誓い
誓い ぬるっ、と唾液を纏った熱い舌が口の中に滑り込んで、飛雄馬は驚いたように小さく体を跳ねさせたが、抵抗するでもなくそれに応えた。
目を開けるとすぐそこには伴の顔があって飛雄馬はほんの少し顔を綻ばせる。
窓の外ではしとしとと雨が降り注いでおり、そのせいで今日は試合が流れた。
つい先程、延期となった試合のミーティングが行われ、二人は部屋に帰ってきたところである。他愛のない話をしていたはずが、いつの間にかこんなことになって、電気を消したくらい部屋の中、互いの肌の熱さを感じながら雨の音を聞いている。
「……続けてもええかのう」
「嫌だと言ったら、やめるか伴は」
「あ、う………む」
もごもごと伴は吃って、飛雄馬はそんな彼を見てまた微笑む。
「ふふ、すまん。気が削がれたな」
言うなり、伴の首にぎゅうっと縋りついて、飛雄馬は自分の体が彼の大きな腕で抱き締められるのを待った。そう間を置かず、やはり伴は飛雄馬の思惑通りにその体を抱いて、星と熱の篭った声を漏らす。
「………伴」
そう、飛雄馬が名を呼ぶと伴は体を離して再び口付けを与えてきた。
雨が勢いを増したか、激しい水音が耳につく。
「ぁ………っ、ふ」
声を上げた飛雄馬の唇を啄みつつ、伴は彼が羽織っているカーディガンのボタンをひとつひとつ丁寧に外していく。
そうしてそれをはだけさせつつ、その下に着用しているタートルネックのシャツの裾へと手を差し入れた。
「自分で、脱ぐ……から」
口付けを中断させるように顔を逸らし、飛雄馬は囁く。
「そ、そうか………ふむ」
一旦、伴も飛雄馬から距離を取って、彼の動向を見守る。あまりじろじろ見ないでくれよと皮肉を言ってから飛雄馬はシャツの裾を両手で掴むとタンクトップ諸共それらを脱いだ。
「……………」
床にそれらを放って、飛雄馬はベッドに横たわる。ギシッとスプリングが軋んで、伴の喉仏もゴクリと大きく動いた。
恐る恐る飛雄馬の元に近付いて、伴は彼の体の上に跨るようにしてその顔の横にそれぞれ手を着く。伴の体の重み分、顔付近のマットが沈んで、飛雄馬は数回瞬きしてから彼を仰いだ。
ああ、こうして見ると伴って男は本当に大きいなあ、と今更ながらそんなことを思って、飛雄馬は自分を組み敷く彼の顔を見つめる。伴だってきっと、高校柔道界の覇者となるまでには並々ならぬ努力と鍛錬を重ねたに違いないのに、よくそれらすべてをかなぐり捨ててまで自分に着いてきてくれたものだ。
と、飛雄馬が寝転がった際になんの気なしに頭のそばに置いた左手に伴が自分の右手を重ねては指を絡めてきた。
飛雄馬はその大きな掌をぎゅっと握り返して、顔を寄せる伴に合わせて目を閉じる。
「………ん、」
優しく頬に唇が触れて、首筋を辿って露わになった胸元に下りてくる。
跡を付けぬようにそっと肌を吸う伴が愛しいやら可愛いやらで飛雄馬は思わずくっくっと喉を鳴らし、笑いを溢す。
「な、なんで笑うんじゃあ?」
「いや、何でもない」
「何でもないことはなかろう。急に笑い出しおって」
「ふふふ………伴、いいやつだな、きみは」
「変な星じゃのう」
伴は納得がいかないようだったが、中断した愛撫を再開させる。
その唇が肌に触れ、そこを撫でるたびに飛雄馬は体を震わせ、伴の手を強く握る。
と、伴はふいに飛雄馬の左胸の突起に吸い付く。淡い力でそこを吸い上げられ、飛雄馬の体は粟立ち、ぞくぞくと戦慄いた。
「っ………あ、っまり、吸わないでくれ。シャツに擦れて、困っ、ァアッ!!」
そう言ったのも束の間、伴は突起に歯を立てた。おかげでそこはぷっくりと立ち上がって、伴の口の中でじんじんと疼いている。
「絆創膏でも貼って凌げばよかろう」
「そ、っ、言う問題じゃ、ない」
じわりと飛雄馬の双眸が涙に濡れて、伴を睨む。しかして伴はそこでやめるでもなく、もう片方の乳首へと左手を遣るとそれを抓み、くりくりと指の腹でこする。
「だっ、め………ぇっ………ぅ」
口元を右手で覆って飛雄馬は声を殺す。
弄られる突起からの刺激が脳天を貫き、下腹部に熱を集め、下着の中では男根がドクドクと脈動しているのがわかる。吸い上げられたそこを舌で嬲られ、指で押しつぶされる。額には汗が滲んで、飛雄馬の腰は切なげに揺れた。
「さっき笑ったお返しじゃい」
そう言って、伴は飛雄馬を上り詰めらせたあと、左手を離すと彼の穿いているスラックスの前を緩めてから、下着の中へ手を忍ばせる。
そこは溢れた先走りのせいでべとべとに濡れ、熱く火照っており、限界まで勃起した飛雄馬のそれはびくん、びくんと脈打っていた。
「あ…………っ、ばん……」
「ずいぶん、出来上がったものじゃのう」
下着をずり下ろし、伴は飛雄馬の男根を外気に晒す。
「は…………あっ、は────っ、はぁ、あっ…………」
飛雄馬が荒い呼吸を繰り返し、腹を上下させる度にその男根も震え、たらたらとカウパーを滴らせる。重ね合う互いの掌はじっとりと汗に濡れていた。
「…………………」
伴は左手をそっと飛雄馬の逸物へと伸ばす。はち切れんばかりに充血したそれを伴は握るとゆっくりと亀頭から竿にかけてしごいた。
「あっ!」
その瞬間、飛雄馬の目の前に火花が散る。頭の中が真っ白になって、体が弓なりに仰け反った。伴の掌で欲をぶちまけて、飛雄馬は全身を脱力させる。
「っ……………う、ぅっ………」
「よう出たのう。ふふ」
「伴の、ばかっ………」
虚ろな目を伴に向け、飛雄馬は伴と繋ぐ手の力をぎゅうっと強めた。
「あ、だだっ!」
あまりの痛さにそんな声を伴が上げたところに部屋の扉がノックされ、星、伴、いるか?と呼びかけられたもので、伴は手を拭い、慌てて扉のそばまで走ると自分の体を盾にし、室内が見えぬようにしながら、顔を出した先輩に何でしょう?と愛想笑いで尋ねた。
「な、なんだ?この暗いのに部屋の明かりも付けずに。伴はともかく星は投手の命である目が悪くなったらどうするんだ」
「あ、いや、ちょっと。へへへ、それで用件はなんですか」
「明日の試合の先発はやっぱり星を出すそうだ。捕手は伴、お前だとさ」
「えっ!?おっ、おれですか?」
「ああ。まだ明日の天候次第だが、心して臨むように。とのことだ。しっかりやれよ」
「は、はいっ」
返事をし、伴は先輩が遠ざかるのを見守ってから扉を閉めると、でへへと鼻の頭を掻きながら振り返る。
「まったく、嬉しい話じゃがタイミングが最悪だったのう」
「ふふ……脱ぐ前で命拾いしたな」
体を起こし、飛雄馬は目元を拭う。
「………興醒めじゃい。星、その、すまん。ふざけすぎた」
「伴、こっちに来い」
「な、なんじゃあ?」
手招いて、飛雄馬は伴を自分のそばまで歩ませるとベッドを下り、そのまま彼の足元へと両膝を着く。
「ほ、星!?」
「…………静かに」
膝立ちになって、飛雄馬は伴のスラックス、ファスナーを下げるとそこから手を入れ、縮んだままの彼の男根を取り出す。
「…………!?」
目を白黒させる伴を尻目に飛雄馬は男根に口付けてから口を開け、それを頬張る。
唾液をたっぷりと纏わせた舌を這わせてやればそれは口の中で大きさを増す。
「ん、む………」
膨らんだ男根から口を離して、飛雄馬は舌なめずりをすると伴を見上げる。
「あ、あっ………星」
「興醒めだなんて、ふふふ……全然、そんなことないじゃないか」
己の唾液に濡れた伴の男根を飛雄馬は握り、ゆっくりと上下にしごく。
「あ、明日にっ、障るぞ、星ぃっ」
「こんなにしておいてよく言うぜ」
「あ、あうう、ほ、ほしっ」
情けない声を上げていた伴だが、自分の男根を握ると飛雄馬の腕を掴むと勢いのままに床へ彼を引き倒す。
「…………」
「も、もう、やめてと言っても、き、聞かんからな」
「おれからしてみれば、伴とした次の日は調子がいいんだがな……」
「っ、っ…………ふうっ、星」
その言葉も今は聞こえていないようで、伴は顔を真っ赤にして飛雄馬の顔を覗き込む。それを受け、飛雄馬は腰を浮かせ、スラックスと下着とを脱ぐと足を開いて彼の到来を待つ。
「星、い、いくぞい」
「出来れば、少し慣らしてほしい」
「あ、う………っ、そう、じゃな」
伴は自身のベッドの枕の下からハンドクリームを取り出し、中身を指で掬うと飛雄馬の体の上へと覆いかぶさる。
それから、彼の開いた足の中心へとそれを塗り込み、指を挿入させた。
伴の太く荒々しい指が腹の中を探って、刺激に慣らす。いつもの優しく大人しい愛撫ではなく、余裕のない勢いだけのそれで、飛雄馬は思わず呻いて、腰を引いた。
けれども、体は素直でさっき射精を終えたと言うのに飛雄馬の男根は首をもたげ、立ち上がりつつある。
「ああっ、いかん。星、たまらん」
「…………入れたいか」
「う、うむ………頼む」
飛雄馬は伴に枕を取るように頼むと、手渡されたそれを腰の下に敷き入れる。そうして腰の位置を高くして、足を開き伴を迎えた。
「………明日の試合に響かんように、してくれよ……」
「…………」
伴は飛雄馬の足を左右に割って、勃起した自身のモノに同じくクリームを塗布すると彼の後孔へとそれを当てがい、腰を突き入れる。
「は、っ…………ふ、」
ぴくっと飛雄馬は顎を上ずらせ、内壁を擦る熱さに身震いした。
「あ、っつ………星の中、熱い、のう」
ゆっくりと時間を掛け、伴は飛雄馬を慣らすというよりも自分が達さぬために男根を奥へと進めていく。腹の中が伴の形に馴染んで、飛雄馬の立ち上がった逸物が疼いた。
飛雄馬の脇の下、そこから手を通し伴は床に手をつくと腰を振る。
「ぁ、あ、っく…………ん、ん」
腹の中を満たす伴が飛雄馬の体内を擦り上げ、反り返った亀頭が臍の裏を叩く。
体を揺すられ、飛雄馬は唇を掌で覆う。
立ち上がった逸物がその度に揺れ、とろとろと先走りを腹へと溢す。
「星………星っ」
「伴、っ、も、っと、ゆっくり………っ、う」
腰を叩きつけ、伴は快楽を貪る。
飛雄馬はその激しいピストンに耐えるのが精一杯で体を仰け反らせ、声を殺す。
飛雄馬の白い足が伴の体の左右でその腰の動きに合わせて上下している。
「あ、っ、そこ、突く…………ぅあ、あっ!い、っ………」
と、角度を変えた伴の亀頭が飛雄馬の良いところを突き、そこを責め立てる。飛雄馬の肌が一瞬にして紅潮し、声も一段と艶めき高くなる。
「星………」
名を呼び、伴は飛雄馬の左手に再び自分の右手を重ねた。飛雄馬はその手をしっかりと握ると、閉じていた目を開け、はっきりと伴を仰ぎ見る。
「ば、んっ…………」
「う、うっ!」
瞬間、伴は腰を引き、飛雄馬の腹の上へと間一髪精を吐く。
「………………」
ドクドクと自身の腹の上に撒かれる白濁を見つめ、飛雄馬もまた余韻に浸る。
「うう、星、すまん。また調子に乗ってしもうたわい」
「明日、トチらんでくれよ」
苦笑し、飛雄馬は腰の下から枕を取ると体を起こす。
「あ、あったりまえじゃあ!星の捕手役、命に代えても勤め上げてみせよう!」
「…………」
ティッシュで拭い、身支度を整える伴をしばらく見ていた飛雄馬だが、ふとさっきまであんなにしていた雨音が聞こえないのに気付く。雨は上がったらしく、窓の外、空には星が光っている。
「明日は、晴れそうだな」
「ん?あ、おう………」
飛雄馬の視線の先を眺め、伴は目を細める。飛雄馬はそんな彼の真剣な横顔をふと盗み見ていたが、握ってくれていた左手に目を落とすと、それをぎゅっと握り締める。
明日は伴と組み、必ず勝ってみせる、とその左手に誓いながら。