普段はユニフォームとアンダーシャツに隠された日焼けあとのないまっさらな肌が花形の眼下に露わになる。
うつ伏せのまま両手で抱くようにかかえた枕に顔を押し付け、飛雄馬は声を殺し、身を竦ませた。
すると、花形は晒した飛雄馬の肩甲骨の位置にそうっと唇を押し付けたかと思うと、緩くそこを吸い上げる。
「星くん」
「な、っで……あなたがっ、ここに」
「……………」
吸い付く力が強くなって、飛雄馬は痛みに顔を歪ませる。かと思えば柔らかな舌が肌を滑り、吐息とともに唇が肌に触れる。
花形の指や掌、唇が皮膚をかすめる度に飛雄馬は反応を示し、顔を埋める枕を爪で掻いた。
うつ伏せて体の下敷きになっている飛雄馬の下腹部が熱を持ち、首をもたげつつある。無意識のうちに尻を上ずらせ、飛雄馬は自身のそれを刺激しようとした。
その瞬間、花形の右手は飛雄馬の胸へと回り込んだ。
うっ、と飛雄馬は声を漏らし、突起を弄る花形の手に身を強張らせる。
飛雄馬の乳首を花形は抓んで、指の腹で紙縒りを折るように捏ね上げた。
柔らかかった突起も花形の愛撫によって膨らみ、立ち上がる。
「腰が揺れているね。そんなに良いかい」
花形の問いに飛雄馬は首を振り、否定するが自分の体のことは自分がよく知っている。体の奥が火照って、疼いているのが分かる。下着の中の男根はもうはちきれんばかりに充血していた。
「星くん、言わないと分からないよ。どうしてほしい?」
耳元で囁いて、花形は飛雄馬の胸を嬲りつつ耳に口付ける。
あまりのことに、ぞくっと飛雄馬の体に鳥肌が立って腰が切なく震えた。
膨れた突起を抓む指に花形は力を込め、それを押し潰す。
「ァ、あっ……」
大きく飛雄馬の身体は跳ね、腰が浮く。
「…………」
スラックスを穿いた飛雄馬の尻を花形は撫で、腰を上げてと囁いた。
「いやだっ…………ぜったいに、いやだ」
枕を抱いたまま首を振る飛雄馬の上から花形は降りると、彼の傍らに両膝を着きスラックスの中へと背中側から手を差し入れる。
風呂上がりのままベッドに突っ伏したためにベルトをしていなかったことが災いし、花形の手は容易に飛雄馬の尻へと触れた。
「腰を上げて、星くん。邪魔だろう」
「じゃま、なんかじゃ………」
言った飛雄馬のスラックスに手をかけ、花形はそれを引き下ろす。
そうしてそのまま下着の上から尻を撫で、花形は再び飛雄馬の背中に口付けた。
蛍光灯の下で呼吸の度に、己が吸い付くたびに反応を見せる白い背が何とも淫らで、艶かしく花形の瞳には映る。
ジャイアンツの背番号16を背負った星飛雄馬という男。何万もの観客の視線を集め、ジャイアンツの野手だけでなく塁に立つ敵方の選手たちも彼の動向を見守っている。それが今や自分だけのもので、己の体の下で彼は喘いでいるのだ。
ぞくっと花形は身震いし、白い背に歯を立てる。
「いっ、っ!」
飛雄馬の体が引き攣って、花形は皮膚に淡く食い込んだ歯型から滲む鉄の味を飲み下して、飛雄馬の下腹部へと手を回す。
腰が引け、触る隙間の出来た飛雄馬の男根へと花形は布地の上から触れ、それを掌全体で撫でた。
先走りのせいで下着は湿っており、花形はフフッと笑みを零す。
「だいぶ、感じてくれていたようだね」
「そ、っ、なんじゃ………あっ!」
下着の中へと花形の手が滑り込む。
飛雄馬の体がビクンと跳ね、その刺激で膝が曲がり、腰を突き出す形となった。
「…………」
花形は下着の中へと差し入れた手を一度抜くと、飛雄馬の下着をゆっくりと腿の位置まで下ろす。
下半身強化のために走り込みを行い、練習を重ねた投手の尻と言うのは普通の成人男性のそれよりも大きく発達する。
ゆえに、飛雄馬の程よく肉の付き、張った白い尻が下着の中から現れて、勃起した男根から先走りがつうっ、と下着と糸を引いた。
「は、っ………ながたさん……」
明かりの下で、飛雄馬の尻の窪みまで露わになる。
花形は尻を突き出した飛雄馬の後ろに膝立ちになると、親指を口に含んで唾液を纏わり付かせてから、彼の窄まりへと指を充てがう。
「……………!」
そのままぐっと指を押し付ければ飛雄馬のそこは花形の指を容易く飲み込む。
根元までをゆっくり挿入させ、花形はそこをじっくりと慣らしていく。と花形が指で中を掻き回し、壁を擦ると飛雄馬は素直に反応を返した。
「やっ、いや…………っ、ん、んんっ!」
ズルッと花形は飛雄馬から指を抜き、穿くスラックスのポケットから何やらチューブを取り出し、蓋を開けそれを指先に取った。
そうして、それを指の熱で溶かすと人差し指と中指とを飛雄馬の中へと忍ばせる。
刺激に慣らすように出し入れを繰り返すと、飛雄馬の膝は震え、立ち上がったままの逸物からはとろとろとカウパーを滴らせ、ベッドを濡らす。
「そ、れ………っ」
「ただの傷薬さ。ふふっ、慣らすのにはちょうどいいだろう」
くちゅ、くちゅと花形が指を動かすたびに後ろから音がして、飛雄馬は涙で濡れぐちゃぐちゃになった枕を抱く。
「っ………う、っあ……あ」
枕から顔を上げ、ぞくぞくと背筋を駆け上がる感覚に酔い、身を委ねようとしていた飛雄馬から花形はふいに指を抜くと、自身が穿くスラックスのベルトを緩め、ボタンを外す。
「はな、がたさ………な、っ、っ!」
縋るように振り返り、花形を仰いだ飛雄馬は彼がスラックスのファスナーを下ろし、そこから男根を取り出すのを目の当たりにする。
ぬるん、とたった今まで弄っていた箇所を花形は己の亀頭で撫でた。
「あ、ぅっ…………」
尻を突き出し、飛雄馬は声を上げる。
「物欲しそうに口を開けているが、フフ」
「焦らさないで、くださ………い」
「焦らしてなどいないさ。ぼくはきみの意見を尊重したいと思っている」
「っ、っ……………ふ、」
ぬる、ぬると花形は飛雄馬の尻の窪みから会陰にかけて自分の逸物を擦り付ける。
その度に飛雄馬の尻は揺れ、窄まりは僅かに緩む。
「きみに任せよう」
「は、っ、ん、ん……いや、っ……焦らすな……入れて、花形さんの、が、おれ……」
息も絶え絶えに飛雄馬は哀願し、花形は自分を彼の窄まりへ押し当て、腰を突き入れた。花形の指以上の圧が飛雄馬の腹の中を進んでいく。
それを受け、花形を締め付け、飛雄馬はガクガクと全身を震わせた。
「入れたばかりで達するとはね」
フフンと鼻を鳴らし、花形は腰を引くと、そのまま腰を打ち付ける。
「────!!!」
腹の中を引きずられ、内壁をピストンにより激しく嬲られ、飛雄馬は再び絶頂した。 鬱血の跡が白い背中に咲き乱れ、噛み付いた場所には僅かにまだ血が滲んでいる。
逃げる腰を掴んで、花形は飛雄馬の尻たぶを掴むと、激しく腰を打つ。
この男──星飛雄馬に今までどれほどの男が泣かされ、無様な姿を晒してきたのだろうか。それは彼を犯す花形とて例外ではなく──。
「アっ!いや、花形っ!はながたっ!」
飛雄馬の尻に腰を叩きつけ、絶頂を迎えた彼の戦慄きを花形は楽しむ。
もう限界だ、やめてと叫ぶ飛雄馬の嘆願虚しく花形は尚も彼の腹の中を擦った。
かと思うと、飛雄馬から男根を抜き、花形は全身を震わせる彼の体を抱くと仰向けにベッドに組み敷く。
「…………?」
とろんと蕩けた目を向け、飛雄馬は花形を仰ぎ見た。
「きみは、いろんな顔を見せてくれるね………」
膝で止まっていたスラックス、下着を脱がせ、花形は飛雄馬の足を左右に開かせるとその間に体を差し入れ、再び彼を貫く。
蕩けた飛雄馬の体は花形を難なく受け入れ、ビクッと震えた。
「っあ、あ………!」
花形の額に汗が滲む。飛雄馬の唇に花形は口付け、脱力しきった彼の舌を舌先でくすぐる。
と、飛雄馬はベッドの上に投げ出していた手で花形の腕を掴み、爪を立てた。
「花形、花形さ………っ」
うわ言のように名を呼ぶ飛雄馬の首筋を伝う汗を舐め取って、花形はそこにも噛み付く。乳首を強く吸い上げ、歯を立ててやると飛雄馬は一際高い声を上げた。
全身汗みずくになって、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら飛雄馬は花形の与える快楽にただただ酔いしれる。
「ほら、星くん。出すよ、いいね……」
「う、あ…………あっ、」
飛雄馬の中に花形は射精し、最後の一滴までを彼の中へと注ぎ込む。
喉を晒し、体をしならせ静かに果てる飛雄馬の頬へ花形は口付けてからズルリと逸物を抜いた────。
そこで、飛雄馬はハッ!と目を覚ます。
がばっと体を起こすとまだ帰宅してから2時間も経っておらず、帰宅したままの格好でベッドで眠ってしまっていたようで、飛雄馬は汗で湿った髪を撫でた。
それにしても、変な夢を、見たものだな、と飛雄馬が頭を抱え、ふふっと苦笑するとベッドのそばにあったテーブルの上、明子の趣味で置かれた花瓶のところに鍵がひとつ置いてあることに気付いた。
どこの鍵か、これは。帰ってきたときにはこんなもの見当たらなかったはずなのに──。
まさか、いや、ねえちゃんが忘れていったに決まっている、と飛雄馬は自分を納得させ、シャワーでも浴びようか、と脱衣所に向かい、洗面台に映った自分の顔、その首筋に残る跡に驚愕する。
もしや、あの鍵は………。
飛雄馬は自分の首筋を撫で、しばらく鏡に映る己の姿を見ていたが、何を馬鹿なと抱いた疑念を首を振り払拭し、服を脱ぐと浴室へと入った。