背徳
背徳 「と、う………むぐ」
「静かにせい。明子が起きるぞ」
そう言われ、口を塞がれたもので飛雄馬は強張らせた体の緊張を解いた。
深夜。宿題や投球練習、夕食を済ませた後に銭湯にて汗を流して床についたのが22時頃であったか。枕元で時を刻む目覚まし時計の秒針の音がコチコチと耳につく。
「……………」
飛雄馬は自分の体の上に跨る一徹を受け入れるため足を開くと、いつの間にか畳の上に転がっていた枕を手で探り当ててから頭の下に敷いた。
飛雄馬、と一徹は組み敷く子の名を愛おしげに呼んでから、彼の開いた足の付け根に手を這わせる。浴衣の下は下着一枚で飛雄馬は肌に触れた指の冷たさにビクッと震えた。一徹の手は躊躇うことなく飛雄馬の下着の中に潜り込んで、その小さく萎えたままの男根を撫でさする。
ん、んっ!と小さく鼻がかった吐息混じりの声を上げ、飛雄馬は固く目を閉じた。
一徹に触られ、弄ばれる飛雄馬の男根が次第に固さを増していく。勃起したそれを一徹が握って、ゆっくり上下にしごいてやると、飛雄馬の腰が跳ねた。
「はっ、う………………っ」
「う………ん」
隣の布団で眠る明子が呻いて、ごろりと寝返りを打つ。ハッ、と飛雄馬はその声に驚き目を開け、姉を見た。
一徹はその様を冷めた目で見つめてから、飛雄馬の下着の中から一度手を抜いてから枕元にあった手指の傷に塗るための軟膏を手に、それを指先にたっぷりと取り出した。
「とうちゃん、やっぱり………やめよう。ねえちゃん、起き………ッ!」
再び一徹は飛雄馬の下着の中に手を差し込み、今度は先程勃起させた逸物ではなく、その下へと指を這わせる。
窄まったそこへ指を宛てがい、少し入り口を刺激に慣らしてから一徹は自身を飛雄馬の中へと挿入させた。
一徹の節くれだった太い中指が腹の中を押し進む。それは第二関節の位置で曲げられ、飛雄馬の男根の裏を探る。
小さなしこりのようなものが一徹の指の腹に触れて、飛雄馬は大きく体を反らした。
肌蹴た浴衣の合わせから覗く小さな乳首もまたぷっくりと膨れ、その存在を一徹へと知らせる。
一徹は指の腹に触れたそこを前後に転がす。すると飛雄馬の立ち上がった男根からとろ、とろっと液体が漏れ、腹に溢れる。
「っ、あ…………と、うちゃ、っ」
しばらくそこを指で転がしていた一徹だが、今度はそれに指を押し当て、左右に揺らす。器官に振動を与えられて、飛雄馬はあまりの快感の強さに声を上げぬよう口元を掌で押さえた。腰がカクカクと震え、立てた膝が笑う。
ねえちゃんも隣で寝てるのに、どうしてこんな。嫌だと頭は拒絶の意思を示すのに、飛雄馬の体は素直に与えられた刺激に反応した。腹の中を嬲る一徹の指が全身を蕩けさせる。
下腹が熱くなって、腹の奥がじんじんと疼く。全身が紅潮し、飛雄馬の顔は耳まで赤く染まる。
「っ、か…………くる、何か、へんなの、きちゃ………」
「素直に身を任せい、飛雄馬……」
じわじわと撫でられるそこから奇妙な感覚が広がっていく。飛雄馬の全身が震え、浴衣に擦れる乳首からの刺激も男根へと伝わる。
「っあ、……………!!」
全身に電流のようなものが走って、飛雄馬の思考は一瞬真っ白になった。
勃起した男根からは先走りとは比べ物にならぬほどの白濁が滴って、ひくひくと脈動のたびに鈴口から液体を吐く。
絶頂の余韻に飛雄馬は体を震わせ、腰を揺らす。
「は、ぁ…………っ、あ………」
「………ゆっくり眠れい」
未だ戦慄く飛雄馬から離れ、一徹は手を拭くと自身の寝床へと戻っていく。
え、と飛雄馬は蕩けた瞳をその後ろ姿に向け、とうちゃんは?と尋ねた。
「わしのことは気にせずともよい。明子が起きるぞ」
「………でも、おればっかり」
布団に潜り込み、一徹は飛雄馬に背を向ける。明子はよほど疲れていたか寝息をすうすうと立て、深く寝入っているようだった。
「…………とうちゃん」
返事はなく、飛雄馬は体を起こすと乱れた浴衣を少し直してから立ち上がる。
それから、一徹の眠る布団の位置まで歩むと、その足元に潜り込んだ。腹の中がまだ疼いている。
「飛雄馬……」
「おれも、とうちゃんのこときもちよくしたい……」
言うと飛雄馬は一徹の股間の位置に寝転がり、前を肌蹴ると先程自分がされたように下着の中に手を入れる。
「飛雄馬、よい。構うな。寝なさい」
「だって、そんな」
やや固くなりつつある一徹のそれに手を添え、飛雄馬は泣きそうな顔をして呟く。
「…………子供がそんなことを気にせずともよい」
一徹は布団をめくり、自身の足元に佇む飛雄馬にそんな台詞を投げた。
「……じゃあ、久しぶりにとうちゃんと寝てもいい?」
「フフ、それは構わんがまた明日、明子に笑われるぞ」
「自分だってとうちゃんと寝たいくせに強がってるんだぜ、ねえちゃん」
飛雄馬は一徹の足元からその顔の方へと布団の中を潜り、移動すると端から顔を出す。
「無駄口を叩いとる暇があったらさっさと眠りにつけい」
「うん……おやすみなさい」
うとうとと飛雄馬はさっきの絶頂の疲労感も手伝ってか、目を閉じるとそのまま眠ってしまう。小さな寝息を立て眠る飛雄馬の寝顔を暗い部屋の中、一徹はじっと見つめる。
まだ幼い飛雄馬は知らぬ。父が地獄の門に手をかけ、ゆっくりとそれを開いたことを。幼い体に快楽を植え付け、強引に利き手を変えさせ、野球を叩き込んでいる最中だと言うのに、飛雄馬はこの父をまだ慕ってくれている。
いつか、気付くだろうか飛雄馬は。
この狂った世界とそこに引きずり込んだ父を飛雄馬は嫌悪するだろうか。
その時、ひどく飛雄馬は自分を詰るだろうか、それとも、その罪さえ赦してくれるだろうか。
とうちゃん、と寝言で囁く飛雄馬の頭を数回撫でてやってから一徹は自身も眠るためにそっと目を閉じる。
明子が寝返りを打ったか小さく衣擦れの音が聞こえたが、一徹は目を開けることなくそのまま寝入った。