出前
出前 へーくしょい、とクラウンマンションの一室に帰ってくるなり大きなくしゃみをした伴に飛雄馬はうつすなよ、と苦笑しつつ彼から距離を取る。
「うう、今日はだいぶ冷えるからのう。まったく寒いのは苦手じゃい」
ぶるぶると伴は震え、再び、大きなくしゃみを放った。
「汗が冷えたんだろう。シャワーでも浴びてくるといい」
鼻を啜る伴に飛雄馬は、夕飯は出前でも取ることにして、先に体を温めてこい、と風呂を勧める。
今日は試合こそ組まれていなかったが、伴と飛雄馬はいつものように体をなまらせないためにも数時間の投球練習を行ってきたばかりだ。
冷たい風がやたらと強く吹く日で、捕球の体制を取り球を受け続ける体は風に晒され、冷え切ってしまっていたが、伴はそれを口にするでもなくただ黙って飛雄馬の気が済むまで練習に付き合った。
自分ひとり、風邪をひくのはいいとしても、ジャイアンツを破竹の勢いで連戦連勝へと導くエース投手の身に何かあってしまったらと思うと伴はそれだけで身が凍るようであった。
「お言葉に甘えさせてもらうぞい」
これ幸いとばかりに伴は浴室へ、飛雄馬は彼の置いている着替えを取りに自分の寝室へとそれぞれに向かう。
休みのたびに部屋を訪ねてくる伴に飛雄馬は着替えや身の回りのものを持ち寄ることを勧め、彼と同居している姉の明子もそれを歓迎した。
もういっそ、3人で暮らしましょうかと冗談を飛ばした明子に対し伴が、それはちょっとと顔を真っ赤にしながら断りの文句を口にしたのがつい先日のことである。
飛雄馬はその時のことを思い出しつつ、伴の着替えを一式、浴室に繋がる扉の前に置かれた脱衣カゴのそばに揃えると、ここに置いておくぞと言付けてからリビングへと戻った。
伴がシャワーを浴びている間に出前を取ろうと飛雄馬は近所に建ち並ぶ寿司屋やらラーメン屋やらの出前用のメニュー表に一通り目を通す。
寿司ならねえちゃんの分を入れて4人、いや、5人前くらい取っていた方がいいだろうか。
ラーメンなら他に炒飯と餃子やレバニラのセットを……などと色々目移りしている間に、伴がリビングにやって来て、生き返ったわい、と上気した顔でニッコリと微笑んだ。
「ああ、それは良かった。出てきて早々に尋ねるのも悪いが、夕飯は何が食べたい?」
普段ならば、同居している明子が昼食なり夕食なりで手料理を振る舞ってくれるのだが、彼女もここ最近、アルバイトで家を空けることが多くなり、自分の食事くらいは何とかするからアルバイトの日はそれだけに専念してくれ、と飛雄馬はその身を案じ、食事の用意を断っている。
「ううむ、そうじゃのう。うどんは昨日食べたしのう。寿司という気分でもないし、どんぶりものでもないしのう……かと言って、外に今から出るのものう……」
「ふふ、おれもシャワーを浴びてくるからその間に決めておいてくれ」
うんうんと唸る伴を尻目に、飛雄馬もあらかじめ用意していた着替え一式を手に浴室に向かった。
すると背後から、おれはラーメン2人前と炒飯のセットにするが星はどうする?と喜々とした声が飛んできて、飛雄馬はクスッと笑みをこぼしながらラーメンと餃子のセットを頼むとだけ言い残し、浴室に入った。
熱い湯を頭から全身にかけ、飛雄馬は頭の先から足先までを丁寧に洗うと、体を温めてから浴室を出る。
伴はいつも文句ひとつ言わずこうして付き合ってくれる。
休みの日にはやりたいことだってあるだろうに、たまには一人になりたいときだってあるだろうに、それでも愚痴ひとつこぼさず、伴はいつもそばにいてくれる。
飛雄馬は体の水気をタオルで拭って新しい下着を穿き、部屋着を身につけると伴の待つリビングへと入った。
「おう、星よ。さっきラーメン屋に注文したんじゃが、飯時で混んどるようで1時間ほどかかるそうじゃい」
「そうか。わかった」
頷き、飛雄馬は伴の座るソファーの隣に腰を下ろす。
ねえちゃんは何時に帰ると言っていたかな、食事は済ませてくると言っていたような気もするがと飛雄馬が髪を拭いていたタオルを首にかけたとき、伴がゆっくりと距離を詰めてきた。
ソファーの座面に置いた手を握り、伴は飛雄馬を呼ぶ。
よせ、とは言いつつも飛雄馬もまんざらではないようで、抵抗らしい抵抗も見せず素直に伴の口付けを受けた。
未だぎこちなさの残る口付けに飛雄馬はふふっ、と微笑み、伴の首に腕を回した。
「な、なんで笑うんじゃい」
「いや、ふふ……伴の緊張が伝わってきて、つい、な」
「き、緊張するわい、そりゃあ……星に何かあったらと思うと恐ろしくて敵わんわい」
「…………」
飛雄馬は顔を今にも泣きそうにくしゃっと歪めてから、今度は自分から伴の唇に自分のそれを押し付けた。
「あ、っぷ……星……」
開いた伴の唇の隙間から舌を差し入れ、飛雄馬は彼の口内を舌先で探る。
小さく呻いた伴の眉間には皺が寄り、下腹部が熱を持つ。
ほんの少し、口付けを交わし合えればと思った伴だったが、まさかの展開にぼうっとなりつつもこのままではいかん、と己の首に縋る飛雄馬の腕を外そうとその手を掴んだ。
「……伴?」
うっすらと目を開け、飛雄馬は唇を離すと目の前の彼を呼ぶ。
その潤んだ瞳がやたらに扇情的でもあり、唇にかかった吐息の熱さに伴の気持ちが揺らいだ。
「あ、っ、いかん。いかんぞ星。ラーメンが伸びてしまう」
顔を逸らし、伴は意味のわからない言い訳をすると目を何度も瞬かせる。
「ラーメンはまだ来ていないだろう。自分から誘っておきながら伴はいつもそうだな」
「っ、星の体のことを考えてだな……」
「中途半端でやめられる方が辛いとは思わんのか」
「う、う……」
「今更だぞ、伴」
言うと飛雄馬は伴から離れ、さっき腕を通したばかりの部屋着を脱ぎ去った。
普段、ユニフォームの中に隠れ、ほとんど日光に当たることのない胸や腹は顔や腕に比べてやたらと白い。
今まで何度も目の当たりにしている飛雄馬の肌だというのに、この場所、この状況ゆえから妙に艶かしく伴の目には映った。
「下も脱ごうか、伴よ。そちらの方がやりやすいだろう」
ゴクン、と唾を飲み込んだ伴の喉が大きく鳴る。
大きなどんぐり眼を更に見開いて、伴は飛雄馬の肢体に見惚れた。
「あ、う……下は、脱がんでもええ」
「……伴は、いつもおれに振り回されてばかりだな」
顔を真っ赤にし、俯いた伴に飛雄馬はそんな言葉を投げかける。
「どういう、意味じゃい?」
「せっかくの休みだというのに練習に駆り出され、今だっておれにからかわれ……いつきみにもう付き合いきれんと言われるだろうかとそんなことばかり考えている」
「…………おれがそんなことを言うはずがなかろう」
「口ではそう言ったところで、内心どう思っているかなど……っ」
淡々と語る飛雄馬に半ば自身の胸をぶつけるようにして伴は彼の体を抱き締めた。
ふわりと香った伴の匂いに飛雄馬は一瞬、強張らせた体の緊張を解き、その胸に身を預ける。
この腕は、この熱は毒だなと飛雄馬は思う。
もうこの腕なしでは生きられない体になりつつある。
この腕さえあれば、彼の存在があれば何だってできる気がする。
でも、それじゃいけない。
わかっていても、突き放せない。
「おれは星に嘘などつかんわい。内心がどうとか建前がどうとかそんなことは気にする必要はないぞい。おれの好き嫌いがハッキリしとることくらい星ならそれこそ嫌と言うほど知っとるはずじゃい」
「…………」
じわ、と飛雄馬の目元が熱く濡れる。
伴は、ははあ、また泣いとるなとかき抱いた腕の力を緩めると、予想したとおり頬に涙を幾重も滴らせる飛雄馬の顔を見つめた。
「星は泣き虫じゃのう」
「っ、誰の、せいでこんな」
「星がそんなにおれのことを思ってくれとるなんて親友冥利に尽きるわい」
ふふ、と伴は笑みを浮かべつつ飛雄馬の頬に流れる涙を指で掬ってやる。
「ばん……」
飛雄馬は涙の溜まった目を閉じ、僅かに顎を上げる。
「あ、お、……う……」
あたふたと動揺しつつも伴は咳払いをひとつすると飛雄馬のそれぞれの頬を両手で包むようにして支えると、唇を尖らせそっと彼のそこに触れた。
涙に濡れた唇はしょっぱく、そして熱い。
びく、と驚いたように震えた飛雄馬に伴の体が火照る。
ほんの少し、伴が唇を開くと飛雄馬もそれに合わせ口を開け、その隙間から舌を覗かせた。
ちゅっ、と覗いた赤い舌に吸い付きつつ、伴は飛雄馬の体をソファーの座面へとゆっくりと押し倒した。
「っ…………ん、」
ソファーの座面に体を預けつつ、飛雄馬は自分の体の上に覆いかぶさってきた伴の首に再び腕を回す。
互いに舌を絡ませ、濡れた唇同士を触れ合わせ、貪欲に目の前の彼が与えてくる熱を貪った。
幾度となく離した唇を押し付け合い、混ざり合った唾液を飲み込む。
吐息が荒くなって、肌には汗が滲んだ。
「はあっ……っ、星……」
熱っぽく伴は飛雄馬を呼び、彼の腹から胸にかけてを大きな掌で撫でさする。
「あ、っ……!」
声を上げ、仰け反った飛雄馬の首筋に顔を寄せつつ伴は彼の足を左右に広げるとそこに自身の体を置く。
熱い吐息が首筋に触れ、続けざまにそこに唇が当てられる。
「ん、う……うっ」
跡の残らぬよう、軽く肌を吸い上げつつ、伴は飛雄馬の穿く部屋着のズボンへと手をかけた。
腰を浮かせ、伴が下着とズボンを引き抜きやすいようにしてやりながら飛雄馬は自身の腹の中が彼の到来を待ち侘び、きゅんと疼いたことに頬を染める。
ああ、これも伴のせいだ。
おれをこんな体にしたのもこの男なのだ、と飛雄馬は唇を引き結びつつ、伴を受け入れやすいようにズボンと下着の取り払われ、自由になった足を左右に大きく開いた。
臍につくほど反った男根から滴る先走りが飛雄馬自身の腹を濡らしている。
「星……っ」
「テーブルの上、にっ、あるから」
言われ、テーブルの上に視線を遣った伴は体を起こすと、そこに乗せられていたクリームの容器を手に取った。
ちょっとしたささくれや傷が試合の勝敗を分けることもあるほど大事な手を飛雄馬は何よりも大事にしており、常日頃からこうしてハンドクリーム等で手入れをしている。
ふたりは時折、このクリームを別の用途に使用することもあり、それがこの行為を行う場合であった。
蓋を開け、白くねっとりとした中身を伴は指で掬うと飛雄馬の尻の中心へとそれを塗り込む。
敏感なそこに伴の指が触れ、尚且つクリームを塗りつけられ、飛雄馬は小さく喘ぎ声を漏らした。
クリームを丹念に塗り込んだ後、伴は飛雄馬の体内にゆっくりと指を飲み込ませる。
太い指が飛雄馬の粘膜を押し広げ、その中を探る。
「っ、ふ……あん、まり、っ、うごかす、な」
「慣らさんと、辛いのは星じゃろう」
入り口を解すように伴は指を動かし、更にその本数を増やす。
指を動かすたびに飛雄馬は伴を締め付け、その口からは切なげに声を上げる。
と、伴の指がとある箇所を撫で、思わず飛雄馬は呻いた。
「…………」
その反応で気付いたか、伴は指を曲げるとそろそろとそこを撫でさすり始める。
無意識のまま飛雄馬の腰が動いたかと思うと、声が漏れぬよう口元に手を遣った。
「……ぅ、っ……ン、んっ」
ひく、ひくと飛雄馬の男根も伴の指の動きに合わせるように戦慄き、鈴口からは先走りをとろとろと垂らしている。
中からその位置を指先で叩き、刺激を与えてやると飛雄馬はそれから逃れようと体をよじった。
「ひ……ぁ、あ」
肌が粟立ち、快楽が背筋を駆け上る。
伴の指が触れる位置が気持ち良すぎて、何も考えられなくなる。
「星、いくぞい……」
ぼやいて、伴は飛雄馬の中から一度指を抜くと、ソファーの座面の上で膝立ちになり自身もまた部屋着と下着とを膝上まで下ろした。
そうして、クリームが溶け、グズグズになった飛雄馬の尻へと男根を当てがい、彼の反応を見る。
飛雄馬は紅潮した顔を伴に向けたものの、すぐにその下にある屹立した怒張に目がいく。
なんとはしたないことだろうか、と思うのに、あれに貫かれるのを待ち侘びる己自身に飛雄馬はぶるっ、と身震いした。
伴は男根に手を添え、やや体重をかけるようにして飛雄馬の中へと自分を飲み込ませていく。
「あ、ぁっ……」
びりびりとした快楽が飛雄馬の全身へと走って、その身を震わせる。
伴は飛雄馬の腹の中に己の形をゆっくりと浸透させながら腰を進めていく。
「待っ、て、伴……まだ、うごくなよ」
ずっぷりと腹の中に伴を埋め込まれ、飛雄馬はその圧迫感に目を閉じる。
伴が腹の中にいるのが嫌でもわかって、飛雄馬が溜息を吐いた刹那、伴が一度引いた腰を打ち付けた。
「はぁ………ぐ、っ、うう」
それが引き金となり、伴は腰を使い始める。
体も慣れないままに腹の中をめちゃくちゃに引きずられ、嬲られ、飛雄馬は悲鳴を上げた。
目の前には閃光が散り、伴と繋がる下半身は自分のものではないようで、熱く蕩けてしまっている。
そこから走る快感の波が何度も何度も押し寄せ、飛雄馬はいい加減にしてくれと嘆願したが、それが聞き入れられることはなかった。
がつがつと伴の体重のかかった腰で尻を叩かれ、反った男根が飛雄馬の良いところを抉り、掻き回す。
溶けたクリームが結合部から音を立て、飛雄馬は耳からも犯されることになる。
「伴っ、腰…………とめてっ、あ、っん、ん」
ぐりぐり、と腰を押し付け、グラインドさせながら伴は飛雄馬の中を嬲った。
逃げようにも狭いソファーの上ではろくに身動きも取れず、汗と体液で濡れた下半身はぐちゃぐちゃになってしまっている。
ただただ伴の与える快感に支配され、飛雄馬はそれに声を上げるだけだ。
「や、め…………っ、ばん、きもちい、」
伴に体を貫かれながら飛雄馬は絶頂を迎え、きゅうきゅうと伴を締め付けた。
「う………」
飛雄馬が達したあと、間髪入れずどぷ、どぷっと伴もまた彼の腹の中に欲を吐き、大きく息を吐く。
絶頂の余韻の覚めぬ中、伴は飛雄馬から男根を抜きとってから、先程ずり下げたズボンと下着を穿き直した。
飛雄馬はぬるん、と自分の中から抜けていった伴に一度表情を険しくさせたがすぐに広げていた足を伸ばすと、目元を手で拭った。
その刹那、玄関の来客を告げるチャイムが鳴る。
慌ててそちらを見遣ったふたりだったが、扉の向こうに立つ人物がラーメン屋の名前を名乗ったために、ほっと安堵の溜息を漏らしてから、伴がひとり、そちらに向かった。
ちょうど伴の影になって玄関からこちらは見えない。
飛雄馬は呼吸を整えてから体を起こすと、伴が持ってきてくれたラーメンのどんぶりに顔を綻ばせた。
「ううむ、餃子も頼めばよかったかのう」
「食べたいなら食べるといい」
「い、いいのか?嬉しいのう」
ラーメンを啜りながらちらちらと皿の上に乗った餃子に視線を送る伴にそんな言葉をかけてから、衣服を身に着けた飛雄馬も割り箸を割るとそれに口をつける。
ここに越してきてから何度も口にした優しい醤油味のラーメンに飛雄馬はほっとひと息つきながら、うまいうまいとニコニコしつつ餃子を頬張る伴に再び微笑みかけ、なんじゃい?と尋ねてきた彼に、何でもない、と答えたのだった。