玄関先
玄関先 「ぼっちゃま!宙太ぼっちゃま!」
はっ、と飛雄馬は廊下の向こうから聞こえてくる女性の大きな声で目を覚ました。
聞き慣れた高校時代からの顔見知りであり、飛雄馬が敬意を込め、おばさんと呼ぶ彼女の声をかき消すように星!起きとるかあ!と怒鳴り声が響いて、飛雄馬は布団をそっと抜け出す。
「ぼっちゃま、近所迷惑になりますよう」
痩せた背の低い老女はなんとか喚き散らす伴を宥めようとするが、肝心の彼は酔っているらしくまったく聞く耳を持たない。飛雄馬は老女に代わります、休んでくださいと耳打ちし、彼女を下がらせた。
今日、ビル・サンダーらとの練習を終えた後、伴は会社の接待があるとかなんとかでベンツに飛び乗るとそのまま走り去ってしまった。
そのお陰で飛雄馬はサンダー氏と身振り手振りを交えながら色んな話をし、とても有意義な時間を過ごすことが出来たし、身を置かせてもらっている伴の屋敷でもおばさんと3人楽しく夕食を囲むことができた。
だと言うのに、まさか伴がこうも前後不覚になるほど酔って帰ってくるとはせっかくの良い気分が台無しである。
日雇いの仕事でも顔馴染みになる労働夫もいるにはいたが、大抵がその場限りの付き合いで会社勤めというものは人間関係ももちろんだが、それだけ抱えるものも多く大変なのだろうな、と飛雄馬は伴に同情こそしたが、夜中に玄関先で喚く行為は許されたものではない。
「星、起きとったのか。出迎え嬉しいぞい」
にこにこと赤ら顔を向ける伴の体からは酒の臭いが漂ってくる。幸い、ビル・サンダーは眠っているようで起きてくる気配はない。
飛雄馬は、汗を流して早く寝ろ。明日も仕事だろうと伴の肩を叩きつつぼやいた。
すると伴は飛雄馬の腕を取り、脇の下から手を差し込んでぎゅうとその体を抱き締めるが早いか唇を尖らせ口付けを迫る。
「……!」
眉をひそめ、飛雄馬は近付いてきた伴の口を掌で制する。
「にゃにを、するんじゃ星」
「酒臭い顔を近付けないでくれ。明日も早い。それは伴だって同じことだろう」
「むう…………つれないのう」
「シラフの時ならまだしも酒を飲んでこういうことをするのはどうかと思う」
「……星の話で、盛り上がってのう。たまたま取引先の役員たちが野球好きでな、巨人の星、の話でついつい、酒が進んでしもうて……あ、いや、言うとらん。断じてうちに星がいるなんてことは口にしとらん。ただ、星のことを思ってくれとる人がわしの他にもいたと言うのが無性に嬉しゅうて……」
「…………」
飛雄馬は伴の口を塞いでいた手を離し、ふっとその顔に微笑を浮かべる。
「星?」
「そう、言ってもらえるのはとても嬉しいが、それとこれとは話が別だ。離せ。おれはもう休む」
「じゃあ、一回だけチュッとしてええか。そうしたら腕を離す」
じっと伴は飛雄馬を見据え、恥ずかしげもなくそんな台詞を口にした。飛雄馬はやれやれとばかりに髪を耳にかけると目を閉じ伴に顔を寄せる。
「あっ!タイム!星!心の準備が」
「大きな声を出すな、伴」
唇をそっと開いて飛雄馬は伴の唇に口付ける。
アルコールの入った熱い唇が触れて、飛雄馬は思わず体を震わせたがそれ以上何をするでもなく彼から距離を取った。
「気が済んだか。ほら、呆けていな…………ぅ」
一瞬、緩んだ伴の腕の力が強くなって、顔をしかめた飛雄馬の頬へと彼は唇を寄せ、髪に指を絡ませる。
「星……好きじゃあ」
「まっ、待て!伴、っ………」
そのまま後頭部に手を添えられ、少し顔を傾けさせられたところに噛み付くような口付けを与えられ、飛雄馬は鼻がかった声を漏らす。
酒臭い吐息と共に舌が口内に滑り込んで、飛雄馬はぎゅうと伴の背中にしがみついた。
ゾクッと飛雄馬の肌が粟立って、全身が熱く火照る。
「あ………っ、う」
耳元に顔を寄せて、伴は飛雄馬の体の力が緩んだところで玄関先、板張りの廊下へと彼を組み敷くようにして押し倒した。
ひやりと冷たいフローリングの上で飛雄馬は身を仰け反らせ、視線の先にある長い廊下を瞳に映す。
この先にある部屋にはおばさんやビル・サンダーが眠っている。下手に騒げば皆を起こすことになる。
首筋に触れる熱さに目を閉じつつ、飛雄馬は奥歯を食い縛った。飛雄馬が寝間着代わりに着ているシャツの裾から伴の手が入り込んで、直接肌を撫でる。
「ふ、ぅ………ん、ん」
星と呼ぶ伴の声が熱っぽくて肌をなぞる指先がくすぐったくて、それでいて背を預ける板張りはいつまで経っても冷たいままで、飛雄馬は口元に手を遣り、声を殺す。
いつの間にか潜り込んだ指は飛雄馬の胸まで来ていて、その乳首を抓み上げると伴は指の腹同士ですり合わせた。その刺激で膨らんだ突起からは甘い痺れが飛雄馬の全身に走って彼の下腹部もまた、熱を帯び、下着を持ち上げている。
伴は飛雄馬の着ているシャツをたくし上げ、腹から胸までを露わにさせると、やや足元の方に下がって彼の腹へと音を立て吸い付いた。
「はっ…………あ、」
そのまま伴が飛雄馬の穿いているジャージのズボンに手をかけ、下着諸共引き下げると中からはおよそ立ち上がった男根が顔を出す。
飛雄馬が呼吸をするたびにそれは揺れ、切なげに先走りを垂らした。
伴は飛雄馬の体の上から一旦降りると、彼の下腹部辺りまで下がってからふいにその男根を咥える。濡れた粘膜がぬるりと飛雄馬の臍下を包み込んで、思わず声を上げた。
伴の口内で自身のそれが充血し、首をもたげるのが分かって、飛雄馬はかあっと頬を染める。
ジュルッ、と音を立て、根元から亀頭の辺りまでを窄めた口で一気に吸い上げられて、飛雄馬は伴の髪を掴む。
それでも伴は愛撫の手を緩めることなく、飛雄馬の男根を責め立て、自分の唾液にまみれたそれを今度は掌で包み込み、上下にしごいた。
「う、っ…………あ、っ伴……ァ」
声を抑えるために口元に当てる飛雄馬の掌に伴は体を起こすと口付けて、亀頭を責めにかかる。
彼が手を動かすたびにちゅくちゅくと音が鳴り、飛雄馬は我慢ならないとばかりに足を伸ばしたり縮めたりを繰り返した。
「はぁっ、いく………」
か細い声を漏らし、飛雄馬はびゅくっと男根の先から白濁を飛ばす。
それを伴は掌で受け止めてから、もう片方の手で飛雄馬の先程ずらしたジャージと下着とを取り去った。
すらりと伸びる白い足がそこには現れて、伴は喉を鳴らしてから飛雄馬の膝を割り、足を左右に開かせると彼の体液を乗せた指をその中心へと塗りつける。
きゅうっ、と飛雄馬はそこが疼いて、伴の到来を待ち侘びるかのように自分の腰が動いたことに眉間に皺を寄せた。
しばらくそこをなぞっていた伴であったが、遂に飛雄馬の体内へと指を挿入させ、その刺激に慣らしていく。
「あ、あ………っ、くぅ……」
びくんと体を反らし、飛雄馬は腹の中を探る彼の指に意識を集中させる。
痛いか?と問われ、首を横に振ってから、もう入れても構わないと囁く。
「えっ!?」
「ふ………あまり、時間がない……もう0時を回る」
飛雄馬は玄関先の壁へとかけられた時計を仰ぎ、そう呟く。しかして伴は驚いた声を上げたものの、飛雄馬の中に埋めた指を更に奥へと進ませ、関節で曲げつつ指の腹で内壁を擦る。
「あっ、ひ、ぅ………」
ビクッと飛雄馬が震え、高い声を上げたものの、ここではないとばかりに伴は撫でる指の位置を変え、続けて指の本数を増やす。
と、とある箇所を伴の指が掻いて、うあっ!と飛雄馬は大きな声を漏らして、思わず口元を覆った。
伴の指が触れる位置はほんの少しだけ膨らみ、壁を隔てた向こうにある器官の存在を知らせる。
そこに伴は2本の指の腹を当て、転がすようにしてその位置を嬲った。
飛雄馬の体はその刺激で弓なりに仰け反って、射精し、一度は萎えた男根からはつうっと先走りが垂れ落ち、腹に落ちる。
チカチカと飛雄馬の視界には火花が散って、意識を朦朧とさせた。辛うじて声を上げることは免れたものの、飛雄馬の全身にはぱあっと汗が浮いた。
「あ、っ………いやっ、………伴」
「し、しかし、慣らしておかんと辛いのは星じゃぞい」
「は………きて、伴、たのむ」
「…………」
飛雄馬の涙を浮かべた虚ろな目が伴を映して、そう、嘆願してきたために、彼は指を抜くと一度スラックスのポケットから取り出したハンカチで体液に濡れた手を拭いてから自身のファスナーへと手をかける。
そうして、そこから逸物を取り出すと、伴は飛雄馬のそばににじり寄って、慣らしていた箇所へと亀頭を押し付け、ぬるんと後孔から会陰にかけてをなぞった。
「うっ……ん、ン」
切ない声を上げ、飛雄馬は目を閉じ口元に遣った指を噛む。
と、伴はそれを自身の手で払い除けてから無防備になった飛雄馬の唇に口付けて、再び体を起こすと、焦らした後孔に男根を押し当て腰を突き入れる。
ゆっくりと飛雄馬のそこを慣らすように伴は己を押し進め、飛雄馬は自身の体内を拡張させ、奥に進む熱に身震いした。
伴が摂取したアルコールのせいか、それとも飛雄馬自身が体を預ける床の冷たさのせいか触れる肌がやけに熱くて、飛雄馬は吐息を漏らす。
根元までを埋めてから、伴は飛雄馬の片足を脇の下に挟み込むと、彼の体の上にのしかかって、また口付けをせがむ。
「あ、ふ………」
舌を絡ませながら、伴は腰を動かしてゆく。
脳を痺れさせる甘い快楽が飛雄馬の体へと走る。
「っ………いかん。出そうじゃ、もう」
「だから、酒を飲んでからはやめておけ……っ、ああ、あ!」
突如として伴は腰を叩き込み始め、飛雄馬の腹の中を激しく抉る。
反った亀頭が先程嬲られた器官の位置を的確になぞって、飛雄馬は懸命に口を押さえた。
伴が腰を振るたびに飛雄馬の尻へと腿が当たってパンパンと音を立てる。
飛雄馬の閉じた瞼の縁を沿うように涙が滑り、こめかみに流れ落ちた。
「星、っ………すまん」
間一髪、伴は飛雄馬から男根を抜いて彼の腹へと欲を放出する。
「……………っ、ふぅ……」
飛雄馬はそこでようやく体の緊張を解いて、体を起こすと立ち上がり伴に背を向ける。
「な、ど、どこへ行く?星」
「シャワーを浴びたい。汗もかいたし、このままだとパンツも穿けないからな」
床に落ちたジャージと下着を拾い上げつつ飛雄馬は答える。
「あ、う………怒っ、とるのか?すまなんだ、その」
「………ふふ、怒ってなどはいない。ただ」
「ただ?」
スラックスの中に男根を仕舞って、伴もまた廊下を行く飛雄馬の後を追う。
「自分から求めてきておいてひとりだけ果てるのは感心しないな」
「や、やっぱり怒っとるじゃないか……」
「冗談だ。先に行け。おれは後でいい」
「………に、らんか?」
振り向いた飛雄馬の顔と自分の足元をチラチラと交互に見つつ伴は何やら口ごもる。
「え?」
「その、一緒に、はい、らんか。風呂」
「………支度をしてくれ」
苦笑しつつ、飛雄馬がそう言うと伴は顔を輝かせ、ばたばたと足音を立てつつ浴室へと走っていく。
ああ、調子に乗ると周りが見えなくなるのは相変わらずだなと飛雄馬は頭を抱えつつ、くすっと笑みを溢した。