冬の布団
冬の布団 寒いな、と飛雄馬は体から離れはしたが、恐らく近くに落ちているであろう布団を手繰り寄せようとするも伸ばした手がなかなか目当てのものに触れず、寒さに耐えかねつい、体を起こしてしまう。
正月も過ぎ、新しい暦は早くも二枚目となった。
吐く息は白く、指先は冷たくかじかむ季節。
体を起こしてようやく、自分が布団を身に纏っていない理由を飛雄馬は知ることとなり、隣で幸せそうに眠っている彼がくるまっている布団一式を取り返すべく、一度は引っ込めた手を再び伸ばした。
布団の端を掴み、力いっぱい引き寄せるが、親友・伴の大きな体がそれにはくるまっており、にっちもさっちもいかない状態である。
いつの間に人のベッドに潜り込んできたんだ、伴のやつ、と飛雄馬は胸中で悪態を吐きつつ、親友の名をその耳元で囁く。
「伴、伴。起きろ、布団を返してくれ」
「う、う〜ん、もう一球、投げてこぉい」
寝惚けているのか、夢を見ているのか伴からは見当違いの言葉が返ってきて、飛雄馬は布団を取られたことと眠りを妨げられた怒りから、伴!と声を荒げた。
巨人軍宿舎の一室。
左右それぞれ、薄い壁の向こうには先輩たちが眠っている。
あまり事を荒立てたくはないが、このままでは眠れない。大方、自分のベッドが冷たくてこちらに入り込んできたのだろうがいい迷惑である。
飛雄馬はしょうがない、おれが伴のベッドで眠ることにするかと隣に眠る彼を起こさぬよう、足元へと尻の位置をずらしつつ移動する。
伴はと言うと飛雄馬の苦労など露知らず、大いびきをかいて気持ちよさそうに眠っている。
まったく、長生きするぜ、と飛雄馬は唇を尖らせ、冷たくなった体、その腕をさすりながら部屋の真ん中を横切り、そのまま伴のベッドに入り込んだ。
体を動かすたびに伴の匂いが胸いっぱいに広がる。
まるで伴に抱き締められているみたいだな、と飛雄馬は思わず顔を綻ばせたが、いや、このまま有耶無耶にするのはよくない、明日起きたらすぐに今日のことを言って聞かせねばと枕の上で頭を振る。
次第に自分の体温で布団の中が暖まってきて、体温もそれなりに上がったか、訪れつつある眠気が徐々にまぶたを重くしていく。
「う、う〜ん、星よう……」
眠りかけた寸前、名に呼ばれ、飛雄馬はハッ!と顔を起こし、体を横たえたままで伴の眠る自分のベッドに視線を遣った。
伴は寝返りを打ったかさっきまでは飛雄馬に背を向ける格好を取っていたが、今ではベッドに大の字になり、体をくるんでいた布団一式も床に落ちてしまっている。
「…………」
飛雄馬は一瞬、このまま風邪でもひけばいいんだ。おれのベッドに勝手に潜り込んできた罰だ──と、そんなことを思いはしたが、再び体を起こすと伴のそばに歩み寄り、その体に布団と毛布を乗せてやった。
「星……むにゃ……もういっちょ……」
「世話が焼けるやつだ」
苦笑し、飛雄馬は元のように伴のベッドに戻ると、今度こそ眠るために布団の中で目を閉じる。
自分の体温で暖まった布団と、伴の香りに包まれ心地よく飛雄馬は夢の世界に旅立ちつつ、起きたら彼を咎めるのでなく、おれのベッドに入るときは自分の布団一式を持ち寄ってからにしてくれよ、とそう、伝えようと思った。