同類
同類 午前中は、伴くんのところに行ってきたのかね。
花形邸を訪ねた飛雄馬を、客間へと案内しつつ屋敷の主がそんなことを尋ねてきた。
「え?はあ……まあ、ちょっと」
突然、何なのだ、と飛雄馬は些かムッとしつつも花形の問いに素直に答える。
促されるままに客間に足を踏み入れてから飛雄馬はソファーへと腰を下ろす。
飛雄馬はこの日、花形が言うように午前中は伴と会い、昼食を共にしてから、午後になって連絡もなく突然、迎えに来た義兄の屋敷を訪れている。
寮までわざわざ車を乗り付けられたら、行かんと断るわけにもいかず、きちんと外出許可を取ってから飛雄馬は後部座席に座っていた。
しかして、それが今、ここを訪ねたことと何の関係があるのかわからず、飛雄馬は隣に腰掛けてきた花形の顔をまじまじと見つめる。
「へえ、そう……飛雄馬くんが帰ってきてからと言うもの、うちから伴くんは足が遠のいてしまったようでね」
「……仕事が立て込んでいると言っていた。おれも会うのは久しぶりのことで……花形さんの会社はそうでもないのか?」
そんな、花形さんと伴のプライベートのことなどおれに言われても困ってしまう。
ただでさえ、今や家族ぐるみの付き合いをしているという事実に驚いたのがつい先日のことだというのに。
何かと顔を突き合わせれば火花を散らしていたようなふたりだったというのに、それぞれ大人になったと言うことだろうか。
人間、変わるものなのだな、と飛雄馬は感心さえしてしまい、花形さんと伴の意外な一面を見たような気がした。
「なぜ、伴くんとぼくたち夫婦が……いや、ぼくが彼と懇意にしていたと思う?」
「なぜ、とは?おれには会社勤めの経験がないからよくわからないが、お互いの会社の利益のためとか、そういう理由からじゃないのか」
「………お互い見張っていたのさ。抜け駆けしないように、変に秘密を持たないように」
見張る?抜け駆け?
話が見えてこないが、と飛雄馬は目に見えて怪訝な表情を浮かべるとその続きを聞くべくソファーから身を乗り出す。
「互いに口にこそしなかったがね、フフッ……飛雄馬くん、きみをどちらが先に見つけ出すか、協同事業や連携だなんて建前でしかないさ。うちと手を組むにあたり、あちらの親父さんを言いくるめるのに伴くんはずいぶん手を焼いたと聞いた。惚れた一念とは恐ろしいものだ」
「…………!!」
「嘘だと思うかい。こうして彼が訪ねて来ないことが何よりの証拠だと思わないかね。きみの行方を探すために、支社を日本各地に配置したよ。ぼくも地方を出張の名目で飛び回ってね。それは伴くんも同じさ」
さあっ、と飛雄馬の顔から血の気が引き、指先が冷えていく。
おれが、行方をくらませている間に、そんなことを、このふたりは──。
「…………」
「それで、当て付けかね。伴くんに抱かれたあとにここを訪ねたのは」
「な、にを、言うんだ、花形さん」
飛雄馬は不自然に視線を泳がせ、膝の上で強く拳を握る。
だから、嫌だと言ったのに、伴のやつ──。
流されてしまった自分ももちろん悪いが、こんなことを言われてしまっては彼を恨みたくもなる。
「…………」
「と、とにかく。変なことを言うのはよしてくれ、花形さん。伴とおれはそんな関係ではないし、そもそも何を根拠にそんな馬鹿げたことを言うんだ」
「根拠?きみの動揺ぶりを見ていると、ぼくの推測は当たっていると思うがね。それに──」
花形は言いつつ、自分の首筋を指さし、ここにはっきりと彼の痕があるからねと続けた。
「────!!」
花形の言葉を受け、飛雄馬は顔を紅潮させる。
額には汗が滲んで、体の芯が熱く火照った。
馬鹿な、そんなはず──おれは伴に痕をつけることを許したことはない。
これは、ハッタリだ。
花形さんは、おれをからかっているに過ぎない。
「……フフ、引っかからなかったね」
「何が楽しくてそんなことを……」
平静を装い、飛雄馬は言うが、内心気が気でないのは確かだ。
「姉夫婦の家にはまったく寄り付こうとはせず、親友とばかり付き合う義弟を見ていたらからかいたくもなるさ。明子も悲しんでいたよ」
「だ、だから、今日だってこうして訪ねたじゃないか」
どうして、この男はこうあるのか。
ねえちゃんからの再三の誘いを断り続けているのは確かに悪いと思っているが、そんなに責められる筋合いもないはず。
ましてや、かつてはライバル同士であった身で、今更どう接しろと言うんだ、この義兄と。
「それで、伴くんとはどんな話を?」
「し、しつこいぞ花形さん!いいだろう。別におれが伴とどんな話をしたかなんてあなたには関係ない」
「言えないようなことかい」
「なぜ、そう、おれと伴のことを詮索する?伴の会社のことを聞きたいのか?おれにそういう話を彼は一切してはこない」
「…………」
飛雄馬は声を荒げ、花形を睨みつける。
すると、花形の手がするりと伸びてきて、飛雄馬の頬へと触れた。
「っ、っ!」
反射的にその手を弾いて、飛雄馬は眉間に深く皺を刻む。
「…………」
「何を、するつもりだ」
「何をされると思ったからきみは抵抗したのかな」
弾かれた手を撫でつつ、花形はニッ、と微笑むと一瞬、たじろいだ飛雄馬の手首を掴んで、そのままソファーの座面へと彼の体を押し倒した。
「うっ……!」
どっ、といくら柔らかいとはいえ、受け身も取らぬままにソファーの上に組み敷かれ、飛雄馬は背中を売った衝撃で小さく呻くと、目を閉じ、己の上に馬乗りになっているであろう彼から顔を逸らす。
握られている手首が痛む。
いつまでも握られていたら神経が微量なりとも傷ついて、今後の投手生命に支障が出るのでは……飛雄馬は、はなしてくれ、と震える声で手首の解放を訴える。
予想に反し、花形は躊躇することなく手首を離してくれたが、今度は飛雄馬の顎先を掴むと顔を上向かせると無理矢理に唇を押し付け、強引に舌を捩じ込んできた。
「ふ……うっ、あっ、……」
顔を背け、口付けから逃れようとするも花形はそれに追い縋り、再び唇に貪りついてきて飛雄馬は彼の思うままに口内を蹂躙される。
くちゅ、くちゅ、と漏れ出る、舌が絡み、唾液が混ざる音がやたらに部屋に響いて、飛雄馬は小さく体を震わせた。
と、その頃には花形ももう抵抗せぬと踏んだか、飛雄馬の手をソファーの座面の上で握ると、その指に己の指を絡ませた。
飛雄馬は顔の横に置かれたその手を握り返しながら、いつの間にか頭の芯がぼうっと蕩けたような感覚に陥っていることに気付く。
「フフッ……」
「…………」
ちゅ、と花形は飛雄馬の唇を軽く啄んでから、今度はその首筋へと顔を埋める。
唇を押し当てられ、薄い皮膚を吸い上げられる都度、飛雄馬は体を跳ねさせ、花形の手を強く握り返す。
滲んだ汗に舌を這わせ、そこに淡く歯を立てながら、花形は一度、握り合わせた手を離すと、飛雄馬の穿くスラックスの中からシャツとタンクトップの裾を引き出し、そこから直に素肌に触れた。
「あ、ぅ……」
鼻がかった声を上げ、飛雄馬は腹の上を滑る花形の指の動きに体を戦慄かせる。
すると、花形は自分の体を置く位置を飛雄馬の足元へと下ろし、現れた白い腹へと口付けていく。
意地悪く大きな音を立て、粟立つ肌を吸い上げつつ花形は飛雄馬のシャツやタンクトップをたくし上げ、遂には胸の突起へと辿り着いた。
舌を這わせるなどと言った生易しいことはせず、花形はその突起に強く吸い付く。
「ひ、ぃっ……っ!」
強烈な刺激を受け、ぷくりと膨らんだ突起を舌の腹で舐め上げつつ、花形はもう一方の突起にも手を伸ばすと、それを指で弾いた。
「あ、あァっ!」
「感度がいいね。ここをこうされるのが好きかね」
尖ったそれを指の腹で捏ねつつ、花形はそんなことを飛雄馬に尋ねた。
突起の芯を指で押しつぶし、花形はもう一方の乳首を口に含むと舌先で尖りきったそこを嬲る。
「はぁ、あっ……っ、」
「声が高くなってきたね。フフ……妬けるね、彼にもこんな声を聞かせているんだと思うと」
「まだ、そんなこと……っ、ふ……」
突起に軽く歯を立てつつ、花形は飛雄馬の股へと手を伸ばす。
スラックスの上からすでに立ち上がっているそれを撫でさすり、立てた膝同士を擦り合わせた飛雄馬の唇に軽く口付けを落とすと、花形は片手で器用にベルトをバックルから抜く作業を行い、スラックスの前をはだけさせた。
「彼では満足できなかった?」
「さっき、から、ぁっ……!」
再び、飛雄馬の唇に口付け、花形は組み敷く彼の下着の中から取り出した男根に手を這わせる。
先走りに濡れたそれは飛雄馬が声を上げるたびに戦慄き、鈴口からは先走りをとろりと滴らせた。
「ぼくにしたらいい。飛雄馬くん……」
「ふ、っ……ぅ、う〜〜!」
囁いて、花形はゆるゆると飛雄馬の男根を上下にしごいていく。
この頼りない、微量な快感がもどかしく、一向に射精には至らない。
裏筋を親指の腹で撫でられ、飛雄馬は大きく体を反らした。
「腰を上げたまえ。きみも辛かろう」
「い、っ……いやだっ、いや、ぁっ──!」
嘆願虚しく、飛雄馬はスラックスと先走りに濡れた下着を剥ぎ取られ、花形の眼下に白く長い足を晒す。
「彼は中に出したかい。いや、伴くんはしないだろうね、そんなことは。きみが嫌がることを彼がするとは思えない」
「かっ、てなこと、ばかり……」
飛雄馬の足を両脇に抱える位置に身を起きつつ、花形は着ているジャケットのポケットから何やら容器を取り出すと、蓋を取り、中身を掬い上げる。
「はっ、花形さ、ぁ────!」
躊躇なく、腹の中に入り込んできた異質に、飛雄馬は声を上げ、それを締め付けた。
ぬるっ、と一度は引き抜いたそれを再び中に挿入し、花形は今度は奥を目指す。
飛雄馬の腹の中に押し入ってきたもの、は花形の指である。普段愛用している整髪料を潤滑剤代わりに指にたっぷりと纏わせてから花形は飛雄馬の中を入念に慣らし、己が入れるまでに広げていく。
「あ、ぁ、っ……っ、く……ふ、」
奥まで行った指が浅いところを撫で、そして入口付近を撫で広げていく。
飛雄馬は目を閉じ、口元を手で覆いつつ、声を懸命に噛み殺す。
そうして、花形が離れていく感覚があってすぐ、指よりももっと大きく、熱いものが尻に押し当てられ、飛雄馬は思わず身構える。
するとすぐ、その熱は飛雄馬の粘膜の中を押し進みはしたが、浅いところで止まってから、一旦、抜けるか否かのギリギリまで離れていった。
「は……っ、っ」
飛雄馬は中途半端に嬲られ、腹の中を犯したその一瞬の記憶に酔い痴れ、身をよじる。
とろとろと情けなく、飛雄馬の腹の上に乗った男根は精液を垂らしている。
「やめたいなら、無理にとは言わんがね」
「やっ……め、ぇっ……っ……」
腹の中にあるのは花形のそれと言うのはわかる。
しかし、なぜ、動こうとしない?
「なに?」
「やめっ……やめないれ……」
「…………」
飛雄馬は自分の口を吐いたまさかの言葉に、じわりと双眸に涙が滲むのを感じる。
おれは、どうして、こんなことを──。
しかして、次の瞬間、一息に腹の奥を貫かれ、いわゆる前立腺の位置を、何の遠慮もなしにごりごりと擦り上げられた衝撃で絶頂を迎えてしまう。
「〜〜〜〜ッ──!!」
それだけでも、強い刺激に飛雄馬の脳は焼け、思考が完全に停止してしまったと言うのに、花形はあろうことか腰を激しく叩きつけてきたのだ。
まだ完全に腹の中が彼の形を覚えきっていないままに、無理矢理に中を擦られ、奥を何度も何度も突き上げられて、飛雄馬は白い喉を晒し、喘いだ。
懸命に開いた口で呼吸をし、赤い舌を晒す飛雄馬のそこに花形は唇を押し当て、己の唾液を流し込む。
ゴクリ、と飛雄馬はわけが分からぬままにそれを飲み下して、再び指を絡めてきた花形の手を握り返した。
「っ……む、ぅ……ふ、」
ちゅっ、ちゅっ、と唾液に濡れた互いの唇を貪り合って、花形は飛雄馬の名を呼ぶ。
「出すよ、飛雄馬くん。しっかり受け止めたまえ」
「い、っ…………!」
腹の中でどくどくと放出される欲の脈動を感じつつ、飛雄馬は小さく身を震わせる。
「口を開けて」
「は…………っ、う」
言われるがままに口を開けた飛雄馬の唇に花形は顔を寄せ、舌を絡ませつつ着ていたジャケットを脱ぐと、それを床に放った。
そうして、今度はゆっくりと腰を振る。
すると、細く長い快感が全身に走って、飛雄馬はとろんとした瞳を花形へと向けた。
頭の中はぐずぐずに溶けてしまっていて、腹の中を擦られる快感とその感覚だけが、飛雄馬の意識を留めている。 結合部からは花形が出した精液が腰を使うたびに掻き混ぜられ、卑猥な音が上がる。
花形の舌の動きを模範するように飛雄馬は無意識に舌を動かし、彼の口付けに応えた。
「っ、ふ……ぅ、……」
どちゅん、と奥を抉られ、飛雄馬は呻くと体を仰け反らせ、開いた口から覗かせた舌をか細く震わせる。
「ここは初めてかな」
「……──?!」
「ぼく以外、誰も入れさせないと約束したまえ」
臍の上を、指先でそろりと撫でられ、飛雄馬はその微かな刺激にビクッと体を戦慄かせた。
すると、花形が体重をかけ、より深く腰を押し進めて来て、飛雄馬はあ"っ♡と情けない声を上げる羽目になった。
「っ〜〜〜っ、ぅあ、ぁっ……あァあ……!」
とん、とんと奥を優しく叩かれて、飛雄馬は全身に汗をかき、爪先をピンと伸ばした。
「これだけ出したら確実だろうね」
「か、くじつって……なにが、は、ぅ、うっ!」
「きみがぼくの子を宿すのは確実だろうねと言ったのさ」
「ばっ……ばか、ぁっ……そんな、っ……」
「出すよ、飛雄馬くん」
「いっ、いやだっ……や、め、ぇ……っ、」
再び、腹の奥で迸った熱に飛雄馬は気を遣ると、深い口付けを花形から受けつつ、目を閉じる。
そうして、ようやく花形が離れたことで自由になった両足をソファーの座面の上に投げ出して目元を腕で覆った。
腰がだるく、まだ腹の中には花形の感覚が残っている。
「明子にはぼくから話しておく。ゆっくり体を休めたまえ」
「申し訳、ないとは思わないのか花形さんは……ねえちゃんに知れたら……」
「それはきみも同じさ飛雄馬くん。せいぜい、ぼくとのことを彼に悟られんようにしたまえよ」
「…………!」
飛雄馬は花形に差し出されたティッシュ箱を手で叩き落とし、あっちに行ってくれと叫んだ。
「ぼくはきみとなら地獄に落ちたって構わんがね」
「…………」
先に身支度を整えた花形が、そんな捨て台詞を吐いて客間を出ていく。
何が地獄だ──おれからしたらもう、今この現状が地獄そのものだ──。
今からどんな顔をしてねえちゃんに、花形さんに、そして伴に会ったらいいのか。
広い客間でひとり、飛雄馬はソファーの座面に横たわったまま未だ花形の感覚の残る下腹の上で、拳を握ると、奥歯を強く噛み締めた。